小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説鍛錬室

   小説投稿室へ
運営方針(感想&評価について)

読了ボタンへ
作品紹介へ
感想&批評へ
作者の住民票へ

作品ID:600

こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約3590文字 読了時間約2分 原稿用紙約5枚


読了ボタン

button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ウォータートーク」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(191)・読中(2)・読止(0)・一般PV数(741)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)

遠藤 敬之 ■ある住民 


小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし /

ウォータートーク

作品紹介

陽の光は、水を青に染め上げる。
水、青く。
指の隙間を駆け抜ける。
粒と、流れとの合間に。
歌う。
水、反照。


水にまつわる掌編集です。




《始めの一粒》

 最初の一粒が降り始めてから、それは今でもアスファルトに打ちつけている。その姿は一瞬ごとに変わり、歪み、やがて砕け散ってしまう。自分の最後を知っていながら、それでも止むことはない。


《冷たい青空》

 ついに、雲の切れ間から陽の光が降り注ぎ始めてしまった。
 雨のあとの淀んだ空気を切り裂くように、光の束は輝いている。陽光は時が経つにつれて、嬉しそうにその数を増して、やがて雨雲をもみ消してしまった。
 曇り空を眺めたかった人から見れば、陽の光なんて鬱陶しいだけだ。けれど、陽の光を求めて曇り空を眺めていた人にとっては、この光はどれほどの力を与えるのだろう。
 今、水たまりは、見苦しいほど光を乱反射させている。蜘蛛の巣は、へばりついた水滴をごてごてした装飾品のように輝かせている。どうしよう。空が、晴れてしまう。
 僕は真っ青に晴れ渡った空を見たくないから、今まで曇り空ばかりを眺めていた。晴れ渡って、何もない空はあまりにも空虚すぎて、いやらしいほどに白々しくて、その純真さを見せつけられているようにすら感じるときがある。
 そんな感覚を呼ぶ晴天は、冷え切った光で作られている。雲は、空の冷たさを隠してくれる。雨は、純真さを汚してくれる。太陽は、空の空虚さを暖かさにかえてくれる。
それでも青空は、残ったもの全てをかき集めて、あんなにも美しい虹を見せる。虹の前には、雲も雨も太陽も、すべてはただの材料になってしまう。

 そんな青空を嫌いだと思う僕は、いつまでもいつまでも曇り空であってほしいと願う人間だ。


《孤独な水平線》

 水平線は揺らがない

 どれだけ海が波立てても

 どれだけ空を海鳥が飛び交っても
 
 海と空の狭間は、たった一人だけの場所
 
 「孤独」でいることを望んだ君と
 
 紙飛行機に乗って、飛んで行った
 
 僕は君を乗せる紙飛行機になる
 
 真っ青な海に、真っ青な空
 
 その狭間へといく、真白な紙飛行機
 
 水平線は、世界にたったひとつだけ
 
 水平線は揺らがない


《『死ぬ』》

「君は、死ぬんだ」

 死ぬ? 僕が?

「そう。外へ出るんだ」

 外? この、僕が入った容器のことじゃなくて?

「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」

 今、それでいいかもって思っていたところだよ。

「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は死ぬんだ。誰に言われるまでもなく、死ぬんだよ」

 死ぬって、怖いことじゃないかい?

「それでも君は、なにしたって死ぬんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」

 みんな? この中に昔入っていた人がいるの?

「ううん。ここは君だけの場所。やがて死ぬ人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が死ぬときのことなんだよ」
 
 そっか。なら僕は、いつか死ぬんだね。
 そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。


《『生まれる』》

「君は、生まれるんだ」

 生まれる? 僕が?

「そう。外へ出るんだ」

 外? この、僕の入った容器のことじゃなくて?

「うん。その中で丸まっているだけでもいいのかい?」

 今、それでいいかもって思っていたところだよ。

「そうなんだ。でもね、時間が来れば君は生まれるんだ。誰に言われるまでもなく、生まれるんだよ」

 生まれるって、怖いことじゃないかい?

「それでも君は、なにしたって生まれるんだよ。それはこの中にいた全ての人たちが、みんな経験してきた事さ」

 みんな? この中に昔入っていた人がいるの?

「ううん。ここは君だけの場所。やがて生まれる人たちが入るところ。だから、ここから出ていくときは君が生まれるときのことなんだよ」

 そっか。なら僕は、いつか生まれるんだね。
 そのときまで、ここで少しだけ眠るとするよ。


《深窓の令嬢》

 水槽の中で永遠に閉じ込められた金魚が、外へ出るのにはどうしたらいいのだろう。私は自室にいるペットを眺めながら考える。
 私は、物思いにふけりたいがために金魚を飼ったのだろうか。それとも、生き物が部屋にいた方がリラックスできるからだろうか。金魚は口をパクパクしながら、体についた赤いレースを、ひらつかせる。
 そういえば数学の宿題を忘れていた。
 私はそれきり、金魚のことは忘れていた。
 
