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作品ID:660
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約2278文字 読了時間約2分 原稿用紙約3枚
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小説の属性:一般小説 / 現代ドラマ / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし /
別れ話
作品紹介
男女二人の別れ。
久しぶりの執筆習作です。
よろしくお願いします!
久しぶりの執筆習作です。
よろしくお願いします!
切り出された別れ話は、思えば妥当なものだった。
いいや。そんなことはない。認めたくはない。
だが、まぎれもなく現実であり、目の前で涙を流す彼女の表情は事実を謳っていた。あとからあとから流れ出す涙の雫は、外で降り続く雨になり雨どいから滴り落ちる。
「……使いなよ」
僕はたまらなくなって上着のポケットからハンカチを取り出すと、差し出した。
「ごめんね。ありがと……」
彼女は一瞬だけ迷うと受け取った。涙は布地に吸われ、ハンカチは深い色に染まる。僕はじっと、彼女の仕草や表情を無言で眺め続けていた。
店に新たな客が入ってきて、店内は騒がしくなる。右側の二人連れの声がよく耳に届く。カウンターでマスターが常連と話す会話が無駄にうるさく感じる。
彼女は、半年間も悩みぬいた結果だといった。それが、互いの関係をここで別つということだった。
僕のほうから始めた関係だった。それでも、何年も彼女と共にいた。いや、彼女は共にいてくれた。だから、自分から切り出すことは絶対にしたくなかった。そして、もし彼女から言われることがあれば素直に従うつもりでいた。
「……そのハンカチはあげる。鼻水も拭いちゃいな」
「いいの? これ」
「いいよ。似たようなやついくつも持ってるから」
「ありがと」
礼をいうと、さっそく鼻をかみ始める。
「もともと僕が君を好きではじめたことだ。君からいわれちゃったら、もう何にもいえないよ」
「うん。……あなたが、あなたで良かった。下手なこというと、殺されちゃう世の中だから」
「そうだね。でも、恨むよ。君のこと。……ぜったいに、許したりなんかしないから」
彼女は僕の言葉に少しだけ寂しそうにしながら、いった。
「……うん。そういわれる覚悟でここに来たから。……あなたの人間は好き。でも、やっぱりおんなじ生き方は、私たちにはできないと思うの」
僕は、息を吐いた。
「同じ生き方か……」
彼女は半年の時間をかけて、自分の意志を固めてきたのだろう。僕がどれだけ引き留めようと、どれだけの言葉を尽くして説得をしようと、揺らがないだけの自分を用意してきたのだ。
そこまで、悩ませてしまったことに自分を責めようとしたが、それは彼女が許さなかった。
「……、」
コーヒーにゆっくりと口をつけ、香りで揺れた心をどうにか宥めようとする。徒労だとわかっていても、冷静になりたかった。
「二人の生き方を考えてみたの。でも、結局二人ともダメになっちゃう気がして、……だから、そうなるくらいなら互いを憎みあう前に別れたほうがいいって思ったの」
「……そんなに結婚するのが大事なの? 別れなきゃいけないくらいにさ」
「うん。……それは、譲れない。どうしても」
彼女が子供好きで、結婚願望が強いことはよくわかっていた。
僕は、彼女と入籍してともにすごす未来が見えなかった。想像できなかった、といいかえてもいい。それだけ結婚に対して興味がなかったともいえる。
その価値観の違いが、僕らを別けた。
「……でも、今までずいぶん一緒にいたから、すぐ関係を切るのは嫌なの。くだらないことで笑えるような友達に戻れたら私は嬉しい」
「うん。……君の連絡先は消さないから。前のあいつのが居心地よかったなって思ったら、すぐ連絡ちょうだい」
「まーたそんなこと言って。まったく」
僕の冗談にようやく彼女は笑顔を見せた。
僕らが椅子に座ってから、もう二時間半が経っていた。昼時になり、店内は騒がしさは増す。僕らの別れ話も喧騒に紛れてしまうほどに。
彼女の涙も止まって、それから改めて僕に問いかけた。
「……ね。このあとの予定は?」
「……帰るよ」
「家まで送るよ?」
「いや、……一人で帰りたい気分なんだ」
「そっか。……わかった」
僕は彼女が伝票を取るより早くそれを掠め取ると、荷物を肩にかけて立ち上がる。
「私払うよ」
「いや、最後くらいらしいことをさせてくれよ」
「ありがと」
それから会計を済ませて店を出る。外の雨は小雨になるまで落ち着いていた。
「雨、おさまってきたね」
「どうせなら、もっと土砂降りになればよかった」
そんな言葉が僕の口から洩れる。
「ふふっ、なんでよ」
彼女は笑って言った。
伝えたいことを言い終えて、すっきりとした顔をしている。僕は動揺が引かずに青白い顔をしていることだろう。
こうしている今も、鼓動は不気味なように蠢いていて全身の血の気は引いたまま戻らない。
「……それじゃあね」
「うん。最後に、握手させて」
彼女は手を差し出した。僕が手を出すまえに、彼女の両手が手をとった。
彼女の肌の手触りを忘れないように触れ、名残惜しくも手を放す。
「私、これからドライブしてから帰るから」
「飛ばすなよ」
僕の言葉に対して、彼女はくしゅっと変な顔をして見せると車のドアを閉めた。
これから僕らは互いに違う方向を向いて歩いていく。交わることがない平行線ではないが、それでも同じ方へと歩くことはない。
いつかまた会うときは、友人同士。
涙は、本当に泣きたいときには流れてくれないものだと知った。
僕は振り返らず、家路につく。どこか遠くで軽自動車のエンジンがかかる音が聞こえ、見知った車の気配が背後で遠ざかっていく。
ありがとう。愛しい人。
――さようなら。
いいや。そんなことはない。認めたくはない。
だが、まぎれもなく現実であり、目の前で涙を流す彼女の表情は事実を謳っていた。あとからあとから流れ出す涙の雫は、外で降り続く雨になり雨どいから滴り落ちる。
「……使いなよ」
僕はたまらなくなって上着のポケットからハンカチを取り出すと、差し出した。
「ごめんね。ありがと……」
彼女は一瞬だけ迷うと受け取った。涙は布地に吸われ、ハンカチは深い色に染まる。僕はじっと、彼女の仕草や表情を無言で眺め続けていた。
店に新たな客が入ってきて、店内は騒がしくなる。右側の二人連れの声がよく耳に届く。カウンターでマスターが常連と話す会話が無駄にうるさく感じる。
彼女は、半年間も悩みぬいた結果だといった。それが、互いの関係をここで別つということだった。
僕のほうから始めた関係だった。それでも、何年も彼女と共にいた。いや、彼女は共にいてくれた。だから、自分から切り出すことは絶対にしたくなかった。そして、もし彼女から言われることがあれば素直に従うつもりでいた。
「……そのハンカチはあげる。鼻水も拭いちゃいな」
「いいの? これ」
「いいよ。似たようなやついくつも持ってるから」
「ありがと」
礼をいうと、さっそく鼻をかみ始める。
「もともと僕が君を好きではじめたことだ。君からいわれちゃったら、もう何にもいえないよ」
「うん。……あなたが、あなたで良かった。下手なこというと、殺されちゃう世の中だから」
「そうだね。でも、恨むよ。君のこと。……ぜったいに、許したりなんかしないから」
彼女は僕の言葉に少しだけ寂しそうにしながら、いった。
「……うん。そういわれる覚悟でここに来たから。……あなたの人間は好き。でも、やっぱりおんなじ生き方は、私たちにはできないと思うの」
僕は、息を吐いた。
「同じ生き方か……」
彼女は半年の時間をかけて、自分の意志を固めてきたのだろう。僕がどれだけ引き留めようと、どれだけの言葉を尽くして説得をしようと、揺らがないだけの自分を用意してきたのだ。
そこまで、悩ませてしまったことに自分を責めようとしたが、それは彼女が許さなかった。
「……、」
コーヒーにゆっくりと口をつけ、香りで揺れた心をどうにか宥めようとする。徒労だとわかっていても、冷静になりたかった。
「二人の生き方を考えてみたの。でも、結局二人ともダメになっちゃう気がして、……だから、そうなるくらいなら互いを憎みあう前に別れたほうがいいって思ったの」
「……そんなに結婚するのが大事なの? 別れなきゃいけないくらいにさ」
「うん。……それは、譲れない。どうしても」
彼女が子供好きで、結婚願望が強いことはよくわかっていた。
僕は、彼女と入籍してともにすごす未来が見えなかった。想像できなかった、といいかえてもいい。それだけ結婚に対して興味がなかったともいえる。
その価値観の違いが、僕らを別けた。
「……でも、今までずいぶん一緒にいたから、すぐ関係を切るのは嫌なの。くだらないことで笑えるような友達に戻れたら私は嬉しい」
「うん。……君の連絡先は消さないから。前のあいつのが居心地よかったなって思ったら、すぐ連絡ちょうだい」
「まーたそんなこと言って。まったく」
僕の冗談にようやく彼女は笑顔を見せた。
僕らが椅子に座ってから、もう二時間半が経っていた。昼時になり、店内は騒がしさは増す。僕らの別れ話も喧騒に紛れてしまうほどに。
彼女の涙も止まって、それから改めて僕に問いかけた。
「……ね。このあとの予定は?」
「……帰るよ」
「家まで送るよ?」
「いや、……一人で帰りたい気分なんだ」
「そっか。……わかった」
僕は彼女が伝票を取るより早くそれを掠め取ると、荷物を肩にかけて立ち上がる。
「私払うよ」
「いや、最後くらいらしいことをさせてくれよ」
「ありがと」
それから会計を済ませて店を出る。外の雨は小雨になるまで落ち着いていた。
「雨、おさまってきたね」
「どうせなら、もっと土砂降りになればよかった」
そんな言葉が僕の口から洩れる。
「ふふっ、なんでよ」
彼女は笑って言った。
伝えたいことを言い終えて、すっきりとした顔をしている。僕は動揺が引かずに青白い顔をしていることだろう。
こうしている今も、鼓動は不気味なように蠢いていて全身の血の気は引いたまま戻らない。
「……それじゃあね」
「うん。最後に、握手させて」
彼女は手を差し出した。僕が手を出すまえに、彼女の両手が手をとった。
彼女の肌の手触りを忘れないように触れ、名残惜しくも手を放す。
「私、これからドライブしてから帰るから」
「飛ばすなよ」
僕の言葉に対して、彼女はくしゅっと変な顔をして見せると車のドアを閉めた。
これから僕らは互いに違う方向を向いて歩いていく。交わることがない平行線ではないが、それでも同じ方へと歩くことはない。
いつかまた会うときは、友人同士。
涙は、本当に泣きたいときには流れてくれないものだと知った。
僕は振り返らず、家路につく。どこか遠くで軽自動車のエンジンがかかる音が聞こえ、見知った車の気配が背後で遠ざかっていく。
ありがとう。愛しい人。
――さようなら。
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