作品ID:1979
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REincarnation
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
目を覚ますと、そこは夢の世界だった。
1. 始まり
目次 | 次の話 |
目が覚めると、大理石の天井が目に入った。私は、持っているはずのないベッドの上で寝ていた。
体を起こして、辺りを見回してみる。景色が反射するほど磨かれた机、机とセットで置かれている社長室にありそうなイス、白い毛のウサギのぬいぐるみ……何から何まで昨日とは違っていた。窓からは、見慣れない景色が広がっている。ここは私の家ではない。
ベッドから降りて、ドアから部屋の外へ出ようとした瞬間、扉が開き、髭を生やしたおじいさんが現れた。七三分けの髪と髭共にグレー。スーツを着ており、姿勢も真っ直ぐだった。
「お、お嬢様!どうされたのですか!?怖い夢でも見られたのですか!?」
おじいさんは、こちらにハンカチを差し出した。これで、顔を拭けということだろうか。
ハンカチを受け取り、顔を拭いてみる。拭き取った後のハンカチを見てみると、シミが出来ていた。それを見て初めて、自分の頬に涙が流れていることに気が付いた。
ハンカチを返すと、おじいさんは深々と頭を下げた。
「カザハお嬢様、悩みごとならこのバスティンチにお任せあれ」
バスティンチと名乗ったこの老人の言葉を信用し、頼ってみることにした。
「えっと、バスティンチさん。色々言いたいことがあって――」
私は、自分の記憶にある素性をバスティンチさんに話した。名前は『カザハ』ではなく『スカトラ』であること、自分はお嬢様などではなく貧困な家庭の一人娘にしか過ぎないことなどだ。
この2つについて話したところで、扉から女性が1人部屋に入ってきた。純白のワンピースと同色の素肌を身にまとい、綺麗な金色の長髪をした美しい女性だった。胸には鍵の形をしたネックレスを付けている。
バスティンチさんはその女性に気づくと、すぐにそちらへ歩み寄り耳打ちをした。女性はバスティンチさんの話を聴き、少し考え込んだ。
「……分かったわ。少しイタい時期に突入したみたいね」
どうやら、中二病だと思われているらしい。私の言葉を信用するわけもなく、女性の提案で家族会議を開くことになった。
バスティンチさんの後に付いていくと、大きい部屋に案内された。部屋には、縦長のテーブルと、それに沿うようにして10個のイスが並んでいた。奥のイスには、丸太のような太さの腕を持つマッチョな男、部屋に入ってきた女性が若返ったような15、6歳位の少女の2人が向かい合うようにして座っていた。
バスティンチさんは、少女の隣に座るよう、私に指示した。そして、部屋に入ってきた女性を、筋肉隆々の男の隣に座らせた。そして、バスティンチさんは部屋を後にした。
バスティンチさんがいなくなったのを確認すると、男が机を叩いて、こちらを見た。その目つきはとても鋭く、嘘をついたら殺されそうな勢いだった。
「カザハが思春期に入ったと聞いたが、本当か?」
男は大真面目な口調で言うと、私の目を真っすぐ見つめて口を閉じた。
仕方ない。私は無駄だとは思いつつも、バスティンチさんにしたものと全く同じ説明をした。私の隣に座っている少女は、先ほどの女性と同じリアクションをしていたが、その正面のマッチョ男の反応は違った。彼は、少し考えた後こう言った。
「……なるほど、分かった。では、改めて自己紹介させてもらおう。私は、コクゲン・アラウド。君――いや、君の体の持ち主であるカザハ・アラウドの父親だ。そして――」
「アキハ・アラウドよ。あなたの母親よ」
先ほど部屋に入ってきた女性、アキハさんは、コクゲンさんの紹介を受ける前に自己紹介した。そして、私の隣の少女に目で合図を出した。合図を受けた少女は、こちらを向いてけだるそうに自己紹介をした。
