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作品ID:1300
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第一章「ベッカルト村」:第13話「別れ、旅立ち」

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第13話「別れ、旅立ち」



 翌朝、目が覚めると、村は勝利に沸き立っていた。

 ゴブリンの死体は夜のうちに集められ、村のはずれに既に埋められていた。

 昨日ここでゴブリンと戦った痕跡は地面にある血の跡以外はほとんど残っていなかった。



 俺は自分のケガを治すことを忘れていたが、肩も脇腹も大したケガではなかったので、痛みを取るため治癒を簡単に掛け、けが人の元に向かうことにした。

 三人も勝利が薬になったのか、あまり辛そうな様子は見せていない。

 魔力もほぼ戻っているので念のため、治癒魔法を掛けておく。



 治療も終わり、村長に挨拶に行くが、村長も昨日の後始末が朝方まで掛かったため、まだ寝ていた。



 俺は服と皮鎧を持ち、そのままギルの家に向かう。服と皮鎧を見ると誰かが血をふき取ってくれたのか、きれいになっている。

 ギルの家に戻ると、彼もちょうど戻ってくるところだったようだ。

 彼は全く眠っていないのか、珍しく疲れた表情だが、俺の姿を見つけると、笑顔で「昨日はお疲れさん。森の中の五匹のゴブリンも埋めておいた。相変わらずお前の火の魔法はすごいな。三匹は丸こげだったぞ」と陽気に話してくる。



 俺は「ギルもお疲れさん」と言った後、明らかに寝ていない彼に「寝ていないんじゃないのか。なんか手伝うことがあれば言ってくれ」と労う。



「何を言ってるんだよ。お前がほとんど倒してくれたおかげで村の男衆もほとんど戦っていないから、疲れてなんかいないぞ。英雄殿」とギルにしては珍しく、陽気な口調で冗談を交えてくる。



「え、英雄殿ってなんだよ。それに俺が倒したのは森の中の五匹と罠にかかって死に掛けている二匹だけだぞ。からかうなよ」



 俺がそう言うと、真剣な表情に変えたギルが、



「からかってなんかいない。タイガがこの作戦を考えてくれなかったら、それに囮になって罠に誘い込んでくれなかったら、今頃、何十人も死人が出て生き残った女たちはゴブリンに犯されていたはずだ。タイガはそれだけのことをしたんだぞ」



 俺は気恥ずかしくなり、「まあ、なんにせよ結果がよくてよかったよ。俺はぐっすり休ませて貰ったから、手伝うことがあれば、何でも言ってくれよ」と言って彼の肩を軽くたたく。



 彼もやはり疲れていたのか、「死体の処理も終わったし、罠も外しておいた。急いでやることはもうない。とりあえず、朝飯でも食うか」といって、食卓に座った。



 そこで唐突に昨日の昼から何も食べていなかったことを思い出した。

 思い出した途端、腹の虫が盛大に泣き出した。

 ギルと二人で笑った後、リサの作ってくれた朝食をゆっくりと食べる。

 朝食を食べ終わり、することもなかったので、剣の手入れをすることにした。

 ギルに基本は教わっていたので、道具を借り、砥石で研いでから油を塗っておく。

 やはり使い方が悪いのか刃こぼれができ、少しゆがみも出ているようだ。

 もう少し鍛錬しよう。

 剣の手入れも終わり、これで本当にやることがなくなったので納屋で横になることにした。



 久しぶりに自分のステータスを確認するとレベルが1から2に上がっていた。

 昨日の戦闘で上がったのだろう。



 自分がレベルアップしているのを確認できるというのはいいものだ。

 しかし、レベルアップした時くらいなにか合図があってもいいだろう。

 “頭の中でファンファーレがなってもいいじゃないか”とくだらないことを考えながら、更に自分のステータスを確認していると両手剣のスキルが5から6に上がっていた。



 他にもいくつか新しいスキルも獲得している。

 こっちのスキルはギルとの狩りの成果だろう。



 高山 大河(タカヤマ タイガ) 年齢:23 レベル2

  STR137, VIT121, AGI137, DEX190, INT3, 072, MEN884, CHA125, LUC115

  HP188, MP884, AR0, SR0, DR0, SKL163, MAG16, PL21, EXP1, 023

  スキル:両手剣6、回避5、共通語5、隠密1、探知1、追跡1、罠1、体術1、

      水中行動 4、上位古代語(上級ルーン)50

  魔法:治癒魔法2(治癒1)、火属性2(ファイアボール)



