作品ID:824
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?14.2色目?
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もちろん、その感覚は以前にもとらえたことがあるものだった。
自分の人格が別の人格に換わって、自分の人格がウラに強制的に追いやられて、別人格がオモテに出てくる感覚。
それと同じだった。
だが、今はそれに気を取られている場合ではない。
「樹析って子が、NEVの実験に?」
『はい、早くしないと、樹析が、』
細かく切れた声。言葉。電話をかけてきた相手、倉中蒼理のもの。
「分かったから、今、そっち行くから」
混乱している蒼理をなだめるように言い、電話を切る。
一瞬。
ウォークマンとキャリーケースについて調べている桃風羽夜華の部屋に向かう足があった。
だが、羽夜華から部屋には誰も入れるな、と言われている。羽夜華も所属するチームのリーダーとして、その願いを拒否、聞き入れないわけにはいかない。
ジャージのポケットに電話をしまって、ログハウスを飛び出る。
このとき、蒼理からの電話を受け取り、ログハウスを飛び出た鋼夜春袈は、1つの疑問が心にあった。
それまで、蒼理は「樹析」という単語を言わなかった。知っている素振りさえなかった。
ならば、その「樹析」という単語は、現在の蒼理が抱える、記憶の欠陥の中にあったのだろう。
だが、今になってそれを言い始めた。それもNEVに関係しているという。
蒼理の欠陥が少しだけ修復されたのか? いや、それには原因があるはずだ。
修復されつつあるのは構わない。こちらとしても早く欠陥を修復してもらって、記憶を完全に取り戻してもらわなければ、ウォークマンに近づくための情報を得られない。だから、そのためにはこちらも協力しよう。
しかし、春袈の知らぬところで、その単語が出てきた。
きっかけは? 原因は? どうしてその単語が急に出てきた?
分からない事だらけ。
だから、多分、春袈はどこかで怒りを覚えたんだと思う。
「倉中!」
蒼理が現在居住する、真っ白なペンキが塗られたログハウスのドアを開け放ち、携帯電話を持ちながら、木製の椅子の上で震える蒼理が春袈の視界に入った。
「春袈、さん、樹析、樹析が……!」
「分かってる。大丈夫。NEVの実験でしょ?」
「はい、だから、早く……!」
「ちょっと待って。その樹析って、誰なの?」
「……アタシの義理の、妹、です……!」
蒼理が震える声でそう言ったのに対し、春袈は思わず携帯電話を取り出した。
「羽夜華!」
電話を開いて、繋げた先は羽夜華。
『なんですか?』
作業を中断されたからだろう、羽夜華の声は怒りを含んでいた。
「倉中の義理の妹で、樹析、という名があるはずだ、……倉中、その妹の苗字は?」
携帯を耳から離して、蒼理に問う。
「……藤村、です」
「名は、藤村樹析。倉中の義理の妹だ」
『探せ、と?』
「……」
春袈の無言を、羽夜華は肯定と受け取ったのか、一言だけ、
『ついで、ですよ』
そう残して電話を切った。
「大丈夫だから、倉中」
「樹析は、樹析はどうなんですか!」
「今、羽夜華が調べてる。時間かかるかもだけど……」
「時間……? いつになったら!?」
「多分、3、4日」
「そんな、そんなに待ってなきゃいけないんですか!? 樹析は、NEVに……」
「いくら、NEVだからってそこまで……わりとNEVも慎重なところがあるんだし」
春袈としては、蒼理の混乱と興奮した気持ちを落ち着かせるために言ったのだが、これが逆効果だった。
「NEVが慎重……? 春袈さん、NEVを知らないんですか? NEVは、あんな実験をなんとも思わず実行してしまうようなやつらで……! あの悪魔だって……!」
