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作品ID:2292
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ナイフが朱に染まる

小説の属性:一般小説 / ミステリー / お気軽感想希望 / 初投稿・初心者 / R-18 / 完結

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(第24話)ここは天国か?僕はベッドの上で目が覚めた。赤い薔薇、まるでミネ子ちゃんのようだ。

前の話 目次 次の話

重い瞼をゆっくりと広げて辺りを見渡してみた。
僕は白い光に包まれてベッドの上で寝てる。
すぐ隣には点滴の袋がぶら下っている。
消毒臭い。どうやらここは病室のようだ。
全身が石のように重い。
なんとか上体を起こし震える手でナースコールのボタンを押した。
すると医者と看護師が駆けつけてくれた。
どうやら僕は三日間眠り続けていたらしい。
医者から話をいくつか聞き、彼らが去ったのと入れ違いに
新川刑事が面会に来てくれた。
彼は額をおさえ、僕の姿を見て驚いている。
聞けば僕は背中に刺されて手術を受けてたらしい。
そういう新川さんも頭に包帯を巻かれていた。


「刑事の僕が怪我をするなんて情けない!」


と言って照れくさそうに笑っている。
彼はパイプ椅子を引き寄せて隣に座った。
僕は早く知りたくて、これまで起こった事や経緯などを新川さんに聞いた。
彼はコホン、と咳払いをしてから僕にいろいろと教えてくれた。


新川さんは僕と電話をしていた時に、ミネ子に後ろから野球バッドで殴られた。
そこで気を失って目を覚ました新川さんは、必死の思いで僕のアパートまで這ってきたらしい。
彼は息を荒げに頭から血をダラダラと流していた。
道行く人に叫ばれたり逃げられたりされた。
彼は開けっぱなしになってる玄関のドアに入った。
靴箱の横に脅迫状が落ちてあるのを発見した。
彼はそれを執念で掴み、警察に連絡してパトカーに来てもらった。
剛田刑事に運転してもらい、遊園地まで辿り着いた。
パトカーを門に停め、新川さんと剛田さんは現場まで駆けつけた。
その時は既に伊藤は殺されており、裸で放り出されたマコトと背中に刺された僕が倒れている所を見つけたらしい。
茂みの裏で二人は銃を構えて、出るタイミングを見図っていたそうだ。


ミネ子は伊藤の殺害、及びマコトの誘拐、僕に重傷を負わせた罪で逮捕された。
まだ刑罰は決まっていないが、おそらく懲役5~6年になるだろう、と新川さんは悲しそうな目をして言った。
観念した彼女は今警察署で取り調べを受けているらしい。
マコトは肺炎になって僕と同じ病棟で入院をした。
彼女は服を脱がされた挙句に冬場なのに冷たい水を浴びせかけられた。
意識不明の重体だったがなんとか命はとりとめた。
今日マコトはやっと目覚めたらしく両親が駆けつけて彼女の看病に当たっている。
三日三晩寝ずの看病をしてた母親は、隣の病室まで聞こえるぐらいに大きな声で泣き叫んだらしい。
新川さんがマコトの見舞いに行った頃には、もう、笑顔になって話すことができたと聞いて僕は安堵した。
そして、僕の事なのだが、背中にナイフが刺さって重体となったらしい。
ずっと意識不明だったので記憶の一部分が空白になって分からなかった。
幸い刺し傷は浅く、致命傷まで至らなかったが、
刺しどころが悪ければ、僕はこの世にいなかったかもしれない、と深刻な顔をした新川さんに言われて血の気を引いてしまった。
手術は既に終わり、傷口が塞がるまであと1、2週間は入院しないといけないらしい。


新川さんは、よっこいしょ、と機敏に立ち上がり
「では。また来ます」と言って病室から出て行った。
正直心細いのでまだそばに居て欲しかったのだが
彼にもまだ行く所があるし、勤務中なので引き留めるわけにもいかなかった。
「ありがとうございます」と僕は笑顔で新川さんに手を振った。
新川さんも振り返り「早く退院ができるといいですね」と親指を立てて白い歯を見せた。会釈をしてから彼はドアを開けて出て行った。




