作品ID:821
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?13色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
倉中蒼理の存在は、彼女を保護した鋼夜春袈をはじめとする、周囲に見過ごせない影響を及ぼしていった。
まず、蒼理が春袈率いるチームに保護という形とはいえ、現れた際には、反発された。
蒼理は、特殊技能戦闘士と呼ばれる人種に分類され、その中でも稀少な情報戦士の1人。
その情報に対する能力は、NEVの頑丈なセキュリティを簡単に破る、桃風羽夜華、NEVの手によって育てられた草花舞葉、黒刃に次ぐほど。
今はその記憶に欠陥が生じているが、もしもそれが修復されて、本当の意味で記憶が戻れば――。
これは少数の人間しか知らないことだが、蒼理の記憶には、春袈も探し求めるウォークマンのデータを吸収している。
そして、草花姉妹を赤子のときから知る、NEVの魔王、日風哉河と個人的に面識もある。
つまり。
倉中蒼理という人物は、倉中蒼理自身も気づかぬうちにNEVと『知り合い』以上の関係性があり、その関係性を築く過程で吸収、収集した情報量は、実際にNEVのデータベースに侵入した羽夜華でさえも、NEVで育った草花姉妹も届かない。
それほどの情報量を有する蒼理。蒼理を保護した春袈。
もちろん、春袈にとっては蒼理の存在は有益以外のものにはならない。なるはずがない。
春袈はウォークマンを探し求め、蒼理はウォークマンのデータを吸収している。
2人の関係に、害はない。春袈にとってウォークマンのデータは必要なものだし、蒼理にとって記憶の欠陥を修復するのは1番の目的。
春袈が蒼理の有するデータを欲するなら、蒼理の欠陥修復を手伝えばいい。蒼理が欠陥修復を望むなら、春袈にデータを授ければいい。
しかし、蒼理がデータを春袈に授けるとして、春袈が蒼理の欠陥修復を手伝うとは限らない。
つまり、蒼理と春袈の現在の関係は、お互いがお互いを助けるという基本ができていなければ、簡単に壊れてしまうものだ。
信頼性がなければ、壊れてしまう関係。
それでも、関係を続けるのか。壊れたときのショックから逃れるため、止めるのか。
その答えは、当人たちにゆだねられるものであり、決して第三者が代理で答えることはできない。
「羽夜華、倉中の調子、どう?」
「だいぶ、良くなってます。記憶の欠陥が生じた際の混乱も収まってきていますし……」
「そっか。羽夜華、なるべく倉中を外に出してあげて。草花姉妹だと、倉中も警戒するだろうし、姉妹も警戒するだろうから、適任とは言いがたいし」
「分かりました。でも、時間が許す限り、です。ウォークマンのこともあるんですから。それに、今もメンバーは散り散りの状態です。メンバーを収集して、チームを以前の状態に戻すことが私の役割ですし」
「分かってるって。でもウォークマンの事は後回しにしてもいいかもしれない」
「……どういうことですか?」
金色に黒のメッシュを入れた髪を自室の鏡を見て、後ろで小さく縛りながら、鋼夜春袈は本を読んでいた桃風羽夜華に願いを申し出た。
だが、ウォークマンのことは、言い方を間違えてしまったかもしれない。
疑問をぶつけたときに、そのとき初めて本から目線をあげた羽夜華は、首をかしげた。
「倉中、だよ」
「倉中さん?」
「そ。倉中のデータ。その量は羽夜華も認めてるでしょ?」
「まぁ……あのウォークマンの話もそうですけど、倉中蒼理という存在が有するデータ量は、私も、もしかしたら草花姉妹も届かないかもしれませんし。実際、私も驚かされることがあります」