 水槽の中に閉じ込められた金魚は、肌色の壁を眺めながら考える。この中で永遠に過ごすにはどうしたらいいのだろう。
 与えられ続ける餌、日に日に汚染されていく環境。
外が見えない。汚れの塊が酸素ポンプに吸い込まれていく奇妙な音が、ずっと遠くに聞こえる。
 それから、世界が暗くなったり、明るくなったりを、幾度も繰り返した。その時も、餌は与えられ続けた。
 金魚の体は水面に浮かびあがり、水槽の汚れになった。
 それからも、餌は与えられ続けた。
 
 金魚は、それから永遠というにはあまりにも短い時間を、水槽の中で生き続ける。


《孤独な呼吸が終わるまで》

 空と海の境界が曖昧になる青い海。とろけるように浮かぶ雲。一人分の消えかけた足跡を残す浜辺。
 寄せては返す無限のリズムは心臓の鼓動のように当たり前だった。
 羊水と同じ味の水を飲む。
 私は、胎児のように水中で丸くなって、どこまでも落ちていく。 
 深く、遠いところを目指して。

 沈んでいると思っていたとしても、私の体は沈まない。
 泳ぐことも出来ない。
 水面に浮かぶクラゲみたいに、水と同化することも出来ない。

 目を閉じれば紙飛行機に乗った私の姿が浮かび上がる。
 海水に濡れた頬に、空を駆ける影が覆いかぶさる。

 空を仰ぐと、小さな紙飛行機が落ちてくるのが見えた。


《箱船と警鐘と》

 朝、太陽は昇らなかった。深い色を湛えた腫れぼったい雲が、さめざめと雨を零していた。
僕は雨が屋根を打つ音で目を覚ました。少しの間、布団の中で雨の音を聞いていたかった。

『よくきいて。いいかい、もうこの世界は滅んでしまう』

 頭の中では、雨音で起こされる前に見ていた夢をリピートしていた。重要なところだけを抜粋するように。

『雨が、世界を飲み込むんだ。ここから旅立たなければ』

 誰とも似ていて、誰でもないような人から聞いた言葉。

『君は大切な人を一人だけ連れて世界に別れを』

 雨の音は、夢の中でもずっと聞こえていた。

『正午の鐘が鳴るころに、街外れの丘へおいで』

 その人は慈愛の深い表情で、僕を夢から送り出した。

『出航はその時。君はわたしに魅入られたんだ』

 夢から覚めてからも、僕は眠気に負けてしまった。

 僕は、ぼんやりと布団からこぼれ落ちるように起きだした。それは、ぬくぬくと二度寝した午後だった。


   《終わりの一粒》

 雨が降り始め、空は青さを失った。
 青空は分厚い雲に隠されて、その冷徹な青い光を差すことはない。雲の中を進む巨大なものを隠すように、雨は強さを増していく。水たまりにできる波紋の数を数えることが出来なくなると、雨が濡らすものは、地面に留まらなくなる。
 雨は世界中に降り注いでいく。

 今、雨の降りだした曇天を眺める男の顔にも。
 今、誕生しようとする新しい命を抱く、母親の腹にも。
 今、忘れられた小さな金魚が住み続ける鉢のなかにも。
 今、淀んだ空と海の狭間に浮かぶ、少女の頬にも。
 今、雨に打たれる孤独な少女を探す紙飛行機の翼にも。
 今、惰眠をむさぼる少年の家の屋根にも。

 分厚い雲を切り裂いて、雨に沈む街に箱船がその姿を見せた。箱船は人類に別れを告げ、新しい世界に向けて旅立っていくのだ。
 乗るべき「ノア」を忘れた箱船は、水没する世界を尻目に飛翔していく。降り注ぐ雨は触れたもの全てを土くれに変え、世界は元の姿に戻っていく。
 空がようやく泣き止んだときには、もう世界は限りなく平坦な泥で覆われていた。そこには、一切の人工物が消えていて、人間の営みを完全に過去のものにしていた。
 その全てを見下ろす者は、平坦な世界に響き渡る動物達の鳴き声にまぎれて、小さく呟いた。
 
 待ち合わせに遅れるなんてどうかしている、と。

後書き

未設定


作者 灰縞 凪
投稿日:2016/12/14 22:49:32
更新日:2017/01/31 09:38:49
『ウォータートーク』の著作権は、すべて作者 灰縞 凪様に属します。
HP『

読了ボタン

button design:白銀さん Thanks!

読了:小説を読み終えた場合クリックしてください。
読中:小説を読んでいる途中の状態です。小説を開いた場合自動で設定されるため、誤って「読了」「読止」押してしまい、戻したい場合クリックしてください。
読止:小説を最後まで読むのを諦めた場合クリックしてください。
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。

自己評価


感想&批評

作品ID:600
「ウォータートーク」へ

小説の冒頭へ
作品紹介へ
感想&批評へ
作者の住民票へ

ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS