作品ID:840
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?15.2色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
自らが使用するヴォイス・レコーダーは、母が使用していたものだった。
自分は情報戦士ではないが、言い方によれば、情報戦士の派生的存在だろうか。
自分が産まれたとき、まだ情報戦士は今のように、NEVの手によって生み出されるような存在ではなく、その数少なき全員が産まれながらにしての、いわばオリジナルだった。
だから、数が少なく、脅威として怖れていた情報戦士への対処法として、自分が使われた。
元々、桃風羽夜華という人物は存在していなかった。
今、此処に居る桃風羽夜華は、鋼夜春袈の手を借りて存在しているにすぎない。
その存在を証明するものは何もなく、その存在の手助けをしている鋼夜春袈とて、桃風羽夜華の存在を証明させるには足らない。
情報戦士の対処法として生み出された桃風羽夜華に、これまで居場所はなく、それまで「桃風羽夜華」という名すらもなかった。
本当に何も無かった桃風羽夜華に、居場所と名を、そしてそのほかにも与えてくれたのは、鋼夜春袈であり、その名を護るのは、桃風羽夜華にとって当たり前とハッキリ言えることなのだ。
地面から吹き上げた衝撃波に、藤村樹析の体が舞い上がる。
クルリと空中で体勢を変えて、黄色から七色へと変わったヘッドフォンを耳に装着した樹析から距離を取りながら、桃風羽夜華はヴォイス・レコーダーを操作する。
「声は衝撃波になり、必ず当たります。……対情報戦士として生み出された私と、私が対処すべき情報戦士の貴女。……互いに害があることは明らかですね」
「……まるで情報戦士」
「よく言われます。でも、当然。私は対情報戦士用に産まれてきたんですから」
元々、桃風羽夜華は存在していなかった。
産まれると同時に与えられるべきもの。名前。それが羽夜華には与えられなかった。
結局は、対情報戦士用に産まれてきただけの存在――。
自らに名と呼べるものがないと知った、当時6歳の羽夜華は、なんとなくそのことを察していた。
「私は、無限大に無制限に力を使用するアナタ達、情報戦士に、普通の人間では追いつけない能力に追いつけるように産みだされました。だから、その力も情報戦士に似ているかもしれませんね」
ヴォイス・レコーダーに録音された樹析の声は、再生され、狙い違わず衝撃波となり、樹析を襲う。
「……そう。でも」
空中に居たまま、さらに衝撃波によって攻撃されたにもかかわらず、樹析はまたも体勢を整え、納得した顔で、ヘッドフォンをかけなおす。
「それなら、コピーしやすい」
それまで七色に不規則に変化していたヘッドフォンが色を決めた。
色は――白に近い灰色。
「貴女が声を衝撃波とするなら、ワタシは、それをコピーするだけです」
ヘッドフォンに収納されていたヘッドマイクが、樹析の口元に固定される。
だが、普通のヘッドマイクではない。枝分かれしている。枝分かれした先には……小型スピーカーらしきもの。
「ワタシの声が貴女にとって、衝撃波となるならば、ワタシにとって貴女の声は、衝撃波になります」
「……どういうこと?」
「こういう、ことです」
スピーカーがノイズ音を鳴らす。
その音で何かに気づいた羽夜華は、ヴォイス・レコーダーの樹析の声を再生、衝撃波に変える。
だが、それよりも早く、スピーカーから不可視の透明な衝撃波が放たれる。
空中でぶつかりあった衝撃波同士は、相殺しきれずに羽夜華の方に迫る。
それを最小限の動きで避け、羽夜華はヴォイス・レコーダーを操作しつつ、今起こったことの推測を立てていく。
〈コピー? 私の能力を? だけど、衝撃波は同じ……不可視な点もそうだし……〉
「貴女の思考能力は認めます。それだけに……」
スピーカーがまたもノイズ音を鳴らし、それに気づいた羽夜華は、それでも動こうとはしない。ヴォイス・レコーダーを操作することもしない。