「グリー・アラウド。あなたの姉。これでいいかしら?」
私の言葉を信頼してはいないらしく、グリーはすぐに席を立って、部屋を出ていった。どうやら、打ち解けるには時間がかかりそうな相手だ。
コクゲンさんは、バスティンチさんがアラウド家の執事であることを補足すると、一呼吸おいてから再び話し始めた。
「率直に言うと、君の言うことはまだ信じられない。だが、もし本当だとしたら、世界中に衝撃を与えることになる。そこで、『スカトラ』さんには申し訳ないが、しばらくは『カザハ』として生活してもらえないだろうか?」
賢明な判断だ。仮に外部に漏れたとしても、私の話は信用されないだろうし、先ほどのように中二病として処理されるのがオチだろう。私は、コクゲンさんの提案に対し、首を縦に振った。
だが、同時に不安が出てきた。
「ええ、構いません。ですが、この国の常識が違う場合が――」
「それは問題ない。アキハを教育係として任命する。本当は、グリーにお願いしようかとも思ったんだがな。頼めるか?」
「ええ、分かりました。改めてよろしくね、カザハ?」
私はアキハさんに頭を下げ、よろしくお願いしますと挨拶をした。
これは、心強いサポートだ。先ほどとは違い、アキハさんはこちらを信用してくれているようだし、安心できるだろう。
コクゲンさんは、私たちが合意したのを確認すると、補足した。
「『スカトラ』さんとしてのお話は、私の仕事の後でまた訊きたい。それと、敬語でなくても大丈夫だから、実家だと思ってくつろぎたまえ」
実際に実家だがな、と言ってコクゲンさんは笑った。見た目ほど、怖い人物ではないようだ。彼はご機嫌なまま部屋を出ていった。
こうして、アラウド家の家族会議は終了した。私は、アキハさんに付いてまわることにした。
不安があるとすれば、グリーとの関係性だが、これから長い付き合いになりそうだし、いずれは解決するだろう。ここまで来たら、深くは考えないようにした。
アキハさんと、全ての部屋をまわって歩いた。私のどんな些細な質問にも、彼女は笑顔で答えてくれた。良いお母さんだ。
途中、庭師のフエートさんに出会った。彼は職人気質で、この世界の「教養人」をあまり好まないらしく、私やアキハさんにつっけんどんな態度を取った。少し嫌な奴だが、仕事は真面目にこなしているそうなので、別の機会に仲良くなることにした。
一通り部屋を案内された後、私はアキハさんの昼食づくりを手伝うことにした。執事であるバスティンチさんがやらないのか、と訊くと、彼女は、
「彼、家事はほぼ完璧なんだけど、料理だけは下手くそなのよ」
とのことだった。天は二物を与えずとは、よく言ったものだ。
アキハさんと台所に立った。彼女から、グリーのエプロンを渡された。先ほどの態度に似合わず、ショッキングピンクでハートが沢山描かれているものだった。
アキハさんも緑のエプロンを身につけ、調理を開始した。彼女が指を鳴らすと、コンロの上に置いてあった鍋の中身が沸騰した。
「アキハさん!今、何したんですか!?」
「熱を加えたのよ……って、その様子だと、あなたは魔法が分からないみたいね」
魔法。その言葉の響きに、気持ちが舞い上がった。ファンタジー小説でしか見たことや聞いたことがない単語を、目の前の妙齢の女性が言ったのだ。頬を抓って、夢ではないことを確かめた。
「もしかして、私も魔法が使えるんですか!?」
「多分ね。後で色々試してみなさい。ちなみに、私が今使ったのは、『熱』を操る魔法よ」
素晴らしい。素直にそう思った。夢にまで見た世界が、眼前に広がっているのだ。料理のことを忘れかけるくらいに、テンションが上がった。
「ほら、カザハ。やるわよ。まずは、野菜を切って――」
私はアキハさんの声で我に返り、料理の手伝いを始めた。
アキハさんとバスティンチさんと昼食をとった後、アキハさんはバスティンチさんに付いていくよう指示した。バスティンチさんも、嫌な顔1つせずに了承してくれた。
アキハさんは何やら急いで、食堂を後にした。バスティンチさんはそれを気にする様子もなかったので、彼の部屋の整理を手伝いながら訊いてみた。
