作品ID:822
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「White×Black=Glay?」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(14)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(167)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?14色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
情報戦士の情報の引き出しというのは、その当人によって変わる。
あの倉中蒼理のようにキャリーケースを引き出しとしている者も居るし、人によってはスピーカー、ノート、携帯電話、パソコンなどを引き出しとしている場合もある。
もちろん、それらには必ず共通点が存在する。
「共通点?」
「はい。予想段階ですけど……情報の引き出しは、必ず何らかの情報を伝えるもの、なんです」
「……」
上下ジャージ姿の鋼夜春袈と桃風羽夜華は、今、自分たちが居住するログハウス、春袈の自室に戻ってきていた。
2人は部屋に置かれた木製の椅子に、向かい合うように座っている。
似たような姿の2人だが、違う点をあげるなら、春袈は金色に黒のメッシュを入れた髪を後ろで小さく結って、羽夜華はロングの黒髪をそのまま下ろしている点だろうか。
羽夜華の説明を受けた春袈は、その顔に疑問の表情を浮かべた。
「えーと……?」
「たとえば、倉中さんのキャリーケース。あれは旅行用の鞄として広く知られてますけど、少し見方を変えれば、キャリーケースというのは荷物を運ぶためだけのもの、になるんです」
「……」
「で、その荷物には、荷物の所有者の過去とか現在とか全て詰まってます。たとえば日焼けして茶色く変色してしまった文庫本。あれはそれなりの年月を知らせてくれます」
「……」
「つまり、キャリーケースに積む荷物は、荷物1つ1つに所有者の全てが詰まってる。そして荷物1つ1つは所有者の全てを語る。先ほど言った文庫本の話も、いつから所有者がその本を持っているのか、そういう情報を与えます。語る」
「……」
「他のもそうですよね? たとえばスピーカー。あれは音楽を大勢の人々に伝える役割をしている。音楽という情報を伝えている。他のものも言えます」
「……つまり、情報の引き出しは、必ずそういった点を持っている、と?」
「多分。予想なので分かりませんけど……」
羽夜華はそう言ったが、春袈はそう思わなかった。
確かにそうかもしれない。電子機器はもとから、ノートだって情報を書き込む。やがてそのノートは凄い量の情報が詰まっていく。
「……私は残念ながら、そこまで頭回んないけど……。羽夜華、キャリーケースを思い出させるのに、いい方法があるって言った、よね?」
「はい」
「その方法……それは絶対に思い出させることができる方法?」
「いえ。確実、絶対とは言えません」
「そっか」
その言葉に素直に頷いて、春袈は腕を組んだ。
「絶対なんてないもんだし……。その方法って?」
「……情報戦士にとって、情報の引き出しは特別かつ大切なものだと思うんです」
そこで春袈は蒼理のあの言葉と表情を思い出していた。
――このキャリーケースはアタシ専用の情報の引き出しです。金庫、とも言えますけどね。このキャリーケースには、アタシが今まで関わってきた、もしくはアタシが知っている知識、出来事が、たんまりと入っているんです。
嬉しそうに、大切そうな表情を浮かべて蒼理はそう確かに言った。
その光景を思い出したから、春袈は羽夜華の言葉に頷いた。
「たとえ記憶がなくなろうとも、必ずどこかで大切な特別なものって覚えてると思うんです」
「……うん」
「なので、その大切なものに関する情報を与えるなどの行動をすれば、思い出すと思うんですけど」
「? 思うんですけど?」
