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作品ID:607
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2187文字 読了時間約2分 原稿用紙約3枚
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■惨文文士
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし /
黄昏からはじまる
作品紹介
僕は、大変な手術を来週に控えていた。
確かに存在する「失敗」の可能性を思って、日々を無駄に生きている。
こんな冴えない眼鏡男の人生が。
虚しい暗闇に閉じる前くらい、穏やかな幸福があったっていいだろう。
確かに存在する「失敗」の可能性を思って、日々を無駄に生きている。
こんな冴えない眼鏡男の人生が。
虚しい暗闇に閉じる前くらい、穏やかな幸福があったっていいだろう。
放課後の教室に、座っている。窓際で真ん中あたりの僕の座席は、この教室の全域を容易に見渡すことができる。今日のこの居残りは、僕にとって項目にチェックマークを入れるような事柄に過ぎない。
制服の胸ポケットから、掌よりも少しだけ大きな手帳を取り出した。その手帳に箇条書きに書き綴られた言葉は、僕のこれからやりたいことを列挙している。やりたいことリスト、とでも言えばいいのだろうが、これは来週の手術に向けてもし万が一失敗したときのためにやり残しが無いようにするための指南書だった。書きなぐったやりたいことは、ちんけながらも僕の夢だ。
そして、僕の手術が失敗したときに執刀医を恨まないための僕なりの思いやりだった。
僕は生まれつき目が悪かった。今も、ビン底みたいに分厚いレンズの眼鏡を鼻頭に引っかけて、加工されて映る世界に甘んじている。
そして来週には視力を上げるための小難しい手術を受けることになっていた。成功すれば今よりも世界は鮮明になり、失敗すればきっと視力が失われる。
色や光を感じることが出来なくなるということは、世界が真っ黒になるということで、それはつまり僕越しに見た世界の全てがつまらなくなるということだった。視界が真っ黒い夜に塗りつぶされれば、寿命で死ぬまで僕の記憶には新しいものはもう二度と映らない。
今日は、やることリストを達成することに向けて最初の項目にかかれたことを実行する。
ひとつめ、夕日を眺める。
今日は晴れだ。夕日を眺めるには僕の教室から、そして僕の席から眺めるというこだわりがある。このまま最終下校時刻までここで時間を潰していればいずれは夕日を眺めることが出来るだろう。
今はまだ夕日が出ているとは言い難い。まだ待たねば。僕は暇になってかけていたビン底眼鏡を机に置くと、腕で頭を抱え込みそのまま突っ伏した。
「……村山君?」
小一時間も経っていない。せいぜい十五分かそこらだろう。クライスメイトの子に声を掛けられた。霞がかかっているように思考がはっきりしない頭で、声の方向に顔を向けた。
「ん?」
ぼやけて何も見えない。
「誰?」
「村山君、私だよ、笹倉。ほら、美術部の。……もしかして見えてない?」
「ああ。笹倉さんね、うん。クラスメイトの」
僕はかけ忘れていた眼鏡をかけようと、机に置き去りだったビン底眼鏡に手を伸ばす。
「そう言えば、村山君って目が悪かったっけ」
「そうだね。生まれつきだけど。……そう言えば、笹倉さんはどうしてここに? 忘れものでも取りに来たの?」
僕が何の気何し聞くと、
「忘れ物? あ、いや。そう言うのじゃないんだけどね。教室で寝てた村山君を起こさないとって、思って」
「わざわざそのために?」
「そうだよ。教室で寝てたら夜寝れなくなっちゃうじゃん」
「確かにそうかも。でも、悪いね。僕はこのままここに残ってなきゃいけないんだ」
僕にはここから夕日を見るという崇高な目的が合って居残っているのだ。
「なんで? 補修もないし、部活でもないよね?」
「僕は、ここから夕日を見るために残ってるの」
時間的にはまだ余裕がある。笹倉さんと話していればすぐに時間は過ぎていくだろう。
「夕日? そんなのいつでも見れるんじゃないかな」
「残念なことに僕には時間が残ってないんだ。そうだ、さっき僕を起こしてくれたお礼にこれを見せてあげよう」
机に突っ伏す前に机に引き出しに突っ込んだままだった手帳の存在を思い出し、僕は笹倉さんに手渡してやった。
「なにこれ? って、わあっ」
「ん? そんな驚くようなことかな」
驚いている様子の笹倉さんは、僕に手帳を返した。
「何かそれ、お経みたいでびっくりしちゃった」
「お経ってそんなにびっしり書いてないってば。違うよ、これは、僕が手術前にやっておきたいことのリストを綴ったものだ」
「村山君、手術するの!?」
「するする。失敗したら目が潰れるかもしれないって大掛かりなやつらしい」
笹倉さんはちょっとだけ躊躇ってから切り出した。そういうところは、彼女が凄く優しい人なんだなってなんとなく思う。
「……だから、夕日を見る、とか、海を見る、とか、木を見る、とか、ってかいてあったの?」
「そうだよ。ついでに笹倉さんも見れてよかった。潰れたら君をもう見れなくなるかもしれないし」
そろそろ日没だ。僕は窓の方に向かって立ちあがった。
「……村山君。私さ、」
「ん? どうかした?」
「うん。……村山君、眼鏡とった方がカッコいいと思うよ」