「――そういえば、アキハさんってあんなに急いで、どうしたんでしょうか?」
「あれはですね、お嬢様。宗教の礼拝でございます。奥様は毎日、午後3時になると、礼拝をするため部屋に籠るのです」
「なるほど」
宗教と聞くと、あまり良いイメージはないが、ファンタジーの世界ならありがちだ。先ほどの魔法と、なにか関係があったりするのだろうか。
少し妄想をしてしまったが、部屋の整理の手伝いを再開した。
すると、バスティンチさんが手を止めた。横にいた私が彼の方に目を向けると、彼の停滞の原因がボロボロになったタンスにあることが分かった。
「バスティンチさん、そのタンスどうするんですか?」
「実はですね、処分しようと思っているのですが、いかんせん私1人では運び出せないのです。旦那様にお手伝いをお願いするしかないみたいです」
「ああ……」
タンスを運びだすにはコクゲンさんの力がいるが、コクゲンさんは仕事で不在であり、タンスの処理が終わらないと部屋の整理が出来ないのだ。これは困った。
バスティンチさんは頭を掻きながら、ふとぼやいた。
「『怪力』の魔法でもあれば良かったのですけど……」
「『怪力』?」
その単語を聞いた瞬間、私の耳に男の声が聞こえてきた。バスティンチさんでもコクゲンさんでもない声だった。
『魔法を使え……』
私はその声を聞き取り、続きを待ったが、その後に声が聞こえることはなかった。バスティンチさんには聞こえていないらしく、頭からクエスチョンマークを出していた。
もし、今の声が信用に値するものであるなら、この状況下での魔法の効果は1つだけだ。私はバスティンチさんに提案をした。
「あの、1つ試してみてもいいですか?」
「え、ええ。構いませんが、体を痛めないように注意してください」
バスティンチさんは端によって、取っ手の部分を手のひらで示した。私はそこに手をかけ、深呼吸をして精一杯の力を込めた。
するとまたもや、先ほど同じ男の声が耳元で聞こえた。
『んんおおおおお!』
男が踏ん張る声に笑いかけたが、タンスが持ちあがった。私の力だけではなく、声の男がアシストしてくれてるようだ。
私は今、魔法を使っている、その実感が湧いてきた。バスティンチさんも驚いてくれている。
「お、お嬢様!そんな魔法をいつの間に習得したのですか!?」
「今、声が聞こえたんです。とりあえず、タンス出しちゃいますね」
タンスを部屋から出した後、改めてバスティンチさんに説明をした。男の指示に従ったら、自然に持ちあがったことを、喜々として語った。
バスティンチさんは、最初こそ喜んでいたものの、話が終わる頃には眉をひそめていた。
「――お嬢様。お言葉ですが、魔法はあまり使わない方が良いかと思います」
「え?」
「奥様から説明を受けてないみたいですね。魔法には使用制限があって、使いすぎるとある日突然、使えなくなるのですよ。天からの贈り物ですから、大事になさってください」
「は、はあ」
バスティンチさんは、タンスを廊下の端に押し込み、掃除を再開した。
ファンタジー小説とは違い、使い放題というわけではなさそうだ。ここが現実なのだと再確認して、掃除の手伝いをした。
掃除の手伝いが終わり、部屋で休むため部屋へ向かった。途中で、グリーが誰かの部屋を覗いているのが見えた。部屋の主は、アキハさんだ。部屋の明かりはロウソク一本のみで、アキハさんは胸のネックレスに話しかけている様子だった。
声をかけようと近づくと、彼女は振り向きもせず、片手で私の口を抑えた。そして、小声でこう言った。
『静かにして。それと、お母様に言ったら殺す』
その言葉に冗談が含まれていないことを察し、私は彼女の手を振り払い、その場を後にした。グリーに追いかけられるかと思ったが、追ってくる様子もなく、アキハさんの部屋の覗きを続けていた。
眠気がふとやって来た。そこで、ベッドに入り、休憩をすることにした。
慣れない環境で疲れていたせいか、夢を見ることもなく眠りについた。
