降谷零は赤が死ぬほど嫌いである。いつだって赤には勝てないからだ。どう抗っても赤は次々と彼の大切なものを容赦なく奪い去っていく。
「ッ!!」
の体に何発も死が撃ち込まれた。無理矢理こじ開けられた穴から流れ出る生命の血潮。どんどん死に近づいていく彼女の体は酷く冷たい。しかし冷静さを欠いた彼にはもはや自分の体が冷えているのか、それとも彼女の体温が失われているのかわからなかった。
「お前まで僕より先に死ぬなんて許さないぞ!!」
彼には自分の死よりも恐ろしいものがある。近しい者の死だ。それこそが最も彼が恐れている事であった。多くの犠牲を払い、やっと例の黒の組織を壊滅まで追い込んだというのに、最後の最後でまた降谷は目の前で自分を庇って撃たれたを失ってしまうのか。
零か一か
「いやあ~死ぬかと思いました」
ここは病院の一室。そこにと赤井、そして降谷がいた。体の至る所に包帯を巻かれ管に繋がれてはいるが、彼女はケロリとした様子でからからと笑う。降谷はこれだけ傷だらけならば、一発くらい自分が痣をつくっても変わらないのじゃないかと静かに怒りを滲ませていた。
「実際降谷君がいなければどうなっていたかわからなかったぞ」
「赤井さん……そうですね。降谷さんこの度はご迷惑を「ふざけるな!! あの血のほとんどはボディアーマーに仕込んであった血糊で、出血多量で死んだと思ったら僕を庇って飛び出した勢いを殺せず地面に頭を打って気絶しただけだと……!!?」
事の顛末を全て一息で説明してくれた降谷。と赤井は降谷の激しい剣幕には慣れているのか、のん気に感嘆の声を漏らすだけだった。
「僕がどれほどお前を……ッ!!」
殺したって死なないような顔で今まで生きてきたが死ぬものか。いくらそう思っていても、人間死ぬときはあっけなく死ぬ。降谷はその死を幾度も経験してきた。だからこそ目を閉じて血に染まった彼女を前にした降谷は絶望で頭が真っ白になってしまったのだ。
「だから赤は嫌いなんだ……!」
簡単に死を連想させる赤い血が憎くて憎くてたまらない。
「わたしにとってこの赤い血は生きている証拠です」
降谷は瞠目してを見つめた。
「そしてあの降谷零の涙を見れる色」
「ッ、お前起きていたのか?!」
意識が靄がかる中、最後に見たのは自分と同じ瞳の色から透明な雫が頬を伝う様だった。その美しい光景をずっと眺めていたかったが、生憎の思いとは裏腹に瞼が強制的に落とされたのである。
「ホォー……あの降谷君が……」
「黙れ赤井秀一!! そもそもなぜお前は撃たれたが生きているとすぐにわかったんだ!」
降谷が血みどろで倒れたに気を取られている間、赤井は彼女を撃った組織の人間の狙撃に成功していた。自分の部下が死んだかもしれないあの状況で、与えられた仕事を平然とこなすのは並大抵の精神力の持ち主ではない。無事任務が完了した赤井はすぐさま降谷に連絡を取り、は生きていると静かに断言した。に触れもせずスコープ越しでしか確認していない赤井の妄言を、何を馬鹿なと降谷は一蹴する。耳を貸さない降谷をなんとか宥めた赤井は、の脈と心拍を調べるよう促したのだった。
「俺も昔一度に騙されたクチでな」
「そんな人を詐欺師みたいに言わないでくださいよ……」
アメリカで共に任務に当たった時にもはボディアーマーに予め血糊を仕込んでいた。そんな彼女があんな大事な最終局面で何の策もなしに弾丸の雨に飛び込む筈がない。だからこそ赤井はは生きていると確信を持っていたのだ。
「ッッ貴様らFBIは一刻も早く僕の日本から出ていけ!!!」
「降谷さん、顔真っ赤」
やはり赤は大嫌いな色だ。
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