散々泣いたわたしは、そのまま驚くほど穏やかに春秋さんに抱かれた。その数時間前にしたばっかりでてっきりそんなことにはならないと思っていたから、すごく驚いたんだけど、でもセックスしてる間もずっと泣き続けて、セックスよりも泣いたことで疲労したわたしは、セックスが終わった途端に眠りこけた。そうしてお昼になるくらいの時間に、わたしと春秋さんはやっとベッドから出て活動し始めた。まるで冬眠した熊みたいだとか、いやそれは熊に失礼なんじゃないかとか、くだらないことを言いながらお互いボサボサの髪のまま今年二回目のお雑煮を作った。同じ日に激しく抱かれたり優しく抱かれたり、夜中にケーキを食べたり、なんだか嵐のような日だった。昨日の夜のことは忘れられそうにない。
「明日から仕事なのに、どうしよう」
お雑煮を作りながら、わたしは頻繁に鏡を見に行った。瞼がいつまでも腫れぼったかったからだ。明日仕事に行くまでには治ってくれればいいんだけど。それはそれで可愛いぞと春秋さんが揶揄うから、新年早々彼氏に泣かされたんだと会社の人に言いふらしてやると脅したら、「それはやめてくれ」と珍しく狼狽えてくれた。
「もうの雑煮も食べ収めか……」
「そんながっかりしなくても……また作りますから」
テーブルの向こうで春秋さんは名残惜しそうにお雑煮を食べている。どうやらわたしのお雑煮をいたく気に入ってくれたらしい。それは嬉しいことではあるんだけど、大して手がかかる料理じゃないのが少し気が引ける。もっとこう、手間暇かかった料理を振る舞ったほうが良かったかも。なんて、すべてが終わってから考えてしまう。
窓の外を見る。元旦から三日目。相変わらずの雲一つない快晴だ。強い風が吹いているのか、時々木の葉が空を舞っている。太陽に照らされて光っているせいで、紙吹雪のようにも見えた。ああ、なんていい日なんだろう。春秋さんがいる。天気もいい。これ以上のものはない。
それでも、あと数時間後には春秋さんはボーダーに行く。わたしは家に戻る。別々の生活がまた始まる。何日も一緒にいるのは楽しかったけど、終わった時が寂しくて仕方がない。いつか同じ家で生活する日が来るのだろうか、とぼんやり思う。そういう日が来たらいい。きっとわたしと春秋さんは半世紀先も、たぶん本当に死ぬまで一緒にいるだろうって、根拠はないけど自信がある。五十年もあれば、春秋さんと三泊四日のお泊まりをするタイミングなんていくらでもあるはずだ。
「春秋さん」
春秋さんが顔を上げる。
「来年……二日の夜ご飯は早めに切り上げましょう。それか、わたしが作ります。ご馳走ってあんまり作ったことないけど、がんばりますから」
「うん……うん?」
「あと、初詣。次は一日の朝に行ってみませんか?混んでたら、その時考えればいいし」
「ああ、うん……?」
「それから、来年はちゃんとケーキのプレートは春秋さんにしてもらいますね。春秋くんって、なんかわたしには違和感しかなくて」
「いや、それは別に俺は気にして……え、もう来年の話か?」
「……もうって、春秋さんだって来年の話してたじゃないですか。お蕎麦送ってもらうから来年も泊まりに来ていいって」
もしかして、もう忘れちゃったの?と聞くと春秋さんはぽかんとした顔で瞬きを繰り返した。そして今にも泣きだしそうな顔で、それでも幸せそうに、「忘れるわけないだろ」と笑った。