体を起こして、辺りを見回してみる。景色が反射するほど磨かれた机、机とセットで置かれている社長室にありそうなイス、白い毛のウサギのぬいぐるみ……何から何まで昨日とは違っていた。窓からは、見慣れない景色が広がっている。ここは私の家ではない。
ベッドから降りて、ドアから部屋の外へ出ようとした瞬間、扉が開き、髭を生やしたおじいさんが現れた。七三分けの髪と髭共にグレー。スーツを着ており、姿勢も真っ直ぐだった。
「お、お嬢様!どうされたのですか!?怖い夢でも見られたのですか!?」
おじいさんは、こちらにハンカチを差し出した。これで、顔を拭けということだろうか。
ハンカチを受け取り、顔を拭いてみる。拭き取った後のハンカチを見てみると、シミが出来ていた。それを見て初めて、自分の頬に涙が流れていることに気が付いた。
ハンカチを返すと、おじいさんは深々と頭を下げた。
「カザハお嬢様、悩みごとならこのバスティンチにお任せあれ」
バスティンチと名乗ったこの老人の言葉を信用し、頼ってみることにした。
「えっと、バスティンチさん。色々言いたいことがあって――」
私は、自分の記憶にある素性をバスティンチさんに話した。名前は『カザハ』ではなく『スカトラ』であること、自分はお嬢様などではなく貧困な家庭の一人娘にしか過ぎないことなどだ。
この2つについて話したところで、扉から女性が1人部屋に入ってきた。純白のワンピースと同色の素肌を身にまとい、綺麗な金色の長髪をした美しい女性だった。胸には鍵の形をしたネックレスを付けている。
バスティンチさんはその女性に気づくと、すぐにそちらへ歩み寄り耳打ちをした。女性はバスティンチさんの話を聴き、少し考え込んだ。
「……分かったわ。少しイタい時期に突入したみたいね」
どうやら、中二病だと思われているらしい。私の言葉を信用するわけもなく、女性の提案で家族会議を開くことになった。
バスティンチさんの後に付いていくと、大きい部屋に案内された。部屋には、縦長のテーブルと、それに沿うようにして10個のイスが並んでいた。奥のイスには、丸太のような太さの腕を持つマッチョな男、部屋に入ってきた女性が若返ったような15、6歳位の少女の2人が向かい合うようにして座っていた。
バスティンチさんは、少女の隣に座るよう、私に指示した。そして、部屋に入ってきた女性を、筋肉隆々の男の隣に座らせた。そして、バスティンチさんは部屋を後にした。
バスティンチさんがいなくなったのを確認すると、男が机を叩いて、こちらを見た。その目つきはとても鋭く、嘘をついたら殺されそうな勢いだった。
「カザハが思春期に入ったと聞いたが、本当か?」
男は大真面目な口調で言うと、私の目を真っすぐ見つめて口を閉じた。
仕方ない。私は無駄だとは思いつつも、バスティンチさんにしたものと全く同じ説明をした。私の隣に座っている少女は、先ほどの女性と同じリアクションをしていたが、その正面のマッチョ男の反応は違った。彼は、少し考えた後こう言った。
「……なるほど、分かった。では、改めて自己紹介させてもらおう。私は、コクゲン・アラウド。君――いや、君の体の持ち主であるカザハ・アラウドの父親だ。そして――」
「アキハ・アラウドよ。あなたの母親よ」
先ほど部屋に入ってきた女性、アキハさんは、コクゲンさんの紹介を受ける前に自己紹介した。そして、私の隣の少女に目で合図を出した。合図を受けた少女は、こちらを向いてけだるそうに自己紹介をした。
「グリー・アラウド。あなたの姉。これでいいかしら?」
私の言葉を信頼してはいないらしく、グリーはすぐに席を立って、部屋を出ていった。どうやら、打ち解けるには時間がかかりそうな相手だ。
コクゲンさんは、バスティンチさんがアラウド家の執事であることを補足すると、一呼吸おいてから再び話し始めた。
「率直に言うと、君の言うことはまだ信じられない。だが、もし本当だとしたら、世界中に衝撃を与えることになる。そこで、『スカトラ』さんには申し訳ないが、しばらくは『カザハ』として生活してもらえないだろうか?」
賢明な判断だ。仮に外部に漏れたとしても、私の話は信用されないだろうし、先ほどのように中二病として処理されるのがオチだろう。私は、コクゲンさんの提案に対し、首を縦に振った。
だが、同時に不安が出てきた。
「ええ、構いません。ですが、この国の常識が違う場合が――」
「それは問題ない。アキハを教育係として任命する。本当は、グリーにお願いしようかとも思ったんだがな。頼めるか?」
「ええ、分かりました。改めてよろしくね、カザハ?」
私はアキハさんに頭を下げ、よろしくお願いしますと挨拶をした。
これは、心強いサポートだ。先ほどとは違い、アキハさんはこちらを信用してくれているようだし、安心できるだろう。
コクゲンさんは、私たちが合意したのを確認すると、補足した。
「『スカトラ』さんとしてのお話は、私の仕事の後でまた訊きたい。それと、敬語でなくても大丈夫だから、実家だと思ってくつろぎたまえ」
実際に実家だがな、と言ってコクゲンさんは笑った。見た目ほど、怖い人物ではないようだ。彼はご機嫌なまま部屋を出ていった。
こうして、アラウド家の家族会議は終了した。私は、アキハさんに付いてまわることにした。
不安があるとすれば、グリーとの関係性だが、これから長い付き合いになりそうだし、いずれは解決するだろう。ここまで来たら、深くは考えないようにした。
アキハさんと、全ての部屋をまわって歩いた。私のどんな些細な質問にも、彼女は笑顔で答えてくれた。良いお母さんだ。
途中、庭師のフエートさんに出会った。彼は職人気質で、この世界の「教養人」をあまり好まないらしく、私やアキハさんにつっけんどんな態度を取った。少し嫌な奴だが、仕事は真面目にこなしているそうなので、別の機会に仲良くなることにした。
一通り部屋を案内された後、私はアキハさんの昼食づくりを手伝うことにした。執事であるバスティンチさんがやらないのか、と訊くと、彼女は、
「彼、家事はほぼ完璧なんだけど、料理だけは下手くそなのよ」
とのことだった。天は二物を与えずとは、よく言ったものだ。
アキハさんと台所に立った。彼女から、グリーのエプロンを渡された。先ほどの態度に似合わず、ショッキングピンクでハートが沢山描かれているものだった。
アキハさんも緑のエプロンを身につけ、調理を開始した。彼女が指を鳴らすと、コンロの上に置いてあった鍋の中身が沸騰した。
「アキハさん!今、何したんですか!?」
「熱を加えたのよ……って、その様子だと、あなたは魔法が分からないみたいね」
魔法。その言葉の響きに、気持ちが舞い上がった。ファンタジー小説でしか見たことや聞いたことがない単語を、目の前の妙齢の女性が言ったのだ。頬を抓って、夢ではないことを確かめた。
「もしかして、私も魔法が使えるんですか!?」
「多分ね。後で色々試してみなさい。ちなみに、私が今使ったのは、『熱』を操る魔法よ」
素晴らしい。素直にそう思った。夢にまで見た世界が、眼前に広がっているのだ。料理のことを忘れかけるくらいに、テンションが上がった。
「ほら、カザハ。やるわよ。まずは、野菜を切って――」
私はアキハさんの声で我に返り、料理の手伝いを始めた。
アキハさんとバスティンチさんと昼食をとった後、アキハさんはバスティンチさんに付いていくよう指示した。バスティンチさんも、嫌な顔1つせずに了承してくれた。
アキハさんは何やら急いで、食堂を後にした。バスティンチさんはそれを気にする様子もなかったので、彼の部屋の整理を手伝いながら訊いてみた。
「――そういえば、アキハさんってあんなに急いで、どうしたんでしょうか?」
「あれはですね、お嬢様。宗教の礼拝でございます。奥様は毎日、午後3時になると、礼拝をするため部屋に籠るのです」
「なるほど」
宗教と聞くと、あまり良いイメージはないが、ファンタジーの世界ならありがちだ。先ほどの魔法と、なにか関係があったりするのだろうか。