なんだそれ。凄くむずがゆくなるセリフだな。僕なんかに言っても、僕の青春メモリーに保存されて僕に夜な夜な悪用されるだけだぞ。
「……そう。じゃあ、意地でも執刀医には成功してもらわないとね。少なくとも、コンタクトに出来るくらいには」
「うん!」
「笹倉さん、部活は平気なの?」
「いいよ、どうせ今日は顧問の先生来ないから」
それはいい。僕の目的達成を一緒にしようじゃないか。
「じゃあさ」
「うん」
暮れ始めた夕日に照らされて、頬から耳の先まで赤く見える彼女に言う。
「一緒に、夕日でも眺めていかない?」
制服の胸ポケットから、掌よりも少しだけ大きな手帳を取り出した。その手帳に箇条書きに書き綴られた言葉は、僕のこれからやりたいことを列挙している。やりたいことリスト、とでも言えばいいのだろうが、これは来週の手術に向けてもし万が一失敗したときのためにやり残しが無いようにするための指南書だった。書きなぐったやりたいことは、ちんけながらも僕の夢だ。
そして、僕の手術が失敗したときに執刀医を恨まないための僕なりの思いやりだった。
僕は生まれつき目が悪かった。今も、ビン底みたいに分厚いレンズの眼鏡を鼻頭に引っかけて、加工されて映る世界に甘んじている。
そして来週には視力を上げるための小難しい手術を受けることになっていた。成功すれば今よりも世界は鮮明になり、失敗すればきっと視力が失われる。
色や光を感じることが出来なくなるということは、世界が真っ黒になるということで、それはつまり僕越しに見た世界の全てがつまらなくなるということだった。視界が真っ黒い夜に塗りつぶされれば、寿命で死ぬまで僕の記憶には新しいものはもう二度と映らない。
今日は、やることリストを達成することに向けて最初の項目にかかれたことを実行する。
ひとつめ、夕日を眺める。
今日は晴れだ。夕日を眺めるには僕の教室から、そして僕の席から眺めるというこだわりがある。このまま最終下校時刻までここで時間を潰していればいずれは夕日を眺めることが出来るだろう。
今はまだ夕日が出ているとは言い難い。まだ待たねば。僕は暇になってかけていたビン底眼鏡を机に置くと、腕で頭を抱え込みそのまま突っ伏した。
「……村山君?」
小一時間も経っていない。せいぜい十五分かそこらだろう。クライスメイトの子に声を掛けられた。霞がかかっているように思考がはっきりしない頭で、声の方向に顔を向けた。
「ん?」
ぼやけて何も見えない。
「誰?」
「村山君、私だよ、笹倉。ほら、美術部の。……もしかして見えてない?」
「ああ。笹倉さんね、うん。クラスメイトの」
僕はかけ忘れていた眼鏡をかけようと、机に置き去りだったビン底眼鏡に手を伸ばす。
「そう言えば、村山君って目が悪かったっけ」
「そうだね。生まれつきだけど。……そう言えば、笹倉さんはどうしてここに? 忘れものでも取りに来たの?」
僕が何の気何し聞くと、
「忘れ物? あ、いや。そう言うのじゃないんだけどね。教室で寝てた村山君を起こさないとって、思って」
「わざわざそのために?」
「そうだよ。教室で寝てたら夜寝れなくなっちゃうじゃん」
「確かにそうかも。でも、悪いね。僕はこのままここに残ってなきゃいけないんだ」
僕にはここから夕日を見るという崇高な目的が合って居残っているのだ。
「なんで? 補修もないし、部活でもないよね?」
「僕は、ここから夕日を見るために残ってるの」
時間的にはまだ余裕がある。笹倉さんと話していればすぐに時間は過ぎていくだろう。
「夕日? そんなのいつでも見れるんじゃないかな」
「残念なことに僕には時間が残ってないんだ。そうだ、さっき僕を起こしてくれたお礼にこれを見せてあげよう」
机に突っ伏す前に机に引き出しに突っ込んだままだった手帳の存在を思い出し、僕は笹倉さんに手渡してやった。
「なにこれ? って、わあっ」
「ん? そんな驚くようなことかな」
驚いている様子の笹倉さんは、僕に手帳を返した。
「何かそれ、お経みたいでびっくりしちゃった」
「お経ってそんなにびっしり書いてないってば。違うよ、これは、僕が手術前にやっておきたいことのリストを綴ったものだ」
「村山君、手術するの!?」
「するする。失敗したら目が潰れるかもしれないって大掛かりなやつらしい」
笹倉さんはちょっとだけ躊躇ってから切り出した。そういうところは、彼女が凄く優しい人なんだなってなんとなく思う。
「……だから、夕日を見る、とか、海を見る、とか、木を見る、とか、ってかいてあったの?」
「そうだよ。ついでに笹倉さんも見れてよかった。潰れたら君をもう見れなくなるかもしれないし」
そろそろ日没だ。僕は窓の方に向かって立ちあがった。
「……村山君。私さ、」
「ん? どうかした?」
「うん。……村山君、眼鏡とった方がカッコいいと思うよ」
なんだそれ。凄くむずがゆくなるセリフだな。僕なんかに言っても、僕の青春メモリーに保存されて僕に夜な夜な悪用されるだけだぞ。
「……そう。じゃあ、意地でも執刀医には成功してもらわないとね。少なくとも、コンタクトに出来るくらいには」
「うん!」
「笹倉さん、部活は平気なの?」
「いいよ、どうせ今日は顧問の先生来ないから」
それはいい。僕の目的達成を一緒にしようじゃないか。
「じゃあさ」
「うん」
暮れ始めた夕日に照らされて、頬から耳の先まで赤く見える彼女に言う。
「一緒に、夕日でも眺めていかない?」
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