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作品ID:600
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約3590文字 読了時間約2分 原稿用紙約5枚
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ウォータートーク
作品紹介
陽の光は、水を青に染め上げる。
水、青く。
指の隙間を駆け抜ける。
粒と、流れとの合間に。
歌う。
水、反照。
水にまつわる掌編集です。
水、青く。
指の隙間を駆け抜ける。
粒と、流れとの合間に。
歌う。
水、反照。
水にまつわる掌編集です。
《始めの一粒》
最初の一粒が降り始めてから、それは今でもアスファルトに打ちつけている。その姿は一瞬ごとに変わり、歪み、やがて砕け散ってしまう。自分の最後を知っていながら、それでも止むことはない。
《冷たい青空》
ついに、雲の切れ間から陽の光が降り注ぎ始めてしまった。
雨のあとの淀んだ空気を切り裂くように、光の束は輝いている。陽光は時が経つにつれて、嬉しそうにその数を増して、やがて雨雲をもみ消してしまった。
曇り空を眺めたかった人から見れば、陽の光なんて鬱陶しいだけだ。けれど、陽の光を求めて曇り空を眺めていた人にとっては、この光はどれほどの力を与えるのだろう。
今、水たまりは、見苦しいほど光を乱反射させている。蜘蛛の巣は、へばりついた水滴をごてごてした装飾品のように輝かせている。どうしよう。空が、晴れてしまう。
僕は真っ青に晴れ渡った空を見たくないから、今まで曇り空ばかりを眺めていた。晴れ渡って、何もない空はあまりにも空虚すぎて、いやらしいほどに白々しくて、その純真さを見せつけられているようにすら感じるときがある。
そんな感覚を呼ぶ晴天は、冷え切った光で作られている。雲は、空の冷たさを隠してくれる。雨は、純真さを汚してくれる。太陽は、空の空虚さを暖かさにかえてくれる。
それでも青空は、残ったもの全てをかき集めて、あんなにも美しい虹を見せる。虹の前には、雲も雨も太陽も、すべてはただの材料になってしまう。
そんな青空を嫌いだと思う僕は、いつまでもいつまでも曇り空であってほしいと願う人間だ。
《孤独な水平線》
水平線は揺らがない
どれだけ海が波立てても
どれだけ空を海鳥が飛び交っても
海と空の狭間は、たった一人だけの場所
「孤独」でいることを望んだ君と
紙飛行機に乗って、飛んで行った
僕は君を乗せる紙飛行機になる
真っ青な海に、真っ青な空
その狭間へといく、真白な紙飛行機
水平線は、世界にたったひとつだけ
水平線は揺らがない
《『死ぬ』》
「君は、死ぬんだ」
死ぬ? 僕が?
「そう。外へ出るんだ」
外? この、僕が入った容器のことじゃなくて?
「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」
今、それでいいかもって思っていたところだよ。
「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は死ぬんだ。誰に言われるまでもなく、死ぬんだよ」
死ぬって、怖いことじゃないかい?
「それでも君は、なにしたって死ぬんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」
みんな? この中に昔入っていた人がいるの?
「ううん。ここは君だけの場所。やがて死ぬ人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が死ぬときのことなんだよ」
そっか。なら僕は、いつか死ぬんだね。
そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。
《『生まれる』》
「君は、生まれるんだ」
生まれる? 僕が?
「そう。外へ出るんだ」
外? この、僕の入った容器のことじゃなくて?
「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」
今、それでいいかもって思っていたところだよ。
「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は生まれるんだ。誰に言われるまでもなく、生まれるんだよ」
生まれるって、怖いことじゃないかい?
「それでも君は、なにしたって生まれるんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」
みんな? この中に昔入っていた人がいるの?
「ううん。ここは君だけの場所。やがて生まれる人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が生まれるときのことなんだよ」
そっか。なら僕は、いつか生まれるんだね。
そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。
《深窓の令嬢》
水槽の中で永遠に閉じ込められた金魚が、外へ出るのにはどうしたらいいのだろう。私は自室にいるペットを眺めながら考える。
私は、物思いにふけりたいがために金魚を飼ったのだろうか。それとも、生き物が部屋にいた方がリラックスできるからだろうか。金魚は口をパクパクしながら、体についた赤いレースを、ひらつかせる。
そういえば数学の宿題を忘れていた。
私はそれきり、金魚のことは忘れていた。
水槽の中に閉じ込められた金魚は、肌色の壁を眺めながら考える。この中で永遠に過ごすにはどうしたらいいのだろう。
与えられ続ける餌、日に日に汚染されていく環境。
外が見えない。汚れの塊が酸素ポンプに吸い込まれていく奇妙な音が、ずっと遠くに聞こえる。
それから、世界が暗くなったり、明るくなったりを、幾度も繰り返した。その時も、餌は与えられ続けた。
金魚の体は水面に浮かびあがり、水槽の汚れになった。
それからも、餌は与えられ続けた。
金魚は、それから永遠というにはあまりにも短い時間を、水槽の中で生き続ける。
《孤独な呼吸が終わるまで》
空と海の境界が曖昧になる青い海。とろけるように浮かぶ雲。一人分の消えかけた足跡を残す浜辺。
寄せては返す無限のリズムは心臓の鼓動のように当たり前だった。
羊水と同じ味の水を飲む。
私は、胎児のように水中で丸くなって、どこまでも落ちていく。
深く、遠いところを目指して。
沈んでいると思っていたとしても、私の体は沈まない。
泳ぐことも出来ない。
水面に浮かぶクラゲみたいに、水と同化することも出来ない。
目を閉じれば紙飛行機に乗った私の姿が浮かび上がる。
海水に濡れた頬に、空を駆ける影が覆いかぶさる。
空を仰ぐと、小さな紙飛行機が落ちてくるのが見えた。
《箱船と警鐘と》
朝、太陽は昇らなかった。深い色を湛えた腫れぼったい雲が、さめざめと雨を零していた。
僕は雨が屋根を打つ音で目を覚ました。少しの間、布団の中で雨の音を聞いていたかった。
『よくきいて。いいかい、もうこの世界は滅んでしまう』
頭の中では、雨音で起こされる前に見ていた夢をリピートしていた。重要なところだけを抜粋するように。
『雨が、世界を飲み込むんだ。ここから旅立たなければ』
誰とも似ていて、誰でもないような人から聞いた言葉。
『君は大切な人を一人だけ連れて世界に別れを』
雨の音は、夢の中でもずっと聞こえていた。
『正午の鐘が鳴るころに、街外れの丘へおいで』
その人は慈愛の深い表情で、僕を夢から送り出した。
『出航はその時。君はわたしに魅入られたんだ』
夢から覚めてからも、僕は眠気に負けてしまった。
僕は、ぼんやりと布団からこぼれ落ちるように起きだした。それは、ぬくぬくと二度寝した午後だった。
《終わりの一粒》
雨が降り始め、空は青さを失った。
青空は分厚い雲に隠されて、その冷徹な青い光を差すことはない。雲の中を進む巨大なものを隠すように、雨は強さを増していく。水たまりにできる波紋の数を数えることが出来なくなると、雨が濡らすものは、地面に留まらなくなる。
雨は世界中に降り注いでいく。
今、雨の降りだした曇天を眺める男の顔にも。
今、誕生しようとする新しい命を抱く、母親の腹にも。
今、忘れられた小さな金魚が住み続ける鉢のなかにも。
今、淀んだ空と海の狭間に浮かぶ、少女の頬にも。
今、雨に打たれる孤独な少女を探す紙飛行機の翼にも。
今、惰眠をむさぼる少年の家の屋根にも。
分厚い雲を切り裂いて、雨に沈む街に箱船がその姿を見せた。箱船は人類に別れを告げ、新しい世界に向けて旅立っていくのだ。
乗るべき「ノア」を忘れた箱船は、水没する世界を尻目に飛翔していく。降り注ぐ雨は触れたもの全てを土くれに変え、世界は元の姿に戻っていく。
空がようやく泣き止んだときには、もう世界は限りなく平坦な泥で覆われていた。そこには、一切の人工物が消えていて、人間の営みを完全に過去のものにしていた。
その全てを見下ろす者は、平坦な世界に響き渡る動物達の鳴き声にまぎれて、小さく呟いた。
待ち合わせに遅れるなんてどうかしている、と。
最初の一粒が降り始めてから、それは今でもアスファルトに打ちつけている。その姿は一瞬ごとに変わり、歪み、やがて砕け散ってしまう。自分の最後を知っていながら、それでも止むことはない。
《冷たい青空》
ついに、雲の切れ間から陽の光が降り注ぎ始めてしまった。
雨のあとの淀んだ空気を切り裂くように、光の束は輝いている。陽光は時が経つにつれて、嬉しそうにその数を増して、やがて雨雲をもみ消してしまった。
曇り空を眺めたかった人から見れば、陽の光なんて鬱陶しいだけだ。けれど、陽の光を求めて曇り空を眺めていた人にとっては、この光はどれほどの力を与えるのだろう。
今、水たまりは、見苦しいほど光を乱反射させている。蜘蛛の巣は、へばりついた水滴をごてごてした装飾品のように輝かせている。どうしよう。空が、晴れてしまう。
僕は真っ青に晴れ渡った空を見たくないから、今まで曇り空ばかりを眺めていた。晴れ渡って、何もない空はあまりにも空虚すぎて、いやらしいほどに白々しくて、その純真さを見せつけられているようにすら感じるときがある。
そんな感覚を呼ぶ晴天は、冷え切った光で作られている。雲は、空の冷たさを隠してくれる。雨は、純真さを汚してくれる。太陽は、空の空虚さを暖かさにかえてくれる。
それでも青空は、残ったもの全てをかき集めて、あんなにも美しい虹を見せる。虹の前には、雲も雨も太陽も、すべてはただの材料になってしまう。
そんな青空を嫌いだと思う僕は、いつまでもいつまでも曇り空であってほしいと願う人間だ。
《孤独な水平線》
水平線は揺らがない
どれだけ海が波立てても
どれだけ空を海鳥が飛び交っても
海と空の狭間は、たった一人だけの場所
「孤独」でいることを望んだ君と
紙飛行機に乗って、飛んで行った
僕は君を乗せる紙飛行機になる
真っ青な海に、真っ青な空
その狭間へといく、真白な紙飛行機
水平線は、世界にたったひとつだけ
水平線は揺らがない
《『死ぬ』》
「君は、死ぬんだ」
死ぬ? 僕が?
「そう。外へ出るんだ」
外? この、僕が入った容器のことじゃなくて?
「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」
今、それでいいかもって思っていたところだよ。
「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は死ぬんだ。誰に言われるまでもなく、死ぬんだよ」
死ぬって、怖いことじゃないかい?
「それでも君は、なにしたって死ぬんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」
みんな? この中に昔入っていた人がいるの?
「ううん。ここは君だけの場所。やがて死ぬ人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が死ぬときのことなんだよ」
そっか。なら僕は、いつか死ぬんだね。
そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。
《『生まれる』》
「君は、生まれるんだ」
生まれる? 僕が?
「そう。外へ出るんだ」
外? この、僕の入った容器のことじゃなくて?
「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」
今、それでいいかもって思っていたところだよ。
「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は生まれるんだ。誰に言われるまでもなく、生まれるんだよ」
生まれるって、怖いことじゃないかい?
「それでも君は、なにしたって生まれるんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」
みんな? この中に昔入っていた人がいるの?
