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作品ID:1413
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第7話「尋問・真相」

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第5章.第7話「尋問・真相」



 ウンケルバッハ伯は剣を取り上げられ、拘束こそされていないものの一軒の民家に監禁される。



 ヤンという男に射掛けた兵は伯爵の手勢に紛れ込んでいたもののようで、誰も正体を知らなかった。

 伯爵の手勢は全員武装を解除され、そのような不審者がいないか、騎士たちの手で尋問されている。



 ヤンは解毒の魔法が間に合ったので、何とか一命を取りとめ、公爵自らが尋問を行っている。

 なぜか俺も同席するよう公爵に命じられ、脇でその尋問を眺めている。



「その方、誰に頼まれて、伯爵を儂に嗾(けしか)けた」



 ヤンという男は黙ったまま、何もしゃべらない。



「しゃべらぬか。よかろう。タイガ、そなたが尋問せよ。読心の魔法を使っても構わん」



 突然、話を振られた上、使えもしない読心の魔法を使えと言われ、パニクるが、公爵の悪戯小僧のような顔を見て、気を取りなおす。



「はっ! 閣下のお許しが出たので覚悟してもらおう」



 出来るだけ感情を出さないように小さな声でヤンに囁く。ゆっくりとヤンの前に移動しながら、



(何か手が無いかな。これを使うか)



と携帯電話を取り出す。



「今から少し危険な術を使います。閣下もこの家からお出になり、この家の封鎖をお願いします」



「うむ。儂も出ねばならんか……判った、全員この家から退去せよ」



 公爵は残念そうな顔で俺を見るが、今回の件では公爵に嵌められているような気がするので、そこまで公爵を楽しませる気はない。



 全員が外に出たことを確認し、俺は携帯電話の動画撮影をスタートさせ、ヤンに答えられる質問をしていく。



「そなたはこの村のものか。昨日はこの村にいたか。アマリーは知っているか。ここは村長の家か……」



 最初は頑として口を利かなかったものの、マシンガンのような続けざまの質問に釣られたように答えが返ってきた。



「重ねて問う。ヤンよ。そなたがこの村のものか」



 ヤンは小さな声で「そうだ」と答える。同じように質問を浴びせかけ、



「そなたは嘘を言っておろう」



との問いにようやく「違う」と答えが返ってきた。



(よし、時間は掛かったが、これで”そうだ=YES”と”違う=NO”を撮影できた。ここからが勝負だ)



「さて、それでは本番に入るか。これは東方の魔道具でそなたの魂の一部を吸い取るものだ。魂を吸い取り、この魔道具の中に封じ込めるとここにそなたの姿が現れる。吸い取った魂に直接問いかければ嘘はつけん」



 出来るだけ重々しく語りかけ、携帯電話の動画をスタートさせ、一時停止させた画像を見せる。

 ヤンはその精巧な画像を見て、目を見開き驚いている。



(何とか掛かったようだな。もう一押し)



「ヤンよ。見ておけ。そなたの魂は我が手の中だ。ああ、言うのを忘れておったが、吸い取られた魂と本体の魂は繋がっておる。その状態で放っておくと魔を呼び込み、永遠に魔の虜になる」



 適当な作り話をすると、ヤンの表情はほとんど変わらないものの、手が震えてきている。



「それでは今から尋問を開始する。ヤンよ、虐殺に関与したか」



 携帯の動画を再スタートさせ、ヤンに動画を見せていると『そうだ』と声が流れる。

 ヤンは携帯から声が出てきたことに驚き、目を逸らした。



「ヤンよ。目を逸らしても無駄だぞ。既に魂は吸い取ってあるのだからな」



 俺はにやりと笑いながら、演技を続ける。



「それでは続けようぞ。魔がやってくるまでそう時間はないからな」



 そう脅しておいて、



「ヤンよ。そなたに射掛けたものはそなたの仲間か」



 携帯をうまく操作し、タイミングを合わせ『そうだ』と答えたように見せる。



「ふむ。そなたは伯爵の手のものか」



『違う』



 ヤンの姿を見ると既にこちらの術中に嵌ったようで、諦めに近い表情になっている。



(この質問はギャンブルだけど、やっておく必要がある)



