作品ID:891
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「レッド・プロファイル」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(49)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(170)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
レッド・プロファイル
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
プロローグ
目次 | 次の話 |
レッドプロファイル
0
この小説はフィクションです。実在の事件事故組織人物とは一切関係有りません――そういう文句から始まる小説をあまり僕は好まないのだけれどのだけれど、部活の先輩に薦められて、珍しく夜更かしして読み込んでいた。その人に言わせれば「代見《かわりみ》君はもう少し夢見がちになったほうがいい」だそうで、さらには高校生にもなったなら面白可笑しい作り話の一つ二つ嗜むべきなのだそうだ。僕は自分でも嫌になるくらい偏屈だから他の人間に言われれば一生その手のフィクションに手を触れなくなった可能性もあるが、なんせその相手が僕の片恋相手なのだから、ことの正否真偽善悪はともかく実行するのにやぶさかではない。――そんなことを言いながら苦手意識をぬぐえずに読み始めるのが遅れに遅れて、こんな時間にまで読書が食い込んでいるのだから、僕もなかなかばかげていた。読む速度にはなかなかの自信があったのだが、風呂を済ませてから今に至るまで、かれこれ二時間ほどかけても主人公の恋愛が手をつなぐところにまで進まない。さすがフィクション、これほどもどかしくても我慢できる思春期男子が生息できるのは活字の中に限られるだろう。もし本当にこんなもじもじした恋愛したら、僕だったら一週間ほどで爆発してしまう。
片思いの相手が明日から修学旅行で一週間留守と言うそれだけで読みたくも無い好みの外の小説を「そういえば先輩、最近フィクションに興味が出たんですが」とか話題を作ろうとする、そういう恋情こそいじましく本当と言うべきだ。世はそれを未練がましいともいう。
まぁ、一つ読むごとに報告なさいと電話番号を教えてもらえたから、全体的な収支は大幅にプラスなのだけれど。――むしろ予想以上の収穫に舞い上がっているのが、いくらか文章を追う精度に影響がでているくらいである。――しかしなんとも、読むのに時間がかかるモチベーションだった。いつもならざくざく読み薦めてしまえる程度の分量にいやに時間がかかってしまう。どんな原因があるにせよ今の僕のコンディションでは、この恋をする少年主人公を冷静に鑑賞するには向かないようだった。
そもそも、読めば読むほど作者への怒りが沸々と沸いてくる。
さっさと済ませてしまえばいいのに文化祭の準備に追われたり、友人のさがない悪戯に巻き込まれて恋人の信用を失ったり。よくもまぁ作者とか言うやつは、登場人物をこんなに右往左往させて平気なものだ。カタルシスだかなんだか知らないが、真冶君がかわいそうだと思わないのか人非人め。こんなに隣のクラスの環田さんを恋焦がれているのに竹智だか志川だか中内だかの悪友にさんざ邪魔させて「――っと」真冶君が見事に環田さんを屋上に呼び出した。「いいじゃないか、がんばれ少年」僕がついてるぞ。なんて言葉に出してつぶやいて、僕は実にいい気分になる。他人を応援すると言うのはいかにもイイヒトに成れたような気がしてすがすがしいものがあった。
こういう気持ちになってみると、なるほどフィクションというのは登場人物をいかに無責任に応援しても席の及ばない、なんとも都合のいいものだった。【実在の事件事故と――】なだけあって、実在する僕らの俯瞰するになんと気楽なことだろう。ぶっちゃけ僕は真冶君がこっぴどくフられようが武智辺りに環田さんを寝取られようが何も文句はないのだから、もし現実にこんな心構えのやつに応援されたら、僕なら容赦仮借なく全力の拳をお見舞いしている。実在の事件事故組織人物に一切関係するつもりなら、それ相応の覚悟と言うものを持つのが礼儀以前の絶対条件だ。その対象が、個人的で卑近なものであればあるほど、その割合は高くなると僕は思う。
(――そういえば)と、僕はページを繰る手を止めて思考する――(――ものの本によれば、そういう個人的で卑近な物語こそを、【小説】と呼ぶんだとか、なんだとか、だったような)
となると、お決まりの文句も若干皮肉に言い換えられる。
