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作品ID:1291
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第一章「ベッカルト村」:第5話「生活開始」

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第5話「生活開始」



 翌朝、目が覚めると何か大事な夢を見たような気がしたが、ほとんど覚えていない。

 この世界の神様と話したこと、元の世界に戻れないという話はなんとなく覚えている。

 とりあえず、ギルが戸を開けてくれないと外にも出ることができない。ギルが来るまで、自分の能力でも確認しておくかと思っていたら、外に人の気配がした。

 戸を開けて、ギルが入ってきた。



「おはよう。タイガ」



 ギルの挨拶が判る。

 俺はこの世界の言葉、共通語(コモン)で朝の挨拶を返す。



「おはようございます。ギルさん」



「お前、話せるようになったのか……そうか、昨夜の夢は本当のことだったんだな」



 彼は驚いた顔で俺を見ると、何か考えるような、それとも思い出すような感じで呟いている。俺は疑問に思って、彼に「どうしました?」と声を掛けた。



「いや、昨夜の夢に神の使いを名乗る精霊が現れたんだ」



 彼はゆっくり思い出すように続ける。



「タイガは別の世界からきた人間で、朝にはしゃべれるようになっている。だから、この世界に早くなじめるよう手助けしてやってほしいと」



 少し神妙な感じで、更に言葉を続ける。



「タイガが一人で生きていけると判断したらこの村から送り出してほしいとも言われた。ただの夢だと思っていたんだが、タイガが共通語(コモン)を話せるようになっていたから、あの夢の中の神託は本物だったと思ったんだ」



 神託が降りたという事実にギルは少し興奮気味だが、俺の方は神託が降りるほどの人間じゃないと何となく判っているので、話を変えることにした。



「そうなんですか。では改めて、昨日は助けていただいてありがとうございました」



 彼の興奮も少し収まり、少し決まりが悪いのか、ぼそっとした感じで、



「ああ、それに関しては魔物に襲われている人間を助けるのは当たり前のことだ。礼を言われるまでもない」



 当たり前のことと言われるが、見ず知らずの人にここまで親切にしてもらったのは初めてだ。

 改めて礼を言う必要があると思った俺は、



「でも、言葉もしゃべれず、怪しい服装の人間に食事や寝場所を与えるのは普通できません。このご恩は一生忘れません」



 彼は「タイガは大げさだな」と苦笑していた。



 この世界のことを俺はまだ良く判っていない。

 この世界で異世界から来た人はどのように扱われるのか? 勇者として扱われるのか、宗教的に意味があるのかなどわからないことが多い。俺はギルに異世界から来たことを口止めすることにした。



「突然ですけど、私が別の世界から来たと言う話は内緒にしてもらえませんか。変な噂になって広まると大変なことになりそうなんで」



 彼は少し考え、納得したようだ。



「そうだな。わかった、誰にも話さないでおこう。昨日は、魔物に襲われて喋れなくなっていたことにしておくか。それとギルさんというのは止めてくれ。ギルかギルベルトと呼んで、敬語も止めてくれ」



 俺としては恩人で年上だと思われるギルを呼び捨てにすることに抵抗を感じたが、この世界の風習が判らないので素直に従っておくことにした。



「了解。じゃ、ギル。俺のことは名前以外の記憶がなく、なぜ森にいたのか、本人もわからないということにしておいてもらえる?」



 咄嗟に考えた設定を彼に伝え、彼も納得したのか頷いてくれた。



 一通り話した後、朝食をとるため、ギルと一緒に母屋に行く。

 ギルから、奥さんのクラリッサを紹介され、一緒に食事をすることになった。

 クラリッサは俺が昨日しゃべれなかったことに疑問を感じていたようだが、ギルから魔物に襲われ一時的に口が利けなくなっていたと説明されると素直に信じてくれた。



 朝食は麦と豆のおかゆに何かの肉が入ったものと野菜を茹で塩で味付けした温サラダ風のものを頂いた。

 今のところこの世界の食事がまずくて食べられないということはない。



 俺は昨日のことを思い出し、クラリッサにきっちり謝っておくことにした。



「昨夜は挨拶もせず、申し訳なかった」



 クラリッサは気にした風でもなく、俺について聞いてきた。



「いいですよ。ところで、タイガさんって、何をされている方でどうして森の中にいたんですか?」



「タイガでいいよ。話したいんだけど、名前以外の記憶が全くないんだ。なんであの森にいたんだろう、どこから来たんだろうって、夕べ考えてみたんだけど、全然思い出せないんだ」