「ヤンよ。そなたは北の帝国のものか」



『そうだ』



 俺はそっとヤンの姿を見る。

 ヤンは項垂れ、最後の質問の答えが正しかったと判った。

 本人の方に向き、



「ヤンよ。そろそろ魔がやってくる。魔に取り込まれるか、公爵にすべてを話すか好きに選べ」



 そう言ったあとに聞こえない程度の声で|そよ風《ブリーズ》の魔法を最小出力で発動する。

 家の中に吹くはずのない風が起き、ヤンの顔が次第に蒼白になっていく。



「た、助けてくれ! な、何でも話す! 頼む!」



「よかろう。ではしばし待て。だが、この魔道具はいつでも使えるからな。忘れるなよ」



 携帯の動画を止め、画面を消す。

 それをヤンに見せると、心底ホッとしたような顔になる。

 

(帝国の工作員も”魔”とかが怖いのかね。こんなに簡単に成功するとは思っていなかったよ)





 大河が知らない事実ではあるが、ヤンと呼ばれる男は十数年前、ジャルフ帝国を震撼させた魔人=悪魔ニドヘグを目撃した数少ない生存者だった。

 魔人は戯れにジャルフ帝国の辺境の村々を襲い、次々と壊滅させていった。

 ヤンと呼ばれる男は十歳の時、住んでいた村を魔人に襲われる。その際、魔人に操られた村人が家族同士で殺し合ったり、逃げ惑う子供を親が殺したりという凄惨な状況を目の当たりにしていた。

 薄く笑う魔人が遊び半分に村人を殺している姿が目に焼きつき、”魔に取り込まれる”ことの恐ろしさを、身をもって知っていた。

 彼は母親に殺されそうになったが、偶然助かり、街道を彷徨っていたところを帝国のある組織に拾われ、工作員として育てられた。

 通常であれば、どのような拷問を受けても口を割らず、死を選ぶように洗脳されていたが、大河が使った”魔に取り込まれる”という言葉とそれらしい演技が、魔人の記憶を蘇らせ、それがきっかけで洗脳の一部が解けた。

 この結果、ドライセン王国では成功しなかった帝国工作員の尋問が可能になった。





 俺は公爵を呼び、尋問が可能になったことを告げる。



 公爵の尋問が開始され、ヤンは時々俺のほうを見ながら、素直に答えていく。



 判ったことは、ヤンとさっき服毒自殺をした三人が帝国からの工作員でウンケルバッハ伯爵に公爵を暗殺させるために潜入したこと、伯爵が失敗した時は毒矢で伯爵を暗殺し、公爵に罪を擦り付けることを計画していたということだった。

 念のため、コルネリウスに確認すると、”北の方々”と言っていた革鎧の男たちとは、ヤンたちのことで間違いなかった。



 コルネリウスとヤン、傭兵たちの情報を総合すると、

・公爵暗殺の計画はスヘルデから来た商人と帝国の貴族と称するものが立案

・その者たちが工作員と傭兵を準備

・ジーレン村を暗殺実行場所に選定

・公爵たちが通過する時間を午前十時過ぎと想定

・別働隊が街道で襲い掛かり、ジーレン村に引き込む

・村には弓兵を伏兵として配置し狙撃による奇襲をかける

・伯爵を嗾け、手勢と共に正午前にジーレン村に到着させる

・伏兵による奇襲が失敗した際は伯爵の手勢により公爵を暗殺

・公爵の暗殺が成功したら伯爵を公爵暗殺犯として殺害し、伯爵領を掌握

・公爵暗殺が失敗した場合は手勢の中に紛れ込ませた工作員により伯爵を暗殺

・伯爵の暗殺の罪を公爵に擦り付け、貴族の間での公爵の信用を失墜させる

・村人は口封じのためすべて殺害し、公爵若しくは伯爵が腹いせに虐殺したと噂を流す

と言うものだった。



 俺が偶然立ち寄らなければ、公爵暗殺の成功はともかく、信用失墜の策はある程度機能した可能性がある。

 もう一つ、ファーレルを朝一番に出ていなければ、コルネリウスの手勢との戦闘中に伯爵の手勢が到着し、混戦になった可能性がある。この場合、クロイツタール騎士団は三倍近い数の敵と戦うことになったはずだ。