樹析がその行動に首を傾げないわけがないが、衝撃波を放つ。
「貴女に思考する時間を与える事は、できません」
スピーカーが震え、羽夜華の元に不可視の衝撃波が襲いかかる。
先ほどは羽夜華が放った衝撃波で威力を削いだが、今回はそれがない。そのままの衝撃波がそのままの威力を保って襲いかかった。
地面を削ぎ、クレーターを作り出す。穿たれた穴から砂埃が舞う。
視界が晴れた先に、確かに倒れている羽夜華が居る。だが、その姿に樹析は安堵の溜息を吐くのではなく、それどころか、顔を引きつらせた。
「貴女……」
低い声で、樹析は倒れているはずの羽夜華を睨みつける。
ヘッドフォンが白に近い灰色から、黄色を選択した。選択したと同時に、スピーカーが何もかもを飲み込みそうなほどの数の雷を羽夜華に落とす。
「何で、ワタシのコピーが……!」
引きつった表情のまま、止む事のない雷を落とし続ける樹析の攻撃が、一瞬止む。
「……確かに貴女のコピーはビックリした。でも、それだけに驚きから立ち上がれば後は、その対処法を考えるだけでよかった」
クレーターからいつの間に、空中まで飛び上がったのか。
羽夜華が樹析の眼前に迫る。そのゼロ距離、ヴォイス・レコーダーを構え、衝撃波を放つ。
「貴女のヘッドフォンはヘッドマイクを出した。恐らく、貴女がコピーした私の能力は、まだ不完全なはず。だから、自分で補うしかなかった」
息切れをおこしている羽夜華。ところどころに焦げた後も見える。雷を抑えきれなかったことからできたもの。
それでも防いでいる時間にも、羽夜華は思考を止めなかった。
――藤村樹析が放つ衝撃波は不完全。
あのスピーカーが、羽夜華の声を吸収して、それを衝撃波として放つ、それまでは分かる。
だがその一連の動きには、ヘッドマイクは必要ない。
……羽夜華はそう考えたところで、自らの能力と樹析がコピーしたであろう能力を重ね合わせてみた。
そしてそれを実行した。
「最初の衝撃波、そして次々に襲いかかった雷を防いだのは、実は私の声じゃなくて、貴女の声」
樹析は不完全な能力を補うために、自分の声を使用しているのではないか?
ならば、その声が含まれたかもしれない攻撃に表れるはず。
「貴女は自分の声を衝撃波に変えることができる。でも私にはできない」
ただ単純に衝撃波を繰り出すわけじゃない。
「だけど、私は攻撃に含まれた声や音を吸収して力にすることができる」
樹析の声が含まれているであろう衝撃波と雷にヴォイス・レコーダーを向けて、録音ボタンを押してみた。
そして、瞬時に再生に切り替える。……それまで超至近距離にあった雷や衝撃波が突如現れた何かに阻まれるように屈折した。
「貴女が声を発した後、すぐにスピーカーが震えたのはそういうことだったんだって気づいた。……もちろん、あんな強力な攻撃を防ぐには、貴女の声だけじゃ間に合わなかったから私の声も含めたけど……」
「……思考する時間は与えないって言ったのにね」
「でも貴女は与えてしまった。……貴女は私の思考能力を見誤っていた。だから、すぐにこういうことになるの」
衝撃波によって吹っ飛ばされた樹析の体が、地面にぶつかりバウンドする。
「でも、私の能力をコピーしてさらに強力にするトコ、あそこだけは考えが及ばなかった」
ヴォイス・レコーダーを地面に倒れ伏したままの樹析に向ける。その親指はすでに再生ボタンの上に置かれている。
「……さっき、空中まで上がってきたけど……どうやって?」
「単純。至近距離に近づけたレコーダーに、私の大声を録音して、私の足元に向けて再生したの。当然地面からは衝撃波が吹き上がるから、それを踏み台にして空中へ――ってこと」
「……ほんっと、単純……」
呆れたような樹析を睨みつけて、羽夜華は問いを重ねる。
「倉中蒼理を狙ったの?」
「……その前にあの邪魔者を追い払おうと思った。多分まだ、意識飛ばしたままだと思うけど……」
「リーダーを攻撃した理由はわかった。でも倉中さんを狙ったのはホントでしょう?」
「……ま、そうだけど……」