「そうそう。羽夜華がそう言うぐらいのデータ量を有する倉中……。今は記憶の欠陥があったりして、全部のデータは思い出せてないけど、もし、記憶の欠陥が直ったら? 記憶が完全な状態で戻ったりしたら?」
その言葉に、羽夜華は本を傍に置いて考え込む。
「……もし、完全に記憶が戻った倉中さんがチームに居れば……戦闘には出せなくとも、情報収集でこれ以上ない存在になる……。元々、倉中さんの能力は高い。それに記憶内にあるデータが加われば……!」
何かに気づいたように、まるで考えて考えて、ようやく結論に結果に辿り着いたかのような表情を浮かべて、羽夜華は春袈をまっすぐに見る。
羽夜華のカラーコンタクトを入れた茶色い瞳に、春袈の姿が映る。
その動作に春袈は1つ力強く頷いて、
「そ。倉中蒼理という存在は、すごく強力なんだ。倉中は情報戦士だし、その力も強い」
「……そういえば……」
「ん?」
羽夜華が何かを思い出したように顎に指を添える。
「倉中さん、キャリーケース、持ってませんでしたっけ?」
「キャリーケース?」
「はい。あの、七色に光る……」
羽夜華の言葉に、春袈が思い出そうとする。
そして目を見開いて、春袈は部屋を飛び出す。
突然の行動に羽夜華は追いつけない。タイムラグ。羽夜華も飛び出す。
既に春袈の姿はなかったが、なんとなく蒼理の元に居るのだろうと思い、蒼理が今住んでいるログハウスに向かう。
一旦外へ出て、別のログハウスへ。ドアをノックすることもせずに、その中へ飛び込む。
「リーダー! 急に、どうしたんですか……!?」
長い黒髪を靡かせて、羽夜華が飛び込んだその先では――
「羽夜華……」
苦々しく顔をゆがめた春袈と、木製の椅子に座って音楽機器を弄っていた様子で、キョトンとしている蒼理の対照的な2人が居る。
「羽夜華……」
苦々しく顔をゆがめ、そう呟いた春袈は、せっかく櫛を使って綺麗に結った髪をぐしゃぐしゃに掻き乱して、バンッ! と蒼理の目の前にある木製のテーブルを叩いた。
「倉中、本当に覚えてないのか?」
「キャリーケースなんて……そんなもの持ってませんよ。旅行もしてませんし」
その言葉に呆然と佇んでいた羽夜華も目を見開いて、春袈の傍に駆け寄る。
「リーダー、今、倉中さん……!」
コクンッと頷いて、春袈は横目に羽夜華を見る。
「倉中がキャリーケースを忘れるなんて……」
――このキャリーケースはアタシ専用の情報の引き出しです。金庫、とも言えますけどね。このキャリーケースには、アタシが今まで関わってきた、もしくはアタシが知っている知識、出来事が、たんまりと入っているんです。
大切そうに言った蒼理。確かに記憶に残っている。
「倉中、キミは情報戦士、なんだよな?」
「そうですよ。当然じゃないですか」
ヘラリと笑う蒼理。その姿にウソの気配は、ない。
「なら、キャリーケースだって……!」
「? だからキャリーケースって?」
蒼理の無邪気そうな表情と声に、春袈は溜息を1つ吐いた。
「そっか」
諦めたように春袈は言い、笑みを浮かべる。力ない笑み。
1年近く一緒に居る羽夜華でさえ、あまり見ない表情。
「ゴメン。問い詰めるようなことして」
力なくログハウスを出て行く春袈。ドアを開ける動作でさえ、全体重をかけて開けているようなものだった。
春袈と蒼理を交互に見て、何かを考えて、羽夜華は春袈を追う。
決めたんだ。
どんなことがあっても、春袈についていくと。
「リーダー……」
「どこからなんだ、記憶の欠陥は……っ!」
ログハウスを出て、春袈を追った羽夜華は、頭を抱えてうめく春袈を見た。
「分からない! どこからなんだ! どこが抜けてるんだ!?」
「リーダー……」
「情報戦士であることは分かるのに、キャリーケースを知らないなんて……覚えてないなんて……!」
