作品ID:923
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レッド・プロファイル
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
2-1
前の話 | 目次 |
第二章
世界のために君を失うとしても君のために世界を滅ぼしたくはない
1
学校は即座に休校になった。当たり前の処置だ。問題は今行われている修学旅行で、先生方も相当悩んだんだろう、一日予定を潰して観光を自粛し、その日は生徒達もホテルでおとなしく燻っていたそうだ。先輩が直接電話で教えてくれたことだから、まず間違いない。授業は二日で再開されたが、僕は一日多い三日間を家で過ごすことになった。警察と話をしていたからだ。
被害者の生前について。
被害者。
友近都日。
屋上に人形の白線が引かれていた。
出入り口に立つと、まっすぐ見える――刑事ドラマみたいな、殺人現場に引かれるあの白線が、のびのびとした大の字で描かれていた。
真っ赤な血の海の真ん中に。
赤色のコートとそっくりの色の真ん中。
「ハハ」
ほんとに引くんだ。あの線。
日差しは強い。照りつけるなんてもんじゃない。屋上ってこんなに暑かったっけ。風も強い。吹きすさんで、入り口近くの僕の前髪もばたばたと煽られて随分遠くまで風景が見えるとはいってもこの近くには山しかなくて後は畑と駐車場ところどころに立つ電柱が日差しが強い電線は垂れ下がり揺られた前髪は頬に当たってぽつぽつと道路の端に立つ電柱はまるでじっとたってこちらを見ているようで屋上ってこんなに暑かったっけ吹きすさんで入り口近くの電柱が吹きすさんで照り付けるなんてもんじゃないぱたぱたと煽られてこちらを見ている遠くまで風景が強い山しかないなんてもんじゃない随分近くまで電柱は垂れ下がりこんなに暑かったっけ。
都日が死んだ。
真っ赤になって、死んでいた。
待ち合わせ場所の屋上の扉の前、階段の踊り場で、赤色は座りこんで僕を待っていた。手すりの支柱の間から足を放り投げ、ぶらぶらと揺らしながら、鼻歌を歌いながらのご機嫌な様子。よう、と僕が手を上げると、赤色は笑ってそれに応じた。
「なんだいなんだい、あんな切羽詰ったメールを送ってきてさ。代見君がついに私に思いの丈をぶつけてくれるのかと思ってドキドキしちゃったじゃないか。女の子にあんな思いをさせるものじゃないよ。シュチュエーションはいかにもって感じだし辺りに人はいないし、あーあ、こんなことならこないだ買った新しいパンツを履いてくればよかった!」
「下着と待ち合わせと何の関係が」
「ふふふ、そのパンツというのがね、いや、コレがまた筆舌に尽くしがたく大変なとこが大変なことになってるんだよ? こう、なんて言うのかな、勝負パンツというか殲滅パンツというかむしろもうパンツじゃないというか」
「話を聞け。聞いてください」
「よーし、テンションあがってきた。今度履いてきてあげるから楽しみにしていたまえ」
「お前誤植というよりバグキャラっぽくなってないか……」
こいつのコマンドに『はなしをする』は無いのだろうか。
「大体赤色のパンツがどんなだろうと、履いていようと無かろうと僕には関係ないだろうが」
「履いてないってとこまで期待されると困るなぁ。まだちょっとそのレベルのプレイは」
「まだって事は時間の問題なのか!?」
「ん? しかし件のパンツがさっき言ったようにほとんどパンツでないことを考えるとそれを履いている状態はノーパンと呼ぶにやぶさかではないのか?」
「そんな言葉遊びをしてまでノーパンになりたいか貴様!」
「言葉遊びじゃない! 実際あのパンツはノーパンと同じようなものだ!」
「マジでパンツじゃねぇなそれ!?」
布切れじゃんか。
ひょっとするとそういえるような面積もないのかもしれない。
「いや、しかしどれだけそのパンツの布面積が少なくても僕には関係ないんだった。――ノーパンへの期待もしてないしな。そんなことより、だよ、赤色」
