作品ID:819
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?12色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
NEVのミュージック・ヒューマンという実験の目的というのは、その名の通り、音楽に長けた人間を造りだすコトだが、何事にも例外はあるもので。
この実験、3人居る被験体の1人である、藤村 樹析〈ふじむら きせき〉は、音楽のみならず、記憶力も長けていた。
「記憶あるヴァージョンと、ないヴァージョンじゃ、話し方、全然違うよねー」
ログハウス内で、くつろいだ様子の鋼夜春袈は、目の前で音楽機器をいじる倉中蒼理に、なんとなく声をかけた。
「え?」
「あー。確かに。リーダーって結構、そういうトコ気づきますよね」
「でしょー。もっと褒めていいよー」
春袈の言葉に、こちらは本を読んでいた、桃風羽夜華が同意する。
「あの……?」
そして当の本人である蒼理は、春袈と羽夜華の会話の意味がわからず、首を傾げる。
「倉中の話し方。記憶を失う以前と後だと、話し方が違うよねって」
「……?」
とりあえず自分のコトだとは理解できたが、相変らず蒼理は首を傾げたまま。
「でも」
その蒼理が首の位置を戻して、空中を見る。
「変わったところがあるのは、事実です。以前失っていた記憶が戻った事で、まだ困惑してますけど……変わったところはあります」
「変わったトコ?」
「……以前よりは、ありとあらゆる情報の対応ができてる気がします」
「情報の対応?」
「情報処理能力と言うんでしょうか。流動的な情報を常に最新の状態で手中に入れておくことが、アタシたち情報戦士にとっての基本です。でも、先ほども言ったとおり、情報は流動的です。それまでその情報が正解とされていたものが、1分1秒後には、間違いとされていることもあります。だから、アタシたちは、その情報1つ1つに対して、永い時間を要して、これが正解、これが間違いだということを判明させていきます。でも、ときとしてその永い時間を確保できない場合もあります。その場合……個々の情報処理能力がカギとなる」
この場合、倉中蒼理が指した『情報処理能力』とは、個々の才能による、いかに素早くその情報の正否を見極める力を言う。
「永い時間を確保できない場合、アタシたちは、その場で短い時間で情報の正否を問わなくてはなりません。……意外と知られてないことですけれど……アタシたちの戦闘能力となるのは、正解の情報のみ。いくら情報があっても、それが正解でなければ、それは戦闘能力にはならないんです。不正解の情報は、単なる情報。戦闘能力にはならない情報。……常に正解のみを求められるアタシたちは、正解か不正解かを見極める能力を、情報処理能力を問われ続けているんです」
記憶を失ってからは、そんなことに気づかなかった――そう続けた蒼理は、手の中にある音楽機器を見つめる。
「記憶が戻ってから、そのことに気づきました。ただ単に情報を集めるだけじゃダメだって。情報の正否をちゃんと分かってないとダメなんだって。やっと分かった。でも……」
分かった事だけじゃない。まだ分からない事がある。
「私の記憶では……記憶を失う、その直前に誰かと一緒に居たはずなんですけど……」
「思い出せてない?」
春袈が、蒼理に問う。蒼理は、少しだけ戸惑いを見せたように、ゆっくりと頷く。
「絶対、誰かと居たはずなんですけど」
「記憶喪失の人が、記憶を取り戻した後も、その記憶に欠陥があるというのは、過去にも何度かあります。倉中さんもその一部だと思いますよ」
記憶の欠陥。その言葉を口の中で繰り返す蒼理は、そう言った羽夜華を見て、俯く。
もしも、倉中蒼理に記憶の欠陥があるのだとすれば、その欠陥を早く直さなければならない。早く、記憶を取り戻さなければならない。
薄いオレンジ色のTシャツを握りしめて、蒼理は少しだけ手の体温で暖かくなった音楽機器を、ぎゅっと握り締めた。
ミュージック・ヒューマンの被験体というのは3人居る。
あの草花舞葉もそのうちの1人ではあるが、舞葉の場合は、このミュージック・ヒューマンの1人目の被験体である。
そして、倉中蒼理の義理の妹、藤村樹析。彼女は舞葉の次、2人目の被験体となる。
蒼理が以前、NEVに単身乗り込んできた理由である樹析の存在。
