作品ID:815
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?11.2色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
倉中蒼理の記憶障害の直接的原因は、ヴィヴィッドと呼ばれる鮮やかな原色、躍動感を前面に押し出したその色だと言われる。
記憶障害に陥る前の、その直前に見たヴィヴィッド。
そのヴィヴィッドが、記憶に残りすぎており、その言葉を耳にするだけで、蒼理のなくした記憶は、ヴィヴィッドのそれが示すように、鮮やかに蘇る。
だが、なくした記憶が重要であればあるほど、蘇ったときの反動は、図りしれないところまで及ぶ。
あの場で、蒼理に対して、朝龍楯羽が言った「ヴィヴィッド」は、その記憶を蘇らせるキーワードであり、そして楯羽自身も、その反動を期待して言ったものであるから、この場合、楯羽が蒼理の記憶を無理やり蘇らせ、その反動を放置した事に対する言い訳はつかない。
蒼理は、その色が大嫌いだった。
ヴィヴィッドが嫌いで嫌いで、だからどこかで色褪せた色や、白や黒といったモノトーンを好む。
何でヴィヴィッドが嫌いかは分からない。でも、なんとなく嫌い。だから避けてた。意識的にでも避けた。
鮮やかな原色。躍動感を押し出した色。大嫌い。
色褪せた色。白、黒モノトーン。自分を表しているみたい。その色の数々を好むことは、どこかで自分自身を信じ続けるというような意思表示にも似ていた。
「貴女が、倉中蒼理?」
朝龍楯羽のヴィヴィッドというキーワードを耳にし、一時は混乱状態にあった蒼理だが、その場に駆けつけた鋼夜春袈、桃風羽夜華の2人に保護され、ヴィルヴェスタ一、安全と言われる情報都市の、春袈率いるチームのメンバーが生活をする場所にやってきている。
薄い青色のカーディガンを羽織り、金髪をショートカットにした蒼理は、数あるログハウスの1軒から外に出ると、少し肌寒い風が蒼理の肌を突き刺した。
カーディガンのポケットを探り、目的のものがないと分かると、クロップドパンツのポケットを探って、ようやく指先に当たった冷たい感触。これが目的のものだ。――蒼理愛用の音楽機器。残念ながら、あのウォークマンとは違い、記憶機器としての能力はないが、蒼理のように単純に音楽を楽しむ分には、十分すぎる。
薄い緑色の音楽機器を起動させて、時間を確認すると、蒼理の傍で、蒼理の名前を呼ぶ声がした。
「……そうですけど」
音楽機器をカーディガン側のポケットに入れて、その声に向き直った。――その姿と名前、書類を始めとしたアナログ媒体を運ぶ仕事をしている蒼理は見たことがある。
「草花舞葉」
短く告げた、その言葉は言葉ではなく、名なのだろう。草花舞葉。チームの1人であり頭脳派の少女。あの羽夜華と並んで、パソコンを始めとした機械に強く詳しく、そのチームを裏から支えている。
「……NEVの関係者?」
首をかしげて、舞葉は問う。その表情には、いつでもそれこそ蒼理に隙があれば、蒼理を殺そうとする決意と、どこか不安そうな2つが入り混じっている。
「NEVの関係者……じゃない」
どこか、うろたえながら答える蒼理に対して、舞葉は問いかけたくせに、興味なさそうに後ろを向く。
「……NEVの関係者じゃないなら別に構わないけど……」
小さく言われた言葉は、蒼理に疑問を植えつけただけだった。
だが、舞葉にとって、蒼理がNEVの関係者ではないことを確認する事は、とても重要なこと。
元々、舞葉と、彼女の妹である黒刃は、NEVのトップシークレット。
蒼理がもしもNEVの関係者であれば、舞葉と黒刃の所在が判明し、それをNEVに伝えられてしまうかもしれない。その可能性を消すために、あのような確認をしたのだが、蒼理は、舞葉たちの置かれている状況がそのようなものだとは知らないため、首を傾げるばかりだった。