「……ここ、ヴィルヴェスタ国の記憶喪失者の症例を全て見ました」
両手を組んで、羽夜華は俯く。黒髪が肩から少しだけ落ちる。
「その全て、というわけではないですが、少ないとは言えない数が出ました。数を求めたのは……喪失感の反動のショック」
「どういうことだ?」
「大切なものを持っていて、突然記憶が無くなって、擬似的に失っていればいいです。でも、それを思い出したとき、多分、私もそうなると思うんですが……もう、言いようのないようなショックを受けると思うんです。大切なものを忘れていて、失っていて、それでも自分はそのまま日々を過ごしていて。その大切なものを思い出したとき、なんでそんな大切なものを、ことを忘れてたんだろっていう疑問になると思うんです。そして、それは多分、どこかでショックに変わる……」
「大切であればあるほど、ショックは大きくなる?」
俯いたまま、コクンと頷いた羽夜華。
「多分。もちろん、大切、の基準や程度は個人にゆだねられるものですが」
「そりゃそうだ。全員が全員同じ基準だったら、面白くないじゃないか」
「それは分からないですけど。……多分、倉中さんにとってキャリーケースってそういうものなんじゃないでしょうか」
「……」
「そうだとしたら、思い出させるにしても……」
「怖い、な。迷いを覚える」
コクリと頷いた羽夜華。いまだ俯いたままの彼女を見て、春袈は右側にある窓に顔を向ける。
あのとき、蒼理がキャリーケースのことを話したとき、浮かべた表情を、また思い出して、目を閉じる。
「でも、思い出させないと……」
どこか焦ったような声で羽夜華は言ったが、春袈は首を横に振った。
「それは……。無理に思い出させようとすれば、ショックも大きくなるだろうし」
「でも、リーダー」
「確かにキャリーケースのことを思い出してくれないと、始まらない。情報戦士であることは覚えているんだから、自然と情報の引き出しのことは疑問に思うとおもうけど」
それを待つしかない、そう続けた春袈は、内心苛ついていた。
蒼理の記憶の欠陥。情報戦士であることは覚えているのだから、キャリーケースのことだって覚えているだろうと思っていた。
それなのに。
キャリーケースのことを思い出せば、戦力にもなるし情報源にもなる。ウォークマンにだって、近づくかもしれない。
そして、現時点で春袈には、確認しておきたかったことがあった。
「……ウォークマンの秘密は、既に光の下」
「はい?」
俯いていた羽夜華が、春袈の呟きに反応して、顔を上げる。
「倉中が以前言っていたんだ。そう、聞こえただけだと思うけど」
「倉中さんが?」
意外そうに羽夜華は目を見開く。
「もしそう聞こえたのが、本当にその言葉だったとしたら……。情報戦士である倉中が言ったことだ。信じる価値はあると思うがな」
「そう、ですね」
少しの時間をおいて、羽夜華が椅子から立ち上がる。
「どうした?」
「いえ。……ウォークマンの秘密が、倉中さんの言うとおり、本当に誰かに知られてるとしたら、放置しておくわけにはいきません」
「ってことは……」
「ウォークマンには記録機器としての能力もあると倉中さん、言ってましたよね?」
「あぁ。私も4年前、何かを読み込むウォークマンを見たし……」
「なら、簡単です」
自信に溢れた顔で羽夜華は頷いた。
「……ウォークマンの秘密、まではいきませんが、関連を調べます。少し時間かかると思いますけど」
「構わない。どーせまた、データベースに侵入ーとか言い出すんだろ」
「はい」
笑顔で頷く羽夜華に、苦笑いして、春袈も立ち上がる。
「何か得られたら、すぐ呼んで。私はキャリーケースを探してみる」
「え、でもリーダー、キャリーケースのことを無理に思い出させるのは危険みたいなこと、言ってたじゃないですか?」
「大丈夫。倉中に聞くんじゃない。自分で探すんだよ」
「探すって……アテは?」
「ん? ない」
「ないって……」
呆れたように羽夜華は額に手をやる。
「でも、保護したとき、倉中はキャリーケースを持ってなかった」
