作品ID:843
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White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?15.5色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
ぼんやりとした視界に、その光り輝く1枚の書類は、目を瞑るほど眩しいものだったように記憶している。
ぐらついていた体が地面と接触し、そのドサリという音だけがやけにゆっくりと聞こえた。
仰向けになり、視界に広がったのは既に夕暮れになった空。
ゆっくりと瞳を横に向けると、その書類が自分を襲ったはずの鋭利な氷塊を飲み込んでいたところだった。
カツ、という小さなヒール音。初めて聞く音ではないが、それでもこの人が鳴らした音だと思えば、初めてのようにも思える。
何もかも、タイミングが悪すぎる。
ただ1つ。
この人が、今、真紅に染まったキャリーケースを足元に置いて、1点を睨みつける、その人が記憶を取り戻したことだけは、良かったことだと思う。
記憶の欠陥にあった自分……倉中蒼理が記憶を取り戻した理由は、あの爆風でログハウスごと吹っ飛ばされたこと。
その気配に懐かしさを覚えながらも、蒼理はその1点だけを睨み続けた。
七色に光るキャリーケース。大事な、でもその存在を忘れていた。
大事なキャリーケースを足元に置いて、1点だけを睨み続ける。
カツカツと履いているブーツのヒール音を響かせながら、蒼理は、その姿を見て少しだけ驚いた。
「……樹析……」
自分と離れ離れになり、NEVに拉致された義理の妹。
小さいときとは比較できないほどに変わった妹は、地面に倒れ伏している。
その妹に猛スピードで迫る鋭利な氷塊。
妹には避けることすらも不可能なのだろう。だから、代わりに……。
自分の意思で開く七色のキャリーケース。完全に開いたところでキャリーケースは、七色から真紅へと変わる。
ただその赤は、樹析がヘッドフォンのスピーカーから放った赤い円盤のような血のように赤黒い色ではない。
どこか……温かみがある。人間としての温かみがある。
真紅へと変わったキャリーケースが、何枚何十枚何百枚の書類を出す。書類はキャリーケースのように真紅。
その真紅の書類が、蒼理の周りを取り囲む。
真紅の書類、数え切れないほどのそれの中、1枚の書類が蒼理の目の前に浮かぶ。
目の前に浮かぶ真紅の書類が、1回の瞬きをする間に、樹析と氷塊の間に割り込む。
蒼理を取り囲む真紅の書類が視界に入る中、割り込んだ書類だけが、眩く光る。
とても温かみのある色だと思った。
ぼんやりと霞みがかった視界で、眩く光る真紅の書類。
同じ赤でも、自分の赤とは違いすぎる。
まるで、自分とその人は結局、全てが違ったのか。
そう言われてるような気がして。
でもそれも仕方ないと思った。
結局、自分とその人は何もかも違う。
霞みがかった視界。眩いほどに輝く真紅の書類。
ほとんど何も見えなくなった視界で、これだけは見えた。
真紅の書類が氷塊を飲み込んだところだけは、しっかりと確認できた。
「楓、つつじ?」
妹に迫っていた氷塊を書類で消し、首をかしげる。キャリーケースはすでに七色に戻っている。
自分のまわりを囲んでいた真紅の書類全てもキャリーケースにしまわれ、視界に映るのは、夕暮れに染まった空と、地面に伏せる妹、それから正面に立つその存在――楓つつじのみ。
「……」
「無言は、正解かな、間違いかな?」
「……」
「……楓つつじだと判断するね。どうして樹析を、アタシの妹を攻撃したわけ?」
「……」
「……これ以上黙られると、どんな手段を用いてでも、その口、開かせるけど」
苛々した声で蒼理は、キャリーケースに触れる。
「……藤村樹析がこちらの妨害をしてきた。だから攻撃した」
初めて。
楓つつじが口を開いた。
「へー。それで攻撃したの。……狙いは草花姉妹ちゃん?」
「草花姉妹は、レオを召喚するために居る。……かつて起きたあの事件のイメージを塗りかえるために」
苦々しくそう言った楓つつじ。それに蒼理は嘲笑で返した。
「ハッ。あの事件でレオへのイメージは凝り固まってる。そう簡単に塗りかえれると思ってんの? アタシは無理だと思うなー」
