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作品ID:2341
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ふしじろ もひと 


『鉄鎖のメデューサ』

小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

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第34章

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「伝えたか?」
 役目を終えて戻ってきた使者に問いかけたのは、五十ばかりの痩身の男だった。頬の肉が薄く鋭い印象の顔。切れ長の目に覗く影を宿した碧い瞳。容貌からすれば権謀術策を弄する間者とさえ思われかねないこの人物こそ、この辺境の街を治める五代目当主ギルバート・スノーフィールド伯爵にほかならなかった。
「ノースグリーン卿に長き休暇の間の軽率な行動の責任を問い、なおざりにしてきた警備隊の指揮を。そしてホワイトクリフ卿に任務における失態の責任を問い、警備隊指揮の任務を解いた上で解毒の花の探求をと。仰せのとおりに」
 深々と頭を垂れ報告した使者の様子を一瞥して、伯爵はさらに問いかけた。
「さぞ気落ちした様子であったろうな、ノースグリーンは」
「正直胸が痛みました。抗弁は一切なさりませんでしたが」
「無論だ。それが判らぬ男ではない」
 スノーフィールド伯は胸の前で両手の指をからめた。魔術士であった痩身の領主にとって、もはや癖になって久しい結印の仕草だった。
「ノースグリーンは秀でた男だ。だが、いささか情に厚すぎる。そこを突かれてみすみす奸計に踊らされた。情に負けてはならぬ重責を負いながら。
 だからこそ、あえてこの不安と心労のさなかに職務に戻ることを命じた。その意は判っておるはずだ」
 使者が頷くのを見て、伯爵は続けた。
「だが、ホワイトクリフはそうもいくまい。己が一族の誉れたる職務から解かれるとなれば、必ずや直談判にくるだろう」
 冷徹な顔つきの領主がもらした微かなため息に、使者は驚きの表情を浮かべた。
「あやつはとにかく真面目だ。向上心も決して欠けておらぬ。
 だが、思い込みの激しさと視野の狭さが目立ちすぎる。ノースグリーンにいたずらに対抗意識を持ったあげく、手もなく間者に手玉に取られた。おまけにスラムだからと民家をこじ開けるなどもってのほか。ノースグリーンに肩入れするようになったのだけは救いだが
 ノースグリーンのために働かせることで双方の絆と信頼を深めさせると同時に、ここは外の風に当てて見聞を広め、街を守るとはいかなることか頭を冷やして考えさせたいとは思うが、いずれ血相を変えてやってこよう。若いのに似ず頑固なあやつの相手をせねばならぬと思うと今から頭が痛いわ」
「はあ、それが……」
 言葉を濁す使いの者に、スノーフィールド伯は目を上げた。
「なんだ?」
「ホワイトクリフ卿はなにやら非常に意欲的でして、喜んで拝命いたしますとのことでした。実のところ、小躍りしそうなご様子とさえ見えました」
「ふむ? 意外なことよ……」
 なにを見誤ったのかとスノーフィールドの領主は自問したが、答えはついに見い出せなかった。


----------


 ゲオルクたちが持っていた花は戦いで傷ついた者たちの治療に費やされた。スノーフィールドに入れば罪人として裁かれる身のゲオルクたちは街道脇でキャンプ暮らしをするほかなかったが、戦いで死んだ者以外はわけへだてなく治療を受けた。
 小柄な妖魔も含めたすべての者が長旅に耐えられるまでに回復したある朝、一行は旅立ちのときを迎えた。すでに春を予告する小さな、しかし清楚な青い花が道端に咲き始めていた。
 ノースグリーン卿と五人のスノーレンジャーたちが街の大門の外まで一行を見送りにきた。
「こんな形で貴君を送り出すことになるとは、私のせいで本当に迷惑をかけてしまった……」
「気に病まれるな、ご領主の裁定だ。それにかの奸物を見張れるのだから本望だ」
 複雑な面持ちのノースグリーン卿に屈託なく応じるホワイトクリフ卿の姿を見て、苦笑を浮かべつつラルダがいった。
「花を入手したらまっすぐこの地へ戻ってくれる者がほしかったのだから、ありがたい話には違いないが」
「いつ新たな啓示があるか分からないということか」
 かたわらで呟くゲオルクに、黒髪の尼僧は頷いた。

「気をつけるんだぞ」「元気でね」
「ほんとうにありがとう。行ってくるよ」
 スノーレンジャーたちに囲まれて少し緊張した様子のクルルの肩をたたきながら、ロビンは笑った。
 そんな少年の姿を、ゲオルクの部下の一人が離れたところからひたすら見つめていた。
「どうした? ハンス」
 声をかけた仲間に、ややあってハンスは答えた。
「……そっくりなんだ、弟に」
 震えを隠せぬその声に、他の仲間たちもいっせいに彼の視線を追った。若者たちの間に沈痛な空気が流れた。

 ついに一行は出発した。手を振って見送るノースグリーン卿やスノーレンジャーたちの姿もみるみる遠ざかり、やがて見えなくなった。
 先頭はロビンとクルルを乗せたラルダの馬だった。小柄な妖魔は身にはゆったりした長衣をまとっていたが、頭部にはなにも着けず顔をさらしていた。だがロビンとラルダに挟まれているせいか、すれ違う旅人たちにも見落とされることが多く、くつろいだ雰囲気もあってか不思議と見とがめられずにすんでいた。
 だが続く馬の乗り手たちの雰囲気は、およそくつろぎなどとはかけ離れたものだった。
 ラルダの馬の斜め後ろには二頭の馬がつけていた。右側にゲオルク、左側にホワイトクリフが位置していたが、無言のまま前を見つめて馬を進めるゲオルクを、ホワイトクリフは緊張と敵意をむき出しにして睨みつけていた。そんな剣呑きわまりない気配のせいで、道行く人がメデューサを見落としたのではとさえ思えるほどだった。
 さらに続く騎馬の若者たちの一群が、なんとも思いつめた沈痛きわまりない表情で、これまたただごとならぬ雰囲気を漂わせていた。
 ついに途中から、ロビンは視線を背後に感じるようになった。誰が見つめているのかと思い、少年は何度か後ろを振り返った。けれど、はっきりしたことは掴めなかった。


----------


 夕方になり、一同は街道脇で野営することにした。翌日の午後には街道の十字路にさしかかる予定だったが、そこでゲオルクの部下たちは分散して諸国に派遣された仲間たちを連れ戻しにゆくことになっていた。

 焚き火に小枝をくべるラルダに、ロビンとクルルが身を寄せ、さらにホワイトクリフ卿がこれ見よがしに剣の柄に手をかけたまま背後に控えていた。若きナイトの視線の先で、ごま塩頭の従者は木の根元で腕枕をしたまま目を閉じていた。さらにその向こうには、若者たちが別の焚き火を囲んでいた。

 その若者たちの中から、一つの影が立ち上がり近づいてきた。ゲオルクが目を開けた。ホワイトクリフ卿が無言のまま剣を抜いた。
 だが、その影はまっすぐ近づいてくるとロビンの前に立った。ハンスだった。悲し気なその目を、震える唇を、ロビンは驚いて見上げた。クルルも首を傾げてまばたきした。
 ハンスの表情を一瞥したラルダが僅かに身を引いた。その緑の瞳には、焚き火の炎の不思議な揺らめきが映じていた。

後書き

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作者:ふしじろ もひと
投稿日:2021/11/21 00:53
更新日:2021/11/21 00:53
『『鉄鎖のメデューサ』』の著作権は、すべて作者 ふしじろ もひと様に属します。

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作品ID:2341
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