 コルネリウスの手勢が村の入口で動かない公爵に対してアクションを起こしてこなかったのは、伯爵の手勢を期待していたようだ。伯爵がもっと迅速に動いていたら、村の入口で伯爵の手勢とコルネリウスの手勢に挟み撃ちにあっていたかもしれない。



(結構薄氷を踏むっていう状態だったわけだ。帝国にしたら”俺さえいなければ”というところかもしれないな)



 コルネリウスについては、当初の計画ではウンケルバッハ伯と共にジーレン村に急行する予定であったが、彼が雪の中での移動を嫌ったことと暗殺する予定の伯爵と行動を共にするのを嫌がったことから、ジーレン村に残っていたということだ。

 更に手勢の指揮官に対して、不合理な命令を繰り返し、現場を混乱させていたようだ。



(あの”お坊ちゃん”が現場に残っていたのはそういうわけか)



 確かに昨日の雪の中を戻っていくのは大変だが、これだけの計画に関わっておいて、わがままが言える彼の精神構造が理解できない。



 伯爵はコルネリウスに「公爵を罠に嵌めダメージを与えているので、討ち取って下さい」と唆されただけのようだ。

 ここに到着してからうだうだ言っていたのも、公爵と騎士団が健在で一気に攻撃を掛けるタイミングを失ったからかもしれない。

 精強なクロイツタール騎士団を相手にするには、自らの手勢の士気を高めないと返り討ちにあいそうだと考え、公爵の罪をでっちあげようとしたのだろう。

 意外とあっさり降伏したのは、ファーレルの騎士とアマリーという二人の証人がいたことで、でっちあげができなくなったことと、手勢の士気が低下し自分の命が危うくなると思ったためなのではないか。



(帝国もこれだけ綿密な計画を立てた割には”手駒”の性格を見抜いていなかったのかな? それとも他に理由があるのか……)



 背後関係についても聞き取りをしたが、かなり情報を制限されている工作員のようで、帝国が単独で企てたのか、王国内に協力者がいるのかは判らなかった。

 帝国側で指示を出した男の名前については「アジン」という名であることだけ判明したが、この「アジン」という言葉は、帝国の漁師が使う独特の言葉で”一”を表すもので、偽名であることは間違いない。



 尋問後、公爵は感心したように、



「帝国の”草”が口を割ったところを初めて見たぞ。どのような手を使った?」



 俺は携帯などの存在を知られたくなかったので、



「少し魔法を使って脅かしたら、素直にしゃべってくれました。あの男が特別軟弱だったのでは?」



と誤魔化しておく。公爵は納得してはいないが、



「そういうことにしておこう。そなたが剣と魔法だけでなく、諜報関係にも才能があると知れると、グローセンシュタイン辺りに持っていかれるかも知れんからな」



 あとで聞いたところでは、グローセンシュタインというのは、王国第三騎士団長のグローセンシュタイン子爵だそうだ。第三騎士団は国内の治安維持を主な任務としており、王家直轄地、国境、主要街道などの警備の他、国内外の諜報も担当している。

 グローセンシュタイン子爵は、十五年の長きに渡り、第三騎士団長をしており、ドライセン王国の諜報機関の長だそうだ。



 ヤンと呼ばれる男は俺が見ていないところで自殺を図るが、騎士団の監視により失敗した。

 ここで死なれると証人がいなくなるので、



「死んでも構わんが、死から一時間以内であれば魂のみでも呪縛出来る。魂を開放して欲しくば、我の言うことを聞くしかない」



と小さな声で脅しを入れたら、二度と自殺騒ぎを起こさなくなった。



 クロイツタール公はウンケルバッハ伯の手勢を動員し、ジーレンの村人の遺体を埋葬していく。



 アマリーは心が壊れかけているのか、両親、妹の遺体を埋葬する際にも一切表情を変えず、涙も見せなかった。ただ、自分の家を離れることは頑なに拒否し、俺たちを困らせていた。

 ジーレン村については、ウンケルバッハ伯の処分が決まるまでクロイツタール騎士団とファーレルの守備隊が管理することになったようだ。





 時は二ヶ月前、霜の月(十一月)中ごろまで遡る。

 ウンケルバッハ市の中心、伯爵の屋敷に近い瀟洒な屋敷を一人の商人が訪ねていた。

 商人はスヘルデ商国(正式はスヘルデ通商条約加盟都市連合)の貿易商を名乗り、コルネリウス・ウンケルバッハに面会を申し込んでいた。



「コルネリウス卿、お初にお目にかかります。私はオーベール・ノルデと申すスヘルデの貿易商にございます。この度は突然の訪問にもかかわらず、拝謁の栄を賜り、まことにありがたき幸せにございます」