蒼理は止まらない。NEVに対しての批判を、次々と言葉にする。
「確かに以前のNEVは、慎重なところもありました! あんな実験だって行わなかったはず! だけど、4年前のあの崩壊からNEVは臆病になって、焦るようになって! だから、樹析だって……! 哉河だって……!」
さすがにその名前が出てきたことで、呆然としていた春袈も蒼理を止めた。
「ちょ、ちょっと、今、哉河って、日風、哉河……?」
「ええ、その日風哉河ですが?」
「し、知り合い……?」
「え、ええ。アタシと哉河は樹析を通じて……」
また、だ。樹析。その名前。先ほどからその名と実験という単語が出てくる。
特殊技能戦闘士の1つである情報戦士の倉中蒼理。そして蒼理の義理の妹である、NEVの実験に関わっているかもしれない藤村樹析。その樹析を通じて、蒼理と知り合った、NEVの魔王、日風哉河。
「そのNEVの実験って?」
「……4年前、フェリアンヴェスピュリア大公国での、あのレオ争奪戦。そしてそのとき暴走した紅來璃維。その紅來璃維の力を恐れたNEVが2年前から実行した実験です。実験名は、ミュージック・ヒューマン」
春袈の問いに、少しだけ落ち着いた蒼理が1つ頷いて答える。
「……ミュージック・ヒューマン?」
「音楽と記憶に長けた人間を作り出すことを目的としている、この実験は樹析や哉河を巻き込みました」
「日風哉河まで!?」
急に大声を上げた春袈にビクリと肩を震わせる蒼理。
「わ、ゴメン! いや、あの、日風哉河が……」
とりあえず落ち着いて、春袈は蒼理の正面に置かれた椅子に座る。
木製の椅子が、春袈の体重を受け止めて、ギシギシと音を鳴らす。
「あの、魔王が……」
「その哉河を巻き込んで、樹析まで……! あんな実験、放っておくわけには……!」
再び興奮し始めた蒼理をなだめ、春袈は溜息を吐く。
「とにかく、羽夜華のデータ待ち、か」
「あの」
「ん?」
蒼理が膝を抱えて、こちらを見る。その視線に、どこか疑問も含まれていた。
「あの、羽夜華さんって、そんなに凄いんですか?」
「え、なんで」
目を丸くして、春袈は、膝を下ろした蒼理に問うた。
「いえ……情報収集を任せている者に対して、信頼しすぎじゃないか、と」
「……残念ながら、私は倉中や羽夜華、あの草花姉妹みたいな頭脳派じゃない。噛み砕いて説明してもらわなければ、わからないんだ」
困ったように金色に黒のメッシュが入った髪をガシガシと掻く春袈。
「え、と……最近は書類よりデータ、です。でも書類っていうのは紙でアナログです。データっていうのは記録でデジタルです。デジタルはアナログよりも偽りやすいです。痕跡も何もかもが改ざんできてしまいます。だから、最近の情報収集は大変なんです。アタシたち情報戦士も大変です。その情報が正否をいちいち問わなきゃダメなんですから」
それは本当だろう。以前、蒼理自身が言っていた。
「そんな大変な情報収集を専門的にやる人に、そんな信頼していて大丈夫なのかな、と。デジタルな情報を偽られて、その偽った情報を正解の情報として伝えられちゃう可能性もあるわけですから、そんな信頼をおくのは……躊躇いますよ、普通は」
蒼理はゆっくりとそう言ってくれたが、春袈は分からなかった。いや、先ほど言ったように理解できなかったのではない。その言葉の意味はわかる。ただ……
「普通って?」
「え?」
今度は、蒼理がきょとんとしている。
「普通って、倉中の基準ではどんな人?」
「え、そんなの、春袈さんと変わらないと思いますけど……」
「私の基準では、人間を普通って言うんだけどな」
「あ……」
違ったのだろう。蒼理が戸惑いの表情を浮かべる。
「倉中の基準は?」
ニコニコと笑顔を浮かべて、真正面から蒼理を見る春袈。
その春袈に困ったように返答しようとした蒼理を遮ったのは、突然鳴り響いた春袈の携帯電話だった。