「リーダー……?」
「キャリーケースは倉中にとって、大切ではないのか!? そんなものを忘れるなんてっ!!」
このとき、実は少しだけ、鋼夜春袈という存在が羽夜華には分からなかった。
どうしてそんなに倉中蒼理という存在に関わるのか。必死になるのか。
確かに蒼理が有するデータはすごい量なのかもしれない。ウォークマンを探すために利用できるかもしれない。
「リーダー、どうして、そんなに」
「倉中に必死になるのかって?」
歪んだ表情のまま、春袈が羽夜華を見る。
「……はい」
「そんなの……!」
春袈が口を開いて、また閉じる。紡ぐ言葉がなかったのだろう。
「そんなの、そんなの……」
紡げない。紡ぐべき言葉が見当たらない。口を開いて、閉じる。その繰り返しを春袈は行い続けた。
「紡ぐ言葉すら見当たらない人をどうして、そんな必死になって……」
「それは」
春袈が言いかける。またすぐ口を閉じる。
「確かに記憶の欠陥の範囲は分かりません。情報戦士のことを覚えていて、キャリーケースを忘れている。そして、倉中さんの記憶を失う原因も少しだけ忘れてます。まちまちな範囲。欠陥……」
膝をかかえて俯く春袈は、立ち続けて春袈を見下ろす羽夜華をうつろな目で見上げる。
「そんなの理解することなんて不可能です。秩序なきことを、ものを理解しようだなんて……無理なんです」
かつて経験した事がある。そのときの羽夜華も、今の春袈のような目をしていて……。
無意識に羽夜華は顔をゆがめた。
「無理?」
「はい」
「……本当に?」
「え?」
「無理、なのか? 本当に?」
春袈はその瞳に意思を取り戻し、光も取り戻した。
「蒼理は……不安定だ」
「それは、なんとなく分かりますけど」
自身が情報戦士だということは覚えている。だが大事なキャリーケースを忘れ、情報戦士になる以前、それこそ記憶を失う原因の一部は忘れている。
不安定な記憶。蒼理の精神状態を表しているみたいに。
「不安定な存在ほど恐ろしいのはない」
「? どういうことですか?」
「安定しているものは、自己嫌悪や後悔などを知っている。その行動にいたるまでの思考経路や踏みとどまれることを知っている」
春袈は立ち上がり、羽夜華と同じ目線で言葉を続ける。
「不安定なものは、自己嫌悪も後悔も思考経路も踏みとどまる事も知らない。分からない。そうする意味を知らない。意味を知らないから、そうしない。……壊れかけというのは多分、そういうやつを言うんだと思う」
「つまり、今の倉中さんは、どんな行動に出てもおかしくない、ということですか?」
「そういうことになる」
「……だからリーダーはそんなに必死に?」
「……多分、そういうことなんだと思う」
そこだけは本当に分からないのだろう。春袈が腕を組んで考え込む。
「記憶を取り戻せば、そういった危険も減る。もしかしたらゼロになるかもしれない」
「早く、そうしなければ?」
「もちろん、協力しろなんて言わない。羽夜華の好きな通りにすればいい」
「……」
無言で羽夜華は笑み、頷いた。
「……私、そんなに信用ないですか?」
ただその笑みはどこか悪戯っぽい笑みで。
その笑みに答えるように笑んだ春袈。
「そんなわけ、ないじゃん」
羽夜華の肩をポンッと叩き、春袈は歩き出した。
それを見て、羽夜華は、春袈を追って歩き出す。
「キャリーケースを思い出さないと始まらないな」
「そうですね」
「でもキャリーケースを思い出させるって……」
「言った本人がそれを言いますか」
呆れたように羽夜華は溜息をついて、すぐに笑みに変わる。
「いい方法、ありますよ」
ニヤリと笑んだ羽夜華。
「いい方法?」
「はい!」
なぜか自信満々に答えた羽夜華に、春袈は苦笑いを送った。