 コルネリウスはオーベールと名乗る商人の謙った物言いに内心、気を良くしているが、表情に出さないように努力している。



「うむ。僕も暇ではない。いかような用件か」



「ウンケルバッハ家、いえ、ドライセン王国の俊英と名高いコルネリウス卿のお噂は、スヘルデにも届いております。今後の閣下のご栄達を考えますと、出来るだけ早い段階で知遇を得ておきたいとこうして参ったわけでございます」



 コルネリウスは益々上機嫌になって行くが、顔だけは不機嫌そうに



「僕はドライセンの臣だ。スヘルデが何を言ってこようと王国に忠誠を誓っている」



 コルネリウスの言葉にオーベールは大げさすぎるゼスチャーを交え、説明を続ける。



「いえいえ、閣下にドライセン王国を出て、スヘルデに来て頂こうというのではありません。スヘルデでは閣下の溢れんばかりの才能を生かすことは出来ないでしょう。先ほども申しました通り、閣下との知遇を得たいというのが、私めの願いにございます。此度は些細なものでございますが、献上の品をお納め頂けないでしょうか」



 オーベールは後ろに控えていた使用人に命じ、装飾品や宝剣などを次々とコルネリウスの前に積んでいく。

 更にオーベールはフードを被った一人の女性を差し出してきた。



「閣下、この者はスヘルデの有名な歌姫にございます。オリアーヌ、ご挨拶を」



 オリアーヌと呼ばれた女性は跪きフードを取って、コルネリウスにその美しい顔を見せる。そして名工の楽器を奏でたような美しい声で



「オリアーヌと申します。コルネリウス様のことはお噂で一度お会いしたいと思っておりました。このような凛々しい方とは……」



 最後は恥らうように目を伏せる。



 その後、オーベールは辞去するものの、オリアーヌはコルネリウスの屋敷に残ることになる。



 オリアーヌはコルネリウスを一週間も掛けずに完全に虜にした。

 風の月(十二月)の始め頃、オリアーヌがコルネリウスに対し、



「旦那様は今の処遇に満足しておいでですか? 旦那様に相応しい地位に就かれるべきだと思います……」



「そうは言っても僕はウンケルバッハ家の傍流。伯爵位は継げないし、騎士団や王宮にも知己はいない……」



「旦那様が私のために上を目指していただけるのであれば、オリアーヌも命を懸けて旦那様のために尽くします。オーベール様にあるお話を……」



 コルネリウスは上を目指すという言葉に引かれ、「その話とは」と先を促す。



「オーベール様のお話ですと、伯父上の伯爵様も旦那様の才能に嫉妬され、権限を与えていないと聞きました。それに旦那様はお味方の王国より、敵であるジャルフ帝国の方が評価されているとも。旦那様にその気がおありならウンケルバッハ伯爵家を継ぐことも可能と……」