「おー、倉中ー」
気の抜けた声が、蒼理の頭上から降りそそいだ。そう。「頭上」から。
蒼理が頭上を振り仰ぐと、そこには、ログハウスの屋根に上がった春袈の姿。
屋根の上から、飛び降りた春袈は、蒼理の前に着地。
金髪に黒のメッシュを入れた春袈の髪は、後ろで適当に結われており、その格好もグレーのつなぎ姿に、工具箱を手にした状態だ。
「え、あの……」
「ん? ……あぁ! いやー。屋根から雨漏りするっていうんで、ちょうど今日は天気良いし、修理をしようと思って」
その説明に、蒼理も頷いた。それなら確かにつなぎ姿で居る事や、工具箱の意味がわかる。
「倉中は?」
「あ、え、と」
「ま、いきなり記憶取り戻して、いきなりラチられたら困るよね」
「ら、らち?」
「うん。だって、NEVが狙ってるようなやつを、そのNEVの目の前で連れ去るような方法だよ? NEV側からしたら、拉致でしょうよ」
「ん、んー?」
考え、あまりいい結論が出なかったため、諦める。
「それより、ヒマ?」
「え、あ、はい」
「んじゃ、羽夜華と一緒に、食料調達行ってきて」
「食料……調達?」
首を傾げる蒼理に、春袈はニコニコと笑顔を浮かべるだけだった。
「今日のメニュー発表ー。今日は……」
カーディガン姿から、薄いオレンジ色のTシャツを着た姿になっている蒼理は、恐る恐るその姿を見た。
「? 何。何か、気になることでも?」
視線に気づいたのだろう。その姿――桃風羽夜華は、長い黒髪を三つ編みに結っている。その三つ編みが揺れて、こちらを見たことが分かる。
「いや、え、と……食料調達って言われたんで、森かどっかに狩りに行かされるのかと……」
「あー。大丈夫。今回はたまたま私が調達係になってますけど、この食料調達、実は非戦闘員……戦う術や力を持たない、一般人もやるから、そんな危険なことはやらせないよ」
苦笑いして、羽夜華は再びその右手に持っているメモを見る。
蒼理は、無意識に被っている、薄い赤色のキャップを深めに被りなおす。
――記憶が戻って、数十時間。
なんとなく、もやもやした気持ちで、あのチームに居続けているが、そのままではいけないことも分かっている。分かってはいるのだが、今の状況からどう脱出すればいいのか、まだ分からない。
「さて。じゃ、行きますか」
肩からかけたリュックを、かけなおして、羽夜華が歩き出す。その後を、キャップを深く被った蒼理が追いかける。
「あの、食料調達って何処に……?」
「そのメニューにもよるけど、だいたい決まってる場所があるんだ」
「……決まってる場所?」
「そ。チーム結成時からの」
チームが結成されたのがいつかはわからないが、羽夜華の足取りに迷うところは少しも無い。
羽夜華の後ろを追いかける蒼理には、まだ、自分の状況が分かりきっていなかった。
あの朝龍楯羽が言った一言。ヴィヴィッド。
勢いよく流れ込んでくる記憶の欠片。それらが列をなして、塊と化す。無くした記憶が蒼理の脳内に舞い戻ってくる。
舞い戻ってきた記憶は、蒼理にとって、なくし続けていたかった記憶。忌々しい記憶。
蒼理は、記憶を無くす直前、住んでいた地域を全てNEVの手で、とてもじゃないが住める環境ではなくなった、その現場をリアルタイムで見ていた。
そのとき、蒼理の視界に映ったのは、鮮やかな躍動感溢れる色、ヴィヴィッド。
それが視界全体に広がって、蒼理の記憶はそこで途切れている。無くしている。
蒼理は、その地域から逃げる際、一緒に居た人が居たはずなのだが……そこだけは今も思い出せていない。
いくら記憶を取り戻したとはいえ、こう考えると、まだ不完全なところがある。
記憶障害に陥った人は、その記憶を必死になって取り戻そうとするのだろうか、それとも思い出したくないと拒むのか――。
