蜜雨

本当はさんに受験勉強を見てもらわなくてもいいような成績だった。けれど、少しでもさんと一緒にいたいから、その為には手段を選ばない。 俺の所為でさんが無理をするようなことはあってはならないけど、俺の為にさんが無理してくれるのが嬉しいって言うのもあって、それらがまた葛藤を生み出す。 「お前数学と英語結構できるから国語を中心にやって…数英は応用と長文やるか」俺の思惑なんて知らずにさんは俺に笑顔を向けていて(いつまでその笑顔が続くのだろうか)、俺が今ここでさんを押し倒して無理矢理奪ったら、さんはどんな顔をするのだろう。 怯える?避ける?それとも、軽蔑でもする?裏切られたとでも思うのだろうか? …いや、さんは優しいからきっとその(俺の大好きな)笑顔でいてくれるんだろうな、無理をしてでも。 さんにはどんなことがあっても笑っていてほしいと思うし、いっそ俺のことを憎んでほしいとも思う(だってそうすればさんは俺でいっぱいになる)。

「―――ぃがっ、大河!!」
「…あ、なにさん…」
「何じゃねーよ、大丈夫か?ねみーのか?」

あーあ、そうやって俺のこと心配して、無意識に男を惑わすんだよな、この人。だから、ムカつく。人の気も知らないでそうやって、近づいてきて、俺を締め付ける。 何度も嫌いになろうとした。なのにそれができないのは、あの人の笑顔が好きで、しかもその笑顔を守りたいって思ったから。 俺はどうしようもなくあの人に惚れ込んでて、嫌いにもなれなければ諦めることもできなかった。だから俺は攻めて攻めて攻めるしかない(俺らしくもなく、振り向いてくれるという浅はかな希望を信じて)。 「さん、俺眠いんで寝ます」「おう、たまには休まないとな。仮眠は15分が最適だぞ」「さんと一緒に」「は?」ぐい、とあの時のキスと同じように腕を引っ張って、 そのままさんをベッドに倒れこませてタオルケットかけて、俺はさんを抱き締めた(かったんだけど、体格の違いで抱きつくようになってしまった)。

俺が臆病者になるのにはまだはえーよ。

さん、俺が聖秀に合格したら―――」「…?、したら?………って寝てるし」さんを、ください。