作品ID:1995
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輪廻のセンタク
小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
6
前の話 | 目次 | 次の話 |
前よりも、別の川が近づいてきている。そのかわり、カンさんの仕事も進んでいる。
「そろそろ移動するか。」
カンさんがわたしにそういったのは、男の人が来てからしばらく経ったころだった。
「移動?」
「ああ。輪廻の流れは常に一定の場所にあるわけではないから、時々こうやって移動する。」
わたしの意思は関係ないのか、カンさんはおもむろに立ち上がると魂の輝くほうへ歩き出した。
わたしもカンさんの後ろを人の姿で歩く。いつもカンさんや男の人が消えるあたりまで歩いても、もちろんそこに幕があるわけじゃない。振り返ってもどこも同じような景色で、自分がいた場所なんて全然わからない。
移動していると分かるのは、魂があってくれるから。
カンさんは魂の集まっているところを避けて移動しているようで、光との距離は一定だった。
「どうして魂に近づかないの?」
「お前には刺激が強いだろうからな。」
「……はあ。」
配慮の理由がわからないから、感謝のしようもない。
わたしの気持ちに気がついているのかいないのか、カンさんはゆっくりとした歩調で歩き、わたしは時おり寄り道をしたり猫になって遊んだり、ふらふらとついていった。カンさんは一定のペースで歩き続けていて、離れたからといってわたしを待つわけでもなく、かといって完全に見失うところまで先に行ってしまうこともなかった。
この空間はやっぱり、どこもかしこも同じようなものらしい。
カンさんに追いついたわたしは、ふとこの間のことを聞いてみようという気になった。男の人が帰った後、カンさんは「疲れた」と言ってふて寝してしまったから。
「神様って、一人だと思ってた。」
「――実際、一人だ。」
え、と目線を上げれば、カンさんはどこか上のほうを見ていた。
「お前たちが生きている時に信じている輪廻を司る神は、確かに一人だ。わたしやあの男はその神の使い走りにすぎない。」
「そうだったの!?」
わたしは最初にカンさんに払った敬意を返してもらいたくなった。
「……一応、使い走りとして魂の浄化を行うために、神の力をほんの少し分けてもらっているから、存在としては神に近いぞ。」
「えっと、家の神棚に神様の分身がいるっていうのと同じような感じ?」
わたしは聖地まで遠いところに住んでいたから、いつも家の神棚に祈っていた。
「そんなところだ。」
「へー。なるほどね。」
じゃあもっとたくさん魂を洗っている人がいてもおかしくないんだ。神棚は一家にひとつはあるから、その数だけ神様の分身がいるものね。
自然と、この間男の人が言っていた話が理解できた。目上の人がいるならその人にわたしの事を話すのは義務じゃないかってことだったんだ。
「わたしのこと、神様に話さなくていいの。」
「話したところで迷惑になるだけだ。わたしの犯した過ちなのだから、わたしが責任をとるのは当たり前のこと。」
その言葉には神様への想いがにじみ出ていた。
……まったく、こういうところは潔いんだから。
わたしはカンさんに対して怒っている。すごく怒っていた。前よりは落ち着いたけれど、根底にある気持ちに変わりはない。でも、この人を憎めないのも事実だ。
だってカンさんは、たまにけだるげそうだけど、いつだって仕事はまじめにやっているし、わたしの質問にだってなんだかんだ応えてくれる。
不意に、カンさんが立ち止まった。ちょうど魂の流れを廻りこんだところ。目の前にはカンさんの仕事場があって、後ろを振り向けば遠くの流れがなんとなく見えた。
「このあたりにいろ。」
「はあい。」
カンさんはその場に座りこんだ。わたしも猫の姿で隣に丸まる。
「そういえば、神様に分けてもらっている力ってどんなもの? それがないと魂が洗えないとか?」
「ああ、その通りだ。――ただ、わたしは。」
そうするのが癖なのか、カンさんはことあるごとに自分の手を見る。
荒れ放題の手は、いつ見ても痛々しい。
「わたしが今こうして人の形を保っているのは、神の力あってこそだからな。」
珍しく、カンさんは悲しそうな顔をしていた。