まず、蒼理が春袈率いるチームに保護という形とはいえ、現れた際には、反発された。
蒼理は、特殊技能戦闘士と呼ばれる人種に分類され、その中でも稀少な情報戦士の1人。
その情報に対する能力は、NEVの頑丈なセキュリティを簡単に破る、桃風羽夜華、NEVの手によって育てられた草花舞葉、黒刃に次ぐほど。
今はその記憶に欠陥が生じているが、もしもそれが修復されて、本当の意味で記憶が戻れば――。
これは少数の人間しか知らないことだが、蒼理の記憶には、春袈も探し求めるウォークマンのデータを吸収している。
そして、草花姉妹を赤子のときから知る、NEVの魔王、日風哉河と個人的に面識もある。
つまり。
倉中蒼理という人物は、倉中蒼理自身も気づかぬうちにNEVと『知り合い』以上の関係性があり、その関係性を築く過程で吸収、収集した情報量は、実際にNEVのデータベースに侵入した羽夜華でさえも、NEVで育った草花姉妹も届かない。
それほどの情報量を有する蒼理。蒼理を保護した春袈。
もちろん、春袈にとっては蒼理の存在は有益以外のものにはならない。なるはずがない。
春袈はウォークマンを探し求め、蒼理はウォークマンのデータを吸収している。
2人の関係に、害はない。春袈にとってウォークマンのデータは必要なものだし、蒼理にとって記憶の欠陥を修復するのは1番の目的。
春袈が蒼理の有するデータを欲するなら、蒼理の欠陥修復を手伝えばいい。蒼理が欠陥修復を望むなら、春袈にデータを授ければいい。
しかし、蒼理がデータを春袈に授けるとして、春袈が蒼理の欠陥修復を手伝うとは限らない。
つまり、蒼理と春袈の現在の関係は、お互いがお互いを助けるという基本ができていなければ、簡単に壊れてしまうものだ。
信頼性がなければ、壊れてしまう関係。
それでも、関係を続けるのか。壊れたときのショックから逃れるため、止めるのか。
その答えは、当人たちにゆだねられるものであり、決して第三者が代理で答えることはできない。
「羽夜華、倉中の調子、どう?」
「だいぶ、良くなってます。記憶の欠陥が生じた際の混乱も収まってきていますし……」
「そっか。羽夜華、なるべく倉中を外に出してあげて。草花姉妹だと、倉中も警戒するだろうし、姉妹も警戒するだろうから、適任とは言いがたいし」
「分かりました。でも、時間が許す限り、です。ウォークマンのこともあるんですから。それに、今もメンバーは散り散りの状態です。メンバーを収集して、チームを以前の状態に戻すことが私の役割ですし」
「分かってるって。でもウォークマンの事は後回しにしてもいいかもしれない」
「……どういうことですか?」
金色に黒のメッシュを入れた髪を自室の鏡を見て、後ろで小さく縛りながら、鋼夜春袈は本を読んでいた桃風羽夜華に願いを申し出た。
だが、ウォークマンのことは、言い方を間違えてしまったかもしれない。
疑問をぶつけたときに、そのとき初めて本から目線をあげた羽夜華は、首をかしげた。
「倉中、だよ」
「倉中さん?」
「そ。倉中のデータ。その量は羽夜華も認めてるでしょ?」
「まぁ……あのウォークマンの話もそうですけど、倉中蒼理という存在が有するデータ量は、私も、もしかしたら草花姉妹も届かないかもしれませんし。実際、私も驚かされることがあります」
「そうそう。羽夜華がそう言うぐらいのデータ量を有する倉中……。今は記憶の欠陥があったりして、全部のデータは思い出せてないけど、もし、記憶の欠陥が直ったら? 記憶が完全な状態で戻ったりしたら?」
その言葉に、羽夜華は本を傍に置いて考え込む。
「……もし、完全に記憶が戻った倉中さんがチームに居れば……戦闘には出せなくとも、情報収集でこれ以上ない存在になる……。元々、倉中さんの能力は高い。それに記憶内にあるデータが加われば……!」