自分の人格が別の人格に換わって、自分の人格がウラに強制的に追いやられて、別人格がオモテに出てくる感覚。
それと同じだった。
だが、今はそれに気を取られている場合ではない。
「樹析って子が、NEVの実験に?」
『はい、早くしないと、樹析が、』
細かく切れた声。言葉。電話をかけてきた相手、倉中蒼理のもの。
「分かったから、今、そっち行くから」
混乱している蒼理をなだめるように言い、電話を切る。
一瞬。
ウォークマンとキャリーケースについて調べている桃風羽夜華の部屋に向かう足があった。
だが、羽夜華から部屋には誰も入れるな、と言われている。羽夜華も所属するチームのリーダーとして、その願いを拒否、聞き入れないわけにはいかない。
ジャージのポケットに電話をしまって、ログハウスを飛び出る。
このとき、蒼理からの電話を受け取り、ログハウスを飛び出た鋼夜春袈は、1つの疑問が心にあった。
それまで、蒼理は「樹析」という単語を言わなかった。知っている素振りさえなかった。
ならば、その「樹析」という単語は、現在の蒼理が抱える、記憶の欠陥の中にあったのだろう。
だが、今になってそれを言い始めた。それもNEVに関係しているという。
蒼理の欠陥が少しだけ修復されたのか? いや、それには原因があるはずだ。
修復されつつあるのは構わない。こちらとしても早く欠陥を修復してもらって、記憶を完全に取り戻してもらわなければ、ウォークマンに近づくための情報を得られない。だから、そのためにはこちらも協力しよう。
しかし、春袈の知らぬところで、その単語が出てきた。
きっかけは? 原因は? どうしてその単語が急に出てきた?
分からない事だらけ。
だから、多分、春袈はどこかで怒りを覚えたんだと思う。
「倉中!」
蒼理が現在居住する、真っ白なペンキが塗られたログハウスのドアを開け放ち、携帯電話を持ちながら、木製の椅子の上で震える蒼理が春袈の視界に入った。
「春袈、さん、樹析、樹析が……!」
「分かってる。大丈夫。NEVの実験でしょ?」
「はい、だから、早く……!」
「ちょっと待って。その樹析って、誰なの?」
「……アタシの義理の、妹、です……!」
蒼理が震える声でそう言ったのに対し、春袈は思わず携帯電話を取り出した。
「羽夜華!」
電話を開いて、繋げた先は羽夜華。
『なんですか?』
作業を中断されたからだろう、羽夜華の声は怒りを含んでいた。
「倉中の義理の妹で、樹析、という名があるはずだ、……倉中、その妹の苗字は?」
携帯を耳から離して、蒼理に問う。
「……藤村、です」
「名は、藤村樹析。倉中の義理の妹だ」
『探せ、と?』
「……」
春袈の無言を、羽夜華は肯定と受け取ったのか、一言だけ、
『ついで、ですよ』
そう残して電話を切った。
「大丈夫だから、倉中」
「樹析は、樹析はどうなんですか!」
「今、羽夜華が調べてる。時間かかるかもだけど……」
「時間……? いつになったら!?」
「多分、3、4日」
「そんな、そんなに待ってなきゃいけないんですか!? 樹析は、NEVに……」
「いくら、NEVだからってそこまで……わりとNEVも慎重なところがあるんだし」
春袈としては、蒼理の混乱と興奮した気持ちを落ち着かせるために言ったのだが、これが逆効果だった。
「NEVが慎重……? 春袈さん、NEVを知らないんですか? NEVは、あんな実験をなんとも思わず実行してしまうようなやつらで……! あの悪魔だって……!」
蒼理は止まらない。NEVに対しての批判を、次々と言葉にする。
「確かに以前のNEVは、慎重なところもありました! あんな実験だって行わなかったはず! だけど、4年前のあの崩壊からNEVは臆病になって、焦るようになって! だから、樹析だって……! 哉河だって……!」
さすがにその名前が出てきたことで、呆然としていた春袈も蒼理を止めた。
「ちょ、ちょっと、今、哉河って、日風、哉河……?」
「ええ、その日風哉河ですが?」
「し、知り合い……?」
「え、ええ。アタシと哉河は樹析を通じて……」
また、だ。樹析。その名前。先ほどからその名と実験という単語が出てくる。
特殊技能戦闘士の1つである情報戦士の倉中蒼理。そして蒼理の義理の妹である、NEVの実験に関わっているかもしれない藤村樹析。その樹析を通じて、蒼理と知り合った、NEVの魔王、日風哉河。
「そのNEVの実験って?」
「……4年前、フェリアンヴェスピュリア大公国での、あのレオ争奪戦。そしてそのとき暴走した紅來璃維。その紅來璃維の力を恐れたNEVが2年前から実行した実験です。実験名は、ミュージック・ヒューマン」
春袈の問いに、少しだけ落ち着いた蒼理が1つ頷いて答える。
「……ミュージック・ヒューマン?」
「音楽と記憶に長けた人間を作り出すことを目的としている、この実験は樹析や哉河を巻き込みました」
「日風哉河まで!?」
急に大声を上げた春袈にビクリと肩を震わせる蒼理。
「わ、ゴメン! いや、あの、日風哉河が……」
とりあえず落ち着いて、春袈は蒼理の正面に置かれた椅子に座る。
木製の椅子が、春袈の体重を受け止めて、ギシギシと音を鳴らす。
「あの、魔王が……」
「その哉河を巻き込んで、樹析まで……! あんな実験、放っておくわけには……!」
再び興奮し始めた蒼理をなだめ、春袈は溜息を吐く。
「とにかく、羽夜華のデータ待ち、か」
「あの」
「ん?」
蒼理が膝を抱えて、こちらを見る。その視線に、どこか疑問も含まれていた。
「あの、羽夜華さんって、そんなに凄いんですか?」
「え、なんで」
目を丸くして、春袈は、膝を下ろした蒼理に問うた。
「いえ……情報収集を任せている者に対して、信頼しすぎじゃないか、と」
「……残念ながら、私は倉中や羽夜華、あの草花姉妹みたいな頭脳派じゃない。噛み砕いて説明してもらわなければ、わからないんだ」
困ったように金色に黒のメッシュが入った髪をガシガシと掻く春袈。
「え、と……最近は書類よりデータ、です。でも書類っていうのは紙でアナログです。データっていうのは記録でデジタルです。デジタルはアナログよりも偽りやすいです。痕跡も何もかもが改ざんできてしまいます。だから、最近の情報収集は大変なんです。アタシたち情報戦士も大変です。その情報が正否をいちいち問わなきゃダメなんですから」
それは本当だろう。以前、蒼理自身が言っていた。
「そんな大変な情報収集を専門的にやる人に、そんな信頼していて大丈夫なのかな、と。デジタルな情報を偽られて、その偽った情報を正解の情報として伝えられちゃう可能性もあるわけですから、そんな信頼をおくのは……躊躇いますよ、普通は」
蒼理はゆっくりとそう言ってくれたが、春袈は分からなかった。いや、先ほど言ったように理解できなかったのではない。その言葉の意味はわかる。ただ……
「普通って?」
「え?」
今度は、蒼理がきょとんとしている。
「普通って、倉中の基準ではどんな人?」
「え、そんなの、春袈さんと変わらないと思いますけど……」
「私の基準では、人間を普通って言うんだけどな」
「あ……」
違ったのだろう。蒼理が戸惑いの表情を浮かべる。
「倉中の基準は?」
ニコニコと笑顔を浮かべて、真正面から蒼理を見る春袈。
その春袈に困ったように返答しようとした蒼理を遮ったのは、突然鳴り響いた春袈の携帯電話だった。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/07/27 14:50 更新日:2011/07/27 14:50 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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