作品ID:1994
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輪廻のセンタク
小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
5
前の話 | 目次 | 次の話 |
「――おや、珍しいものがいる。」
聞き慣れない声に顔を上げると、知らない男の人と目が合った。カンさんと同じゆったりとした服。でも、髪は短くて、太陽を浴びてきらきらしているような輝きを持っていた。
その人が何なのか、頭の中で「わからない」と「わかる」が混濁する。
「なあ、この猫はなんなんだい?」
隣で寝転がっていたカンさんがだるそうに起き上がった。
「久しいな。なんか用か。」
「つれないねえ。いや、流れが少しばかり重なっただけさ。」
「だったらさっさと持ち場に戻れ。」
カンさんがしゃべっている間に、わたしはそろりと移動した。カンさんの背中に隠れてちらりと顔を出す。すると男の人は目を見開いた。
「――おい。本当にこれは何なんだ?」
もう慣れてしまったからわたしもカンさんも気にしていないけれど、やっぱり猫と人の姿を行き来するのは物珍しいらしい。
表情は見えないけれど、カンさんは答えたくなさそうな顔をしているだろう。おおむね「めんどくさい」と思っていることは短い付き合いでもわかる。
元からよく知った仲なのか、男の人は辛坊強くカンさんの言葉を待っている。わたしはその人が気の毒になって、カンさんの背中をつっついた。
ため息に、肩が揺れる。
「……迷魂(めいこん)だよ。」
男の人がぴしゃりと頭を叩く。
「なんてこった。」
カンさんはわたしの頭に手を置く。人の姿なのにおもわず「にゃっ」と声が出た。
「こいつは猫の魂ながら人に生まれ、そして死んだ。今は猫になるか、人になるか思案中だ。」
「そんなもの、元あるべき流れに返すのが筋だろう?」
「わたしの一存では決められない。」
男の人がその場にどすんと腰を据えた。
「報告案件なんじゃないか?」
「そうかもな。」
「なぜ隠し立てする?」
カンさんは何も答えない。
話についていけないわたしはただただ黙っていた。頭上には相変わらず魂が輝いている。
わたしはその輝きの向こうに、別の流れを見つけた。天の川にたとえたことがあるけれど、このあたりの魂は近すぎて海を見ているような心地で、遠くにあるその流れはまさしく川だった。
さっき男の人が言っていた流れが重なる、というのはああいうことなのだろうか。
だとすると、あれも輪廻の流れの一部なのか。
途方もない想像をして、頭がくらくらしてきた。
そのとき、ずっとしゃべっていた男の人が、どん、と足元を叩いた。
「どうなっても知らんぞ。」
「言われるまでもない。」
珍しく、カンさんが怒っている。わたしは小さくなって、そっとその背中から離れた。
そんなわたしに気がついたのか、男の人が立ち上がる。大股で歩いてきたと思ったら猫の体をうにょんと持ち上げられた。
「うにゃっ。」
「まったく、さっさと猫に転生すればいいものを。」
「――そんなに簡単に言わないでください。」
わたしは男の人をにらみつけた。
「わたしは猫と人のいい思い出を覚えている代わりに、苦しかったり辛かったりする思い出も全部持っているんです。どちらかを選べと言われても。」
「足がすくむか。」
そう言われて、どきりとした。
置物のように固まってしまったわたしを見かねてか、男の人はわたしを足元に下ろした。素早くカンさんの手の届くところに移動したけれど、カンさんはやっぱりいつもより険しい顔をしている。
「少なくとも、我々が手出しできることではない。」
「……まあ、な。」
男の人はあきらめたのか、遠くの流れに向かって歩き出した。
「しばらくはまだ近くにいる。お前らもじきに移動するだろうが、その時まではよろしくな。」
幾重もの幕の向こうにその姿が消えて、わたしはほっと胸をなでおろした。カンさんもふん、と鼻を鳴らしてごろりと横になっている。
わたしは、カンさんの横に丸まった。
言いたいことがたくさんあったような気がしたけれど、うまく言葉が出てこない。ひとつだけ、質問したいことがはっきり浮かんでいるのみ。
「神様って、他にもいらっしゃるんですね。」
いつものように短い答えが返ってくるかと思ったけれど、カンさんは意外と真面目な答えを返してくれた。
「一人ですべての魂を洗っていたら、わたしはこんなふうに休んでなどいられないよ。」
確かに、とわたしは頷く。
聞き慣れない声に顔を上げると、知らない男の人と目が合った。カンさんと同じゆったりとした服。でも、髪は短くて、太陽を浴びてきらきらしているような輝きを持っていた。
その人が何なのか、頭の中で「わからない」と「わかる」が混濁する。
「なあ、この猫はなんなんだい?」
隣で寝転がっていたカンさんがだるそうに起き上がった。
「久しいな。なんか用か。」
「つれないねえ。いや、流れが少しばかり重なっただけさ。」
「だったらさっさと持ち場に戻れ。」
カンさんがしゃべっている間に、わたしはそろりと移動した。カンさんの背中に隠れてちらりと顔を出す。すると男の人は目を見開いた。
「――おい。本当にこれは何なんだ?」
もう慣れてしまったからわたしもカンさんも気にしていないけれど、やっぱり猫と人の姿を行き来するのは物珍しいらしい。
表情は見えないけれど、カンさんは答えたくなさそうな顔をしているだろう。おおむね「めんどくさい」と思っていることは短い付き合いでもわかる。
元からよく知った仲なのか、男の人は辛坊強くカンさんの言葉を待っている。わたしはその人が気の毒になって、カンさんの背中をつっついた。
ため息に、肩が揺れる。
「……迷魂(めいこん)だよ。」
男の人がぴしゃりと頭を叩く。
「なんてこった。」
カンさんはわたしの頭に手を置く。人の姿なのにおもわず「にゃっ」と声が出た。
「こいつは猫の魂ながら人に生まれ、そして死んだ。今は猫になるか、人になるか思案中だ。」
「そんなもの、元あるべき流れに返すのが筋だろう?」
「わたしの一存では決められない。」
男の人がその場にどすんと腰を据えた。
「報告案件なんじゃないか?」
「そうかもな。」
「なぜ隠し立てする?」
カンさんは何も答えない。
話についていけないわたしはただただ黙っていた。頭上には相変わらず魂が輝いている。
わたしはその輝きの向こうに、別の流れを見つけた。天の川にたとえたことがあるけれど、このあたりの魂は近すぎて海を見ているような心地で、遠くにあるその流れはまさしく川だった。
さっき男の人が言っていた流れが重なる、というのはああいうことなのだろうか。
だとすると、あれも輪廻の流れの一部なのか。
途方もない想像をして、頭がくらくらしてきた。
そのとき、ずっとしゃべっていた男の人が、どん、と足元を叩いた。
「どうなっても知らんぞ。」
「言われるまでもない。」
珍しく、カンさんが怒っている。わたしは小さくなって、そっとその背中から離れた。
そんなわたしに気がついたのか、男の人が立ち上がる。大股で歩いてきたと思ったら猫の体をうにょんと持ち上げられた。
「うにゃっ。」
「まったく、さっさと猫に転生すればいいものを。」
「――そんなに簡単に言わないでください。」
わたしは男の人をにらみつけた。
「わたしは猫と人のいい思い出を覚えている代わりに、苦しかったり辛かったりする思い出も全部持っているんです。どちらかを選べと言われても。」
「足がすくむか。」
そう言われて、どきりとした。
置物のように固まってしまったわたしを見かねてか、男の人はわたしを足元に下ろした。素早くカンさんの手の届くところに移動したけれど、カンさんはやっぱりいつもより険しい顔をしている。
「少なくとも、我々が手出しできることではない。」
「……まあ、な。」
男の人はあきらめたのか、遠くの流れに向かって歩き出した。
「しばらくはまだ近くにいる。お前らもじきに移動するだろうが、その時まではよろしくな。」
幾重もの幕の向こうにその姿が消えて、わたしはほっと胸をなでおろした。カンさんもふん、と鼻を鳴らしてごろりと横になっている。
わたしは、カンさんの横に丸まった。
言いたいことがたくさんあったような気がしたけれど、うまく言葉が出てこない。ひとつだけ、質問したいことがはっきり浮かんでいるのみ。
「神様って、他にもいらっしゃるんですね。」
いつものように短い答えが返ってくるかと思ったけれど、カンさんは意外と真面目な答えを返してくれた。
「一人ですべての魂を洗っていたら、わたしはこんなふうに休んでなどいられないよ。」
確かに、とわたしは頷く。
後書き
実は新キャラの名前をまだ決めていない。
作者:水沢妃 |
投稿日:2018/05/20 22:25 更新日:2018/05/21 14:35 『輪廻のセンタク』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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