何かに気づいたように、まるで考えて考えて、ようやく結論に結果に辿り着いたかのような表情を浮かべて、羽夜華は春袈をまっすぐに見る。
羽夜華のカラーコンタクトを入れた茶色い瞳に、春袈の姿が映る。
その動作に春袈は1つ力強く頷いて、
「そ。倉中蒼理という存在は、すごく強力なんだ。倉中は情報戦士だし、その力も強い」
「……そういえば……」
「ん?」
羽夜華が何かを思い出したように顎に指を添える。
「倉中さん、キャリーケース、持ってませんでしたっけ?」
「キャリーケース?」
「はい。あの、七色に光る……」
羽夜華の言葉に、春袈が思い出そうとする。
そして目を見開いて、春袈は部屋を飛び出す。
突然の行動に羽夜華は追いつけない。タイムラグ。羽夜華も飛び出す。
既に春袈の姿はなかったが、なんとなく蒼理の元に居るのだろうと思い、蒼理が今住んでいるログハウスに向かう。
一旦外へ出て、別のログハウスへ。ドアをノックすることもせずに、その中へ飛び込む。
「リーダー! 急に、どうしたんですか……!?」
長い黒髪を靡かせて、羽夜華が飛び込んだその先では――
「羽夜華……」
苦々しく顔をゆがめた春袈と、木製の椅子に座って音楽機器を弄っていた様子で、キョトンとしている蒼理の対照的な2人が居る。
「羽夜華……」
苦々しく顔をゆがめ、そう呟いた春袈は、せっかく櫛を使って綺麗に結った髪をぐしゃぐしゃに掻き乱して、バンッ! と蒼理の目の前にある木製のテーブルを叩いた。
「倉中、本当に覚えてないのか?」
「キャリーケースなんて……そんなもの持ってませんよ。旅行もしてませんし」
その言葉に呆然と佇んでいた羽夜華も目を見開いて、春袈の傍に駆け寄る。
「リーダー、今、倉中さん……!」
コクンッと頷いて、春袈は横目に羽夜華を見る。
「倉中がキャリーケースを忘れるなんて……」
――このキャリーケースはアタシ専用の情報の引き出しです。金庫、とも言えますけどね。このキャリーケースには、アタシが今まで関わってきた、もしくはアタシが知っている知識、出来事が、たんまりと入っているんです。
大切そうに言った蒼理。確かに記憶に残っている。
「倉中、キミは情報戦士、なんだよな?」
「そうですよ。当然じゃないですか」
ヘラリと笑う蒼理。その姿にウソの気配は、ない。
「なら、キャリーケースだって……!」
「? だからキャリーケースって?」
蒼理の無邪気そうな表情と声に、春袈は溜息を1つ吐いた。
「そっか」
諦めたように春袈は言い、笑みを浮かべる。力ない笑み。
1年近く一緒に居る羽夜華でさえ、あまり見ない表情。
「ゴメン。問い詰めるようなことして」
力なくログハウスを出て行く春袈。ドアを開ける動作でさえ、全体重をかけて開けているようなものだった。
春袈と蒼理を交互に見て、何かを考えて、羽夜華は春袈を追う。
決めたんだ。
どんなことがあっても、春袈についていくと。
「リーダー……」
「どこからなんだ、記憶の欠陥は……っ!」
ログハウスを出て、春袈を追った羽夜華は、頭を抱えてうめく春袈を見た。
「分からない! どこからなんだ! どこが抜けてるんだ!?」
「リーダー……」
「情報戦士であることは分かるのに、キャリーケースを知らないなんて……覚えてないなんて……!」
「リーダー……?」
「キャリーケースは倉中にとって、大切ではないのか!? そんなものを忘れるなんてっ!!」
このとき、実は少しだけ、鋼夜春袈という存在が羽夜華には分からなかった。
どうしてそんなに倉中蒼理という存在に関わるのか。必死になるのか。
確かに蒼理が有するデータはすごい量なのかもしれない。ウォークマンを探すために利用できるかもしれない。