だが、今、蒼理の記憶に藤村樹析という少女も、名も存在していない。
蒼理の記憶の欠陥。
欠陥の中にあるのは、大事な義理の妹の名と存在。
だが、蒼理の記憶の中にその名と存在がないのならば、その存在に近づく術をもたないことになる。
蒼理が欠陥を直さなければ、始まらないお話。
だが欠陥を直す術もわからない、知らない今の状況。
しかしその欠陥を直せば、春袈が探し求めるウォークマンにも近づく事になる。
「ウォークマンというものは、アタシが持ってるような音楽機器とは全てが違います。春袈さんのご友人だという桐生刹那さんが所持していたという話ですけど……残念ながら、アタシは桐生刹那さんを知りません。ですが、桐生刹那さんが、このウォークマンを所持していたことは確かですね。それもつい最近……それこそ1ヶ月ぐらい前まで所持していた可能性が高い」
薄い橙色のカーペットに座り、目の前に置かれたピンボケしてしまっているカラー写真を見つめ、蒼理は推測を立てていく。
「最近まで?」
「はい。このウォークマンには、音楽機器としての能力だけではなく、記録機器としての能力もあります。でも、普通に操作する分には音楽機器としてしか使えないみたいですね……。記録機器として使用するには、何らかの条件があるみたいです。残念ながら、本体を見ていないアタシにはそこまでしか分かりませんけど」
「条件……にしても」
写真を見せた春袈が、蒼理の正面に座り、腕を組む。
「写真でよくそこまで分かったな。しかもこんなピンボケしてて」
「どこかで本体を見たことがあると思うんです。そのときに今の説明を知ったような気がするんです」
今のは、それかもしれません――困ったような照れたような、表情を浮かべる蒼理。
「ふーん……じゃ、本体見ればもっと分かる?」
「多分……」
溜息を吐く蒼理の表情は苦いものに変わっていた。
「記憶が戻れば、もっと分かるはずなんですけど……」
春袈も羽夜華も気づいていた。……蒼理が焦っていることに。
記憶が戻れば。
その一言で、蒼理は焦ってしまう。焦るがゆえに、判断を急ぐ。
蒼理は元々、冷静な性格なため、判断を急ぐまでは至っていないが、それもいつになるか。
記憶さえ戻れば、全て分かるかもしれないのに。自分が記憶を思い出せてない。自分が記憶を思い出せば、全て分かるかもしれないのに。自分は記憶を取り戻す術を知らない。
焦りという感情は、人間にとってマイナスに近い。
蒼理は焦っている。分からない事ばかりで、記憶を取り戻せば、分からない事が分かる。
何故、自分は記憶を失ったのだろう? 失わなければ、分かっていたかもしれないのに。
焦りから生まれる感情は、やがて自分を責め続けていくものになる。
焦って、自分を責める。
その点から言って、蒼理は今危険な状態にある。
早く記憶を取り戻さなければ。そう急ぐ。
この問題に対する、答えとして相応しいのは「急がせない」ことだが、それを言ったところで気休め程度にしかならないことは分かっている。
だから何もできない。
焦りというのは、焦りを抱く本人とその周囲にも影響を及ぼす。
そうなる前に。
蒼理の記憶を取り戻さなければいけない。
「記憶機器としての能力……」
「たとえば、録音、録画、とかですかね?」
「多分。でもそんな能力あったかな……」
この場に居る、春袈、羽夜華、蒼理の3人では唯一ウォークマンを見たことがある春袈が首を傾げる。
「さっき倉中さんも条件があるかもしれないって言ってましたし……もしかしたら桐生刹那さんは、その条件を知らなかったのかもしれません」
「……そう、かもね」
写真に写る、青い色のウォークマン。
友人が所持していたはずのウォークマン。
春袈しか見たことがないウォークマン。
いや。
〈私だけではない、か〉
倉中蒼理。
金髪ショートカットの少女は、本当はウォークマンを見ている。
NEVに単身乗り込んだとき、このウォークマンにも触れているはず。
先ほど、蒼理が言ったウォークマンの話も、ウォークマンに触れたことにより、ウォークマンから流れ出した情報からのものだろう。
〈全ては記憶が戻らなければ始まらないか〉
記憶が戻れば、始まるお話。
記憶が戻らなければ、始まらないお話。
今は、お話は始まっていない。
〈キーは倉中蒼理……〉
ジーンズを穿いた足の上に置いた左手を、ぎゅっと握り締めて、春袈は蒼理を睨みつけるように見ていた。