「無理? 本当に?」
「どうするわけ? アタシは無理だと思うんだけどな」
「……草花姉妹がレオを召喚すれば、あの事件は起こらなかった。草花姉妹さえ居れば、本当の意味でのレオ召喚ができ――っ!」
その言葉を遮るように、蒼理側から眩い緑色の光りが射出。
「ぐだぐだ言わないでよ。ちゃっちゃっと言ってくんない? アタシ、長々したの大っ嫌い」
ニコリと微笑んだ蒼理は、また書類に囲まれている。だが先ほどは真紅だったのに対し、今回は深緑の色をしている。
「アンタは何とも思わないの……!? あの朱坂さんだって、レオ召喚は大切だって!」
「今のアンタに朱坂さんを理解してあげること……まあ、人間が人間を理解しようなんて不可能だけどさ。できないよ。アンタが朱坂さんを理解するなんて」
「大事だって言ってた妹を裏切った上に、NEVを襲撃したアンタに言われたくない!」
「へー。でもね、アタシだってアンタみたいなヤツ大嫌いなの。アンタみたいにぐだぐだ過去引き摺ってるようなヤツ嫌い」
ハッキリと言い放った蒼理の表情には嘲笑が浮かぶ。だが、本当は、キレている。
それに楓つつじが気づいたとき、蒼理は既に先ほどの緑色の光りを射出していた。
樹析。
懐かしい声が聞こえる。
樹析。
つい最近まで恨んでいた人。大事な……義理の姉だとしても、本当の家族のように親しんでくれた人。
樹析。
なのに今は不思議と恨みなんてなくなってる。やっぱり大切だから。
樹析。
大丈夫。以前とはお互い違ったトコ、いっぱいあるけど、いつかまた――。
目が覚めると、視界いっぱいに人の顔が映った。
それに引きながら、自分は横たわっているのだと気づく。
「ったく。体力ないなら、ないで教えてくれたっていいのに」
額に手を当てて、はぁ、と溜息をつく長い黒髪の少女……名を桃風羽夜華と言ったか。
「仕方ない。そんなの気づかなかったんでしょ?」
その羽夜華に、金色に黒のメッシュを入れた女性、鋼夜春袈が苦笑い気味に問う。
「気づけませんって。そんな感じしなかったんですから」
「それなら仕方ないって」
ポンポンと羽夜華の頭を規則的に叩く春袈。
その光景にまだ覚醒しきってない意識で、視界で、確認する。
「あの、此処って?」
目だけを動かして、春袈に問う。
確か、あの人が使っていたログハウスは、自分が戦闘時に吹っ飛ばしたような……?
「此処は、私と羽夜華が使ってるログハウス。貴女があのコのログハウスを吹っ飛ばしたから、此処に運んだの。……はぁ。そんなに距離ないとはいえ、わざわざ此処に運んでくるのは疲れた……」
わざとらしくそう言う春袈に苦笑いしながら頭を下げる。
そうなると。
「あの、倉中蒼理さんっ」
「樹析?」
今度は首を動かす。その声の方向に視線を注ぐ。
相変らずその金髪が綺麗だと思う。自分の髪とは違って、自然にできた色だし、自分とは逆な色。小さいときは憧れてた。いや、今も憧れてるけど。
「ちょっと、樹析、あまり動いちゃダメだってば」
その瞳が心配に揺れる。
「……蒼理?」
「? どうしたの、樹析」
「……」
蒼理、だ。自分が憧れている、今もその憧れの念は消えない、大切な、自分の義理の姉。
だが、その事を受け入れると同時に、口が開かない。言葉が出てこない。いや、言葉は出てくる。でも、それを声にできない。
「? ちょ、大丈夫? 樹析、まだ具合悪いんじゃないの?」
その心配そうな声にも答える事ができない。
でも答えなきゃ。答えないと、あの日みたいになっちゃいそうで怖い。でも声が出てこない。
どうしようか、と頭を抱えていると、蒼理が居る方向の逆で。
「……羽夜華、この子がぶっ飛ばしたログハウスと貴女が削った地面、修復してないよね?」
「してませんけど、私が削ったって、私は削って、いや削ったことになるの? え、あれって削ったになるの?」
「で、修復したの? してないの?」
「してませんよ」
「じゃ、修復しよう。今すぐしよう」
「いやでも」
「早くしないと、倉中が住むログハウスないじゃん」
「え、全部埋まってるんですか?」
「全部埋まってる。もちろん、空き部屋はあるかもしれないけど、知らない人ばっかのとこに入れられるのは誰だっていやだって」
「ウチは?」