なぜか言葉を紡ぐのを止めた樹析に無意識のうちに溜息を吐いた羽夜華は、ヴォイス・レコーダーを懐に仕舞って、もう1回溜息。
「ま、いいけどさ。倉中さんを強襲したのは、謝ったほうがいいと思うけどね。……あとリーダーにもね」
「なんで」
「なんでって、感電させたんでしょ?」
「言ったっけ、感電させたって」
「感電させたんだ」
半眼で睨む羽夜華に、慌てて右手で口を押える樹析に今日何度目か分からない溜息を吐いて、少しだけ苛立ちを含んだ表情と声になる。
「……情報戦士ならさ、もうちょっと頭良くないと」
「情報戦士全員が頭良いと思ってるわけ?」
「何、その言い方」
「むしろ全員が頭悪いってコト」
「……え」
頬をピクピクと引きつらせ、羽夜華は低い声で問い直す。
「あのさ……なんで情報戦士は頭悪いって分かるわけ?」
「ワタシの義理の姉……蒼理もそうだけど、ワタシは頭悪いの」
「だって、情報戦士って自分がどんな能力を保持しているかわかってないと」
「だって、情報の引き出しあるんだもん。別に人が覚えてなくても、引き出しが覚えてる。記憶力がないイコール頭悪いってコト」
「……そうなんだ」
引きつらせた表情のまま、樹析に背を向ける。
「……あのさ、今まで戦っていた相手に背を向けるとか、バカじゃない?」
「うわーバカにバカとか言われたくないー」
「バカじゃないし。頭悪いイコールバカじゃないし」
「なんかその言い方ムカつくな」
ヴォイス・レコーダーを取り出し、再生ボタンに親指を置いて、樹析に向ける羽夜華。
さすがにもう衝撃波は喰らいたくないのか、溜息を吐いて、よろよろと立ち上がる樹析は、羽夜華をまっすぐに見て、口を開く。
「お願いだからそのヴォイス・レコーダー向けないでよ。……アイツ思い出す」
「アイツ?」
「……知らないの?」
目を見開いて、問いを投げかける樹析に首をかしげる。
「蒼理、居るんだよね? ……ミュージック・ヒューマンのことを知ってると思ったんだけど」
顎に手を添えて、考え出す樹析を見て、羽夜華も思考する。
〈ミュージック・ヒューマン?〉
「……ミュージック・ヒューマンのコト知ってない?」
思考を停止して、樹析は羽夜華に問うが、羽夜華は羽夜華で思考中。
――桃風羽夜華という少女の欠点として、思考するとその思考が落ち着くまで、一切の音が聞こえなくなる、というところがある。よく言えば、集中力がスゴイ、ということだが、この場合は短所だった。
羽夜華は気づかなかったのだが、樹析にすれば、無視されたと勘違いしても構わない状況。
実際、樹析は、無視されたと勘違いし、ムッとした表情で羽夜華を睨む。
「ちょっと、無視するとかありえない――!?」
それまで無視を決め込んでいた羽夜華が、いきなり樹析の肩を掴む。
「ミュージック・ヒューマンが関係してるの?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、ミュージック・ヒューマンに関するデータ……多分、まだあると思うんだけどな……あさるか」
ぶつぶつと呟きながら、羽夜華は歩いて行く。その視線は下に向けられたままだが、足は羽夜華が居住するログハウスへと向けられている。
溜息を吐いて、樹析はヘッドフォンの中にヘッドマイクとスピーカーを収納し、首にかけなお――そうとした。
だが、強張った表情で空を見上げると、すぐに羽夜華へと視線を変える。
「……ちょっと……」
耳に装着したヘッドフォン。収納したばかりのヘッドマイクとスピーカーがまた固定の場所へと現れる。
「最悪……ワタシ、まだ回復しきってないのに……っ!!」
一瞬で足に力を入れる。力を込めた脚力で、地面を蹴り、羽夜華に迫る。
普通の羽夜華なら気づいた。だが、思考中の羽夜華は気づかなかった。
だから、反応が遅れた。
横から放たれた衝撃波。何の行動もおこしていなかった羽夜華の体を吹っ飛ばす。
「なんで、アイツ……っ!!」
七色に変わるヘッドフォン。強張った表情のまま、空中を見たまま、苦々しく呟く。
「アイツが居るんだよっ、楓つつじ!!」