「伯爵位……でも、それは僕に王国を裏切って帝国のために働けと言っていることだよ」



「詳しくは存じ上げませんが、オーベール様が仰るには王国を直接裏切るようなことは必要ないそうです。オーベール様に直接お聞きになってはいかがでしょう?」



 こうして、コルネリウスはオーベールを通じ、ジャルフ帝国の使者と会うことになる。

 帝国の使者はステファン・ブルネル子爵と名乗り、オーベールとともに何度か顔を合わせる。

 オリアーヌの寝物語とオーベールの理知的な話に、すっかりブルネル子爵を信用したコルネリウスは彼らの計画を聞くため、オーベールの借りている屋敷に向かう。

 コルネリウスの聞いた計画の概要は、

・ブルネル子爵の手の者をウンケルバッハ伯爵の手勢に紛れ込ませる

・コルネリウスの手勢としてブルネル子爵が用意した五十名の傭兵を受け入れる

・新年祝賀の式典が終わり領地に帰るクロイツタール公爵一行はおよそ三、四十騎と想定

・街道で奇襲を掛けて追撃させ、伏兵を潜ませた場所に誘い込み、弓による狙撃で暗殺

・予め伯爵に手勢を率いさせておき、暗殺直後に現場に到着させる

・暗殺に成功すれば伯爵の私怨によるものと見せかける

・失敗した場合は伯爵に手勢を嗾けさせ、公爵を暗殺させる

・公爵を亡き者にしたあと、潜入させたブルネル子爵の手の者を使い伯爵を始末する

・死んだ伯爵を公爵暗殺犯に仕立て上げ、討ち取ったと宣言

・直ちにウンケルバッハ市に入り、ウンケルバッハ伯爵家の直系を討ち取る

・伏兵を潜ませる場所はウンケルバッハ領の南、ジーレンという小さな村とする

・村人は盗賊に襲われたことにしてすべて口を封じる



 それを聞いたコルネリウスは計画の恐ろしさに怖気づく。



「クロイツタール公は三公家の一角。ドライセン王国騎士団総長じゃないか。そんな人を暗殺して王国に害を与えないなんて言えないじゃないか」



 それに対し、ブルネル子爵は、



「クロイツタール公というより、コンラート・クロイツタール個人に帝国は恨みがあります。皇帝陛下も何度も煮え湯を飲まされている、かの男を始末すれば、閣下の覚えもよろしくなると思われます。更に言えば、この真冬にクロイツタール公がいなくなっても帝国はドライセン王国に侵攻できません。春までに体制を立て直すことは現在の王国なら可能でしょう。これはあくまで個人的な依頼なのです」



「しかし……伯父上を巻込むのはなぜなんだ。軽んじられているとは言え、血の繋がった伯父だ。伯父上まで巻き込むのは忍びないが……」



 それに対し、ブルネル子爵は



「伯爵は閣下を軽んじてこられました。いえ、閣下の才能を恐れ、飼い殺しにしようとしていたのです」



 子爵は一旦言葉を切り、蛇が笑えばこんな顔だろうという笑顔で、



「クロイツタール公を怨敵と思っている伯爵にとって、公爵暗殺の機会は褒美のようなものです。さらに言えば、もし帝国の暗殺者に殺されたとなれば閣下のウンケルバッハ伯爵位の継承も難しくなるかと……」



「しかし、ジーレンとかいう村の者を皆殺しにする必要はないだろう……」



 オリアーヌはコルネリウスの言葉を遮り、



「旦那様がお優しいのはこのオリアーヌが一番よく知っております。しかし、旦那様のお姿を万一見られてしまいますと、旦那様と私は離れ離れに……」



 コルネリウスはオリアーヌがいない生活など考えられないと、僅かにあった良心のかけらを遂に投げ捨てる。



「判った。ステファン殿、オーベール。手配の方を頼む」





 コルネリウスとオリアーヌが退室したあと、ブルネル子爵がオーベールに普段とは違う丁寧な言葉遣いで話しかける。



「あのような者にクロイツタールを暗殺することなどできるのですか」



 オーベールも普段の商人の仮面を脱ぎ去り、



「出来ずとも構わんよ。まあ、”アジン”殿がどの程度の刺客を派遣してくれるかだろうが、少なくとも伯爵を殺せれば、王国に混乱の種をまくことができる」



「なるほど、ウンケルバッハは前宰相マールバッハ家の一門。三公家の間に不審の種を蒔くということですかな」



「いや、マールバッハ公はそこまで愚かではなかろう。だが、踊ってくれる者は他にもおろう。”子爵殿”の手配した傭兵が確実にクロイツタール公を暗殺してくれれば、何も問題はないがな」



「はっ! そこは抜かりありません。優秀な狙撃手を手配しております。まあ、かの者にゴブリン程度の知能があり、かつ指揮官の邪魔さえしなければ必ず成功するはずです」



「ふっ、ゴブリンか。あの愚か者にゴブリンほどの知恵があるかな。比べられたゴブリンの方が嫌がりそうだが」



 二人の乾いた笑い声が響き渡っていた。



 クロイツタール公暗殺未遂事件の日、コルネリウスより真相を聞き、ウンケルバッハ市に急行したクロイツタール騎士団であったが、ステファン・ブルネル子爵、オーベール・ノルデなる商人、オリアーヌという歌姫のいずれも見つけることが出来なかった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/07 21:20
更新日:2013/01/07 21:20
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1413
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