「そう、ですね」
「つまり、それ以前。保護する以前、ってことになる」
「……まさか」
その言葉に羽夜華は何かを察したのか、春袈を見る。その視線には何かを訴えるものが含まれていて。
「ダメですよ。倉中さんを保護した現場に戻るなんて。危険すぎます」
「えー」
あっていたのか、不満そうに口を尖らせる春袈。
羽夜華は溜息を吐いて、手を下ろす。
「キャリーケースも調べておきます。キャリーケースとウォークマンなら、キャリーケースのほうが調べやすいです」
「……分かったよ」
「で? リーダーは、ここに居ますよね?」
「うん。することないし。屋根の修理しときます」
「まだあるんですか」
「うん。あと残り25ぐらい」
「それほぼ全部じゃないですか!」
会話をしながら部屋を出て、廊下を歩く2人。
「じゃ、私、自室に篭ります」
「うん」
「所要時間は……3日間かそこら」
「分かった」
「じゃ、誰も入れないでくださいね。気、まぎれちゃうんで」
「分かったよ」
苦笑いして、春袈は部屋のドアを閉めた羽夜華の後姿を眺め、しばらくそこに突っ立ってから、後悔した。
〈さっき、部屋から工具箱とってこればよかった……〉
春袈の部屋と羽夜華の部屋は、同じログハウス内なので、そう遠くはない。だが、もう1回戻るのは億劫だった。
〈仕方、ないか〉
だが、工具箱がなければ屋根修理はできない。
ならば、屋根修理以外をやればいいのでは? と思うだろうが、残念ながら、春袈には屋根修理以外することがないのだ。決してヒマなのではないが、それしかやることがないのだ。
振り向いて、廊下を歩き、部屋へと戻る。
だが、その足が止まる。
ジャージのポケットに入れた携帯が震えたから。
「……」
疑問に思いながらも携帯を見る。サブディスプレイに表示されたのは……倉中蒼理。
「……もしもし?」
『春袈、さん』
「どうかした?」
電話越しだから、というわけではないだろう。蒼理の声が沈んでいる。
『……樹析が……』
小さく呟いた言葉。いや、それは名。
倉中蒼理という存在にとって、大切な名。
『樹析が、NEVの実験に……!』
緊張した声が電話から響く。
樹析、その名を聞いたとき、春袈の視界がクルリと反転したような感覚に襲われた。
あの倉中蒼理のようにキャリーケースを引き出しとしている者も居るし、人によってはスピーカー、ノート、携帯電話、パソコンなどを引き出しとしている場合もある。
もちろん、それらには必ず共通点が存在する。
「共通点?」
「はい。予想段階ですけど……情報の引き出しは、必ず何らかの情報を伝えるもの、なんです」
「……」
上下ジャージ姿の鋼夜春袈と桃風羽夜華は、今、自分たちが居住するログハウス、春袈の自室に戻ってきていた。
2人は部屋に置かれた木製の椅子に、向かい合うように座っている。
似たような姿の2人だが、違う点をあげるなら、春袈は金色に黒のメッシュを入れた髪を後ろで小さく結って、羽夜華はロングの黒髪をそのまま下ろしている点だろうか。
羽夜華の説明を受けた春袈は、その顔に疑問の表情を浮かべた。
「えーと……?」
「たとえば、倉中さんのキャリーケース。あれは旅行用の鞄として広く知られてますけど、少し見方を変えれば、キャリーケースというのは荷物を運ぶためだけのもの、になるんです」
「……」
「で、その荷物には、荷物の所有者の過去とか現在とか全て詰まってます。たとえば日焼けして茶色く変色してしまった文庫本。あれはそれなりの年月を知らせてくれます」
「……」
「つまり、キャリーケースに積む荷物は、荷物1つ1つに所有者の全てが詰まってる。そして荷物1つ1つは所有者の全てを語る。先ほど言った文庫本の話も、いつから所有者がその本を持っているのか、そういう情報を与えます。語る」
「……」
「他のもそうですよね? たとえばスピーカー。あれは音楽を大勢の人々に伝える役割をしている。音楽という情報を伝えている。他のものも言えます」
「……つまり、情報の引き出しは、必ずそういった点を持っている、と?」