個人的で卑近な物語、個人の世界観こそ小説ならば、つまりはこう。――『この世界はフィクションです』『実在の事件事故組織人物とは一切関係ありません』『あしからず』――まったくもって詭弁じみた、すこぶるつきに胡散臭い単語羅列の誕生だ。しかしてなかなか悪くない気もするのは僕のセンスの悪さの発露だろうか。
あるいは世界なんてそんなもんさ、という、僕のひねた思想の証かもしれない。
(はたして、例えば)
(世界と言うものがどれほど実在の事件事故組織人物と関わってんだって話)
黄河の蝶々がミシシッピに竜巻を起こすことはあっても、結局それはそれだけのことで。その出来事で真理とか神様とか物理法則とかにはまるで影響はないだろう。僕が論理や理論を振り回したところで根幹の部分には決して立ち入れないし、それならいったいどうして、僕たちは僕たちの世界を確信することが出来るのだろうか。
【実在の事件事故組織人物】がいくら実在していたところで、世界の実在を僕たちは確認することは出来ないのではなかろうか。
――なんちゃって。
こんなもの、それこそ高校生らしい、面白可笑しくもない小理屈屁理屈。三日もしたら忘れているか、思い出したくなくなっていること受けあいだ。今までもこんなこといくつか考えた気がするが思い出したくないので閑話休題。
僕は随分ページをめくっていないことに思い至る。しかしあれだ、読書中にこんなややこしいことグダグダ考えてしまうとは、やっぱり僕にはこの手の読書はむいていないのかもしてない。これ以上の黙読を早々にあきらめてさっさと眠ってしまうことにした。どうせ今から一気に読みきってしまっても電話のできる時間帯でもないし、寝巻きに着替えて布団に入ろう、その前に水でも飲むか――僕は自分の部屋を出てリビングを通り台所へ向かう。
リリリリリリリリン、と。
その前に立ったとたんに、家電話のベルがけたたましく鳴った。
眉を顰めて、親の起き出す前に受話器をとる。「――はい、代見です」
そして、数秒。数十秒。
――数分。
無言のままに電話は切れた。
「………………」
僕もまた、無言のままに受話器を置き、コップに直接水道水を汲んで一口一口を噛むようにしてから飲み下す。台所備え付けの、ゴミ捨てのスケジュールなんかの書かれたカレンダーに目を通して、脳内の日付に×印を足した。
無言電話。通算十五日目。かつ、親の出た時はすぐに切れる、らしい。
――どうにも僕はストーキングを受けているようで。
「この事件はフィクションです」
だったらいいなぁ。
肩をすくめながらコップを洗い、僕は自分の部屋に戻った。
0
この小説はフィクションです。実在の事件事故組織人物とは一切関係有りません――そういう文句から始まる小説をあまり僕は好まないのだけれどのだけれど、部活の先輩に薦められて、珍しく夜更かしして読み込んでいた。その人に言わせれば「代見《かわりみ》君はもう少し夢見がちになったほうがいい」だそうで、さらには高校生にもなったなら面白可笑しい作り話の一つ二つ嗜むべきなのだそうだ。僕は自分でも嫌になるくらい偏屈だから他の人間に言われれば一生その手のフィクションに手を触れなくなった可能性もあるが、なんせその相手が僕の片恋相手なのだから、ことの正否真偽善悪はともかく実行するのにやぶさかではない。――そんなことを言いながら苦手意識をぬぐえずに読み始めるのが遅れに遅れて、こんな時間にまで読書が食い込んでいるのだから、僕もなかなかばかげていた。読む速度にはなかなかの自信があったのだが、風呂を済ませてから今に至るまで、かれこれ二時間ほどかけても主人公の恋愛が手をつなぐところにまで進まない。さすがフィクション、これほどもどかしくても我慢できる思春期男子が生息できるのは活字の中に限られるだろう。もし本当にこんなもじもじした恋愛したら、僕だったら一週間ほどで爆発してしまう。
片思いの相手が明日から修学旅行で一週間留守と言うそれだけで読みたくも無い好みの外の小説を「そういえば先輩、最近フィクションに興味が出たんですが」とか話題を作ろうとする、そういう恋情こそいじましく本当と言うべきだ。世はそれを未練がましいともいう。
まぁ、一つ読むごとに報告なさいと電話番号を教えてもらえたから、全体的な収支は大幅にプラスなのだけれど。――むしろ予想以上の収穫に舞い上がっているのが、いくらか文章を追う精度に影響がでているくらいである。――しかしなんとも、読むのに時間がかかるモチベーションだった。いつもならざくざく読み薦めてしまえる程度の分量にいやに時間がかかってしまう。どんな原因があるにせよ今の僕のコンディションでは、この恋をする少年主人公を冷静に鑑賞するには向かないようだった。