自分は情報戦士ではないが、言い方によれば、情報戦士の派生的存在だろうか。
自分が産まれたとき、まだ情報戦士は今のように、NEVの手によって生み出されるような存在ではなく、その数少なき全員が産まれながらにしての、いわばオリジナルだった。
だから、数が少なく、脅威として怖れていた情報戦士への対処法として、自分が使われた。
元々、桃風羽夜華という人物は存在していなかった。
今、此処に居る桃風羽夜華は、鋼夜春袈の手を借りて存在しているにすぎない。
その存在を証明するものは何もなく、その存在の手助けをしている鋼夜春袈とて、桃風羽夜華の存在を証明させるには足らない。
情報戦士の対処法として生み出された桃風羽夜華に、これまで居場所はなく、それまで「桃風羽夜華」という名すらもなかった。
本当に何も無かった桃風羽夜華に、居場所と名を、そしてそのほかにも与えてくれたのは、鋼夜春袈であり、その名を護るのは、桃風羽夜華にとって当たり前とハッキリ言えることなのだ。
地面から吹き上げた衝撃波に、藤村樹析の体が舞い上がる。
クルリと空中で体勢を変えて、黄色から七色へと変わったヘッドフォンを耳に装着した樹析から距離を取りながら、桃風羽夜華はヴォイス・レコーダーを操作する。
「声は衝撃波になり、必ず当たります。……対情報戦士として生み出された私と、私が対処すべき情報戦士の貴女。……互いに害があることは明らかですね」
「……まるで情報戦士」
「よく言われます。でも、当然。私は対情報戦士用に産まれてきたんですから」
元々、桃風羽夜華は存在していなかった。
産まれると同時に与えられるべきもの。名前。それが羽夜華には与えられなかった。
結局は、対情報戦士用に産まれてきただけの存在――。
自らに名と呼べるものがないと知った、当時6歳の羽夜華は、なんとなくそのことを察していた。
「私は、無限大に無制限に力を使用するアナタ達、情報戦士に、普通の人間では追いつけない能力に追いつけるように産みだされました。だから、その力も情報戦士に似ているかもしれませんね」
ヴォイス・レコーダーに録音された樹析の声は、再生され、狙い違わず衝撃波となり、樹析を襲う。
「……そう。でも」
空中に居たまま、さらに衝撃波によって攻撃されたにもかかわらず、樹析はまたも体勢を整え、納得した顔で、ヘッドフォンをかけなおす。
「それなら、コピーしやすい」
それまで七色に不規則に変化していたヘッドフォンが色を決めた。
色は――白に近い灰色。
「貴女が声を衝撃波とするなら、ワタシは、それをコピーするだけです」
ヘッドフォンに収納されていたヘッドマイクが、樹析の口元に固定される。
だが、普通のヘッドマイクではない。枝分かれしている。枝分かれした先には……小型スピーカーらしきもの。
「ワタシの声が貴女にとって、衝撃波となるならば、ワタシにとって貴女の声は、衝撃波になります」
「……どういうこと?」
「こういう、ことです」
スピーカーがノイズ音を鳴らす。
その音で何かに気づいた羽夜華は、ヴォイス・レコーダーの樹析の声を再生、衝撃波に変える。
だが、それよりも早く、スピーカーから不可視の透明な衝撃波が放たれる。
空中でぶつかりあった衝撃波同士は、相殺しきれずに羽夜華の方に迫る。
それを最小限の動きで避け、羽夜華はヴォイス・レコーダーを操作しつつ、今起こったことの推測を立てていく。
〈コピー? 私の能力を? だけど、衝撃波は同じ……不可視な点もそうだし……〉
「貴女の思考能力は認めます。それだけに……」
スピーカーがまたもノイズ音を鳴らし、それに気づいた羽夜華は、それでも動こうとはしない。ヴォイス・レコーダーを操作することもしない。
樹析がその行動に首を傾げないわけがないが、衝撃波を放つ。
「貴女に思考する時間を与える事は、できません」
スピーカーが震え、羽夜華の元に不可視の衝撃波が襲いかかる。
先ほどは羽夜華が放った衝撃波で威力を削いだが、今回はそれがない。そのままの衝撃波がそのままの威力を保って襲いかかった。
地面を削ぎ、クレーターを作り出す。穿たれた穴から砂埃が舞う。
視界が晴れた先に、確かに倒れている羽夜華が居る。だが、その姿に樹析は安堵の溜息を吐くのではなく、それどころか、顔を引きつらせた。
「貴女……」
低い声で、樹析は倒れているはずの羽夜華を睨みつける。
ヘッドフォンが白に近い灰色から、黄色を選択した。選択したと同時に、スピーカーが何もかもを飲み込みそうなほどの数の雷を羽夜華に落とす。
「何で、ワタシのコピーが……!」
引きつった表情のまま、止む事のない雷を落とし続ける樹析の攻撃が、一瞬止む。
「……確かに貴女のコピーはビックリした。でも、それだけに驚きから立ち上がれば後は、その対処法を考えるだけでよかった」
クレーターからいつの間に、空中まで飛び上がったのか。
羽夜華が樹析の眼前に迫る。そのゼロ距離、ヴォイス・レコーダーを構え、衝撃波を放つ。
「貴女のヘッドフォンはヘッドマイクを出した。恐らく、貴女がコピーした私の能力は、まだ不完全なはず。だから、自分で補うしかなかった」
息切れをおこしている羽夜華。ところどころに焦げた後も見える。雷を抑えきれなかったことからできたもの。
それでも防いでいる時間にも、羽夜華は思考を止めなかった。
――藤村樹析が放つ衝撃波は不完全。
あのスピーカーが、羽夜華の声を吸収して、それを衝撃波として放つ、それまでは分かる。
だがその一連の動きには、ヘッドマイクは必要ない。
……羽夜華はそう考えたところで、自らの能力と樹析がコピーしたであろう能力を重ね合わせてみた。
そしてそれを実行した。
「最初の衝撃波、そして次々に襲いかかった雷を防いだのは、実は私の声じゃなくて、貴女の声」
樹析は不完全な能力を補うために、自分の声を使用しているのではないか?
ならば、その声が含まれたかもしれない攻撃に表れるはず。
「貴女は自分の声を衝撃波に変えることができる。でも私にはできない」
ただ単純に衝撃波を繰り出すわけじゃない。
「だけど、私は攻撃に含まれた声や音を吸収して力にすることができる」
樹析の声が含まれているであろう衝撃波と雷にヴォイス・レコーダーを向けて、録音ボタンを押してみた。
そして、瞬時に再生に切り替える。……それまで超至近距離にあった雷や衝撃波が突如現れた何かに阻まれるように屈折した。
「貴女が声を発した後、すぐにスピーカーが震えたのはそういうことだったんだって気づいた。……もちろん、あんな強力な攻撃を防ぐには、貴女の声だけじゃ間に合わなかったから私の声も含めたけど……」
「……思考する時間は与えないって言ったのにね」
「でも貴女は与えてしまった。……貴女は私の思考能力を見誤っていた。だから、すぐにこういうことになるの」
衝撃波によって吹っ飛ばされた樹析の体が、地面にぶつかりバウンドする。
「でも、私の能力をコピーしてさらに強力にするトコ、あそこだけは考えが及ばなかった」
ヴォイス・レコーダーを地面に倒れ伏したままの樹析に向ける。その親指はすでに再生ボタンの上に置かれている。
「……さっき、空中まで上がってきたけど……どうやって?」
「単純。至近距離に近づけたレコーダーに、私の大声を録音して、私の足元に向けて再生したの。当然地面からは衝撃波が吹き上がるから、それを踏み台にして空中へ――ってこと」
「……ほんっと、単純……」
呆れたような樹析を睨みつけて、羽夜華は問いを重ねる。
「倉中蒼理を狙ったの?」
「……その前にあの邪魔者を追い払おうと思った。多分まだ、意識飛ばしたままだと思うけど……」
「リーダーを攻撃した理由はわかった。でも倉中さんを狙ったのはホントでしょう?」
「……ま、そうだけど……」
なぜか言葉を紡ぐのを止めた樹析に無意識のうちに溜息を吐いた羽夜華は、ヴォイス・レコーダーを懐に仕舞って、もう1回溜息。
「ま、いいけどさ。倉中さんを強襲したのは、謝ったほうがいいと思うけどね。……あとリーダーにもね」
「なんで」
「なんでって、感電させたんでしょ?」
「言ったっけ、感電させたって」
「感電させたんだ」
半眼で睨む羽夜華に、慌てて右手で口を押える樹析に今日何度目か分からない溜息を吐いて、少しだけ苛立ちを含んだ表情と声になる。