「そろそろ移動するか。」
カンさんがわたしにそういったのは、男の人が来てからしばらく経ったころだった。
「移動?」
「ああ。輪廻の流れは常に一定の場所にあるわけではないから、時々こうやって移動する。」
わたしの意思は関係ないのか、カンさんはおもむろに立ち上がると魂の輝くほうへ歩き出した。
わたしもカンさんの後ろを人の姿で歩く。いつもカンさんや男の人が消えるあたりまで歩いても、もちろんそこに幕があるわけじゃない。振り返ってもどこも同じような景色で、自分がいた場所なんて全然わからない。
移動していると分かるのは、魂があってくれるから。
カンさんは魂の集まっているところを避けて移動しているようで、光との距離は一定だった。
「どうして魂に近づかないの?」
「お前には刺激が強いだろうからな。」
「……はあ。」
配慮の理由がわからないから、感謝のしようもない。
わたしの気持ちに気がついているのかいないのか、カンさんはゆっくりとした歩調で歩き、わたしは時おり寄り道をしたり猫になって遊んだり、ふらふらとついていった。カンさんは一定のペースで歩き続けていて、離れたからといってわたしを待つわけでもなく、かといって完全に見失うところまで先に行ってしまうこともなかった。
この空間はやっぱり、どこもかしこも同じようなものらしい。
カンさんに追いついたわたしは、ふとこの間のことを聞いてみようという気になった。男の人が帰った後、カンさんは「疲れた」と言ってふて寝してしまったから。
「神様って、一人だと思ってた。」
「――実際、一人だ。」
え、と目線を上げれば、カンさんはどこか上のほうを見ていた。
「お前たちが生きている時に信じている輪廻を司る神は、確かに一人だ。わたしやあの男はその神の使い走りにすぎない。」
「そうだったの!?」
わたしは最初にカンさんに払った敬意を返してもらいたくなった。
「……一応、使い走りとして魂の浄化を行うために、神の力をほんの少し分けてもらっているから、存在としては神に近いぞ。」
「えっと、家の神棚に神様の分身がいるっていうのと同じような感じ?」
わたしは聖地まで遠いところに住んでいたから、いつも家の神棚に祈っていた。
「そんなところだ。」
「へー。なるほどね。」
じゃあもっとたくさん魂を洗っている人がいてもおかしくないんだ。神棚は一家にひとつはあるから、その数だけ神様の分身がいるものね。
自然と、この間男の人が言っていた話が理解できた。目上の人がいるならその人にわたしの事を話すのは義務じゃないかってことだったんだ。
「わたしのこと、神様に話さなくていいの。」
「話したところで迷惑になるだけだ。わたしの犯した過ちなのだから、わたしが責任をとるのは当たり前のこと。」
その言葉には神様への想いがにじみ出ていた。
……まったく、こういうところは潔いんだから。
わたしはカンさんに対して怒っている。すごく怒っていた。前よりは落ち着いたけれど、根底にある気持ちに変わりはない。でも、この人を憎めないのも事実だ。
だってカンさんは、たまにけだるげそうだけど、いつだって仕事はまじめにやっているし、わたしの質問にだってなんだかんだ応えてくれる。
不意に、カンさんが立ち止まった。ちょうど魂の流れを廻りこんだところ。目の前にはカンさんの仕事場があって、後ろを振り向けば遠くの流れがなんとなく見えた。
「このあたりにいろ。」
「はあい。」
カンさんはその場に座りこんだ。わたしも猫の姿で隣に丸まる。
「そういえば、神様に分けてもらっている力ってどんなもの? それがないと魂が洗えないとか?」
「ああ、その通りだ。――ただ、わたしは。」
そうするのが癖なのか、カンさんはことあるごとに自分の手を見る。
荒れ放題の手は、いつ見ても痛々しい。
「わたしが今こうして人の形を保っているのは、神の力あってこそだからな。」
珍しく、カンさんは悲しそうな顔をしていた。
後書き
作者:水沢妃 |
投稿日:2018/05/21 23:31 更新日:2018/05/21 23:31 『輪廻のセンタク』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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