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作品ID:1473
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第11話「復讐鬼(アベンジャー)」

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第6章.第11話「復讐鬼(アベンジャー)」



 俺はエルナとミルコに別れを告げた後、ラザファムたちが待つ食堂に向かう。



 食堂にはラザファムの他に数名の騎士が座っていた。

 俺が中に入ると一斉に立ち上がり、敬礼をしてくる。

 俺はそれを手で制し、座るように声を掛けると、主だった者を集めるようラザファムに依頼した。

 数分で従騎士五名と従士五名が集まってきた。



「治癒師のアロイス、エーベルは重傷者のところに残し、従士四名は屋敷の外で警戒に当たらせております。この十名が現在動けるもののすべてです」



 ラザファムがそう報告する。

 屋敷の周りには十数名のシュバルツェンベルク守備隊員が警戒に当たっており、屋敷の安全は保たれているとの説明も合わせてあった。



 俺はこれからの方針を決めるため、全員に意見を聞いていく。

 俺とラザファム以外は従騎士と従士しかいないため、従士にも積極的に発言するよう言い渡し、議論を始める。

 彼はクロイツタールに伝令を出し、増援を呼ぶべきとの意見で、従騎士、従士たちも敵の居場所が判らないので、増援を得てから大規模な討伐を起こすべしとの意見が大半を占めた。

 俺は目を瞑り、暫し黙考する。



(閣下にお願いすれば、一個大隊規模、百名前後の騎士は呼べるはずだ。だが、あのグンドルフが相手なら、数が多いことが有利に働くとは必ずしも言えないな。数で勝負できるなら、既に討伐できているはず……)



 グンドルフは野生の猛獣のようなものだろう。危険が迫れば巧みに身を隠し、危険が去ってからじっくりと襲い掛かってくる。

 森の中に隠れ家があれば、そこでやり過ごすことができるだろう。今まで第三騎士団が、シュバルツェン街道の盗賊を掃討できていない以上、クロイツタール騎士団なら隠れ家を見つけ出し、掃討出来ると考えるのは少し無理がある。



 今までに無い規模の掃討作戦を展開する。冒険者を雇い、探索と誘導をさせ、騎士が打撃部隊を構成する。これなら掃討できる可能性はあるが、奴から見れば危険を冒してまで、シュバルツェンベルク近郊に潜む必要は無い。要は俺を殺せればいいのだから、大規模な掃討作戦に気付いた瞬間、遠くに逃げるだろう。

 俺の居場所は簡単に判る。騎士団さえ見張っていればいいのだから。



(やはり誘き出すしかない。誘き出すにしても騎士たちでは待ち伏せはできないだろうから、罠を掛けるしかないだろう)



 俺はゆっくりを目を開け、



「増援は呼ばない。罠に誘い込む!」



 そう宣言してから、理由を説明する。



「まず、グンドルフという盗賊だが、奴は獣だ。危険を匂いで感じているかのように避けていく。我々クロイツタールの騎士が盗賊如きに遅れを取ることはあり得んが、逃げ出されたら見つけ出すことが困難だ。これは戦闘ではない。狩りだ」



 ここで一旦話を切り、騎士たちの様子を見る。

 獣という表現が判りやすかったのか、頷いている者が多い。



「まず、状況を整理する。まず、敵の戦力は総勢二十二名。うち十名程度が弓使いだ。魔術師、治癒師は確認されていない。ギルドの情報でも魔術師がいたという情報は無かった。ミルコ、ノーラたちとの戦闘で負傷者がいたようだが、簡単に逃亡できたところを見ると大した怪我ではなかったと見ていい。ここまではいいか」



 俺がそういうと全員頷いている。



「では、ここからが本題だ。まず、奴らの目的は何だ?」



 騎士たちは互いに顔を見合わせている。こういう考え方をしたことが無いからだろう。

 少し間を置き、話を続ける。



「奴らというより、頭目グンドルフの目的は俺を殺すことだ。では、奴らが有利な点はどうだ?」



 ここでも少し時間を置き、考える時間を与える。



「それは自由に動けるということだ。我々は奴らの居場所を知らない。この状況下では奴らはいつでも奇襲を掛けられる。我々が追ったとしても、こちらの動きを見ながら逃げればいい。こんな相手を捕捉するのは、至難の業だと言わざるを得ない」



