蜜雨

第2話

 店番をしていた烏養はカウンターに足を乗せ、タバコを咥えながら新聞を読んでいた。カラリと戸が動く乾いた音が聞こえると、気の抜けた声でっらしゃいませーと形だけの挨拶を投げかける。またうるさい烏野の部活生かと目配せすると、そこには青葉城西の制服に身を包んだすらりと背の高い女子がきょろきょろと店内を見渡していた。珍しさと、その女子高生の美しさに、火が消えているタバコを落としたことに烏養が気がつくことはなかった。ロングヘアーの黒髪は大切に手入れされているのか、サラサラと絹糸のように肩から滑り落ち、少しつり目気味の瞳は強い輝きを放っている。普段女子高生なんて見慣れている筈なのに、なぜか黒タイツの下の程よく引き締まった太腿は白く柔らかいのだろうかと無意識に不埒な想像をしてしまっていた。

「あの……」

 だから烏養は今自分の頭の中を支配している女子が目の前に立っていたことに気がつかなかった。心なしかいいにおいがするのは気のせいだろうか。いや、気のせいだろう――気のせいにしておかなければ思考がおかしくなりそうだ。
 視線を逸らすと、ミカサのトートバッグと共に肩に掛けられたスクールバッグにぶら下がっているばぼちゃんと目が合った。

「ぅおっおう?!」
「? カレーまんと肉まんください」

 烏養が挙動不審過ぎて首を傾げるが、その女子高生は特になにも言わずに商品を受け取ると、綺麗に目を細めて店を出ていった。烏養は心臓に悪いからもう来ないでくれと密かに願うのだった。



(なんかこれじゃあただの変態)






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