「多分。予想なので分かりませんけど……」
羽夜華はそう言ったが、春袈はそう思わなかった。
確かにそうかもしれない。電子機器はもとから、ノートだって情報を書き込む。やがてそのノートは凄い量の情報が詰まっていく。
「……私は残念ながら、そこまで頭回んないけど……。羽夜華、キャリーケースを思い出させるのに、いい方法があるって言った、よね?」
「はい」
「その方法……それは絶対に思い出させることができる方法?」
「いえ。確実、絶対とは言えません」
「そっか」
その言葉に素直に頷いて、春袈は腕を組んだ。
「絶対なんてないもんだし……。その方法って?」
「……情報戦士にとって、情報の引き出しは特別かつ大切なものだと思うんです」
そこで春袈は蒼理のあの言葉と表情を思い出していた。
――このキャリーケースはアタシ専用の情報の引き出しです。金庫、とも言えますけどね。このキャリーケースには、アタシが今まで関わってきた、もしくはアタシが知っている知識、出来事が、たんまりと入っているんです。
嬉しそうに、大切そうな表情を浮かべて蒼理はそう確かに言った。
その光景を思い出したから、春袈は羽夜華の言葉に頷いた。
「たとえ記憶がなくなろうとも、必ずどこかで大切な特別なものって覚えてると思うんです」
「……うん」
「なので、その大切なものに関する情報を与えるなどの行動をすれば、思い出すと思うんですけど」
「? 思うんですけど?」
「……ここ、ヴィルヴェスタ国の記憶喪失者の症例を全て見ました」
両手を組んで、羽夜華は俯く。黒髪が肩から少しだけ落ちる。
「その全て、というわけではないですが、少ないとは言えない数が出ました。数を求めたのは……喪失感の反動のショック」
「どういうことだ?」
「大切なものを持っていて、突然記憶が無くなって、擬似的に失っていればいいです。でも、それを思い出したとき、多分、私もそうなると思うんですが……もう、言いようのないようなショックを受けると思うんです。大切なものを忘れていて、失っていて、それでも自分はそのまま日々を過ごしていて。その大切なものを思い出したとき、なんでそんな大切なものを、ことを忘れてたんだろっていう疑問になると思うんです。そして、それは多分、どこかでショックに変わる……」
「大切であればあるほど、ショックは大きくなる?」
俯いたまま、コクンと頷いた羽夜華。
「多分。もちろん、大切、の基準や程度は個人にゆだねられるものですが」
「そりゃそうだ。全員が全員同じ基準だったら、面白くないじゃないか」
「それは分からないですけど。……多分、倉中さんにとってキャリーケースってそういうものなんじゃないでしょうか」
「……」
「そうだとしたら、思い出させるにしても……」
「怖い、な。迷いを覚える」
コクリと頷いた羽夜華。いまだ俯いたままの彼女を見て、春袈は右側にある窓に顔を向ける。
あのとき、蒼理がキャリーケースのことを話したとき、浮かべた表情を、また思い出して、目を閉じる。
「でも、思い出させないと……」
どこか焦ったような声で羽夜華は言ったが、春袈は首を横に振った。
「それは……。無理に思い出させようとすれば、ショックも大きくなるだろうし」
「でも、リーダー」
「確かにキャリーケースのことを思い出してくれないと、始まらない。情報戦士であることは覚えているんだから、自然と情報の引き出しのことは疑問に思うとおもうけど」
それを待つしかない、そう続けた春袈は、内心苛ついていた。
蒼理の記憶の欠陥。情報戦士であることは覚えているのだから、キャリーケースのことだって覚えているだろうと思っていた。
それなのに。
キャリーケースのことを思い出せば、戦力にもなるし情報源にもなる。ウォークマンにだって、近づくかもしれない。
そして、現時点で春袈には、確認しておきたかったことがあった。
「……ウォークマンの秘密は、既に光の下」
「はい?」
俯いていた羽夜華が、春袈の呟きに反応して、顔を上げる。
「倉中が以前言っていたんだ。そう、聞こえただけだと思うけど」
