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作品ID:633
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2343文字 読了時間約2分 原稿用紙約3枚
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■灰縞 凪
小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし /
山小屋
作品紹介
山小屋を管理する夫婦の、不思議な物語。
ある山奥に、1件の山小屋があった。その山小屋には、誰も住んでいないはずなのに、明らかに生活している痕跡があった。ポテトチップスの袋の残骸やマズそうな炒め物の残り、あげくの果てには、読んだ油の跡がついた漫画雑誌などが残っていた。明らかに持ち込まれたものであることしか分からず、犯人は分からないままだった。
小屋の管理人である男は、毎日小屋へと訪れ、部屋の痕跡を消すべく、掃除をしていた。男は、ホラーやオカルトは信じないたちだが、夏の避暑地化計画のためには、人が住んでいる痕跡は、邪魔でしかなかった。雑誌も趣味の悪いものばかりで、男には何の利益もなかった。
男には妻がいた。結婚して3年で、世間一般には新婚夫婦と呼ばれる位しか経っていない。
男がこの女性に出会ったのは、新入社員が全員参加したコンパでのことだった。その日、酒は飲んでも呑まれない男が、酒に溺れた。5杯目の焼酎ロックを飲み始めたあたりから、意識が途絶えてしまった。その後、酒の勢いで関係が生まれ、その罪悪感を持ったままその女性と付き合い始めた。
しかし、彼女と過ごしていくうちに、男は心から彼女を愛し始めた。その女性は料理、洗濯、炊事全てが完璧だった。彼女の両親とも、コネを作った。性格も気が利いていて、常に男を立ててくれるような、日本的な良妻だった。
ただ、問題が1つあった。本人たちも驚くぐらい嗜好が合わなかったのだ。男は甘いもの嫌いの辛党だが、女性は辛いもの嫌いの甘党。女性はしょっぱいものも苦手で、ポテトチップスも食べられないほどだ。
彼らは趣向の違いを個性として捉え、互いに尊重した。普段はお淑やかなのにたまに見せる小悪魔的な性格が、男を夢中にさせた。彼女もまた、紳士的で時にワイルドな男に惹かれていた。子供が出来ないと分かっても、彼らの愛情が消えることはなかった。それは、今でも変わらないと、男は確信している。
男は、そんな妻に対して、部屋の掃除の手伝いを頼んでいた。避暑地にする予定が立つくらいなのだから、1人で掃除するには広すぎる。彼女は快諾してくれたが、最近になって、どうも掃除の手伝いに意欲的ではない日が出てきた。態度だけなら許容できたが、そういう日は決まって、掃除が雑だった。
「なあお前、最近掃除手抜いてるだろ?」
「なに言ってるの。あなた、私がきれい好きで掃除好きなの知っているでしょ?」
男の妻は、スマートフォンから目を離さずに答えた。繰り返しになってしまうが、彼女は、本当にきれい好きで掃除好きだ。少し潔癖症の気がある位なのだから、彼女が手を抜くはずがない。男は心の中で繰り返すが、彼女の掃除が雑になっている現実がなくなることはなかった。
男の余計な一言で少し険悪になった空気の中、2人は小屋へと歩いていく。小屋の前まで着くと、男の妻は足を止め動かなくなった。男の妻が掃除をしたくない時にする、些細な抵抗だった。
「おい、綺麗好きだろう?」
「綺麗好きにも掃除嫌いはいるんですけど? それにそもそも、私そんなに綺麗好きでも掃除好きでもないし」