「リーダー、どうして、そんなに」
「倉中に必死になるのかって?」
歪んだ表情のまま、春袈が羽夜華を見る。
「……はい」
「そんなの……!」
春袈が口を開いて、また閉じる。紡ぐ言葉がなかったのだろう。
「そんなの、そんなの……」
紡げない。紡ぐべき言葉が見当たらない。口を開いて、閉じる。その繰り返しを春袈は行い続けた。
「紡ぐ言葉すら見当たらない人をどうして、そんな必死になって……」
「それは」
春袈が言いかける。またすぐ口を閉じる。
「確かに記憶の欠陥の範囲は分かりません。情報戦士のことを覚えていて、キャリーケースを忘れている。そして、倉中さんの記憶を失う原因も少しだけ忘れてます。まちまちな範囲。欠陥……」
膝をかかえて俯く春袈は、立ち続けて春袈を見下ろす羽夜華をうつろな目で見上げる。
「そんなの理解することなんて不可能です。秩序なきことを、ものを理解しようだなんて……無理なんです」
かつて経験した事がある。そのときの羽夜華も、今の春袈のような目をしていて……。
無意識に羽夜華は顔をゆがめた。
「無理?」
「はい」
「……本当に?」
「え?」
「無理、なのか? 本当に?」
春袈はその瞳に意思を取り戻し、光も取り戻した。
「蒼理は……不安定だ」
「それは、なんとなく分かりますけど」
自身が情報戦士だということは覚えている。だが大事なキャリーケースを忘れ、情報戦士になる以前、それこそ記憶を失う原因の一部は忘れている。
不安定な記憶。蒼理の精神状態を表しているみたいに。
「不安定な存在ほど恐ろしいのはない」
「? どういうことですか?」
「安定しているものは、自己嫌悪や後悔などを知っている。その行動にいたるまでの思考経路や踏みとどまれることを知っている」
春袈は立ち上がり、羽夜華と同じ目線で言葉を続ける。
「不安定なものは、自己嫌悪も後悔も思考経路も踏みとどまる事も知らない。分からない。そうする意味を知らない。意味を知らないから、そうしない。……壊れかけというのは多分、そういうやつを言うんだと思う」
「つまり、今の倉中さんは、どんな行動に出てもおかしくない、ということですか?」
「そういうことになる」
「……だからリーダーはそんなに必死に?」
「……多分、そういうことなんだと思う」
そこだけは本当に分からないのだろう。春袈が腕を組んで考え込む。
「記憶を取り戻せば、そういった危険も減る。もしかしたらゼロになるかもしれない」
「早く、そうしなければ?」
「もちろん、協力しろなんて言わない。羽夜華の好きな通りにすればいい」
「……」
無言で羽夜華は笑み、頷いた。
「……私、そんなに信用ないですか?」
ただその笑みはどこか悪戯っぽい笑みで。
その笑みに答えるように笑んだ春袈。
「そんなわけ、ないじゃん」
羽夜華の肩をポンッと叩き、春袈は歩き出した。
それを見て、羽夜華は、春袈を追って歩き出す。
「キャリーケースを思い出さないと始まらないな」
「そうですね」
「でもキャリーケースを思い出させるって……」
「言った本人がそれを言いますか」
呆れたように羽夜華は溜息をついて、すぐに笑みに変わる。
「いい方法、ありますよ」
ニヤリと笑んだ羽夜華。
「いい方法?」
「はい!」
なぜか自信満々に答えた羽夜華に、春袈は苦笑いを送った。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/07/25 19:19 更新日:2011/07/25 19:19 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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