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作品ID:1491
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第24話「決戦前夜」

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第6章.第24話「決戦前夜」



 氷の月、第四週風の曜(二月十八日)。

 大河がアルフォンスと罠の設置を行っている頃、屋敷ではアクセルらが明日戻ってくる大河を止めるため、どうしたらいいかを話し合っていた。



「タイガ卿は既に迷宮を出て、どこかに罠を張りに行っているはず」



 アクセルは、大河が既にトリックを使って迷宮から出ていると信じていた。彼はこのギリギリのタイミングでも、明日の戦いを止める策を思いつけなかった自分が情けなかった。



「結局、タイガ卿の策以上のものは考え付かなかった。この状況では明日、お戻りになられても我々では止められない」



 アクセルがそう絞り出すように言うと、シルヴィアも、



「タイガは死ぬ気でいるだろうから、下手をすると本気で麻痺の魔法を掛けてくるかもしれない」



 その言葉を聞き、レイナルドが、



「確かに。しかし、どうすべきだろうか。タイガ殿が罠を掛けに行く時、我々は指を銜えて見送るしかないのか」



「明日、一度はここに戻ってくるはずだ。その時、再考していただくようお願いする」



 ラザファムがそういうと、ノーラがアマリーに止めてもらう案を再度提案した。



「アマリーさんにお願いできないでしょうか? 彼女ならタイガ様をお止めできると思います」



「そうだな。アマリー殿にお願いするしかないか……情け無いことだが……」



 ラザファムは自らの不甲斐なさに自嘲気味にそういうと、顔を伏せている。



「だれがアマリーさんに話すかだが……」



 アクセルが自分がと言おうとしたとき、シルヴィアが遮るように、



「私が話そう。この中では一番つき合いが長い」



 シルヴィアはアマリーに話をするため、立ち上がった。







 アマリーは大河が迷宮に入った翌日から、彼が現れないことを不審に思い、シルヴィア、アクセルたちに理由を問い質していた。

 皆、大河が迷宮に入り、訓練をしているだけなので心配しなくてもいいと言ってくる。だが、村で聞いた噂では迷宮は恐ろしいところで何人もの若者が死んでいると聞いていた。



(迷宮ってどんなところか知らないけど、噂ではとても危険なところって聞いたわ。一度も戻らないなんて絶対におかしい……)



 彼女は詳しいことは判らないが、アクセルたちの口ぶりから、自分に対して何か隠していると感じていた。



(なぜ襲われたのか聞いても誰も説明してくれないし、エルナさんのことも聞いても同じ。確かにまだ体調は戻っていないけど、外にも出してもらえないのはおかしいと思う……)



(もしかしたら、前言っていた盗賊が襲ってきたのかも……もしかしたら、タイガさんはその盗賊に……ううん、そんなことはないわ。それならもっと悲しんでいるはず……)



 彼女はうすうすおかしいと勘付いていたが、ウンケルバッハ守備隊の話も聞かされておらず、何がどうおかしいのかは判っていない。



 シルヴィアやノーラたちが頻繁に顔を見せてくれるが、何とも言えない疎外感を覚えながら、ここ数日間を過ごしていた。

 ノーラたちとは大河の話をするが、今どうしているかという話になると、彼女たちは途端に口を閉ざしてしまう。



(私の体調を気にしてくれているのかもしれないけど、もう少し何が起こっているのか教えて欲しい……タイガさんに逢いたい。本当に彼は大丈夫なのかしら……)



 そして、大河が顔を見せなくなって六日目、氷の月、第三週土の曜(二月十五日)の夜、グンドルフの焼き討ち事件で外が騒がしい。彼女はジーレン村が襲われたときを思い出していた。



(何が起こっているの。騎士様たちが慌てていらっしゃるわ。あの時のことを思い出してしまう……)