そもそも、読めば読むほど作者への怒りが沸々と沸いてくる。
さっさと済ませてしまえばいいのに文化祭の準備に追われたり、友人のさがない悪戯に巻き込まれて恋人の信用を失ったり。よくもまぁ作者とか言うやつは、登場人物をこんなに右往左往させて平気なものだ。カタルシスだかなんだか知らないが、真冶君がかわいそうだと思わないのか人非人め。こんなに隣のクラスの環田さんを恋焦がれているのに竹智だか志川だか中内だかの悪友にさんざ邪魔させて「――っと」真冶君が見事に環田さんを屋上に呼び出した。「いいじゃないか、がんばれ少年」僕がついてるぞ。なんて言葉に出してつぶやいて、僕は実にいい気分になる。他人を応援すると言うのはいかにもイイヒトに成れたような気がしてすがすがしいものがあった。
こういう気持ちになってみると、なるほどフィクションというのは登場人物をいかに無責任に応援しても席の及ばない、なんとも都合のいいものだった。【実在の事件事故と――】なだけあって、実在する僕らの俯瞰するになんと気楽なことだろう。ぶっちゃけ僕は真冶君がこっぴどくフられようが武智辺りに環田さんを寝取られようが何も文句はないのだから、もし現実にこんな心構えのやつに応援されたら、僕なら容赦仮借なく全力の拳をお見舞いしている。実在の事件事故組織人物に一切関係するつもりなら、それ相応の覚悟と言うものを持つのが礼儀以前の絶対条件だ。その対象が、個人的で卑近なものであればあるほど、その割合は高くなると僕は思う。
(――そういえば)と、僕はページを繰る手を止めて思考する――(――ものの本によれば、そういう個人的で卑近な物語こそを、【小説】と呼ぶんだとか、なんだとか、だったような)
となると、お決まりの文句も若干皮肉に言い換えられる。
個人的で卑近な物語、個人の世界観こそ小説ならば、つまりはこう。――『この世界はフィクションです』『実在の事件事故組織人物とは一切関係ありません』『あしからず』――まったくもって詭弁じみた、すこぶるつきに胡散臭い単語羅列の誕生だ。しかしてなかなか悪くない気もするのは僕のセンスの悪さの発露だろうか。
あるいは世界なんてそんなもんさ、という、僕のひねた思想の証かもしれない。
(はたして、例えば)
(世界と言うものがどれほど実在の事件事故組織人物と関わってんだって話)
黄河の蝶々がミシシッピに竜巻を起こすことはあっても、結局それはそれだけのことで。その出来事で真理とか神様とか物理法則とかにはまるで影響はないだろう。僕が論理や理論を振り回したところで根幹の部分には決して立ち入れないし、それならいったいどうして、僕たちは僕たちの世界を確信することが出来るのだろうか。
【実在の事件事故組織人物】がいくら実在していたところで、世界の実在を僕たちは確認することは出来ないのではなかろうか。
――なんちゃって。
こんなもの、それこそ高校生らしい、面白可笑しくもない小理屈屁理屈。三日もしたら忘れているか、思い出したくなくなっていること受けあいだ。今までもこんなこといくつか考えた気がするが思い出したくないので閑話休題。
僕は随分ページをめくっていないことに思い至る。しかしあれだ、読書中にこんなややこしいことグダグダ考えてしまうとは、やっぱり僕にはこの手の読書はむいていないのかもしてない。これ以上の黙読を早々にあきらめてさっさと眠ってしまうことにした。どうせ今から一気に読みきってしまっても電話のできる時間帯でもないし、寝巻きに着替えて布団に入ろう、その前に水でも飲むか――僕は自分の部屋を出てリビングを通り台所へ向かう。
リリリリリリリリン、と。
その前に立ったとたんに、家電話のベルがけたたましく鳴った。
眉を顰めて、親の起き出す前に受話器をとる。「――はい、代見です」
そして、数秒。数十秒。
――数分。
無言のままに電話は切れた。
「………………」
僕もまた、無言のままに受話器を置き、コップに直接水道水を汲んで一口一口を噛むようにしてから飲み下す。台所備え付けの、ゴミ捨てのスケジュールなんかの書かれたカレンダーに目を通して、脳内の日付に×印を足した。
無言電話。通算十五日目。かつ、親の出た時はすぐに切れる、らしい。
――どうにも僕はストーキングを受けているようで。
「この事件はフィクションです」
だったらいいなぁ。
肩をすくめながらコップを洗い、僕は自分の部屋に戻った。
後書き
作者:あるるかん |
投稿日:2011/10/23 04:11 更新日:2011/10/23 04:11 『レッド・プロファイル』の著作権は、すべて作者 あるるかん様に属します。 |
目次 | 次の話 |
読了ボタン