「私のパンツをそんなこと呼ばわりされるのは心外だけど話が進まないと困るしね、いいや、聞いてあげよう。なんだい伏目君」
「一緒に帰ろうぜ」
抱えた鞄をぐい、と揺すって見せた。
「何がしたかったのかわっかんないけどさ、下校時刻ぎりぎりだよ。校門しまる前に一緒に帰ろう」
「答え合わせはいいのかい?」
「帰りながらでもできるだろ」
「帰ってる間に終わるといいけどね」
そういいながら、赤色は立ち上がった。ぶらぶらさせていた足の感触を確かめるように、数回地面を踏みしめる。
「久方ぶりに自分の足で地面を踏んだよ。大地は偉大だなぁ」
「さっきまでケツに敷いてただろうが」
「私は全人類を尻にしく女だからね。校舎程度は軽々踏んづけてしまうのさ」
「自信の方向性が空中分解してませんか」
もう全然うまいこと言えてなかった。
さっきのパンツ騒ぎといい――これで赤色も女の子だから、普段はそんなにベラベラ下ネタには走らないんだけど、どこか焦ってるというか、興奮しているというか。なんとなく、らしくない感じを受ける。
薄笑いの感じも、気持ちいつもより上向きだった。
(いや)
(前向きって感じかな)
ベクトルが前向き。
なんかうれしそうな、気のせいかもしれないけど。
それに方向性だけでなく、勢いも格段に高まっているような。
並んで階段を下りる赤色の顔色を伺おうとして、ふと手もとに視線が動く。
「あれ、赤色。荷物は?」
赤色は手ぶらだった。
「どっかに置いてあんのか? 取りによるんなら急がないとまずいけど」
「いや、私は手ぶらで登校してるんだ」
「なにそのスタイル!?」
かっけぇ!?
「手元が重たいと気分まで重たくなるじゃないか。登下校のときって私は基本一人だからね。せめて気分くらいは軽く楽しくいたいのさ」
「その告白には多分に悲しいものが含まれてるな……」
友達いないんだろうか。
当たり前か。と赤色の服装を眺めて僕は嘆息した。
「ま、とはいっても高校に入ってからはコッチーが良く一緒に帰ってくれるからね。友達っていいもんだねぇ。百人欲しいな」
「知ってるか、百人ってのは物置に乗っちゃう程度の人数なんだぜ」
「あのCMの席次って偉い人順らしいねぇ。初めて知ったときは物置業界も世知辛いんだなぁって私は悲しくなっちゃったよ」
「物置業界ってどこだよ、その狭い世界。――で、百人の友達と富士山頂でも目指すのか?」
「あれ、子供の割に目標が大きいよね」
「百人の小学一年生が富士山に果敢にアタックする図……」
「壮絶だね」
やっぱりいいや。と赤色は言う。
「百人もいたらいたで管理に手間取りそうだけどさ」
「そこで管理って言葉がさっと出てくる辺りに、お前の登下校風景の原因があると思うんだ……」
「いいじゃないか、今日は伏目君と一緒だし」
その台詞に、僕は少し動揺してしまった。
校舎はさっきにもまして真っ赤に染まり、ますます日常離れした風景になっている。――いつも見える場所が影になり、陰になっている部分に日が当たっているというだけで、建物の印象がこんなにも変わる。
ましてや隣にいるのが赤色だ。
真っ赤なコートを着た、常人離れした言動の、いつでも薄笑いの同級生。
それまでふらふらしていた赤色が、突然ピタリと僕の隣についた。身長差とコートのフードのせいで、赤色のうっすら笑う口元しか見えない。
「女友達はコッチーがしてくれるし、今日は伏目君と一緒に帰れるし。私はうれしいな」
「……ああ、そうか」
なんだか、酷くおかしなところに迷い込んでしまったような気がする。
違うか。
おかしいのは、赤色だ。
なんだかやけに、しおらしい。
さっきまであんなだった癖に。
「赤って色はさ」
と、赤色はつぶやいた。
「じっと見てると、人を狂わすんだってさ」
「……」
「オカシクなっちゃうんだってさ」
「……それで?」
「別に」
階段を下りきって、下駄箱のすぐそこまで来ている。
