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壊滅都市物語-Devastated City Story-
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
episode:11 『Smooth Criminal part2』
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山田さんからスーツを受け取った俺は、着替える為に試着室へと足を進めた。
その間に目にするのは、子供達が走り回り、女性達は雑誌や洋服に夢中になり、お喋りを始める姿。
外とはとてつもない違いだが、別にそれを咎めようなんて気はまったく起きなかった。
「――なぁ、本当にやるのか?」
「なんだよ、ビビってんのか?オレ、さっき窓から見てたんだけどさ、あの自衛官、ここには居ないぜ?」
「やっぱ、あれか?ゾンビに喰われたからかよ?マジ、ダサかったよな、あいつ!」
「おぉ、なーにが"待たせたな、救援部隊だ"だよ!救援に来て自分が喰われてちゃ、せわねーよ」
「そうそう、あんなゾンビなんて、俺達で何とでもできたのによー。ホント、余計なお節介って奴?」
「って事は、今はあのヒョロイ自衛官しか居ないんだろ?楽勝じゃね?」
――あのクソガキ共。
壊滅都市物語-Devastated City Story-
episode:11 『Smooth Criminal part2』
下品な笑い声を上げながら、非常階段の踊り場で騒ぐガキ共。
幸い、辺りに人は居ない。
89式を音を立てずに構え、照準をガキ共に向ける。
――まずはテメェからだ、金髪野郎。
「誰に照準向けてんのよ、この馬鹿っ!」
泉美の怒声と共に、右頬に衝撃が走る。
「――泉美」
「勝幸っ!あんた、何やってんのよ!?」
泉美の勢いは止まることなく、そのまま俺は胸倉を捕まれて壁に叩きつけられる。
ガキ共は――こっちを見て呆然としてやがるか。
「銃を向ける相手が違うでしょうがっ!」
「オ、オイ……一体、何が――」
「黙ってな、クソガキっ!あんた達、自分が調子に乗って言ったことで、この人に殺されそうになったのが分からないの!?」
泉美の言葉を聞き、ガキ共の視線が俺の持つ89式に固定される。
驚くべき速さで、さっきまで調子に乗っていた顔は青褪めた。
「な、何でオレ達が殺されそうにならなきゃなんねーんだよ!」
「あんた達を助けた自衛官、この人の相棒だったのよ。だけど、助けた時にゾンビに喰われてね、ここに居られなくなった。そんな時、相棒が助けた相手が無礼(なめ)た話をしてたら、あんた達どう思うのよ」
「嘘だろ――たかが他人じゃねーか……べ、別にオレ達はアンタを馬鹿にした訳じゃねーじゃんかよ!」
「もう、いいわ。それ以上、不愉快な言葉を聞きたくない。殺されたくなきゃ、さっさと消えな」
その言葉を聞くや否や、ガキ共は一目散にその場から逃げ出した。
後に残されたのは、食い散らかされた菓子の袋と空き缶。
「勝幸――私は、自衛隊に居た。どうしてだか分かる?」
俺は黙って首を横に振ると、泉美の手の力が強くなる。
「私は、中学の時に苛められていた。何度も、死のうとした!本当に、本当にどうしようも無くなった時に――ひとりの男の子に助けられた」
「泉美――俺は」
「その子はね、たった一人でクラス全員と戦ってくれた。私を護る為に、弱いくせにボロボロになりながら戦ってくれたのよ」
胸倉を掴む力が弱まる。
「だからね、勝幸。私は、貴方に憧れた。貴方のように成りたいと思ったのよ」
「だから、自衛隊に入ったのか?」
「えぇ、だけど結局――私は私でしかなかった。貴方には成れなかったのよ。貴方の様に、総てに立ち向かう事はできなかった――"命令"だから。その言葉に、逃げてしまったのよ、私は」
そこまで言うと、泉美は完全に俺から手を離し、その場にしゃがみ込んだ。
「――笑っちゃうでしょ、勝幸?元自衛官なのに、私は"妹を護らなきゃいけない"なんて自分に言い聞かせて、逃げてたのよ。お父さんが雪崩込んできたゾンビから逃がそうと、避難誘導をしている時も。残ってくれた小隊がゾンビと交戦している時も――そして、あいつ等を追い出すために、皆が立ち上がった時も……私は、逃げた」
俯いた顔から、涙が零れ落ちる。
「――気づいた時には、もうどうしようも無くなってた。辺り一面をゾンビに囲まれて、残ってるのはお父さん以外は女子供ばっかり。でも、そんな時、貴方は来てくれた。あの時と同じように、来てくれたのよ。自衛官じゃないって事は、直ぐに気が付いてたわ。だって、装備の付け方も動き方も、滅茶苦茶だったもの」
「え?マジで?映画じゃ、ああいう風に動いてたぞ?」
「ふふ……やっぱり、凄いね。勝幸も、大矢君も。普通はやろうとも思わないよ?ゾンビの群れを突破する事も、私達を助ける為に立ち向かうなんて事も」
「まぁ、その場のノリと勢いで生きてるからなぁ?」
鉄帽を取り、照れ隠しに頭を掻く。
……ぬぅ、ジェルが汗で溶けて気持ち悪ぃ。
「それで、皆を救っちゃおうとするなんて――やっぱり、私にとって勝幸は"ヒーロー"だよ」
「ヒーローねぇ?――俺が泉美にとって、ヒーローなら。俺にとっちゃ、泉美は"ヒロイン"だよ」
「え?」
キョトン、とした顔の泉美の隣に座り込み、煙草を一本取り出す。
「二階からの援護射撃、凄かったぜ?まるで、アンジェリーナ・ジョリーみたいだった。それに、さっきも俺を助けてくれたろ?泉美が来なきゃ、あいつ等をぶっ殺してる所だった――大矢がやった事を、汚しちまう所だった」
「勝幸――」
泉美の茶色がかった瞳に映る自分。
オールバックが崩れ、疲れきった顔が、徐々に近づいてくる。
「「お、おのれー!!」」
キスする直前、無粋にもそれは親父さんの無線連絡によって中止せざるを得なかった。
「親父さん、良い所で邪魔しないで下さいよ」
「クソッ!泉美っ!」
「分かったわ!私は2Fのテラスから援護すれば良いのね?」
「頼むっ!――泉美、この続きはまた後で、な?」
「ふふっ……了解!」
89式を掴み挙げ、奴等が降りていったもうひとつの階段――東側階段へと走る。
開け放ったれた防火扉の前で89式を構え、そのままの勢いで突入する。
「俺もですよ、親父さん。やっぱり、物語はハッピー・エンドで終わらないとね?」
――まったく、困った事になったぞ、大矢?
俺達、そう簡単に死ぬ訳にいかなくなっちまった!
後書き
作者:δ-3 |
投稿日:2011/05/11 16:28 更新日:2011/05/11 16:28 『壊滅都市物語-Devastated City Story-』の著作権は、すべて作者 δ-3様に属します。 |
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