 ギルもリサもなかなか呼びに来ない。

 今日の仕事は休みかなと思っていたら、ギルがやってきた。

 そして、いつになく真剣な表情で「タイガ、お前これからどうするつもりだ」と話し始める。そして、俺が答える前に、



「このまま、この村に居るつもりならいいが、出て行くつもりなら、今日の夜の宴会ではっきり言っておいた方がいいぞ。みんな、治癒師で剣も攻撃魔法も使えるお前がこの村にいてくれた方がいいから、この村に留まってもらえるように言ってくると思う。お前は情に流されやすいから気をつけろよ」



 俺も何となくそう思っていたが、ギルと一緒にいるのが楽しくなり始めていたため、「わかった。ギルはいいのか、俺が出て行っても」と聞いてみる。

 彼も少しさびしそうな顔で「ああ、折角いい仲間になったから一緒にいてくれた方がいい」と言ってくれたが、すぐに「神のお告げもあるし、こんな小さな村にお前のようなすごい才能の持ち主を縛り付けておくのはいけないんじゃないかと思っている」と早口で付け加える。

 そして「さびしいが、早めに出発した方がいいと俺は思っている」と言って目を伏せた。



 俺は「そうか」と言った後、言葉がなかなか思い浮かんで来ない。

 そして「わかった。俺もできるだけ早く町に出たいと思っていた。カネがないし、ここも居心地がいいからなかなか出発できなかったんだ。できるだけ早くカネを貯めて出発することにするよ」と言って彼に微笑みかけた。



 彼は再び真剣な表情で「カネのことなら心配するな。ここに銀貨が五十枚ある。十日間の狩りの報酬だ」と言って銀貨を取り出した後、「これだけあれば十日は食っていけるから、その間に仕事を見つければいい」と強引に俺の手に銀貨の袋を押し込んできた。



「待ってくれ。銀貨五十枚といえばこの村ではかなり大金だろう。それに俺はここに居候していたんだから食費や宿泊費も掛かっている。そんなにはもらえないよ」



 俺がそう言うと、彼は「こっちはタイガがいてくれたおかげでいつもの倍近く稼げたんだ。それだけ渡してもいつもの稼ぎとほとんど変わらない。現金はそんなに使う機会がないから、またコツコツ貯めるさ」と何事もないように振舞っている。



 俺は彼の想いが嬉しく、「遠慮なく貰っておくよ」とありがたく好意を受けることにした。そして、今日の宴会で出発することを伝えると彼に告げた。



「今日の宴会で出発することをみんなに言うことにする。理由は、自分の記憶を取り戻すために旅に出るといえば当たり障りがないだろう」



 彼も「そうした方がいい。ちょうど明日定期的に来る行商人がこの村に来るはずだ。ゴスラーの町まで一緒に旅をさせてもらえれば、慣れないお前でもちょっとは安心だろう」と最後まで俺のことを心配してくれる。



 俺は鼻の奥がジンとする中、「そうさせてもらうよ。最後まで世話になっちまうな」とだけ告げ、その場を離れた。



 こうして、俺はここベッカルト村を後にすることを決意した。まだ、この世界に慣れたとは言い難いが、新しい世界を見ることに期待もしている。



 そして、その日の祝勝会で俺は明後日この村を後にすることを宣言した。

 村長を始め、いろいろな人が引き止めるが、俺の決意が変わらないことがわかると今度は気持ちよく送り出してくれようとしてくれる。

 村長からのゴブリンの討伐報酬銀貨十枚と身分証明書になるベッカルト村の村民カードを、ヤネットから「ケガは治せても病気は直せまい」と言われ,熱冷ましや下痢止めなどの薬を、他の村人からは干肉・干果などの保存食や塩、小さな鍋や木のコップなどの生活用品を貰った。