「???! いいから早くするっ!!」
グイグイグイグイグイグイ。
我慢できなくなったように春袈が羽夜華の肩を押して、部屋を出て行く。
急なことに反応できない。
「春袈さん、気、遣ってくれたんだね」
クスクスと笑い、そう言う蒼理に気づく。
「……樹析。あの日、ごめんね」
自分に近づいてくる蒼理に、少しだけ引いてしまう。
「引いてしまわれるのは構わない。でも少しだけ話をさせて」
「……」
何を言われるんだろう。怖くなる。
拒否されるのかな。構わない。そうなっても、そうなるしかなかったんだって諦めがつく。
「アタシはあの日、あの時、たった1人、自分だけが逃げ延びたことに自己嫌悪を抱いた。それから樹析がNEVの実験に参加させられたっていう情報を入手したとき、青褪めた。自分は、何をしたんだって思った」
ゆっくりと、一言一言しっかりと言う言葉を、樹析は記憶に焼きつけるように聞き入る。
「1人で逃げて、1人だけ協力を得て、あの場から逃げ出したこと。樹析はNEVに拉致されて、実験に参加させられて。どうして、あの時一緒に居なかったんだろうって思った」
そこで蒼理は、息を吐いて、俯く。
「アタシ、今情報戦士として動いてるんだ。朝龍楯羽に記憶を強制的に戻されて、ちょっと混乱状態だったけど……今はもう大丈夫。樹析のこともキャリーケースのことも、あの日のことも全部分かる。思い出した」
そこで、蒼理は樹析の目を、まっすぐに見る。
「樹析は、今まで何をしていたか分からない。あの日以来、そして今日までの空白が分からない。でも樹析もそれは多分同じだと思う。でも、なんとなくこれは分かる」
そこで、蒼理はなぜかフニャリと笑う。
「樹析は、アタシを恨んでいてもおかしくはない」
その言葉に、樹析が立ち上がろうとする。だが、目眩がして、ふらふらとまた横になる。
「……蒼理」
恐る恐る口を開く。
それまで、蒼理が此処に居る、自分が恨んでいた人に、声をかけられなかった。
でもそれは多分、自分が恨んでいた人、それが義理の姉で大切な人だってことに罪悪感を覚えていたかもしれない。それか、自分がその人を恨んでいたように、その人も自分を恨んでいるのではないかと何となく思ったからだろう。
「確かに恨んでたよ。何で蒼理だけ逃げたのって。でもね、NEVを離れて、生活していくうちに、蒼理のことを聞いた。あの日、蒼理が誰かと逃げたということを聞いた」
「……」
「蒼理は、ずっと逃げる事を拒んでたって聞いた。でも蒼理を連れ去って逃げた人が居るって聞いた。……そしてそれが誰かも今なら分かる。あの日、なんで蒼理だけ逃げたのかも分かる」
ぎゅっと自分にかけられていたシーツを握る。
「蒼理が何らかの理由で必要になって、自分は自分で何か必要だったんだって。そして今ならそれが分かる」
自分も蒼理を見る。
「ウォークマン。それを捜すために必要なんだって」
樹析も笑う。蒼理も笑う。
昔みたいに、あの日、2人が離れ離れになる前のように笑う。
離れ離れになる前とは違いすぎる2人。
離れ離れになって、何かが狂って、何かが噛みあって、今、2人、笑いあう。
全て、ウォークマンが引き寄せたと思うと、ウォークマンに感謝しなければならない。
「仲直り、ですかね、リーダー?」
「じゃなーい? ま、ここはお赤飯、炊いておいて」
「……いいですけど、後で倉中さんと藤村さんにボッコボコにされても知りませんからね」
「え」
「絶対、ふざけるな、とか暴言吐きながら、ボッコボコにしそうですもん。あの2人。そりゃもうボッコボコにしそうですもん」
「いや、2回も言わなくっていいってば」
「だってココ、大事なところですから」
ニッコリと笑う羽夜華。そして、台所へ引っ込もうとする。
「ちょ、待って。何処、行くの?」
「え、お赤飯炊くんですよね?」
「いや、いい! 痛いの嫌い! ボッコボコにされたくないっ!!」
首を横に振り、拒否する春袈を置いて、羽夜華はニコニコと笑いながら、釜を手にとった。
――嫌な夢を見た。
また、こんな忌々しい夢を見なきゃいけないのか、と怒りすら湧いてくる。
だが、この忌々しい夢すらも、ウォークマンを捜す手がかりとなるならば。
自分は、どんなに嫌いで、いやで忌々しい夢だとしても、手がかりを得るために、それを見続けることを結局は選ぶんだろうと思う。
ぐらついていた体が地面と接触し、そのドサリという音だけがやけにゆっくりと聞こえた。
仰向けになり、視界に広がったのは既に夕暮れになった空。
ゆっくりと瞳を横に向けると、その書類が自分を襲ったはずの鋭利な氷塊を飲み込んでいたところだった。
カツ、という小さなヒール音。初めて聞く音ではないが、それでもこの人が鳴らした音だと思えば、初めてのようにも思える。
何もかも、タイミングが悪すぎる。
ただ1つ。
この人が、今、真紅に染まったキャリーケースを足元に置いて、1点を睨みつける、その人が記憶を取り戻したことだけは、良かったことだと思う。
記憶の欠陥にあった自分……倉中蒼理が記憶を取り戻した理由は、あの爆風でログハウスごと吹っ飛ばされたこと。
その気配に懐かしさを覚えながらも、蒼理はその1点だけを睨み続けた。
七色に光るキャリーケース。大事な、でもその存在を忘れていた。
大事なキャリーケースを足元に置いて、1点だけを睨み続ける。
カツカツと履いているブーツのヒール音を響かせながら、蒼理は、その姿を見て少しだけ驚いた。
「……樹析……」
自分と離れ離れになり、NEVに拉致された義理の妹。
小さいときとは比較できないほどに変わった妹は、地面に倒れ伏している。
その妹に猛スピードで迫る鋭利な氷塊。
妹には避けることすらも不可能なのだろう。だから、代わりに……。
自分の意思で開く七色のキャリーケース。完全に開いたところでキャリーケースは、七色から真紅へと変わる。
ただその赤は、樹析がヘッドフォンのスピーカーから放った赤い円盤のような血のように赤黒い色ではない。
どこか……温かみがある。人間としての温かみがある。
真紅へと変わったキャリーケースが、何枚何十枚何百枚の書類を出す。書類はキャリーケースのように真紅。
その真紅の書類が、蒼理の周りを取り囲む。
真紅の書類、数え切れないほどのそれの中、1枚の書類が蒼理の目の前に浮かぶ。
目の前に浮かぶ真紅の書類が、1回の瞬きをする間に、樹析と氷塊の間に割り込む。
蒼理を取り囲む真紅の書類が視界に入る中、割り込んだ書類だけが、眩く光る。
とても温かみのある色だと思った。
ぼんやりと霞みがかった視界で、眩く光る真紅の書類。
同じ赤でも、自分の赤とは違いすぎる。
まるで、自分とその人は結局、全てが違ったのか。
そう言われてるような気がして。
でもそれも仕方ないと思った。
結局、自分とその人は何もかも違う。
霞みがかった視界。眩いほどに輝く真紅の書類。
ほとんど何も見えなくなった視界で、これだけは見えた。
真紅の書類が氷塊を飲み込んだところだけは、しっかりと確認できた。
「楓、つつじ?」
妹に迫っていた氷塊を書類で消し、首をかしげる。キャリーケースはすでに七色に戻っている。
自分のまわりを囲んでいた真紅の書類全てもキャリーケースにしまわれ、視界に映るのは、夕暮れに染まった空と、地面に伏せる妹、それから正面に立つその存在――楓つつじのみ。
「……」
「無言は、正解かな、間違いかな?」
「……」
「……楓つつじだと判断するね。どうして樹析を、アタシの妹を攻撃したわけ?」
「……」
「……これ以上黙られると、どんな手段を用いてでも、その口、開かせるけど」
苛々した声で蒼理は、キャリーケースに触れる。
「……藤村樹析がこちらの妨害をしてきた。だから攻撃した」
初めて。
楓つつじが口を開いた。
「へー。それで攻撃したの。……狙いは草花姉妹ちゃん?」
「草花姉妹は、レオを召喚するために居る。……かつて起きたあの事件のイメージを塗りかえるために」
苦々しくそう言った楓つつじ。それに蒼理は嘲笑で返した。
「ハッ。あの事件でレオへのイメージは凝り固まってる。そう簡単に塗りかえれると思ってんの? アタシは無理だと思うなー」
「無理? 本当に?」
「どうするわけ? アタシは無理だと思うんだけどな」
「……草花姉妹がレオを召喚すれば、あの事件は起こらなかった。草花姉妹さえ居れば、本当の意味でのレオ召喚ができ――っ!」
その言葉を遮るように、蒼理側から眩い緑色の光りが射出。
「ぐだぐだ言わないでよ。ちゃっちゃっと言ってくんない? アタシ、長々したの大っ嫌い」