腹の立つ返し方だし、わけが分からない。さっきと言っていることが逆じゃないか。もううんざりだ。普段は怒りを面に出さない男も、今回は流石に舌打ちをした。
男はここ数か月、慢性的に寝不足な上に、彼の体は、普段の運動不足がたたり、悲鳴を上げているのだ。疲労困憊、満身創痍だった。一番身近なパートナーである妻に癒してほしいのに、彼女は無情だった。
小言を並べる男をよそに、妻はその場で座り込み、お掃除セットが入っているバケツを置いて、スマートフォンをいじり始めた。4、5分後、彼女は立ち上がり、砂を払いながら言った。
「掃除したいなら、あんた1人でやりなさい。私帰るわ」
このパターンは、掃除になると、途端に反抗期の生意気な子供のようになる。当初、男は困惑していたが、今では対処法を編み出し、完璧な対応が出来るまでになっていた。彼女の子供っぽさを、逆に利用してやればいいのだ。
「そっか、逃げ出すのか。しょうがないよな、女の子だもんな」
「は?そういう男女差別マジやめて。そこまで言うなら見せてあげるわよ」
妻は、自分の夫の掌で踊らされていることに気づいていないようで、袖捲りをして小屋の前に立った。男は彼女が自分の思い通りになったことで、笑顔を取り戻した。馬鹿な女だ。男はその笑顔のまま、妻の頭を撫でた。
「いい子だね、じゃあやろうか」
男は、妻の頭から手を離した。そして、世界に1つしかない小屋の鍵をポケットから取り出し、扉の鍵穴に差し込んだ。カギが開いたのを確認し、2人は扉を開けて中に入った。
今回はまだ、誰にも使われた痕跡はないようだ。先ほどとは心機一転、妻は掃除にやる気を見せていた。掃除好きな彼女が帰ってきたのだ。
しかし、男の方も心機一転してしまったらしく、やる気があるようには見えなかった。彼は、箒で小屋の中全体を満遍なく掃いた後、そうだ、と言って手を叩いた。そして、不審そうに男を見ている妻の方を言った。
「ねえ、少し休憩しないかい?」
「え? ま、まあいいけど」
せっかく掃除したのに、なんかもったいない。妻はそう思いつつも、男に同意した。
男は不気味なくらい満面の笑みを浮かべながら、床の板の1枚を剥がした。そこには、深さ数十センチの穴が掘られてあり、ポテトチップスや男が前日に捨てた漫画雑誌の次の号が置いてあった。
「え、あなた、まさか……!」
「ん?どうしたんだい?いつもみたいに、食べたいポテトチップスの味を言ってよ」
小屋の管理人である男は、毎日小屋へと訪れ、部屋の痕跡を消すべく、掃除をしていた。男は、ホラーやオカルトは信じないたちだが、夏の避暑地化計画のためには、人が住んでいる痕跡は、邪魔でしかなかった。雑誌も趣味の悪いものばかりで、男には何の利益もなかった。
男には妻がいた。結婚して3年で、世間一般には新婚夫婦と呼ばれる位しか経っていない。
男がこの女性に出会ったのは、新入社員が全員参加したコンパでのことだった。その日、酒は飲んでも呑まれない男が、酒に溺れた。5杯目の焼酎ロックを飲み始めたあたりから、意識が途絶えてしまった。その後、酒の勢いで関係が生まれ、その罪悪感を持ったままその女性と付き合い始めた。
しかし、彼女と過ごしていくうちに、男は心から彼女を愛し始めた。その女性は料理、洗濯、炊事全てが完璧だった。彼女の両親とも、コネを作った。性格も気が利いていて、常に男を立ててくれるような、日本的な良妻だった。
ただ、問題が1つあった。本人たちも驚くぐらい嗜好が合わなかったのだ。男は甘いもの嫌いの辛党だが、女性は辛いもの嫌いの甘党。女性はしょっぱいものも苦手で、ポテトチップスも食べられないほどだ。
彼らは趣向の違いを個性として捉え、互いに尊重した。普段はお淑やかなのにたまに見せる小悪魔的な性格が、男を夢中にさせた。彼女もまた、紳士的で時にワイルドな男に惹かれていた。子供が出来ないと分かっても、彼らの愛情が消えることはなかった。それは、今でも変わらないと、男は確信している。
男は、そんな妻に対して、部屋の掃除の手伝いを頼んでいた。避暑地にする予定が立つくらいなのだから、1人で掃除するには広すぎる。彼女は快諾してくれたが、最近になって、どうも掃除の手伝いに意欲的ではない日が出てきた。態度だけなら許容できたが、そういう日は決まって、掃除が雑だった。
「なあお前、最近掃除手抜いてるだろ?」
「なに言ってるの。あなた、私がきれい好きで掃除好きなの知っているでしょ?」
男の妻は、スマートフォンから目を離さずに答えた。繰り返しになってしまうが、彼女は、本当にきれい好きで掃除好きだ。少し潔癖症の気がある位なのだから、彼女が手を抜くはずがない。男は心の中で繰り返すが、彼女の掃除が雑になっている現実がなくなることはなかった。
男の余計な一言で少し険悪になった空気の中、2人は小屋へと歩いていく。小屋の前まで着くと、男の妻は足を止め動かなくなった。男の妻が掃除をしたくない時にする、些細な抵抗だった。
「おい、綺麗好きだろう?」
「綺麗好きにも掃除嫌いはいるんですけど? それにそもそも、私そんなに綺麗好きでも掃除好きでもないし」
腹の立つ返し方だし、わけが分からない。さっきと言っていることが逆じゃないか。もううんざりだ。普段は怒りを面に出さない男も、今回は流石に舌打ちをした。
男はここ数か月、慢性的に寝不足な上に、彼の体は、普段の運動不足がたたり、悲鳴を上げているのだ。疲労困憊、満身創痍だった。一番身近なパートナーである妻に癒してほしいのに、彼女は無情だった。
小言を並べる男をよそに、妻はその場で座り込み、お掃除セットが入っているバケツを置いて、スマートフォンをいじり始めた。4、5分後、彼女は立ち上がり、砂を払いながら言った。
「掃除したいなら、あんた1人でやりなさい。私帰るわ」
このパターンは、掃除になると、途端に反抗期の生意気な子供のようになる。当初、男は困惑していたが、今では対処法を編み出し、完璧な対応が出来るまでになっていた。彼女の子供っぽさを、逆に利用してやればいいのだ。
「そっか、逃げ出すのか。しょうがないよな、女の子だもんな」
「は?そういう男女差別マジやめて。そこまで言うなら見せてあげるわよ」
妻は、自分の夫の掌で踊らされていることに気づいていないようで、袖捲りをして小屋の前に立った。男は彼女が自分の思い通りになったことで、笑顔を取り戻した。馬鹿な女だ。男はその笑顔のまま、妻の頭を撫でた。
「いい子だね、じゃあやろうか」
男は、妻の頭から手を離した。そして、世界に1つしかない小屋の鍵をポケットから取り出し、扉の鍵穴に差し込んだ。カギが開いたのを確認し、2人は扉を開けて中に入った。
今回はまだ、誰にも使われた痕跡はないようだ。先ほどとは心機一転、妻は掃除にやる気を見せていた。掃除好きな彼女が帰ってきたのだ。
しかし、男の方も心機一転してしまったらしく、やる気があるようには見えなかった。彼は、箒で小屋の中全体を満遍なく掃いた後、そうだ、と言って手を叩いた。そして、不審そうに男を見ている妻の方を言った。
「ねえ、少し休憩しないかい?」
「え? ま、まあいいけど」
せっかく掃除したのに、なんかもったいない。妻はそう思いつつも、男に同意した。
男は不気味なくらい満面の笑みを浮かべながら、床の板の1枚を剥がした。そこには、深さ数十センチの穴が掘られてあり、ポテトチップスや男が前日に捨てた漫画雑誌の次の号が置いてあった。
「え、あなた、まさか……!」
「ん?どうしたんだい?いつもみたいに、食べたいポテトチップスの味を言ってよ」
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