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作品ID:579
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約1237文字 読了時間約1分 原稿用紙約2枚
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灰に吠える
作品紹介
うらぶれた捨て犬は、冷たい灰色の地面に座り込み、
あの日の選択を、あの日の自身を嘆いて叫ぶ。
器用にもアコースティックギターをかき鳴らし、
誰にも何にも見向きもされず、
だた、かつて死ぬ気で告ったあの人の面影を探している。
そんな、売れない歌うたいの話。
あの日の選択を、あの日の自身を嘆いて叫ぶ。
器用にもアコースティックギターをかき鳴らし、
誰にも何にも見向きもされず、
だた、かつて死ぬ気で告ったあの人の面影を探している。
そんな、売れない歌うたいの話。
歌うたいと商業主義は、案外相反するもの同士だと俺は思う。俺はしがないシンガーソングライターだ。今日も、硬貨らしきものは一銭も投下されなかったギターケースを引っ提げて、無精ひげが背の低い雑草よろしく生えまくる面を晒しながら地下鉄を歩いていた。
もっと今日を生きる活力が俺にもあった時、傍には彼女がいた。大学の寂れた校舎裏、死ぬ覚悟で彼女に告り、めでたくオーケーを貰ったその日を最高潮にして、今もぐんぐんと俺の幸福は下降中である。一度彼女の名を使った曲を作ったことがあったけど、あまりに悪女に書きすぎてぶん殴られたことを思い出した。泣きたくなる。別にそれが別れた原因でも何でもないけど、間違いなくその時の俺は生きようとして、そのときを生きていた。
「……くそったれ」
地下鉄のホームを行きかう奴らが俺の横を通り過ぎるたびに、そいつらに向かって意味のなさない悪態をつく。たぶん、すれ違いざまに聞いた俺の毒を、そいつらは疑心暗鬼的に解釈して胸が曇るんだろう。ざまあみろ。
俺との別れ際、順子は俺に夢を捨てれば楽になれると囁いた。そうすれば私はどこへも行かないよ? ねえ。私と、あんたの夢。どっちが大事なの?
その言葉通り、俺は今の選択をひたすら後悔しながら自分の手元から去っていった女の顔を思い出している。
そして、もし、その時の選択を誤らなかった先の未来を想像して脳味噌が果てで描いたその情景が、あまりにも残酷で、そして耐えられないほどに綺麗過ぎて。小さな背中に背負った、子供の貯金箱よりもお粗末な自慢のギターケースとは、比べるのもばかばかしくなるくらいに正反対だった。
だから。
だから俺は、今日もう一回だけ孤独なリサイタルをやってやることに決めた。日の当たらない地面に腰を下ろし、空気とギターで隙間を埋めたケースを開く。顔の潰れた連中が行きかう地下鉄で、俺の元に残ってくれた唯一をかき鳴らしながら叫ぶ。
この声が届かなくていい。
きっと、俺という生き様は最初から最後まで自己満足だった。今や、その満足すらも捻出できず無様にこうして喘いでいる。
この音色が響かなくていい。
きっと、俺という野郎の選択は最初から最後まで承認欲求だった。順子に俺の夢を見ていて欲しい。どれだけみすぼらしく堕ちたとしても、お前よりも価値を見出してしまったものに今でもすがりながら生きながらえている俺を知ってほしい。
しょうがねえから歌ってやるよ。
校舎裏、死ぬ気で告ったあの日から、俺は今も歌ってるぞ。
最後の曲の最期のサビ。悪女と踊る、不細工な歌うたいは不相応の末路を迎え、今とは程遠い、幸せに落ちる。
誰かとよく似たその人は、俺のギターケースに小銭を投げ入れ、いつまでも俺の歌を聞いていた。曲が終わり、その物好きの顔を拝んでやろうと汗にまみれた髭面を上げる。
――俺は、その姿を見止めて、目を見開いた。
もっと今日を生きる活力が俺にもあった時、傍には彼女がいた。大学の寂れた校舎裏、死ぬ覚悟で彼女に告り、めでたくオーケーを貰ったその日を最高潮にして、今もぐんぐんと俺の幸福は下降中である。一度彼女の名を使った曲を作ったことがあったけど、あまりに悪女に書きすぎてぶん殴られたことを思い出した。泣きたくなる。別にそれが別れた原因でも何でもないけど、間違いなくその時の俺は生きようとして、そのときを生きていた。
「……くそったれ」
地下鉄のホームを行きかう奴らが俺の横を通り過ぎるたびに、そいつらに向かって意味のなさない悪態をつく。たぶん、すれ違いざまに聞いた俺の毒を、そいつらは疑心暗鬼的に解釈して胸が曇るんだろう。ざまあみろ。
俺との別れ際、順子は俺に夢を捨てれば楽になれると囁いた。そうすれば私はどこへも行かないよ? ねえ。私と、あんたの夢。どっちが大事なの?
その言葉通り、俺は今の選択をひたすら後悔しながら自分の手元から去っていった女の顔を思い出している。
そして、もし、その時の選択を誤らなかった先の未来を想像して脳味噌が果てで描いたその情景が、あまりにも残酷で、そして耐えられないほどに綺麗過ぎて。小さな背中に背負った、子供の貯金箱よりもお粗末な自慢のギターケースとは、比べるのもばかばかしくなるくらいに正反対だった。
だから。
だから俺は、今日もう一回だけ孤独なリサイタルをやってやることに決めた。日の当たらない地面に腰を下ろし、空気とギターで隙間を埋めたケースを開く。顔の潰れた連中が行きかう地下鉄で、俺の元に残ってくれた唯一をかき鳴らしながら叫ぶ。
この声が届かなくていい。
きっと、俺という生き様は最初から最後まで自己満足だった。今や、その満足すらも捻出できず無様にこうして喘いでいる。
この音色が響かなくていい。
きっと、俺という野郎の選択は最初から最後まで承認欲求だった。順子に俺の夢を見ていて欲しい。どれだけみすぼらしく堕ちたとしても、お前よりも価値を見出してしまったものに今でもすがりながら生きながらえている俺を知ってほしい。
しょうがねえから歌ってやるよ。
校舎裏、死ぬ気で告ったあの日から、俺は今も歌ってるぞ。
最後の曲の最期のサビ。悪女と踊る、不細工な歌うたいは不相応の末路を迎え、今とは程遠い、幸せに落ちる。
誰かとよく似たその人は、俺のギターケースに小銭を投げ入れ、いつまでも俺の歌を聞いていた。曲が終わり、その物好きの顔を拝んでやろうと汗にまみれた髭面を上げる。
――俺は、その姿を見止めて、目を見開いた。
後書き
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