ニコリと微笑んだ蒼理は、また書類に囲まれている。だが先ほどは真紅だったのに対し、今回は深緑の色をしている。
「アンタは何とも思わないの……!? あの朱坂さんだって、レオ召喚は大切だって!」
「今のアンタに朱坂さんを理解してあげること……まあ、人間が人間を理解しようなんて不可能だけどさ。できないよ。アンタが朱坂さんを理解するなんて」
「大事だって言ってた妹を裏切った上に、NEVを襲撃したアンタに言われたくない!」
「へー。でもね、アタシだってアンタみたいなヤツ大嫌いなの。アンタみたいにぐだぐだ過去引き摺ってるようなヤツ嫌い」
ハッキリと言い放った蒼理の表情には嘲笑が浮かぶ。だが、本当は、キレている。
それに楓つつじが気づいたとき、蒼理は既に先ほどの緑色の光りを射出していた。
樹析。
懐かしい声が聞こえる。
樹析。
つい最近まで恨んでいた人。大事な……義理の姉だとしても、本当の家族のように親しんでくれた人。
樹析。
なのに今は不思議と恨みなんてなくなってる。やっぱり大切だから。
樹析。
大丈夫。以前とはお互い違ったトコ、いっぱいあるけど、いつかまた――。
目が覚めると、視界いっぱいに人の顔が映った。
それに引きながら、自分は横たわっているのだと気づく。
「ったく。体力ないなら、ないで教えてくれたっていいのに」
額に手を当てて、はぁ、と溜息をつく長い黒髪の少女……名を桃風羽夜華と言ったか。
「仕方ない。そんなの気づかなかったんでしょ?」
その羽夜華に、金色に黒のメッシュを入れた女性、鋼夜春袈が苦笑い気味に問う。
「気づけませんって。そんな感じしなかったんですから」
「それなら仕方ないって」
ポンポンと羽夜華の頭を規則的に叩く春袈。
その光景にまだ覚醒しきってない意識で、視界で、確認する。
「あの、此処って?」
目だけを動かして、春袈に問う。
確か、あの人が使っていたログハウスは、自分が戦闘時に吹っ飛ばしたような……?
「此処は、私と羽夜華が使ってるログハウス。貴女があのコのログハウスを吹っ飛ばしたから、此処に運んだの。……はぁ。そんなに距離ないとはいえ、わざわざ此処に運んでくるのは疲れた……」
わざとらしくそう言う春袈に苦笑いしながら頭を下げる。
そうなると。
「あの、倉中蒼理さんっ」
「樹析?」
今度は首を動かす。その声の方向に視線を注ぐ。
相変らずその金髪が綺麗だと思う。自分の髪とは違って、自然にできた色だし、自分とは逆な色。小さいときは憧れてた。いや、今も憧れてるけど。
「ちょっと、樹析、あまり動いちゃダメだってば」
その瞳が心配に揺れる。
「……蒼理?」
「? どうしたの、樹析」
「……」
蒼理、だ。自分が憧れている、今もその憧れの念は消えない、大切な、自分の義理の姉。
だが、その事を受け入れると同時に、口が開かない。言葉が出てこない。いや、言葉は出てくる。でも、それを声にできない。
「? ちょ、大丈夫? 樹析、まだ具合悪いんじゃないの?」
その心配そうな声にも答える事ができない。
でも答えなきゃ。答えないと、あの日みたいになっちゃいそうで怖い。でも声が出てこない。
どうしようか、と頭を抱えていると、蒼理が居る方向の逆で。
「……羽夜華、この子がぶっ飛ばしたログハウスと貴女が削った地面、修復してないよね?」
「してませんけど、私が削ったって、私は削って、いや削ったことになるの? え、あれって削ったになるの?」
「で、修復したの? してないの?」
「してませんよ」
「じゃ、修復しよう。今すぐしよう」
「いやでも」
「早くしないと、倉中が住むログハウスないじゃん」
「え、全部埋まってるんですか?」
「全部埋まってる。もちろん、空き部屋はあるかもしれないけど、知らない人ばっかのとこに入れられるのは誰だっていやだって」
「ウチは?」
「???! いいから早くするっ!!」
グイグイグイグイグイグイ。
我慢できなくなったように春袈が羽夜華の肩を押して、部屋を出て行く。
急なことに反応できない。
「春袈さん、気、遣ってくれたんだね」
クスクスと笑い、そう言う蒼理に気づく。
「……樹析。あの日、ごめんね」
自分に近づいてくる蒼理に、少しだけ引いてしまう。
「引いてしまわれるのは構わない。でも少しだけ話をさせて」
「……」
何を言われるんだろう。怖くなる。