少し妄想をしてしまったが、部屋の整理の手伝いを再開した。
すると、バスティンチさんが手を止めた。横にいた私が彼の方に目を向けると、彼の停滞の原因がボロボロになったタンスにあることが分かった。
「バスティンチさん、そのタンスどうするんですか?」
「実はですね、処分しようと思っているのですが、いかんせん私1人では運び出せないのです。旦那様にお手伝いをお願いするしかないみたいです」
「ああ……」
タンスを運びだすにはコクゲンさんの力がいるが、コクゲンさんは仕事で不在であり、タンスの処理が終わらないと部屋の整理が出来ないのだ。これは困った。
バスティンチさんは頭を掻きながら、ふとぼやいた。
「『怪力』の魔法でもあれば良かったのですけど……」
「『怪力』?」
その単語を聞いた瞬間、私の耳に男の声が聞こえてきた。バスティンチさんでもコクゲンさんでもない声だった。
『魔法を使え……』
私はその声を聞き取り、続きを待ったが、その後に声が聞こえることはなかった。バスティンチさんには聞こえていないらしく、頭からクエスチョンマークを出していた。
もし、今の声が信用に値するものであるなら、この状況下での魔法の効果は1つだけだ。私はバスティンチさんに提案をした。
「あの、1つ試してみてもいいですか?」
「え、ええ。構いませんが、体を痛めないように注意してください」
バスティンチさんは端によって、取っ手の部分を手のひらで示した。私はそこに手をかけ、深呼吸をして精一杯の力を込めた。
するとまたもや、先ほど同じ男の声が耳元で聞こえた。
『んんおおおおお!』
男が踏ん張る声に笑いかけたが、タンスが持ちあがった。私の力だけではなく、声の男がアシストしてくれてるようだ。
私は今、魔法を使っている、その実感が湧いてきた。バスティンチさんも驚いてくれている。
「お、お嬢様!そんな魔法をいつの間に習得したのですか!?」
「今、声が聞こえたんです。とりあえず、タンス出しちゃいますね」
タンスを部屋から出した後、改めてバスティンチさんに説明をした。男の指示に従ったら、自然に持ちあがったことを、喜々として語った。
バスティンチさんは、最初こそ喜んでいたものの、話が終わる頃には眉をひそめていた。
「――お嬢様。お言葉ですが、魔法はあまり使わない方が良いかと思います」
「え?」
「奥様から説明を受けてないみたいですね。魔法には使用制限があって、使いすぎるとある日突然、使えなくなるのですよ。天からの贈り物ですから、大事になさってください」
「は、はあ」
バスティンチさんは、タンスを廊下の端に押し込み、掃除を再開した。
ファンタジー小説とは違い、使い放題というわけではなさそうだ。ここが現実なのだと再確認して、掃除の手伝いをした。
掃除の手伝いが終わり、部屋で休むため部屋へ向かった。途中で、グリーが誰かの部屋を覗いているのが見えた。部屋の主は、アキハさんだ。部屋の明かりはロウソク一本のみで、アキハさんは胸のネックレスに話しかけている様子だった。
声をかけようと近づくと、彼女は振り向きもせず、片手で私の口を抑えた。そして、小声でこう言った。
『静かにして。それと、お母様に言ったら殺す』
その言葉に冗談が含まれていないことを察し、私は彼女の手を振り払い、その場を後にした。グリーに追いかけられるかと思ったが、追ってくる様子もなく、アキハさんの部屋の覗きを続けていた。
眠気がふとやって来た。そこで、ベッドに入り、休憩をすることにした。
慣れない環境で疲れていたせいか、夢を見ることもなく眠りについた。
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作者:惨文文士 |
投稿日:2018/04/15 00:40 更新日:2018/05/26 22:42 『REincarnation』の著作権は、すべて作者 惨文文士様に属します。 |
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