「みんな、こういう風に真っ赤っかな世界もいいな、って、思っただけさ」
「――そうか」
僕はなんとなく、こういう赤色もいいな、と思った。
不適に毒舌を吐くでもなく、他愛無い話に大騒ぎするでもなく、しゅんとした雰囲気の赤色は、結構、癪なことに、可愛いところが、あったのだ。
けんかしたことの無い奴は友達じゃないが、赤色と僕は毎日のようにけんかしていて。
僕と赤色は、友達だった。
「僕もさ」
下駄箱から外靴を出して履き替えながら、すこし照れくさいながらも、赤色に話しかけた。
「そんなことをさ
「そんなことを思ってたよ。赤色」
「そうかい」
そうかい、そうかい。と赤色はくりかえし、僕達は妙に安心した気持ちを抱きあった。
(なんか、あれだ……不覚)
(いい雰囲気って、こういうののことなのかもしんない)
女の子との付き合いなんてろくに無いから、判然としないけれど。
悪い気分ではなかった。
「なんか、お前とこういう感じになるの悔しいわ」
「私は楽しいのに」
「嬉しいんじゃなくて?」
「そういう抜き差しならないことを言うと逃げられてしまうからね――君もなかなか、抜き差しならないことを言うけどさ。なんちゃら遊戯ってわけかい?」
「そんなハイソな遊びは縁がないな」
縁もないし余裕もない。
靴を外履きに換えて(赤色が僕の靴と他人の靴を「しゃっふる」とかやって遊びやがったりもしたけど)赤色と肩を並べて校舎を出る。後五分もすれば校門がしまって、職員室で軽く説教されないと外にも出られなくなってしまうけれども、ここまできてしまえばその心配もない。なんせ校門はちょっと左に出てすぐの場所だ。
その校門に、パトカーが留まっていた。
「え……?」
僕は思わず立ち止まってしまう。
「ん? どうしたんだ伏目君」
「いや、公務員さんが校門で臨戦態勢をさ」
「別に悪いことをしたんじゃないんだから、固まらなくてもいいだろ」
「そういうわけじゃなくて、なんだ、何があったんだろ」
「私が呼んだんだ」
こともなげに赤色は言って、大きく一歩前に踏み出し、僕に向かって振り向いた。
「私はあれに乗らないといけないからさ、今日はここまでだ伏目君。答え合わせ、間に合わなくて悪かったね」
答え合わせはいいのかい?
帰りながらでもできるだろ。
帰ってる間に終わるといいけどね。
「赤色――?」
「一緒に帰れて、嬉しかったよ、伏目君」
赤色はもう一度、くるりと向きを変えて数歩前に進み、ふと、思い出したように僕に行った。
「で、君、どうするんだい
「都日君が死んでたけど」
数秒の間だけ思考して。
僕は階段を駆け上がった。
そこで。
世界のために君を失うとしても君のために世界を滅ぼしたくはない
1
学校は即座に休校になった。当たり前の処置だ。問題は今行われている修学旅行で、先生方も相当悩んだんだろう、一日予定を潰して観光を自粛し、その日は生徒達もホテルでおとなしく燻っていたそうだ。先輩が直接電話で教えてくれたことだから、まず間違いない。授業は二日で再開されたが、僕は一日多い三日間を家で過ごすことになった。警察と話をしていたからだ。
被害者の生前について。
被害者。
友近都日。
屋上に人形の白線が引かれていた。
出入り口に立つと、まっすぐ見える――刑事ドラマみたいな、殺人現場に引かれるあの白線が、のびのびとした大の字で描かれていた。
真っ赤な血の海の真ん中に。
赤色のコートとそっくりの色の真ん中。
「ハハ」
ほんとに引くんだ。あの線。
日差しは強い。照りつけるなんてもんじゃない。屋上ってこんなに暑かったっけ。風も強い。吹きすさんで、入り口近くの僕の前髪もばたばたと煽られて随分遠くまで風景が見えるとはいってもこの近くには山しかなくて後は畑と駐車場ところどころに立つ電柱が日差しが強い電線は垂れ下がり揺られた前髪は頬に当たってぽつぽつと道路の端に立つ電柱はまるでじっとたってこちらを見ているようで屋上ってこんなに暑かったっけ吹きすさんで入り口近くの電柱が吹きすさんで照り付けるなんてもんじゃないぱたぱたと煽られてこちらを見ている遠くまで風景が強い山しかないなんてもんじゃない随分近くまで電柱は垂れ下がりこんなに暑かったっけ。
都日が死んだ。
真っ赤になって、死んでいた。
待ち合わせ場所の屋上の扉の前、階段の踊り場で、赤色は座りこんで僕を待っていた。手すりの支柱の間から足を放り投げ、ぶらぶらと揺らしながら、鼻歌を歌いながらのご機嫌な様子。よう、と僕が手を上げると、赤色は笑ってそれに応じた。
「なんだいなんだい、あんな切羽詰ったメールを送ってきてさ。代見君がついに私に思いの丈をぶつけてくれるのかと思ってドキドキしちゃったじゃないか。女の子にあんな思いをさせるものじゃないよ。シュチュエーションはいかにもって感じだし辺りに人はいないし、あーあ、こんなことならこないだ買った新しいパンツを履いてくればよかった!」
「下着と待ち合わせと何の関係が」
「ふふふ、そのパンツというのがね、いや、コレがまた筆舌に尽くしがたく大変なとこが大変なことになってるんだよ? こう、なんて言うのかな、勝負パンツというか殲滅パンツというかむしろもうパンツじゃないというか」
「話を聞け。聞いてください」
「よーし、テンションあがってきた。今度履いてきてあげるから楽しみにしていたまえ」
「お前誤植というよりバグキャラっぽくなってないか……」
こいつのコマンドに『はなしをする』は無いのだろうか。
「大体赤色のパンツがどんなだろうと、履いていようと無かろうと僕には関係ないだろうが」
「履いてないってとこまで期待されると困るなぁ。まだちょっとそのレベルのプレイは」
「まだって事は時間の問題なのか!?」
「ん? しかし件のパンツがさっき言ったようにほとんどパンツでないことを考えるとそれを履いている状態はノーパンと呼ぶにやぶさかではないのか?」
「そんな言葉遊びをしてまでノーパンになりたいか貴様!」
「言葉遊びじゃない! 実際あのパンツはノーパンと同じようなものだ!」
「マジでパンツじゃねぇなそれ!?」
布切れじゃんか。
ひょっとするとそういえるような面積もないのかもしれない。
「いや、しかしどれだけそのパンツの布面積が少なくても僕には関係ないんだった。――ノーパンへの期待もしてないしな。そんなことより、だよ、赤色」
「私のパンツをそんなこと呼ばわりされるのは心外だけど話が進まないと困るしね、いいや、聞いてあげよう。なんだい伏目君」
「一緒に帰ろうぜ」
抱えた鞄をぐい、と揺すって見せた。
「何がしたかったのかわっかんないけどさ、下校時刻ぎりぎりだよ。校門しまる前に一緒に帰ろう」
「答え合わせはいいのかい?」
「帰りながらでもできるだろ」
「帰ってる間に終わるといいけどね」
そういいながら、赤色は立ち上がった。ぶらぶらさせていた足の感触を確かめるように、数回地面を踏みしめる。
「久方ぶりに自分の足で地面を踏んだよ。大地は偉大だなぁ」
「さっきまでケツに敷いてただろうが」
「私は全人類を尻にしく女だからね。校舎程度は軽々踏んづけてしまうのさ」
「自信の方向性が空中分解してませんか」
もう全然うまいこと言えてなかった。
さっきのパンツ騒ぎといい――これで赤色も女の子だから、普段はそんなにベラベラ下ネタには走らないんだけど、どこか焦ってるというか、興奮しているというか。なんとなく、らしくない感じを受ける。
薄笑いの感じも、気持ちいつもより上向きだった。
(いや)
(前向きって感じかな)
ベクトルが前向き。
なんかうれしそうな、気のせいかもしれないけど。
それに方向性だけでなく、勢いも格段に高まっているような。
並んで階段を下りる赤色の顔色を伺おうとして、ふと手もとに視線が動く。
「あれ、赤色。荷物は?」
赤色は手ぶらだった。
「どっかに置いてあんのか? 取りによるんなら急がないとまずいけど」
「いや、私は手ぶらで登校してるんだ」
「なにそのスタイル!?」
かっけぇ!?