 クラリッサは心配そうな表情になり、俺に声をかけてくれた。



「そうなの。それは大変ね。ギル、これからタイガはどうなるの?」



 クラリッサがギルに今後の俺の身の振り方を聞くと



「リサ(クラリッサの愛称)、タイガは悪いやつじゃないと思うんだ。落ち着くまで、うちに泊めてもいいかな」



 ギルは神託通り、俺の面倒を見てくれると言っている。



「俺は納屋で十分なんで、二,三日泊めてもらえるとありがたい」



「ギルがタイガを信じるんなら、問題はないと思うわ。母屋でもいいわよ」



 クラリッサはギルの判断を全面的に信用しているようだ。

 こうして、異世界での最初の居場所を見つけた。



 朝食後、今後のこともあるので、ギルに俺の能力について話しておくことにした。



 魔法と剣が少しは使えることを話すと、ギルは魔法が使えることにかなり驚いたようで、



「この辺りじゃ、魔法を使えるやつはほとんどいないぞ。ゴスラーの街でも治癒魔法を使えるのが十人ちょっとで属性魔法が使えるやつなんて聞いたことがない」



 話を聞く限り、この世界の魔法はかなりレアな能力のようだ。

 治癒魔法と属性魔法の両方が使えるのはエルフや竜人などで、人間ではかなり有名な魔術師の家系くらいだそうだ。

 剣についても、両手剣5というのはそこそこ使えるレベルのようだ。ギルのスキルを見たが、さすがに弓は20だが、使っていそうな片手剣はわずか3しかない。

 ちなみに共通語は1で俺の方がかなり高い。

 スキルの5という数字は実用に足るレベルを表しているのかもしれない。



 魔法や剣の話が一段落すると、ギルが俺の姿をまじまじと見て、



「とりあえず、その服をどうにかしないといけないな。俺の予備の服はあるにはあるが、大きさがかなり違うからなぁ」



 確かにギルの言う通り、ビジネススーツはこの世界では非常に違和感がある。だが、身長一七五cmの俺と二m近い巨漢のギルとでは大人と子供に近い体格差がある。



 俺は次善の策として、「ジャケットかベストだけでも借りれないか?」と提案すると、彼も賛同してくれた。

 彼から革のジャケットを借りるが、袖の長さがかなり長いのでまくって調整しておく。



 今日はどうしようかと考え始めた時、ギルが俺に提案してきた。



「これから、狩りにいくが、一緒に来るか?」



 興味はあるが、狩りなど一度も行ったことがないし、そもそも山歩きなどあまりしたことがない。



「できれば行ってみたいが、邪魔じゃないか?」



 ギルは「ああ、大丈夫だ。こっちの指示にさえ従ってくれれば、荷物持ちがいるとかなり助かる」と照れ笑いを浮かべていた。

 そして俺は荷物持ちとして、ギルの狩りに同行することになった。



 ギルの武器は片手剣で、それも一本しか持っていない。

 それを借りるわけにもいかず、手ぶらでは不安だったので、近くに置いてあった丈夫そうな木の棒を護身用に持っていくことにした。



 心配そうな顔に見えたのだろうか、ギルが俺を安心させるよう、「近寄ってくる前に矢で射殺すから、そのくらいの棒があれば十分だ」と言って肩を叩いてきた。



 ギルとともに森に入り、二時間ほどでウサギ、昨日のツノウサギ(ホーンラビットと言うそうだ)ではなく普通のウサギと雉のような野鳥を一羽ずつ獲ることができた。



 さすがにいい腕だとギルに言うと、昨日から特別ついているそうで、普段は一日狩りをしても全然獲れない事が多いそうだ。



 更に森の奥に進むと、昨日と同じホーンラビットがいた。

 早速、手に入れた鑑定スキルを使ってみる。



 角兎(ホーンラビット):

  角のある雑食性の獣、身の危険を感じると極端に攻撃的になる。

   HP150,回避率補正DR15,防御力10,獲得経験値15

   角(攻撃力AR50,命中率補正SR25)



 ホーンラビットは動きが早く、この辺りでは比較的危険な魔物だそうだ。



「近寄ってきたら、棒で打ち払うか、避けてくれ。昨日みたいに一撃で倒せるのは滅多にないんだ」



 彼はそう言うが、昨日は一撃倒していたし、ウサギも雉も一発だったから、一撃で倒すのが普通だと俺は思っていた。

 さすがに魔物を一撃で倒すのは難しいのかと思い直し、昨日は無我夢中だったが、これが俺のデビュー戦になるかもしれないと考え始めた。



(ちょっと緊張してきた。命懸けの戦いか)



 ギルが長弓を思いっきり引き、矢を放つ。

 横にいる俺にも鋭い空気を切り裂く音が聞こえ、ホーンラビットの頭に向かって一直線で飛んでいった。

 俺は“一撃だ”と思ったが、ホーンラビットは自慢のツノで矢を見事に弾く。



 それを見た俺は、まだ緊張感が足りないのか、さすが魔物、すごい動体視力をしていると感心してしまうが、そんなことはお構いなしに、怒り狂ったホーンラビットが俺たちの方に突っ込んできた。



「来るぞ! 気をつけろ!」



 ギルの叫びに我に戻り、手に持つ木の棒を、竹刀を持つように中段で構える。

 彼の方は走りこんでくるホーンラビットにもう一度矢を放つつもりで矢をつがえて狙いを定めていた。



 かなりのスピードでホーンラビットが接近してくる。



 俺は彼の援護をするため、棒を構えながら横に移動し、ギルの射線を確保した。

 更に、射終わった後の無防備なギルに向かわれると厄介だと思い、囮になるようホーンラビットを威嚇する。

 ホーンラビットは俺の思惑通り、俺の方に方向を変えてきた。

 ギルの渾身の一撃が放たれ、ホーンラビットの後ろ足に刺さるが、致命傷ではないようで勢いそのままに俺の方に突っ込んでくる。



 ギルが「避けろ!」と叫んでいるのが聞こえるが、ギリギリのタイミングで棒を振り下ろし、ホーンラビットを打ち据えて回避する。

 何とか一撃を与え、回避に成功するも、ホーンラビットはまだ攻撃の意思を放棄していない。

 こちらを睨みつつ再度突撃の体勢に入るため、俺の方に向きを変え始めた。



 ギルはその隙を見逃さず、再度矢を放つ。



 これも見事命中。

 今度は腹に突き刺さり、これが致命傷になったようで、ホーンラビットは数歩歩くとそのまま動かなくなった。

 ホーンラビットが絶命したのを確認すると、ギルが真剣な表情を見せながら俺の方に近寄ってくる。



「無茶をするな。肝が冷えたぞ」



 事前打合せもなしに行ったことに対し、「ああ、すまない」と素直に謝る。



「でも、やれると思ったし、あのままギルに突っ込んできた方が危ないと思ったから、勝手に動いてしまった。本当に悪い」



 彼も納得してくれたのか、「いや、判った。次から連携してみるか」と次の狩りの話をし始めた。



 俺が「いいのか?」と聞くと、



「いけると思った時だけでいいから、俺が指示を出した方に動いてくれ。無理だと思ったら自分を守ることに専念してくれよ」



 そういいながら、ギルは矢を回収し、ホーンラビットの血抜きを始めた。

 現代人にとって、血抜きを見るのはあまり気持ちがいいものではない。

 だが、昨日は見るのが嫌だった作業が、精神耐性を取ったおかげでかなり楽に見ることができる。

 ホーンラビットの血抜きが終わると「荷物も多くなったし、午前中はこのくらいにしよう」と彼から提案があり、村に一旦帰ることにした。



 ホーンラビットとウサギの処理をすると時間が中途半端になるので、午後は村の人と顔合わせをしていくことにした。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/05 20:39
更新日:2012/12/06 08:56
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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