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『鉄鎖のメデューサ』
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
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第32章
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証拠の処分に時間を取られたのか、スノーフィールドの門にはまだグレイヒース一味とおぼしき者が通った形跡はなかった。本部で書類判読を急ぐアンソニーを除くスノーレンジャーたちは、南下するためには必ず通る街道の峡谷での待ち伏せを提案した。街中で捕らえようとすると市民を人質にしたり被害を及ぼす危険があるという判断だった。猛毒の武器さえも振るう相手だけに、この事件の責任者であるホワイトクリフもこの安全策に同意するほかなかった。
メデューサの魔眼で一味を一網打尽にしてはとの案も出たが、死にかけたばかりのクルルをあまり動かすのは危険とのラルダの診立てでロビンともどもノースグリーン邸に残ることになった。二人のナイトとラルダ、四人のスノーレンジャーと警備隊に弓隊を加えた陣容で彼らは出撃した。そして街道に油を撒き正面に警備隊、崖の上に弓隊を展開して一味が来るのを待ちうけた。
冬の終わりの早朝だというのに一面の黒雲が空を覆いつくし、太陽の姿はどこにもなかった。陽光に払われなかった闇は薄墨のように大地を満たし、輝きや色彩をことごとく削いでいた。その灰色の地平線に現れたいくつもの黒い粒はやがて武器を手にした騎馬の男たちに姿を変えた。ここでの待ち伏せを覚悟していたのか、警備隊の姿にも動じず突っ込んできた!
「止まれ!」
ノースグリーン卿の叫びにもひるむ様子がないのを見て取り、メアリが炎の鞭を油に濡れた地面に叩き付けた。たちまち眼前に現れた炎の壁に多くの馬が恐慌にかられたが、何騎かは炎を跳び越え行く手を阻む警備隊と乱戦になった。炎に阻まれた者たちも崖の上の弓隊と矢の応酬を始めた。
「気をつけろ、やはり武器に毒を塗っているぞ!」
かすり傷のはずの警備隊員が悶絶するのを見たラルダが叫び、倒れた男を崖の際まで引きずって傷口を縛った。一瞬ひるんだ警備隊の囲みを抜けて駆け去ろうとした一人をノースグリーン卿が射止め、それを阻止しようとした一人をホワイトクリフ卿が斬り伏せた。スノーレンジャーたちもそれぞれ眼前の敵を退けた。
だが敵の技量は高く、序盤の劣勢をじりじりと挽回して警備隊を押し始めた。さらに数騎が馬勢を立て直して炎を乗り越えた。その先頭に弓を構えたグレイヒースの姿があった!
「蹴散らせ! たとえ単騎でも国に帰れば我らの勝ちだ!」
グレイヒースたちの加勢にたちまち破られた囲みを抜けて走り去ろうとした馬は、だが炎を突き抜けて射掛けられた矢の痛みに乗り手を振り落とした。警備隊の増援部隊が駆け込んできた!
「降伏するでありますよ! ヴァルトハールの犬どもっ」
「なんだって!」
増援を率いるアンソニーの叫びに応えたのは、だが敵ではなく女の声だった。ただごとならぬ声に集まった全ての視線の先で、黒髪の尼僧が驚愕に目を見開いていた。
「では、おまえたちはヴィルヘルム・フォン・グロスベルク公の手の者だったのか。鳶色の髪と灰色の目をした、かの若き纂奪者の……っ」
かすれた声が呻いた。
「ならば、おまえたちの戦いはもはや無意味だ。ここを逃れても帰る国などすでにない。ヴァルトハールは、かの中原の公国は、私の目の前で全滅した!」
メデューサの魔眼で一味を一網打尽にしてはとの案も出たが、死にかけたばかりのクルルをあまり動かすのは危険とのラルダの診立てでロビンともどもノースグリーン邸に残ることになった。二人のナイトとラルダ、四人のスノーレンジャーと警備隊に弓隊を加えた陣容で彼らは出撃した。そして街道に油を撒き正面に警備隊、崖の上に弓隊を展開して一味が来るのを待ちうけた。
冬の終わりの早朝だというのに一面の黒雲が空を覆いつくし、太陽の姿はどこにもなかった。陽光に払われなかった闇は薄墨のように大地を満たし、輝きや色彩をことごとく削いでいた。その灰色の地平線に現れたいくつもの黒い粒はやがて武器を手にした騎馬の男たちに姿を変えた。ここでの待ち伏せを覚悟していたのか、警備隊の姿にも動じず突っ込んできた!
「止まれ!」
ノースグリーン卿の叫びにもひるむ様子がないのを見て取り、メアリが炎の鞭を油に濡れた地面に叩き付けた。たちまち眼前に現れた炎の壁に多くの馬が恐慌にかられたが、何騎かは炎を跳び越え行く手を阻む警備隊と乱戦になった。炎に阻まれた者たちも崖の上の弓隊と矢の応酬を始めた。
「気をつけろ、やはり武器に毒を塗っているぞ!」
かすり傷のはずの警備隊員が悶絶するのを見たラルダが叫び、倒れた男を崖の際まで引きずって傷口を縛った。一瞬ひるんだ警備隊の囲みを抜けて駆け去ろうとした一人をノースグリーン卿が射止め、それを阻止しようとした一人をホワイトクリフ卿が斬り伏せた。スノーレンジャーたちもそれぞれ眼前の敵を退けた。
だが敵の技量は高く、序盤の劣勢をじりじりと挽回して警備隊を押し始めた。さらに数騎が馬勢を立て直して炎を乗り越えた。その先頭に弓を構えたグレイヒースの姿があった!
「蹴散らせ! たとえ単騎でも国に帰れば我らの勝ちだ!」
グレイヒースたちの加勢にたちまち破られた囲みを抜けて走り去ろうとした馬は、だが炎を突き抜けて射掛けられた矢の痛みに乗り手を振り落とした。警備隊の増援部隊が駆け込んできた!
「降伏するでありますよ! ヴァルトハールの犬どもっ」
「なんだって!」
増援を率いるアンソニーの叫びに応えたのは、だが敵ではなく女の声だった。ただごとならぬ声に集まった全ての視線の先で、黒髪の尼僧が驚愕に目を見開いていた。
「では、おまえたちはヴィルヘルム・フォン・グロスベルク公の手の者だったのか。鳶色の髪と灰色の目をした、かの若き纂奪者の……っ」
かすれた声が呻いた。
「ならば、おまえたちの戦いはもはや無意味だ。ここを逃れても帰る国などすでにない。ヴァルトハールは、かの中原の公国は、私の目の前で全滅した!」
後書き
未設定
作者:ふしじろ もひと |
投稿日:2021/11/18 23:00 更新日:2021/11/18 23:00 『『鉄鎖のメデューサ』』の著作権は、すべて作者 ふしじろ もひと様に属します。 |
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