「ううん。ここは君だけの場所。やがて生まれる人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が生まれるときのことなんだよ」
そっか。なら僕は、いつか生まれるんだね。
そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。
《深窓の令嬢》
水槽の中で永遠に閉じ込められた金魚が、外へ出るのにはどうしたらいいのだろう。私は自室にいるペットを眺めながら考える。
私は、物思いにふけりたいがために金魚を飼ったのだろうか。それとも、生き物が部屋にいた方がリラックスできるからだろうか。金魚は口をパクパクしながら、体についた赤いレースを、ひらつかせる。
そういえば数学の宿題を忘れていた。
私はそれきり、金魚のことは忘れていた。
水槽の中に閉じ込められた金魚は、肌色の壁を眺めながら考える。この中で永遠に過ごすにはどうしたらいいのだろう。
与えられ続ける餌、日に日に汚染されていく環境。
外が見えない。汚れの塊が酸素ポンプに吸い込まれていく奇妙な音が、ずっと遠くに聞こえる。
それから、世界が暗くなったり、明るくなったりを、幾度も繰り返した。その時も、餌は与えられ続けた。
金魚の体は水面に浮かびあがり、水槽の汚れになった。
それからも、餌は与えられ続けた。
金魚は、それから永遠というにはあまりにも短い時間を、水槽の中で生き続ける。
《孤独な呼吸が終わるまで》
空と海の境界が曖昧になる青い海。とろけるように浮かぶ雲。一人分の消えかけた足跡を残す浜辺。
寄せては返す無限のリズムは心臓の鼓動のように当たり前だった。
羊水と同じ味の水を飲む。
私は、胎児のように水中で丸くなって、どこまでも落ちていく。
深く、遠いところを目指して。
沈んでいると思っていたとしても、私の体は沈まない。
泳ぐことも出来ない。
水面に浮かぶクラゲみたいに、水と同化することも出来ない。
目を閉じれば紙飛行機に乗った私の姿が浮かび上がる。
海水に濡れた頬に、空を駆ける影が覆いかぶさる。
空を仰ぐと、小さな紙飛行機が落ちてくるのが見えた。
《箱船と警鐘と》
朝、太陽は昇らなかった。深い色を湛えた腫れぼったい雲が、さめざめと雨を零していた。
僕は雨が屋根を打つ音で目を覚ました。少しの間、布団の中で雨の音を聞いていたかった。
『よくきいて。いいかい、もうこの世界は滅んでしまう』
頭の中では、雨音で起こされる前に見ていた夢をリピートしていた。重要なところだけを抜粋するように。
『雨が、世界を飲み込むんだ。ここから旅立たなければ』
誰とも似ていて、誰でもないような人から聞いた言葉。
『君は大切な人を一人だけ連れて世界に別れを』
雨の音は、夢の中でもずっと聞こえていた。
『正午の鐘が鳴るころに、街外れの丘へおいで』
その人は慈愛の深い表情で、僕を夢から送り出した。
『出航はその時。君はわたしに魅入られたんだ』
夢から覚めてからも、僕は眠気に負けてしまった。
僕は、ぼんやりと布団からこぼれ落ちるように起きだした。それは、ぬくぬくと二度寝した午後だった。
《終わりの一粒》
雨が降り始め、空は青さを失った。
青空は分厚い雲に隠されて、その冷徹な青い光を差すことはない。雲の中を進む巨大なものを隠すように、雨は強さを増していく。水たまりにできる波紋の数を数えることが出来なくなると、雨が濡らすものは、地面に留まらなくなる。
雨は世界中に降り注いでいく。
今、雨の降りだした曇天を眺める男の顔にも。
今、誕生しようとする新しい命を抱く、母親の腹にも。
今、忘れられた小さな金魚が住み続ける鉢のなかにも。
今、淀んだ空と海の狭間に浮かぶ、少女の頬にも。
今、雨に打たれる孤独な少女を探す紙飛行機の翼にも。
今、惰眠をむさぼる少年の家の屋根にも。
分厚い雲を切り裂いて、雨に沈む街に箱船がその姿を見せた。箱船は人類に別れを告げ、新しい世界に向けて旅立っていくのだ。
乗るべき「ノア」を忘れた箱船は、水没する世界を尻目に飛翔していく。降り注ぐ雨は触れたもの全てを土くれに変え、世界は元の姿に戻っていく。
空がようやく泣き止んだときには、もう世界は限りなく平坦な泥で覆われていた。そこには、一切の人工物が消えていて、人間の営みを完全に過去のものにしていた。
その全てを見下ろす者は、平坦な世界に響き渡る動物達の鳴き声にまぎれて、小さく呟いた。
待ち合わせに遅れるなんてどうかしている、と。
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