「……情報戦士ならさ、もうちょっと頭良くないと」
「情報戦士全員が頭良いと思ってるわけ?」
「何、その言い方」
「むしろ全員が頭悪いってコト」
「……え」
頬をピクピクと引きつらせ、羽夜華は低い声で問い直す。
「あのさ……なんで情報戦士は頭悪いって分かるわけ?」
「ワタシの義理の姉……蒼理もそうだけど、ワタシは頭悪いの」
「だって、情報戦士って自分がどんな能力を保持しているかわかってないと」
「だって、情報の引き出しあるんだもん。別に人が覚えてなくても、引き出しが覚えてる。記憶力がないイコール頭悪いってコト」
「……そうなんだ」
引きつらせた表情のまま、樹析に背を向ける。
「……あのさ、今まで戦っていた相手に背を向けるとか、バカじゃない?」
「うわーバカにバカとか言われたくないー」
「バカじゃないし。頭悪いイコールバカじゃないし」
「なんかその言い方ムカつくな」
ヴォイス・レコーダーを取り出し、再生ボタンに親指を置いて、樹析に向ける羽夜華。
さすがにもう衝撃波は喰らいたくないのか、溜息を吐いて、よろよろと立ち上がる樹析は、羽夜華をまっすぐに見て、口を開く。
「お願いだからそのヴォイス・レコーダー向けないでよ。……アイツ思い出す」
「アイツ?」
「……知らないの?」
目を見開いて、問いを投げかける樹析に首をかしげる。
「蒼理、居るんだよね? ……ミュージック・ヒューマンのことを知ってると思ったんだけど」
顎に手を添えて、考え出す樹析を見て、羽夜華も思考する。
〈ミュージック・ヒューマン?〉
「……ミュージック・ヒューマンのコト知ってない?」
思考を停止して、樹析は羽夜華に問うが、羽夜華は羽夜華で思考中。
――桃風羽夜華という少女の欠点として、思考するとその思考が落ち着くまで、一切の音が聞こえなくなる、というところがある。よく言えば、集中力がスゴイ、ということだが、この場合は短所だった。
羽夜華は気づかなかったのだが、樹析にすれば、無視されたと勘違いしても構わない状況。
実際、樹析は、無視されたと勘違いし、ムッとした表情で羽夜華を睨む。
「ちょっと、無視するとかありえない――!?」
それまで無視を決め込んでいた羽夜華が、いきなり樹析の肩を掴む。
「ミュージック・ヒューマンが関係してるの?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、ミュージック・ヒューマンに関するデータ……多分、まだあると思うんだけどな……あさるか」
ぶつぶつと呟きながら、羽夜華は歩いて行く。その視線は下に向けられたままだが、足は羽夜華が居住するログハウスへと向けられている。
溜息を吐いて、樹析はヘッドフォンの中にヘッドマイクとスピーカーを収納し、首にかけなお――そうとした。
だが、強張った表情で空を見上げると、すぐに羽夜華へと視線を変える。
「……ちょっと……」
耳に装着したヘッドフォン。収納したばかりのヘッドマイクとスピーカーがまた固定の場所へと現れる。
「最悪……ワタシ、まだ回復しきってないのに……っ!!」
一瞬で足に力を入れる。力を込めた脚力で、地面を蹴り、羽夜華に迫る。
普通の羽夜華なら気づいた。だが、思考中の羽夜華は気づかなかった。
だから、反応が遅れた。
横から放たれた衝撃波。何の行動もおこしていなかった羽夜華の体を吹っ飛ばす。
「なんで、アイツ……っ!!」
七色に変わるヘッドフォン。強張った表情のまま、空中を見たまま、苦々しく呟く。
「アイツが居るんだよっ、楓つつじ!!」
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/08/08 07:57 更新日:2011/08/08 07:57 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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