 不安な夜を過ごしたことと疎外感から、彼女は徐々に口数が少なくなっていった。







 第四週風の曜(二月十八日)の夕方、シルヴィアはアマリーに大河の状況を話し始めた。



 前に大河が話していたグンドルフという盗賊が襲ってきたこと、自分たちが到着した日にミルコとエルナが殺されたこと、大河がグンドルフと決着を付けるため、一人で立ち向かうつもりでいることを話していく。



 アマリーはその話を聞いていくうちに徐々に顔色が悪くなり、次第に座っていられないほどの恐怖、悪寒を覚えた。



(もう少し早くついていたら、二人は助かったかもしれない……)



 彼女は自分がいたせいで馬車を用意し、比較的安全な日程を組んでいたことを知っていた。

 そして、シルヴィアは直接言及しないものの、わずかなタイミングの差で二人が殺されたことを感じ取っていた。



(もし、私が一緒に来たいと我儘を言わなければ、タイガさんは馬で移動したはず。シルヴィアさんやアクセル様たちも馬で移動できたから、もっと早くここに着けたはず。そうしたら、あの人の大切な人は死なずに済んだかもしれない……私がいたから、間に合わなかった……)



 彼女は本能的にそう感じていた。

 そして、自分の存在が大河に対して重荷になっているのではないかと考えていた。



(私はあの人に甘えていた。その甘えのせいであの人を失うかもしれない……)



 シルヴィアは事情を話し終えると、彼女に大河を止めて欲しいと頼んできた。



「タイガを止められるのは貴女しかいないんだ。私が言っても聞いてもらえない。アクセル卿、ノーラ殿たちでも同じだ。タイガはそれほど我を失っている」



「そんな……でも本当に私が止められるんでしょうか?」



 アマリーは自分にそんなことが出来るとは思えなかった。



「正直に言えば、貴女が言っても駄目かもしれない。だが、貴女だけが彼に愛されている。だから……」



 シルヴィアは彼女の手を取り、懇願している。



「どうしても彼を失いたくない! この数日間、皆で考えた。だが、彼を止める方法はどうしても思いつかなかった。頼む。彼を、彼を止めて……」



 普段、感情を表さないシルヴィアが、涙を浮かべながら、懇願してくる。



「シルヴィアさん……」



 彼女は泣き崩れるように懇願してくるシルヴィアを見て、この人も大河のことを愛しているのだと思った。



(この人も彼を愛しているんだわ。私のせいで大切な人を失う……そんな……)



「こうなったのは私のせいですね。私がクロイツタールにいれば、こんなことには……」



 シルヴィアは即座にその言葉を否定した。



「そんなことは無い。タイガですらこの事態は想像できなかったんだ。誰のせいでもない」



 彼女はシルヴィアが自分を庇ってくれていると思った。そして、自分がどうすべきか考えることにした。



(今更後悔しても遅いわ。私が子供だったから、あの人に甘えていたから、こんなことになった。だから……)



「判りました。私にできることがあれば、何でもします。泣いてでも、縋ってでも、どんなことをしても、タイガさんをお止めします」



 彼女は大河を止めることだけを考えることにした。



 そして、彼女は、自分は彼の元にいるべきではないのではないかと考えていた。彼は公爵に信頼されて、重職に着いた。シルヴィアやアクセルたちのように手助けが出来るのならともかく、何も出来ない自分が一緒にいても今回のように足手纏いになるだけだと。



