小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:1537
「ユニの子」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ユニの子」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(67)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(193)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


ユニの子

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中

前書き・紹介


九 族長

前の話 目次

「よかった。アリエまで目覚めなかったら、どうしようかと思った」

親にすがる子供のように、ヤーフェイとヤニムは奇妙な人物にぴったりとくっついている。

二人に挟まれて、少年はきれいに微笑む。

 壁画に描かれる女神のような微笑。

 その髪は、短く切られてさらさらと流れている。しかし、少年が困ったように首をかしげると、背中に垂れる四本の三つ編みが、生き物のようにうごめくのが見えた。

「……あなた、四年前に見たわ」

「そうだろうねえ」

 少年は、アリエが喋ったことに驚いたらしい。適当に返事をして、アリエにもわかりやすく目線を変えた。

 その先に、ジェイシラードがいる。

「やあ、シータ」

「その名で呼んでいいのは身内だけだ、ヤンセン」

「昔は身内だったんだからいいだろう? シータ」

 アリエは、ジェイシラードが手を握り締めるのをちらりと見た。

「知り合い?」

「ああ」

 短く言って、ジェイシラードはヤンセンから目を離さない。少年はにらむような彼の目線に肩をすくめた。

「シータ……ああ、怒らないで。しょうがないから王子様でいい?」

 ジェイシラードが何か投げた。

「悪かったって!」

 友達に冗談を言うような軽い口調。

 ヤンセンは、手を伸ばして放られたものをつかんだ。

「落し物だ」

 冷たい声に、ヤーフェイがあっと声を上げ、自分の腰を見る。

 そこに挿してあるはずの万華鏡はなく、見上げた先には黒い物体があった。

「――別に返してくれなくてもいいのに」

 ヤンセンは笑いながら、ヤーフェイの頭に手を置いた。ひっと縮みあがる少女を押さえつけ、もう片方の手で持った万華鏡を、ぱっと手放す。

 地面につくと同時に、光が散った。

 海のしぶきのような光に目を細めたヤンセンは、ヤーフェイが光に包まれ、輪郭をなくしていくところを見る。

 空気に溶け消えた光の代わりに落ちたのは、人の形をした紙。

 それを拾うことはせず、万華鏡を落としたところに振り返ると、小さめの赤い石を差し出してくる少女と目が合った。

「はい、長様」

「ありがとうヤニム」

 受け取り、ヤンセンは三つ編みを一本手繰り寄せた。先っぽに金の装飾具がついていて、その中央にはめた。

 三つ編みを元のように垂らす。

 先っぽに錘をつけているにも関らず、三つ編みは浮いたようにヤンセンの背後を飾っている。

「ヤーフェイ!?」

「アリエ。あれは人形に過ぎないよ」

 それは、さっき自分も考えたことだ。

「でも、そんな簡単に消したり……!」

「できるんだよね、それが」

 得意げに笑う少年は、周りの建物を見回しながら、調子よくしゃべる。

「あれはアリエ用の囮さ。君は友情に熱いから」

 踊るように一回転した少年に、アリエは気がついたら手を伸ばしていた。

「あれ」

 アリエの驚いたような声にジェイシラードが振り返ると、アリエが伸ばした右手をまじまじと見ている。

「なにやってるんだろう」

「……君ってすごいねえ、アリエ!」

 少年の声が少し引きつっている。違和感を覚えて手の先を見ると、少年がアリエの武器を一枚手に持っている。

「よく普通にもてるわね」

「え? ――うわ!」

 アリエが指差す先で、少年の手から血が零れた。短刀を取り落とす少年、ヤニムが心配そうに覗き込む。

 ジェイシラードが、のんびりとした顔でアリエを見る。

「アリエ、何したの?」

「結果から見て、あいつが自爆したのよ」

「なんか間違ってるよ! ねえシータ、その子何なの!?」

「ヤーフェイの友達だろう」

 ヤンセンはあきれたように、手をだらりと下げた。血がタイルに流れるのも厭わない。

「……えさで釣っておいてなんだけど、やっぱり鈴家とはあんまり関りたくないなあ」

「知っているの? 私の一族を」

「何度も殺されかけたからね」

 さらりと言った少年。

「やはり、そうか」

 ジェイシラードの冷たい目を見て、アリエはくすりと笑った。きれいな笑顔だった。

 壊れた人形のようにきれいな笑いを見ていられず、ジェイシラードはそっぽをむいた。下のタイルの模様に目を走らせる。

「鈴家は暗殺大道芸人の一族……。さぞ、きれいに歌うんだろうね、アリエは」

「お望みなら、子守唄を歌って差し上げてもよろしくってよ?」

 わざとらしく甘ったるい声で言ったアリエは、次の瞬間には帯から一枚の短刀を取り出していた。

「永遠の眠りにつく子守唄を」

 水晶のように澄んだ目をひたと見つめていると、少年はなんだか不思議な気持ちになった。

 水の中で身動きがとれなくなったように、ふわふわとした感覚が体を包む。世界にひとつだけ差し込む光のように、アリエが見える。

「……君たちの目は、不思議だね」

「あんたは強いわ。普通の人間なら、子守唄を歌わなくても逝ってくれた。――あんたらは強いわ。ヤーフェイもそうだった」

 アリエは、目線を下げて、短刀をしまった。少年はぽん、と手を打つ。

「そう、ヤーフェイだよ。彼女を助けてくれないかな、アリエ」

「……本物のヤーフェイは、どこにいるの?」

「ロアの宮殿の中。ずっと寝てるよ。四年前からずっとね」

 肩をすくめ、少年はこちらに近づいてきた。

 ぺったぺった。

 その姿は、どこか仲良しの少女に似ている。

 ゆれる赤い髪は日の光を反射して、炎のように輝く。

「ボクは、ロアの族長なんてものを押し付けられてからこのかた、ロアの力が今どこにどのくらいあるのか、把握する作業を行っているんだ。そのなかで、昔っから行方不明になっていた神がいるのに気がついてね」

 歩きながら、少年は髪の装飾具を取った。四つの金色はヤンセンの手の中に納まって、赤い流れは背中を覆い隠すように広がった。

「ミネルウァ」

 その名前を呼ぶときだけ、アリエには少年が小さな子供のように見えた。

 近しい人の名前を呼ぶように。

「彼女の『器』は、何世紀さかのぼってもつかめなかった。『器』は血によって移り変わるからね。ミネルウァの血筋を捕まえていればよかったんだ」

 ジェイシラードは、過去に、この少年からロアの話を聞いたことがある。

「ジェイシー。器って」

「ロアの一族が特別な由縁。――神の人格が、人に憑依するんだ。人格は『器』たる人間に。神たる証拠である莫大な力は『鍵』へと」

「その力を本気で使えば、世界さへ終わらせられるって」

 お手玉のように金の装飾具を放り投げて遊ぶヤンセンは、アリエから見るとジェイシラードと同じくらいの少年だ。

「四年前。ようやく、ヤーフェイ・ミネルウァ・ロアを確保した」

「――本物のヤーフェイは?」

 アリエの質問に答えたのは、ヤンセンではなかった。

 彼の後ろに控えた少女が、万華鏡の落ちたあたりをぼんやりと見ながら呟く。

「今頃、いい夢を見ていると思う」



 ヤーフェイは、はっと目を開けた。

 月の光のない夜。

「……ユーリ」

 今日は、ユーリがいない日。ユーリの時間が来ない日。

 少し前までは。

 ヤーフェイは立ち上がった。いつもの寝床に変わった様子はなく、毛布をはいで外に出る。一枚布を巻きつけたような、ゆったりとした服のしわを気にしながら、部屋から出る。

 集められた「きれいなもの」が、きれいに並べられている部屋。ずっと前から変わらない。

 ずっと、ずっと。この時間が続いてほしい。

 そう思うたびに、ヤーフェイは、無性に上を見上げたくなる。

 いつからだろう? 上には何にもないのに。

 アーチを描く天井は、今は見えない。壁を探り当て、どうにか歩く。

 いくつか部屋を越えて、ヤーフェイは庭に出た。その先に、目的の人がいる。

 ずっと、そこにいる。

 月のない夜、その人を見ると心が痛んだ。なぜなのかはわからない。無性に天井を見たくなる。

 ねえ、月って、あなたの目のようなもの?

 また同じ質問をしたら、彼は怒るだろうか? それとも、あきれたように抱きしめてくれるだろうか?

「ねえ、ユーリ」

後書き


作者:水沢はやて
投稿日:2013/02/27 22:57
更新日:2013/02/27 22:57
『ユニの子』の著作権は、すべて作者 水沢はやて様に属します。

前の話 目次

作品ID:1537
「ユニの子」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS