蜜雨

第1話

「げっ」

 部室の中で影山飛雄は声を上げた。部活が終わり、着替えを済ませてスマホをチェックしているところにメッセージが舞い込んだのだ。思わず近くにいた日向は固まっている飛雄のスマホの画面を覗き込むと、そこには簡潔に『坂ノ下商店で待ってるね♡』と書いてあった。ご丁寧にハート付きの文面に日向は分かりやすく眉を顰める。こいつバレーも上手くて彼女もいんのかよと惜しげもなく嫉妬の眼差しを向けた。

「すんません! 俺先あがります! っした!」

 慌ただしく部室を出て行く飛雄に部員たちは戸惑いながらも挨拶を返していく。

「……どうしたんだ影山? あんな急いで」

 澤村はワイシャツのボタンを留めながら飛雄が出ていったドアを見つめていた。澤村の疑問に答えようと身を乗り出したのはもちろん日向だ。

「あいつ、カノジョに会いにいったんス!」
「ぬぅわにぃ~?! うらやま……いやいや! こんな部活が大事な時期に彼女に会いに行っただとお!!?」

 上半身裸のままわなわなと震える田中にうるさいと澤村が突っ込むが、もちろん聞こえてはいない。そこに着替え終えていた菅原が爆弾を投下した。

「あの影山の彼女、気になんねえ?」

 清々しく爽やかな笑顔であった。






 BACK / NEXT