「手元が重たいと気分まで重たくなるじゃないか。登下校のときって私は基本一人だからね。せめて気分くらいは軽く楽しくいたいのさ」
「その告白には多分に悲しいものが含まれてるな……」
友達いないんだろうか。
当たり前か。と赤色の服装を眺めて僕は嘆息した。
「ま、とはいっても高校に入ってからはコッチーが良く一緒に帰ってくれるからね。友達っていいもんだねぇ。百人欲しいな」
「知ってるか、百人ってのは物置に乗っちゃう程度の人数なんだぜ」
「あのCMの席次って偉い人順らしいねぇ。初めて知ったときは物置業界も世知辛いんだなぁって私は悲しくなっちゃったよ」
「物置業界ってどこだよ、その狭い世界。――で、百人の友達と富士山頂でも目指すのか?」
「あれ、子供の割に目標が大きいよね」
「百人の小学一年生が富士山に果敢にアタックする図……」
「壮絶だね」
やっぱりいいや。と赤色は言う。
「百人もいたらいたで管理に手間取りそうだけどさ」
「そこで管理って言葉がさっと出てくる辺りに、お前の登下校風景の原因があると思うんだ……」
「いいじゃないか、今日は伏目君と一緒だし」
その台詞に、僕は少し動揺してしまった。
校舎はさっきにもまして真っ赤に染まり、ますます日常離れした風景になっている。――いつも見える場所が影になり、陰になっている部分に日が当たっているというだけで、建物の印象がこんなにも変わる。
ましてや隣にいるのが赤色だ。
真っ赤なコートを着た、常人離れした言動の、いつでも薄笑いの同級生。
それまでふらふらしていた赤色が、突然ピタリと僕の隣についた。身長差とコートのフードのせいで、赤色のうっすら笑う口元しか見えない。
「女友達はコッチーがしてくれるし、今日は伏目君と一緒に帰れるし。私はうれしいな」
「……ああ、そうか」
なんだか、酷くおかしなところに迷い込んでしまったような気がする。
違うか。
おかしいのは、赤色だ。
なんだかやけに、しおらしい。
さっきまであんなだった癖に。
「赤って色はさ」
と、赤色はつぶやいた。
「じっと見てると、人を狂わすんだってさ」
「……」
「オカシクなっちゃうんだってさ」
「……それで?」
「別に」
階段を下りきって、下駄箱のすぐそこまで来ている。
「みんな、こういう風に真っ赤っかな世界もいいな、って、思っただけさ」
「――そうか」
僕はなんとなく、こういう赤色もいいな、と思った。
不適に毒舌を吐くでもなく、他愛無い話に大騒ぎするでもなく、しゅんとした雰囲気の赤色は、結構、癪なことに、可愛いところが、あったのだ。
けんかしたことの無い奴は友達じゃないが、赤色と僕は毎日のようにけんかしていて。
僕と赤色は、友達だった。
「僕もさ」
下駄箱から外靴を出して履き替えながら、すこし照れくさいながらも、赤色に話しかけた。
「そんなことをさ
「そんなことを思ってたよ。赤色」
「そうかい」
そうかい、そうかい。と赤色はくりかえし、僕達は妙に安心した気持ちを抱きあった。
(なんか、あれだ……不覚)
(いい雰囲気って、こういうののことなのかもしんない)
女の子との付き合いなんてろくに無いから、判然としないけれど。
悪い気分ではなかった。
「なんか、お前とこういう感じになるの悔しいわ」
「私は楽しいのに」
「嬉しいんじゃなくて?」
「そういう抜き差しならないことを言うと逃げられてしまうからね――君もなかなか、抜き差しならないことを言うけどさ。なんちゃら遊戯ってわけかい?」
「そんなハイソな遊びは縁がないな」
縁もないし余裕もない。
靴を外履きに換えて(赤色が僕の靴と他人の靴を「しゃっふる」とかやって遊びやがったりもしたけど)赤色と肩を並べて校舎を出る。後五分もすれば校門がしまって、職員室で軽く説教されないと外にも出られなくなってしまうけれども、ここまできてしまえばその心配もない。なんせ校門はちょっと左に出てすぐの場所だ。
その校門に、パトカーが留まっていた。
「え……?」
僕は思わず立ち止まってしまう。
「ん? どうしたんだ伏目君」
「いや、公務員さんが校門で臨戦態勢をさ」
「別に悪いことをしたんじゃないんだから、固まらなくてもいいだろ」
「そういうわけじゃなくて、なんだ、何があったんだろ」
「私が呼んだんだ」
こともなげに赤色は言って、大きく一歩前に踏み出し、僕に向かって振り向いた。
「私はあれに乗らないといけないからさ、今日はここまでだ伏目君。答え合わせ、間に合わなくて悪かったね」
答え合わせはいいのかい?
帰りながらでもできるだろ。
帰ってる間に終わるといいけどね。
「赤色――?」
「一緒に帰れて、嬉しかったよ、伏目君」
赤色はもう一度、くるりと向きを変えて数歩前に進み、ふと、思い出したように僕に行った。
「で、君、どうするんだい
「都日君が死んでたけど」
数秒の間だけ思考して。
僕は階段を駆け上がった。
そこで。
後書き
作者:あるるかん |
投稿日:2011/12/16 02:14 更新日:2011/12/16 02:14 『レッド・プロファイル』の著作権は、すべて作者 あるるかん様に属します。 |
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