 騎士たちも俺の言葉に同意するよう、頷いている。



「では、逆に奴らの不利な点は何だ?」



 俺はグンドルフの置かれた状況を思い浮かべながら、話を続けていく。



「奴らは森の中にいる。この状況では町の状況を調べるために、手下を送り込まなければならない」



 俺は言葉を切って、水で喉を潤してから説明を続ける。



「更に奴らの隠れ家の場所、規模は判らないが、奴らが到着してから自由に動けた時間は少ない。つまり、それほど準備に時間を掛けられなかったということだ」



「この辺りに詳しい手下がいるのだろう。その手下が昔使っていたところにいると考えるのが妥当だ。今は真冬、この時期、森で食料を調達することは地元の猟師でも難しい。町で買えなければ、街道で商人を襲うしかないだろう」



「街には守備隊が目を光らせている。特に面子を潰された守備隊は威信に賭けても、街を守るだろう。街道の商人も護衛を雇っている。商人たちに警戒をするよう情報を流しておけば、大規模な隊商を組むことで手出しできなくなるはずだ。これで奴らに兵糧攻めを仕掛けられる」



 従騎士の一人、イェンスが発言を求めて手を上げている。

 俺が発言を許可すると、



「しかし、奴らの物資の情報がありません。ですから、どの程度の期間、兵糧攻めを続ければいいのか、判らないのではないでしょうか? それに一人二人なら町に入り込めるのではありませんか?」



「その通りだ。まず、兵糧攻めについてだが、奴らになったつもりで考えてみろ。真冬の森の中、守備隊を警戒しながら何日耐えられる? 十日もすればアクションを起こしてくる。町に一人、二人が入ったとして二十人分の食料を持ち出すことができるか? それだけの食料をゴロツキが買い漁れば、必ず目立つ。だから精々数人分しか持ち出せないはずだ」



 イェンスも納得したのか、頷いている。



「次は我々の状況だ。不利な点は守るべき対象がいることだ。そのため行動に制限が掛かる。もう一点は地の利がないことだ。隠れ家付近にどんな罠を仕掛けているか判らない。その状況で待ち伏せ、襲撃、逃走を繰り返されたら、被害は馬鹿にならない」



 十代後半の従士が一人、おずおずと手を上げている。確かボリスという名前だったはずだ。自分のような従士が発言してもいいのか心配しているようだ。

 俺が頷くと恐る恐るといった感じで発言を始めた。



「副長代理のお考えを否定するわけではありませんが、昨日の待ち伏せでも、我々だけなら、それほど大きな被害は受け無かったのではないかと思うのであります。それならば、重装備の我々なら待ち伏せを受けても、問題ないと思うのであります」



 副長代理の考えに挑むような発言を一介の従士がするため、緊張してしゃべり方がおかしくなっているようだ。



(平社員が役員に真っ向から意見を言うようなもんだ。それも命令を聞くだけで発言するなど、考えたこともない組織の人間がだ。従士にしておくのは惜しい)



「そうだな。確かにその通りだ、ボリス。だが、昨日は町の中だ。森の中なら重傷者を運ぶだけでもかなりの戦力ダウンになる。それに俺がグンドルフなら弓だけを使うことはしない。落とし穴や火責めなんかも使ってくると考えるべきだろう」



 ボリスも納得して頷いている。



「次に我々の有利な点だが、当然、戦闘力で勝っていることが第一だ」



 俺の言葉に騎士たちは皆頷いている。



「そして、時間が味方だということも重要だ。我々は何日ここにいようが別に問題は無い。逆に負傷者は回復するし、増援が来る可能性もある」



 これには、あまり納得していないようだ。のんびり待つというのは性に合わないものが多いのだろう。



「更に重要なのは、情報を管理できるということだ。俺はある商人と懇意にしている。その商人を使って情報を操作することができる。偽情報を流せば、かなり有利になる」



 ここまで来ると従騎士以下では理解が難しいようだ。



「例えば、私が少数の騎士たちと共に、クロイツタールに向かうという情報を流すとしよう。潜入している手下からその情報を受け取ったとして、奴らはどう思う? そんなことはないと思うだろうが、念のため街道を見張るのはずだ。それを何回か繰り返せば、どの情報を信じていいのか判らなくなる。こういう使い方をするだけでも結構相手の精神にダメージを与えられるものだ」



 俺は騎士たちを見回した後、今後の方針を話し始めた。



「俺の考えている策を伝える。ミルコとエルナの葬儀を行い、その直後にシュバルツェンベルク守備隊の協力を仰ぎ、大規模な掃討作戦を行う」



「それは先ほど効果が無いと否定されたのではありませんか?」



 一人の従騎士が質問をぶつけてきた。



「その通りだ。この掃討作戦は俺が復讐に燃えて、我を忘れていると思わせるために行う。要は奴らの油断を誘うためのブラフだ。この掃討作戦は二日間行い、守備隊からの要請で止む無く終了するという筋書きでいく」