蒼理は間違いなく、思い出したくない。その意思がある。だから不完全な箇所を発見しても、それを取り戻すための行動をしない。
その行動をしないからこそ、蒼理はチームに留まっている。
「此処」
短く告げられた場所は、市場のようなところだった。というか、市場。
「えーと……白菜と、キャベツと……」
手馴れた様子で、入り口でカゴを取り、目的の場所へと向かう羽夜華。
ここで、蒼理は羽夜華の後を追わず、ゆっくりとした歩調で、市場を歩き回る。
視界を開くため、キャップを浅く被る。少しだけ、その視界が開く。
ふと羽夜華の歩いていった方向を見ると、羽夜華の三つ編みが見えた。
だが様子がおかしい。
なんとなく羽夜華の方に向かうと、羽夜華は客ともめていた。
「どうかした?」
蒼理が、羽夜華に声をかけると、興奮した状態で羽夜華は、蒼理の肩を掴んできた。
「ちょ、状況説明してあげるから、この人どうにかしてよ!!」
ズイッと前に押し出された蒼理は、困惑しつつも、その人を真正面から見つめる。
その愛らしい顔に、怒りを浮かべた、羽夜華と口論していた様子の人は、急に出てきた蒼理を睨みつけるように見ている。
「この人、私がぶつかって、謝らないとかで文句言ってきたんです!」
羽夜華が蒼理の後ろから、この口論の原因を言った。
「……ぶつかったって? カゴとカゴが? それとも人と人が?」
「人に決まってるでしょ」
明らかにキレている様子の、その口論相手が、蒼理をまっすぐに見て言い放つ。
「でも、人と人なら……どちらかが気づかないなんてありえないと思うんですけど」
「気づいてたんでしょ、でもそれを知らん振りしてたから、こんな状況になってるんじゃない」
「羽夜華さん。気づいてました?」
フルフルと首を横に振る羽夜華。その様子に溜息をついたのは蒼理だった。
「貴女は、羽夜華さんがぶつかったと言って、でも羽夜華さんはそのことに気づいてなくて……。ここまですれ違ったなら、このまま平行線になるのは明らかです」
「だから?」
「少しは考えてください。だから、終わりにしましょうと言っているんです。そちらだって時間的余裕というものが存在するはずです。そして、貴女に時間的余裕があっても、こちら側にはその余裕がないんです。……どちらがぶつかったとか、それを謝らないとかで、これ以上口論を続けるのは、無意味です。だってどちらも、相手が悪いと決め付けているのだから。そんな状況でどうやってどちらか一方が謝罪するんです? ですから、この状況でこちら側から終了を告げるのは、幸運と思ってください」
一方的に言って、羽夜華の手をとり、レジへと向かう。
その光景を、当事者である羽夜華は、呆然と見ていた。
市場でのいざこざを〈強制的に〉終わらせて、蒼理は羽夜華と帰途についた。
「蒼理ってさ」
羽夜華が、食料をいれたリュックを背負って、俯きながら歩く。その声は嬉しそうで。
「今まで、誰かを助けた事ってある?」
なぜかその言葉に、蒼理の肩が震える。
「……ありますよ。義理の妹、助けた事ありますよ」
義理の妹。その存在を思い出すだけで、口にするだけで、もやもやが心中を支配していく。
「義理の妹?」
「はい。……今は生きてるかどうか、分からないですけど」
暗く沈んだ表情で、蒼理は先を見続ける。
歩いて行く蒼理と羽夜華を、見下ろす1人が居る。
「情報取得完了。このまま監視を続けます」
無感情に、どこか震えている声で、その1人は、口を小型マイクに近づけて、低く告げた。
声の主の首には、七色に光るヘッドフォン。
1度見れば忘れられないような印象を植えつけるような、その姿は、ショートカットの銀髪、金色の瞳、病的なまでの肌の白さ、という、特徴満載だった。
もしかしたら、あの蒼理が見れば、すぐに逃げ出すだろう。
その人は少女の姿をとり、蒼理と羽夜華、ではなく、正確には蒼理を見つめていた。