僕は一人で退屈をしてた。
あまり動いちゃいけないと医者から固く言われているので
ベッドの上でほとんどゴロゴロするしかなかった。
その時、母が大きな紙袋と売店で買ってきた雑誌を持って部屋に入ってきた。
僕が救急車に運ばれたとき、母も警察から電話を受けて駆けつけてくれた。
「母さんビックリしたよ。手術なんてあんたの子供の時の盲腸以来だよ。
心配のあまりに寿命が縮まったよ!」
散々、母に嫌味を言われ続けたが、鼻を鳴らして涙ぐんでいるところを見たら相当心配したんだなあと思った。
僕は母さんの子供で本当に良かったなあと実感した。
幼馴染のミネ子ちゃんが逮捕されたことを聞いた母は、
「あんなに良い子だったのにどうして……」
と信じられないと言う具合に衝撃を受けていた。
僕の容態を見て安心した母は着替えとスリッパと雑誌を置いて家に帰った。
騒がしい母が居なくなった途端、病室はまた静寂に包まれた。
僕はその間、ウォークマンで大野雄二の音楽を聴いたり、芸能雑誌と少年漫画を見てやり過ごした。
あとは天井を見つめてウトウトしだしたら寝るようにした。



3日ぐらいしてからようやく個室から大部屋に移ることができた。
やっと開放された。もう天井ばかり見てなくてもいいんだ。
この上に爽快な気持ちになれたことはない。
よう新入りさん、と体格の良い中年くらいの気さくな男性に手を振ってくれた。
聞くところによると、彼はトラックの運転手らしく交通事故で入院してたらしい。
他にも入院患者はいた。
頭に包帯を巻かれて編み物をしている女子高生風の女の子。
人当たりの良い盆栽が趣味のお爺さん。
眼帯をしてムスっと一人で本を読んでいるサラリーマン風の男性。
ほとんど話すことはないが、人がいるだけでも安心する。



消毒臭さが鼻につくので、中庭で散歩をすることにした。
1階に降りて自動ドアから出てみると思わず目を細めてしまった。
雪がハラハラ降ってはいるが日差しが良く、床のタイルと植木が照り返していた。
一直線に光を指している。そこには一凛の赤い薔薇が植えられていた。
それを見た瞬間、ミネ子を思い出した。
黒々とした長い髪と真っ赤な口紅がよく似合う彼女だった。
思わず溜息が出てしまうほど美しい人だ。
今の彼女は、僕の中で知っているミネ子ちゃんとは全くの別人になった。
ミネ子ちゃんは本当に僕のことを愛していた。
僕もミネ子ちゃんへの愛は変わらない。
思い出しただけでも胸が張り裂けそうだ。この僕の熱い想いは本物だ。
園芸の前にしゃがみ込み、赤い薔薇を手で包むように触った。
花びらは艶やかでしっとりとしている。
高貴な香りを放っていた。
薔薇には棘がある。
正にミネ子ちゃんみたいな女性のようだ。
僕は彼女の気持ちを知らなかった。
ミネ子ちゃんは昔、伊藤に脅迫されてムリヤリ抱かれてしまった。
彼女の大事なものが伊藤という汚らわしい男に奪い取られてしまった。
彼女はその忌まわしい過去を白紙にしようとして、僕と付き合い、愛してくれるようになったんだ。
彼女が美しいあまりに僕は疑心暗鬼になり、マコトと浮気をした挙句にたくさん彼女に酷いことを言って傷つけてしまった。
僕のせいで彼女の繊細な心は打ち砕かれてしまい、
復讐心をメラメラと燃やしてこのような犯行に及んでしまったのだ。
彼女は決して悪くない。
悪いのは彼女を狂わせてしまった僕なんだ。


「痛っ――」


棘に指が触れてしまい血が浮き上がった。
己の愚かさを苦々しく噛みしめる。
僕はもう一度彼女に逢って謝りたい。
そして、もう一度彼女と白紙の状態でやり直したいと思った。





(つづく)

後書き

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作者:白河甚平
投稿日:2020/03/08 14:10
更新日:2020/03/08 14:10
『ナイフが朱に染まる』の著作権は、すべて作者 白河甚平様に属します。

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