拒否されるのかな。構わない。そうなっても、そうなるしかなかったんだって諦めがつく。
「アタシはあの日、あの時、たった1人、自分だけが逃げ延びたことに自己嫌悪を抱いた。それから樹析がNEVの実験に参加させられたっていう情報を入手したとき、青褪めた。自分は、何をしたんだって思った」
ゆっくりと、一言一言しっかりと言う言葉を、樹析は記憶に焼きつけるように聞き入る。
「1人で逃げて、1人だけ協力を得て、あの場から逃げ出したこと。樹析はNEVに拉致されて、実験に参加させられて。どうして、あの時一緒に居なかったんだろうって思った」
そこで蒼理は、息を吐いて、俯く。
「アタシ、今情報戦士として動いてるんだ。朝龍楯羽に記憶を強制的に戻されて、ちょっと混乱状態だったけど……今はもう大丈夫。樹析のこともキャリーケースのことも、あの日のことも全部分かる。思い出した」
そこで、蒼理は樹析の目を、まっすぐに見る。
「樹析は、今まで何をしていたか分からない。あの日以来、そして今日までの空白が分からない。でも樹析もそれは多分同じだと思う。でも、なんとなくこれは分かる」
そこで、蒼理はなぜかフニャリと笑う。
「樹析は、アタシを恨んでいてもおかしくはない」
その言葉に、樹析が立ち上がろうとする。だが、目眩がして、ふらふらとまた横になる。
「……蒼理」
恐る恐る口を開く。
それまで、蒼理が此処に居る、自分が恨んでいた人に、声をかけられなかった。
でもそれは多分、自分が恨んでいた人、それが義理の姉で大切な人だってことに罪悪感を覚えていたかもしれない。それか、自分がその人を恨んでいたように、その人も自分を恨んでいるのではないかと何となく思ったからだろう。
「確かに恨んでたよ。何で蒼理だけ逃げたのって。でもね、NEVを離れて、生活していくうちに、蒼理のことを聞いた。あの日、蒼理が誰かと逃げたということを聞いた」
「……」
「蒼理は、ずっと逃げる事を拒んでたって聞いた。でも蒼理を連れ去って逃げた人が居るって聞いた。……そしてそれが誰かも今なら分かる。あの日、なんで蒼理だけ逃げたのかも分かる」
ぎゅっと自分にかけられていたシーツを握る。
「蒼理が何らかの理由で必要になって、自分は自分で何か必要だったんだって。そして今ならそれが分かる」
自分も蒼理を見る。
「ウォークマン。それを捜すために必要なんだって」
樹析も笑う。蒼理も笑う。
昔みたいに、あの日、2人が離れ離れになる前のように笑う。
離れ離れになる前とは違いすぎる2人。
離れ離れになって、何かが狂って、何かが噛みあって、今、2人、笑いあう。
全て、ウォークマンが引き寄せたと思うと、ウォークマンに感謝しなければならない。
「仲直り、ですかね、リーダー?」
「じゃなーい? ま、ここはお赤飯、炊いておいて」
「……いいですけど、後で倉中さんと藤村さんにボッコボコにされても知りませんからね」
「え」
「絶対、ふざけるな、とか暴言吐きながら、ボッコボコにしそうですもん。あの2人。そりゃもうボッコボコにしそうですもん」
「いや、2回も言わなくっていいってば」
「だってココ、大事なところですから」
ニッコリと笑う羽夜華。そして、台所へ引っ込もうとする。
「ちょ、待って。何処、行くの?」
「え、お赤飯炊くんですよね?」
「いや、いい! 痛いの嫌い! ボッコボコにされたくないっ!!」
首を横に振り、拒否する春袈を置いて、羽夜華はニコニコと笑いながら、釜を手にとった。
――嫌な夢を見た。
また、こんな忌々しい夢を見なきゃいけないのか、と怒りすら湧いてくる。
だが、この忌々しい夢すらも、ウォークマンを捜す手がかりとなるならば。
自分は、どんなに嫌いで、いやで忌々しい夢だとしても、手がかりを得るために、それを見続けることを結局は選ぶんだろうと思う。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/08/10 14:36 更新日:2011/08/10 14:36 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
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