記憶障害に陥る前の、その直前に見たヴィヴィッド。
そのヴィヴィッドが、記憶に残りすぎており、その言葉を耳にするだけで、蒼理のなくした記憶は、ヴィヴィッドのそれが示すように、鮮やかに蘇る。
だが、なくした記憶が重要であればあるほど、蘇ったときの反動は、図りしれないところまで及ぶ。
あの場で、蒼理に対して、朝龍楯羽が言った「ヴィヴィッド」は、その記憶を蘇らせるキーワードであり、そして楯羽自身も、その反動を期待して言ったものであるから、この場合、楯羽が蒼理の記憶を無理やり蘇らせ、その反動を放置した事に対する言い訳はつかない。
蒼理は、その色が大嫌いだった。
ヴィヴィッドが嫌いで嫌いで、だからどこかで色褪せた色や、白や黒といったモノトーンを好む。
何でヴィヴィッドが嫌いかは分からない。でも、なんとなく嫌い。だから避けてた。意識的にでも避けた。
鮮やかな原色。躍動感を押し出した色。大嫌い。
色褪せた色。白、黒モノトーン。自分を表しているみたい。その色の数々を好むことは、どこかで自分自身を信じ続けるというような意思表示にも似ていた。
「貴女が、倉中蒼理?」
朝龍楯羽のヴィヴィッドというキーワードを耳にし、一時は混乱状態にあった蒼理だが、その場に駆けつけた鋼夜春袈、桃風羽夜華の2人に保護され、ヴィルヴェスタ一、安全と言われる情報都市の、春袈率いるチームのメンバーが生活をする場所にやってきている。
薄い青色のカーディガンを羽織り、金髪をショートカットにした蒼理は、数あるログハウスの1軒から外に出ると、少し肌寒い風が蒼理の肌を突き刺した。
カーディガンのポケットを探り、目的のものがないと分かると、クロップドパンツのポケットを探って、ようやく指先に当たった冷たい感触。これが目的のものだ。――蒼理愛用の音楽機器。残念ながら、あのウォークマンとは違い、記憶機器としての能力はないが、蒼理のように単純に音楽を楽しむ分には、十分すぎる。
薄い緑色の音楽機器を起動させて、時間を確認すると、蒼理の傍で、蒼理の名前を呼ぶ声がした。
「……そうですけど」
音楽機器をカーディガン側のポケットに入れて、その声に向き直った。――その姿と名前、書類を始めとしたアナログ媒体を運ぶ仕事をしている蒼理は見たことがある。
「草花舞葉」
短く告げた、その言葉は言葉ではなく、名なのだろう。草花舞葉。チームの1人であり頭脳派の少女。あの羽夜華と並んで、パソコンを始めとした機械に強く詳しく、そのチームを裏から支えている。
「……NEVの関係者?」
首をかしげて、舞葉は問う。その表情には、いつでもそれこそ蒼理に隙があれば、蒼理を殺そうとする決意と、どこか不安そうな2つが入り混じっている。
「NEVの関係者……じゃない」
どこか、うろたえながら答える蒼理に対して、舞葉は問いかけたくせに、興味なさそうに後ろを向く。
「……NEVの関係者じゃないなら別に構わないけど……」
小さく言われた言葉は、蒼理に疑問を植えつけただけだった。
だが、舞葉にとって、蒼理がNEVの関係者ではないことを確認する事は、とても重要なこと。
元々、舞葉と、彼女の妹である黒刃は、NEVのトップシークレット。
蒼理がもしもNEVの関係者であれば、舞葉と黒刃の所在が判明し、それをNEVに伝えられてしまうかもしれない。その可能性を消すために、あのような確認をしたのだが、蒼理は、舞葉たちの置かれている状況がそのようなものだとは知らないため、首を傾げるばかりだった。
「おー、倉中ー」
気の抜けた声が、蒼理の頭上から降りそそいだ。そう。「頭上」から。
蒼理が頭上を振り仰ぐと、そこには、ログハウスの屋根に上がった春袈の姿。
屋根の上から、飛び降りた春袈は、蒼理の前に着地。
金髪に黒のメッシュを入れた春袈の髪は、後ろで適当に結われており、その格好もグレーのつなぎ姿に、工具箱を手にした状態だ。
「え、あの……」
「ん? ……あぁ! いやー。屋根から雨漏りするっていうんで、ちょうど今日は天気良いし、修理をしようと思って」
その説明に、蒼理も頷いた。それなら確かにつなぎ姿で居る事や、工具箱の意味がわかる。
「倉中は?」
「あ、え、と」
「ま、いきなり記憶取り戻して、いきなりラチられたら困るよね」
「ら、らち?」
「うん。だって、NEVが狙ってるようなやつを、そのNEVの目の前で連れ去るような方法だよ? NEV側からしたら、拉致でしょうよ」
「ん、んー?」
考え、あまりいい結論が出なかったため、諦める。
「それより、ヒマ?」
「え、あ、はい」
「んじゃ、羽夜華と一緒に、食料調達行ってきて」
「食料……調達?」
首を傾げる蒼理に、春袈はニコニコと笑顔を浮かべるだけだった。
「今日のメニュー発表ー。今日は……」
カーディガン姿から、薄いオレンジ色のTシャツを着た姿になっている蒼理は、恐る恐るその姿を見た。
「? 何。何か、気になることでも?」
視線に気づいたのだろう。その姿――桃風羽夜華は、長い黒髪を三つ編みに結っている。その三つ編みが揺れて、こちらを見たことが分かる。
「いや、え、と……食料調達って言われたんで、森かどっかに狩りに行かされるのかと……」
「あー。大丈夫。今回はたまたま私が調達係になってますけど、この食料調達、実は非戦闘員……戦う術や力を持たない、一般人もやるから、そんな危険なことはやらせないよ」
苦笑いして、羽夜華は再びその右手に持っているメモを見る。
蒼理は、無意識に被っている、薄い赤色のキャップを深めに被りなおす。
――記憶が戻って、数十時間。
なんとなく、もやもやした気持ちで、あのチームに居続けているが、そのままではいけないことも分かっている。分かってはいるのだが、今の状況からどう脱出すればいいのか、まだ分からない。
「さて。じゃ、行きますか」
肩からかけたリュックを、かけなおして、羽夜華が歩き出す。その後を、キャップを深く被った蒼理が追いかける。
「あの、食料調達って何処に……?」
「そのメニューにもよるけど、だいたい決まってる場所があるんだ」
「……決まってる場所?」
「そ。チーム結成時からの」
チームが結成されたのがいつかはわからないが、羽夜華の足取りに迷うところは少しも無い。
羽夜華の後ろを追いかける蒼理には、まだ、自分の状況が分かりきっていなかった。
あの朝龍楯羽が言った一言。ヴィヴィッド。
勢いよく流れ込んでくる記憶の欠片。それらが列をなして、塊と化す。無くした記憶が蒼理の脳内に舞い戻ってくる。
舞い戻ってきた記憶は、蒼理にとって、なくし続けていたかった記憶。忌々しい記憶。
蒼理は、記憶を無くす直前、住んでいた地域を全てNEVの手で、とてもじゃないが住める環境ではなくなった、その現場をリアルタイムで見ていた。
そのとき、蒼理の視界に映ったのは、鮮やかな躍動感溢れる色、ヴィヴィッド。
それが視界全体に広がって、蒼理の記憶はそこで途切れている。無くしている。
蒼理は、その地域から逃げる際、一緒に居た人が居たはずなのだが……そこだけは今も思い出せていない。
いくら記憶を取り戻したとはいえ、こう考えると、まだ不完全なところがある。
記憶障害に陥った人は、その記憶を必死になって取り戻そうとするのだろうか、それとも思い出したくないと拒むのか――。
蒼理は間違いなく、思い出したくない。その意思がある。だから不完全な箇所を発見しても、それを取り戻すための行動をしない。
その行動をしないからこそ、蒼理はチームに留まっている。
「此処」
短く告げられた場所は、市場のようなところだった。というか、市場。
「えーと……白菜と、キャベツと……」
手馴れた様子で、入り口でカゴを取り、目的の場所へと向かう羽夜華。
ここで、蒼理は羽夜華の後を追わず、ゆっくりとした歩調で、市場を歩き回る。