「次の段階として、俺は迷宮に十日間潜り続ける。そして、この屋敷の警備を更に強化し、俺以外の全員でここに立て篭もる」



 ラザファムが疑問を投げかけてきた。



「副長代理が迷宮に入る理由をお聞かせ下さい」



「迷宮に入り、五十階層付近で力を付けることが第一の目的、グンドルフの手下に五十階層まで到達したものがいるとは思えない。よって、奴らでは迷宮の五十階層付近に手を出せないから、奴らの焦りを誘うことが出来る。これが第二の目的。更にトリックを使えば、私が自由に動けるようになる。これが第三の目的」



「トリックとは?」



「後でラザファム殿にだけお話します」



 ラザファムは頷き、先を促す。



「迷宮からそのトリックを使って町に戻り、罠の準備をする。罠は奴らの縄張りではない森の中を選んで設置する。そして俺自らを囮に奴らをその罠に誘き出し、殲滅する」



「我々はその罠で伏兵となるわけですね」



 イェンスが目を輝かせ、そう聞いてきた。



「残念ながら、諸君らにはここに残ってもらう。俺以外が動けば、罠に掛からない可能性があるからな。俺だけなら、罠があろうと決着を付けようと動くが、騎士団が動くとなると警戒され、罠に誘導できない可能性がある」



 ラザファムが立ち上がり、



「我々は閣下より、直々に副長代理の護衛を命じられております。タイガ殿お一人をそのような死地に送り出すことには、承服できません」



「閣下から、私の護衛となるよう命じられているのは知っています。ですが、私がこのシュバルツェンベルク派遣部隊の指揮を執るように命じられたのも事実です。現在の指揮官は私ですから、私の命令に従っていただきます」



「しかし……」



「ラザファム・フォーベック! シュバルツェンベルク派遣部隊指揮官として命じる。これより十五日間、シュバルツェンベルク守備隊と協力し、この屋敷の警備並びに襲撃してくる盗賊を撃退せよ!」



「うっ、了解しました! これより十五日間、屋敷の警備並びに襲撃してくる盗賊を撃退します」



 ラザファムは不承不承、俺の命令を復唱する。



(ラザファムさんには悪いが、俺一人じゃないと決着を付けられない。グンドルフを誘き出し倒すか、俺が殺されるかすれば、彼女たちに危害は及ばない。これが一番確実な方法なんだよ。それに理屈じゃない。俺の手で奴を殺したい)



 俺は二十三年の人生で初めて本気で人を殺したいと思っていた。





 その後、シュバルツェンベルクの代官ホフマイスターと守備隊の責任者を屋敷に呼び、ミルコとエルナの葬儀の際の警備とその後の掃討作戦について協力を依頼する。

 ホフマイスターは町の中で大規模な襲撃が起こったことの責任を感じており、俺に全面的に協力してくれることを約束してくれた。



 その後、アマリー、シルヴィアの様子を見に行くが、特に変化が無い。

 ノーラ、アンジェリークは朝より顔色がよくなり、治癒魔法で立ち上がれるまでになっている。

 アクセルとテオは治癒師アロイスとエーベルの治癒魔法で食事が取れるまでに回復しているが、彼女たちを守りきれなかったことで意気消沈したままだった。



 そして、彼女たちの意識が戻れば、いつでも作戦を開始できる。



(グンドルフ! 必ず復讐してやるからな。お前だけは刺し違えても殺してやる!)



 俺の中に黒い何かが渦巻いていた。







 ラザファム・フォーベックは、大河にトリックと罠の概要を聞かされた後、臨時の指揮所にしている食堂で一人考えていた。



(本来であれば、私が止めなければいけないのだが、タイガ殿の説明を聞けば頷かざるを得ん。罠は私の理解を超えているが、トリックの内容を聞いた今、作戦に穴は見付けられない。だが、どうしても危うさを覚えてしまうのだ。そう、あの目が……)



 彼は大河の目に復讐の影が見えていた。



(昔、戦場で見た自分の村を帝国の兵士に焼かれた兵が、同じ目をしていた。あの冷静な副長代理がまさかとは思うのだが、どうにも気になって仕方が無い)



 今の彼には相談すべき相手がいない。

 判断に悩む彼は、



(やはり私は大隊長止まりということか。命令を受け、実行することはできても、それ以上のことができん……)



 彼は大河のことをよく知るアクセル、テオフィルスが健在ならと思わずにいられなかった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/24 23:11
更新日:2013/01/24 23:11
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1473
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