作品ID:1991
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輪廻のセンタク
小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
2
前の話 | 目次 | 次の話 |
ここに来てすぐのこと。
自分がどうしてここにいるのか、それだけがぼんやりとわかっていた。意識がはっきりしてくると、目の前に誰かが座っているのがわかった。
わたしは、さっき死んだ。だから目の前にいるのは神様なのだろう。
その人はわたしと目が合うと、すぐに地に着きそうなほど頭を下げた。
「すまなかった。」
「――え、そんな、神様。顔を上げてください。」
「上げるわけにはいかない。」
「神様に頭を下げるのはわたしのほうです。こうやって体を離れたわたしの魂を、廻りの中に導いてくださるのですから――。」
「そこなのだ。」
カンさんはおどおどしているわたしに言った。
「お前の魂は、そもそも人間として生まれる予定ではなかったのだ。」
「……へ?」
「わたしは、お前の魂の振り分けを間違えたのだ。」
「……。」
頭が真っ白になった。
少し前まで、わたしは人間だった。ふつうの女の子で、ちょっと変わっていることと言えば、ほかの子と違って占いで前世が見えなかったことくらいだ。
わたしのいた世界で輪廻が信じられていたのは占いの効果が大きかった。人の性格は魂の性質によるから、前世が何をしていたか知ることでその子の興味を持つことや進むべき道というのはある程度分かる。だから子供は五歳くらいから頻繁に占いに行っては前世のことを教えてもらうのだ。
占い師は国家試験に受かった公務員で、みんなのあこがれの職業だった。
そのなかで、わたしだけは何度占いに行っても前世が見えなかった。
どんな占い師に占ってもらってもだめだった。もやがかかったように何も見えないのだという。
それで最終的に、親はわたしを占いの研究をしている機関の占い師のところへ連れて行った。めったに人前に出る人ではないけれど、より正確な前世の記憶を引き寄せてくれると噂の人だった。
わたしも親も、これでやっと前世がわかると思っていた。ところがその人でも、わたしの前世はわからないと言った。
落ち込む両親を励ましながら帰ろうとしたわたしを、その人は呼びとめた。
「この子の人生は前途多難となる事でしょう。少しだけ、言葉を授けたいと思います。」
そう言われて両親は部屋の外に出された。
二人きりになったところで、初老の占い師はわたしの肩をつかんだ。
「あの?」
「お前の前世が他の占い師に見えないはずだ。彼らは人間の前世をみるようにしか訓練されていないからね。」
「え?」
「お前の前世は人間ではない。猫だよ。」
どきりとした。
だって、わたしにはその記憶があったから。
勘のいい人は占いをしなくても、夢という形で前世の記憶を見ることがある。わたしは夢のなかでしなやかな体を持つ黒猫の姿を何度も見ていた。わたしと黒猫の間に必ず鏡があったことも。
頑張ってくれている両親の手前、前世を頼りにしているみんなの手前、誰にも言えなかったことだ。
それを、言い当てられた。
「……ほんとうですか? ほんとうに、わたしの前世は猫なのですか?」
「わかっていたのかい?」
「はい。」
「誰かに言った?」
「いいえ。誰にも言っていません。言えませんでした……。」
占い師は「それでいい。」とわたしを抱きしめた。
「お前はいい子だね。大丈夫。自分を信じて生きなさい。なにかあれば、わたしを頼りなさい。」
わたしはボロボロ泣いた。初めてできたわたしの理解者だった。
でも、その人にもう一度会うことは叶わなかった。
その後すぐに、急な衰弱が始まった。わたしはみるみるうちに病的になり、一か月後には息を引き取った。十五になる半年前のことだ。
今思えば、長生きの猫くらいの年齢だった。
自分がどうしてここにいるのか、それだけがぼんやりとわかっていた。意識がはっきりしてくると、目の前に誰かが座っているのがわかった。
わたしは、さっき死んだ。だから目の前にいるのは神様なのだろう。
その人はわたしと目が合うと、すぐに地に着きそうなほど頭を下げた。
「すまなかった。」
「――え、そんな、神様。顔を上げてください。」
「上げるわけにはいかない。」
「神様に頭を下げるのはわたしのほうです。こうやって体を離れたわたしの魂を、廻りの中に導いてくださるのですから――。」
「そこなのだ。」
カンさんはおどおどしているわたしに言った。
「お前の魂は、そもそも人間として生まれる予定ではなかったのだ。」
「……へ?」
「わたしは、お前の魂の振り分けを間違えたのだ。」
「……。」
頭が真っ白になった。
少し前まで、わたしは人間だった。ふつうの女の子で、ちょっと変わっていることと言えば、ほかの子と違って占いで前世が見えなかったことくらいだ。
わたしのいた世界で輪廻が信じられていたのは占いの効果が大きかった。人の性格は魂の性質によるから、前世が何をしていたか知ることでその子の興味を持つことや進むべき道というのはある程度分かる。だから子供は五歳くらいから頻繁に占いに行っては前世のことを教えてもらうのだ。
占い師は国家試験に受かった公務員で、みんなのあこがれの職業だった。
そのなかで、わたしだけは何度占いに行っても前世が見えなかった。
どんな占い師に占ってもらってもだめだった。もやがかかったように何も見えないのだという。
それで最終的に、親はわたしを占いの研究をしている機関の占い師のところへ連れて行った。めったに人前に出る人ではないけれど、より正確な前世の記憶を引き寄せてくれると噂の人だった。
わたしも親も、これでやっと前世がわかると思っていた。ところがその人でも、わたしの前世はわからないと言った。
落ち込む両親を励ましながら帰ろうとしたわたしを、その人は呼びとめた。
「この子の人生は前途多難となる事でしょう。少しだけ、言葉を授けたいと思います。」
そう言われて両親は部屋の外に出された。
二人きりになったところで、初老の占い師はわたしの肩をつかんだ。
「あの?」
「お前の前世が他の占い師に見えないはずだ。彼らは人間の前世をみるようにしか訓練されていないからね。」
「え?」
「お前の前世は人間ではない。猫だよ。」
どきりとした。
だって、わたしにはその記憶があったから。
勘のいい人は占いをしなくても、夢という形で前世の記憶を見ることがある。わたしは夢のなかでしなやかな体を持つ黒猫の姿を何度も見ていた。わたしと黒猫の間に必ず鏡があったことも。
頑張ってくれている両親の手前、前世を頼りにしているみんなの手前、誰にも言えなかったことだ。
それを、言い当てられた。
「……ほんとうですか? ほんとうに、わたしの前世は猫なのですか?」
「わかっていたのかい?」
「はい。」
「誰かに言った?」
「いいえ。誰にも言っていません。言えませんでした……。」
占い師は「それでいい。」とわたしを抱きしめた。
「お前はいい子だね。大丈夫。自分を信じて生きなさい。なにかあれば、わたしを頼りなさい。」
わたしはボロボロ泣いた。初めてできたわたしの理解者だった。
でも、その人にもう一度会うことは叶わなかった。
その後すぐに、急な衰弱が始まった。わたしはみるみるうちに病的になり、一か月後には息を引き取った。十五になる半年前のことだ。
今思えば、長生きの猫くらいの年齢だった。
後書き
作者:水沢妃 |
投稿日:2018/05/15 12:31 更新日:2018/05/15 12:31 『輪廻のセンタク』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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