 たった十日しかいなかった俺にここまでしてくれ、最後には感極まって思いっきり泣いてしまった。

 この世界に来て最初の土地がこの村で本当によかったと思っている。



 翌日、行商人のフーゴにゴスラーまで同行させてほしいと頼んだら、腕の立つ人が同行してくれるのはこっちとしても助かると言われ、即座に同行を許可された。



 ベッカルト村からは、マイヤー村で一泊して、二日でゴスラーに着くとのことだ。

 フーゴは用心棒代として、食事代と宿泊代を負担してくれるとのことで現金に余裕がない俺としてはとても助かった。



 ベッカルト村での最後の夜、ギルとリサにささやかなプレゼントを用意した。

 持っていた財布の中にあった五十円玉と五円玉を細かい砂と水で表面を磨いてきれいにし、皮の紐でネックレスを作りお礼とともに二人に渡す。



 二人はビックリしたようだったが、大した価値のものじゃないと伝えると素直に喜んでくれた。

 出発の朝、ギルとリサに別れの挨拶をする。



 まずはリサに「変なやつが転がり込んできても嫌な顔をせずうまい飯を作ってくれてありがとう」と言った後、耳元で「おめでとう」とささやく。



 リサはビックリしてこちらを見つめるが、俺は構わず、ギルに別れの挨拶をする。



「ギル、君と最初に出会えて幸運だった。君がいなければ俺はこの世界で生きていけなかったかもしれない。本当にありがとう」といって握手をする。



そしてギルは「俺もタイガに会えてよかったよ。また、いつでも遊びに来い。いつでも大歓迎だ」と言って肩を叩いてきた。



 俺も「わかったよ。それじゃ、二人ともじゃないな、三人で仲良くな」と言いながら、ギルの腹に軽くパンチを入れる。

 ギルは何のことかわからず、首をかしげている。



「おめでとう。リサに子供ができたよ。二ヶ月くらいじゃないか? なあ、リサ?」と言うと、彼女は不思議そうにこちらを見る。



「え、どうしてわかったの?まだ、本当にできたのかわからないから、もうちょっとしたらヤネットさんに見てもらおうと思っていたのに」



「俺は治癒師だぜ。今のところ全く問題ない。ヤネットさんにも俺が知っていた治癒師のやり方を教えておいたから、これからはお産で亡くなる人も減ると思う。ヤネットさんの産婆の腕は一流だし、安心していいよ。来年の春には三人家族だな」



 実はちょっと前にリサの顔色が悪かったので、鑑定で確認したら、”妊娠”と出ていた。

 すぐに教えても良かったのだが、ゴブリン騒動や祝勝会があり言うタイミングがなかった。

 もうひとつの理由は、俺は笑顔で別れることにしていたのでこの話題を取っておいたためだ。



 これで笑って出発できる。



 朝食後、フーゴの荷馬車でベッカルト村を出発する。村長以下、村人総出じゃないかと思うほど見送りに来てくれた。

 俺は村のみんなに「行ってきます。それじゃ」と挨拶になっていない挨拶をし、そして俺は村が見えなくなるまで、涙をこらえながら手を振り続けた。





 彼が村を出発した後、ギルベルトとクラリッサは嵐のような十四日間を振り返っていた。



「行っちゃったわね。ギル」



「ああ、たった半月くらいだったんだなあ。もっと一緒にいた気がするよ」



「そうね。初めて見たときびっくりしちゃった。だって変な格好をしてペコペコ頭を下げているんですもの」



「そうだな。俺があいつを助けたときも変な奴だなって思ったよ。不思議と危ないとか警戒しなければといった感じが無かったなぁ」



「珍しいわね。人見知りの激しいギルが初めての人にあんなに楽しそうに話しているのを初めて見たわ」



「そうだな。でもあんなにすごいやつだとは思わなかったよ」



「そうね。またいつか会いたいね」



 彼女がそう言うと、彼は自信に満ちた声で



「ああ、会えるさ。今度は三人で」



といい、二人は大河が進んでいった道をいつまでも眺めていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2012/12/07 21:13
更新日:2012/12/07 21:13
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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