 彼女は明日帰ってくるであろう大河に対し、命懸けで説得するつもりでいた。









 第四週風の曜(二月十八日)の夜、食事を終えてから、ダグマルの工房に向かった。



 約束どおり、ダグマルはタイロンガと防具類のメンテナンスを終えていた。



「凄まじい剣だな。このタイロンガは。師匠の最高傑作じゃないのか」



 彼はタイロンガを俺に渡しながら、興奮気味にそう話していた。



「かなりの数のオーガを倒したと聞いたが、全く刃毀れがない。軽く研いで仕上げただけで済んだよ」



 タイロンガを引抜き、剣身(ブレード)を確認すると少し曇っていた刃紋が元の美しい輝きを取り戻していた。



「かなり無茶な使い方だったから心配だったんだ。何にしてもこれで武器の心配はない。ところで防具の方はどうなった?」



「チェインシャツは元通りにしてある。革鎧はやはり素材の問題があるな。背中の傷は一応他の革で補強しておいたぞ。確認してくれ」



 アダムたちに襲われたときに受けた背中部分の傷も綺麗に修復されており、問題は無い。



「大丈夫そうだな。助かったよ」



 ダグマルは急に真剣な顔で、



「本当に、グンドルフに一人で挑むのか。クロイツタール騎士団が増強されたことは聞いているんだろ。考え直す余地はないのか」



「ああ、騎士団の話は知っているよ。だけど、奴を倒すことは騎士団では無理なんだ。俺自身が餌になって罠に掛けないと……」



 まだ、何か話したそうなダグマルを制し、メンテナンス費用として十Gを支払って、ダグマルの工房を後にした。





 タイロンガと防具を手に宿に戻る。

 明日の決戦を前に魔力を完全に回復させるため、早めに就寝することにした。

 変身の魔道具を使っていると魔力回復量が通常時の四分の一から五分の一くらいまで低下する。魔力回復ポーションを使用しても通常の半分以下しか魔力は回復していかない。

 今日は罠の設置で結構魔力を使っていた。

 明日の朝まで十二時間。睡眠時で一時間に五%弱、横になっているだけでは二%くらいしか回復しない。

 魔力回復ポーションを使っても明日の朝までに何とか全回復まで持っていけるかという感じだ。



 早めに眠ろうとするが、明日の戦いのことを考えると、なかなか寝付けない。

 やれることはやったが、不確定要素が多すぎ、グンドルフが俺の思ったとおり動くか心配になる。



(どうせ寝れないなら、あれをやっておこう)



 明日のグンドルフとの戦いを前に、身辺整理でもないが、残していく者たちに簡単な手紙を書くことにした。俺はベッドを出て、小さな机に向かって、残されるものたちに手紙を書き始めた。





 最初に一番苦労するであろうラザファムに指示書と依頼書を書く。



「ラザファム・フォーベック殿。貴官に以下のことを指示する。

 氷の月、第五週日の曜(二月二十一日)以降、小官が戻らぬ場合、モーゼス・ホフマイスター代官からの特別な要請がなくば、翌火の曜(二月二十二日)に派遣部隊をまとめ、クロイツタールに帰還すること。



 以下につきましては、タイガ・タカヤマ個人として貴殿に伏して懇望いたします。

 我が所有奴隷シルヴィアの所有権を一時貴殿に譲渡。六ヶ月後の解放可能時期到達時に解放処置。

 ジーレン村のアマリーの保護、後見。

 ノーラ、アンジェリーク、カティア、クリスティーネ、レーネの五名の今後の行動方針が固まるまでの後見。

 アクセル・フックスベルガー、テオフィルス・フェーレンシルトへの適正な再配属支援。

 本屋敷のクロイツタール公爵家への寄贈手続き。

 上記、五項目につきましては諸経費として三百Gを貴殿に譲渡いたします。



 西方暦一三〇〇年、氷の月、第四週水の曜

 クロイツタール騎士団副長代理 タイガ・タカヤマ准男爵」



 そして、もう一通のメモを挟んでおく。



「ラザファム殿。面倒なことばかり押し付けるようで申し訳ありません。貴殿に最後までご迷惑を掛けることになりますが、私の大切なものたちのことを頼めるのは貴殿しかおりません。私の最後の頼みと思い、対応をお願いします。タイガ・タカヤマ」



 ノーラたち、アマリー、シルヴィア、アクセル、テオにも簡単な手紙を書き、ラザファム宛の封筒に入れておく。



(こうすればラザファム殿が対応してくれるだろう)



 俺は手紙を書き終え、ベッドに横になる。

 心残りがなくなり、精神的に安定したのか、すぐに眠りに落ちて行った。





後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/31 22:47
更新日:2013/01/31 22:47
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1491
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