この実験、3人居る被験体の1人である、藤村 樹析〈ふじむら きせき〉は、音楽のみならず、記憶力も長けていた。
「記憶あるヴァージョンと、ないヴァージョンじゃ、話し方、全然違うよねー」
ログハウス内で、くつろいだ様子の鋼夜春袈は、目の前で音楽機器をいじる倉中蒼理に、なんとなく声をかけた。
「え?」
「あー。確かに。リーダーって結構、そういうトコ気づきますよね」
「でしょー。もっと褒めていいよー」
春袈の言葉に、こちらは本を読んでいた、桃風羽夜華が同意する。
「あの……?」
そして当の本人である蒼理は、春袈と羽夜華の会話の意味がわからず、首を傾げる。
「倉中の話し方。記憶を失う以前と後だと、話し方が違うよねって」
「……?」
とりあえず自分のコトだとは理解できたが、相変らず蒼理は首を傾げたまま。
「でも」
その蒼理が首の位置を戻して、空中を見る。
「変わったところがあるのは、事実です。以前失っていた記憶が戻った事で、まだ困惑してますけど……変わったところはあります」
「変わったトコ?」
「……以前よりは、ありとあらゆる情報の対応ができてる気がします」
「情報の対応?」
「情報処理能力と言うんでしょうか。流動的な情報を常に最新の状態で手中に入れておくことが、アタシたち情報戦士にとっての基本です。でも、先ほども言ったとおり、情報は流動的です。それまでその情報が正解とされていたものが、1分1秒後には、間違いとされていることもあります。だから、アタシたちは、その情報1つ1つに対して、永い時間を要して、これが正解、これが間違いだということを判明させていきます。でも、ときとしてその永い時間を確保できない場合もあります。その場合……個々の情報処理能力がカギとなる」
この場合、倉中蒼理が指した『情報処理能力』とは、個々の才能による、いかに素早くその情報の正否を見極める力を言う。
「永い時間を確保できない場合、アタシたちは、その場で短い時間で情報の正否を問わなくてはなりません。……意外と知られてないことですけれど……アタシたちの戦闘能力となるのは、正解の情報のみ。いくら情報があっても、それが正解でなければ、それは戦闘能力にはならないんです。不正解の情報は、単なる情報。戦闘能力にはならない情報。……常に正解のみを求められるアタシたちは、正解か不正解かを見極める能力を、情報処理能力を問われ続けているんです」
記憶を失ってからは、そんなことに気づかなかった――そう続けた蒼理は、手の中にある音楽機器を見つめる。
「記憶が戻ってから、そのことに気づきました。ただ単に情報を集めるだけじゃダメだって。情報の正否をちゃんと分かってないとダメなんだって。やっと分かった。でも……」
分かった事だけじゃない。まだ分からない事がある。
「私の記憶では……記憶を失う、その直前に誰かと一緒に居たはずなんですけど……」
「思い出せてない?」
春袈が、蒼理に問う。蒼理は、少しだけ戸惑いを見せたように、ゆっくりと頷く。
「絶対、誰かと居たはずなんですけど」
「記憶喪失の人が、記憶を取り戻した後も、その記憶に欠陥があるというのは、過去にも何度かあります。倉中さんもその一部だと思いますよ」
記憶の欠陥。その言葉を口の中で繰り返す蒼理は、そう言った羽夜華を見て、俯く。
もしも、倉中蒼理に記憶の欠陥があるのだとすれば、その欠陥を早く直さなければならない。早く、記憶を取り戻さなければならない。
薄いオレンジ色のTシャツを握りしめて、蒼理は少しだけ手の体温で暖かくなった音楽機器を、ぎゅっと握り締めた。
ミュージック・ヒューマンの被験体というのは3人居る。
あの草花舞葉もそのうちの1人ではあるが、舞葉の場合は、このミュージック・ヒューマンの1人目の被験体である。
そして、倉中蒼理の義理の妹、藤村樹析。彼女は舞葉の次、2人目の被験体となる。
蒼理が以前、NEVに単身乗り込んできた理由である樹析の存在。
だが、今、蒼理の記憶に藤村樹析という少女も、名も存在していない。
蒼理の記憶の欠陥。
欠陥の中にあるのは、大事な義理の妹の名と存在。
だが、蒼理の記憶の中にその名と存在がないのならば、その存在に近づく術をもたないことになる。
蒼理が欠陥を直さなければ、始まらないお話。
だが欠陥を直す術もわからない、知らない今の状況。
しかしその欠陥を直せば、春袈が探し求めるウォークマンにも近づく事になる。
「ウォークマンというものは、アタシが持ってるような音楽機器とは全てが違います。春袈さんのご友人だという桐生刹那さんが所持していたという話ですけど……残念ながら、アタシは桐生刹那さんを知りません。ですが、桐生刹那さんが、このウォークマンを所持していたことは確かですね。それもつい最近……それこそ1ヶ月ぐらい前まで所持していた可能性が高い」
薄い橙色のカーペットに座り、目の前に置かれたピンボケしてしまっているカラー写真を見つめ、蒼理は推測を立てていく。
「最近まで?」
「はい。このウォークマンには、音楽機器としての能力だけではなく、記録機器としての能力もあります。でも、普通に操作する分には音楽機器としてしか使えないみたいですね……。記録機器として使用するには、何らかの条件があるみたいです。残念ながら、本体を見ていないアタシにはそこまでしか分かりませんけど」
「条件……にしても」
写真を見せた春袈が、蒼理の正面に座り、腕を組む。
「写真でよくそこまで分かったな。しかもこんなピンボケしてて」
「どこかで本体を見たことがあると思うんです。そのときに今の説明を知ったような気がするんです」
今のは、それかもしれません――困ったような照れたような、表情を浮かべる蒼理。
「ふーん……じゃ、本体見ればもっと分かる?」
「多分……」
溜息を吐く蒼理の表情は苦いものに変わっていた。
「記憶が戻れば、もっと分かるはずなんですけど……」
春袈も羽夜華も気づいていた。……蒼理が焦っていることに。
記憶が戻れば。
その一言で、蒼理は焦ってしまう。焦るがゆえに、判断を急ぐ。
蒼理は元々、冷静な性格なため、判断を急ぐまでは至っていないが、それもいつになるか。
記憶さえ戻れば、全て分かるかもしれないのに。自分が記憶を思い出せてない。自分が記憶を思い出せば、全て分かるかもしれないのに。自分は記憶を取り戻す術を知らない。
焦りという感情は、人間にとってマイナスに近い。
蒼理は焦っている。分からない事ばかりで、記憶を取り戻せば、分からない事が分かる。
何故、自分は記憶を失ったのだろう? 失わなければ、分かっていたかもしれないのに。
焦りから生まれる感情は、やがて自分を責め続けていくものになる。
焦って、自分を責める。
その点から言って、蒼理は今危険な状態にある。
早く記憶を取り戻さなければ。そう急ぐ。
この問題に対する、答えとして相応しいのは「急がせない」ことだが、それを言ったところで気休め程度にしかならないことは分かっている。
だから何もできない。
焦りというのは、焦りを抱く本人とその周囲にも影響を及ぼす。
そうなる前に。
蒼理の記憶を取り戻さなければいけない。
「記憶機器としての能力……」
「たとえば、録音、録画、とかですかね?」
「多分。でもそんな能力あったかな……」
この場に居る、春袈、羽夜華、蒼理の3人では唯一ウォークマンを見たことがある春袈が首を傾げる。
「さっき倉中さんも条件があるかもしれないって言ってましたし……もしかしたら桐生刹那さんは、その条件を知らなかったのかもしれません」
「……そう、かもね」
写真に写る、青い色のウォークマン。
友人が所持していたはずのウォークマン。
春袈しか見たことがないウォークマン。
いや。
〈私だけではない、か〉
倉中蒼理。
金髪ショートカットの少女は、本当はウォークマンを見ている。
NEVに単身乗り込んだとき、このウォークマンにも触れているはず。
先ほど、蒼理が言ったウォークマンの話も、ウォークマンに触れたことにより、ウォークマンから流れ出した情報からのものだろう。
〈全ては記憶が戻らなければ始まらないか〉
記憶が戻れば、始まるお話。
記憶が戻らなければ、始まらないお話。
今は、お話は始まっていない。
〈キーは倉中蒼理……〉
ジーンズを穿いた足の上に置いた左手を、ぎゅっと握り締めて、春袈は蒼理を睨みつけるように見ていた。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/07/23 10:49 更新日:2011/07/23 10:49 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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