視界を開くため、キャップを浅く被る。少しだけ、その視界が開く。
ふと羽夜華の歩いていった方向を見ると、羽夜華の三つ編みが見えた。
だが様子がおかしい。
なんとなく羽夜華の方に向かうと、羽夜華は客ともめていた。
「どうかした?」
蒼理が、羽夜華に声をかけると、興奮した状態で羽夜華は、蒼理の肩を掴んできた。
「ちょ、状況説明してあげるから、この人どうにかしてよ!!」
ズイッと前に押し出された蒼理は、困惑しつつも、その人を真正面から見つめる。
その愛らしい顔に、怒りを浮かべた、羽夜華と口論していた様子の人は、急に出てきた蒼理を睨みつけるように見ている。
「この人、私がぶつかって、謝らないとかで文句言ってきたんです!」
羽夜華が蒼理の後ろから、この口論の原因を言った。
「……ぶつかったって? カゴとカゴが? それとも人と人が?」
「人に決まってるでしょ」
明らかにキレている様子の、その口論相手が、蒼理をまっすぐに見て言い放つ。
「でも、人と人なら……どちらかが気づかないなんてありえないと思うんですけど」
「気づいてたんでしょ、でもそれを知らん振りしてたから、こんな状況になってるんじゃない」
「羽夜華さん。気づいてました?」
フルフルと首を横に振る羽夜華。その様子に溜息をついたのは蒼理だった。
「貴女は、羽夜華さんがぶつかったと言って、でも羽夜華さんはそのことに気づいてなくて……。ここまですれ違ったなら、このまま平行線になるのは明らかです」
「だから?」
「少しは考えてください。だから、終わりにしましょうと言っているんです。そちらだって時間的余裕というものが存在するはずです。そして、貴女に時間的余裕があっても、こちら側にはその余裕がないんです。……どちらがぶつかったとか、それを謝らないとかで、これ以上口論を続けるのは、無意味です。だってどちらも、相手が悪いと決め付けているのだから。そんな状況でどうやってどちらか一方が謝罪するんです? ですから、この状況でこちら側から終了を告げるのは、幸運と思ってください」
一方的に言って、羽夜華の手をとり、レジへと向かう。
その光景を、当事者である羽夜華は、呆然と見ていた。
市場でのいざこざを〈強制的に〉終わらせて、蒼理は羽夜華と帰途についた。
「蒼理ってさ」
羽夜華が、食料をいれたリュックを背負って、俯きながら歩く。その声は嬉しそうで。
「今まで、誰かを助けた事ってある?」
なぜかその言葉に、蒼理の肩が震える。
「……ありますよ。義理の妹、助けた事ありますよ」
義理の妹。その存在を思い出すだけで、口にするだけで、もやもやが心中を支配していく。
「義理の妹?」
「はい。……今は生きてるかどうか、分からないですけど」
暗く沈んだ表情で、蒼理は先を見続ける。
歩いて行く蒼理と羽夜華を、見下ろす1人が居る。
「情報取得完了。このまま監視を続けます」
無感情に、どこか震えている声で、その1人は、口を小型マイクに近づけて、低く告げた。
声の主の首には、七色に光るヘッドフォン。
1度見れば忘れられないような印象を植えつけるような、その姿は、ショートカットの銀髪、金色の瞳、病的なまでの肌の白さ、という、特徴満載だった。
もしかしたら、あの蒼理が見れば、すぐに逃げ出すだろう。
その人は少女の姿をとり、蒼理と羽夜華、ではなく、正確には蒼理を見つめていた。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/07/18 15:49 更新日:2011/07/18 15:49 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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