「倉中さんが?」
意外そうに羽夜華は目を見開く。
「もしそう聞こえたのが、本当にその言葉だったとしたら……。情報戦士である倉中が言ったことだ。信じる価値はあると思うがな」
「そう、ですね」
少しの時間をおいて、羽夜華が椅子から立ち上がる。
「どうした?」
「いえ。……ウォークマンの秘密が、倉中さんの言うとおり、本当に誰かに知られてるとしたら、放置しておくわけにはいきません」
「ってことは……」
「ウォークマンには記録機器としての能力もあると倉中さん、言ってましたよね?」
「あぁ。私も4年前、何かを読み込むウォークマンを見たし……」
「なら、簡単です」
自信に溢れた顔で羽夜華は頷いた。
「……ウォークマンの秘密、まではいきませんが、関連を調べます。少し時間かかると思いますけど」
「構わない。どーせまた、データベースに侵入ーとか言い出すんだろ」
「はい」
笑顔で頷く羽夜華に、苦笑いして、春袈も立ち上がる。
「何か得られたら、すぐ呼んで。私はキャリーケースを探してみる」
「え、でもリーダー、キャリーケースのことを無理に思い出させるのは危険みたいなこと、言ってたじゃないですか?」
「大丈夫。倉中に聞くんじゃない。自分で探すんだよ」
「探すって……アテは?」
「ん? ない」
「ないって……」
呆れたように羽夜華は額に手をやる。
「でも、保護したとき、倉中はキャリーケースを持ってなかった」
「そう、ですね」
「つまり、それ以前。保護する以前、ってことになる」
「……まさか」
その言葉に羽夜華は何かを察したのか、春袈を見る。その視線には何かを訴えるものが含まれていて。
「ダメですよ。倉中さんを保護した現場に戻るなんて。危険すぎます」
「えー」
あっていたのか、不満そうに口を尖らせる春袈。
羽夜華は溜息を吐いて、手を下ろす。
「キャリーケースも調べておきます。キャリーケースとウォークマンなら、キャリーケースのほうが調べやすいです」
「……分かったよ」
「で? リーダーは、ここに居ますよね?」
「うん。することないし。屋根の修理しときます」
「まだあるんですか」
「うん。あと残り25ぐらい」
「それほぼ全部じゃないですか!」
会話をしながら部屋を出て、廊下を歩く2人。
「じゃ、私、自室に篭ります」
「うん」
「所要時間は……3日間かそこら」
「分かった」
「じゃ、誰も入れないでくださいね。気、まぎれちゃうんで」
「分かったよ」
苦笑いして、春袈は部屋のドアを閉めた羽夜華の後姿を眺め、しばらくそこに突っ立ってから、後悔した。
〈さっき、部屋から工具箱とってこればよかった……〉
春袈の部屋と羽夜華の部屋は、同じログハウス内なので、そう遠くはない。だが、もう1回戻るのは億劫だった。
〈仕方、ないか〉
だが、工具箱がなければ屋根修理はできない。
ならば、屋根修理以外をやればいいのでは? と思うだろうが、残念ながら、春袈には屋根修理以外することがないのだ。決してヒマなのではないが、それしかやることがないのだ。
振り向いて、廊下を歩き、部屋へと戻る。
だが、その足が止まる。
ジャージのポケットに入れた携帯が震えたから。
「……」
疑問に思いながらも携帯を見る。サブディスプレイに表示されたのは……倉中蒼理。
「……もしもし?」
『春袈、さん』
「どうかした?」
電話越しだから、というわけではないだろう。蒼理の声が沈んでいる。
『……樹析が……』
小さく呟いた言葉。いや、それは名。
倉中蒼理という存在にとって、大切な名。
『樹析が、NEVの実験に……!』
緊張した声が電話から響く。
樹析、その名を聞いたとき、春袈の視界がクルリと反転したような感覚に襲われた。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/07/26 17:50 更新日:2011/07/26 17:50 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン