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作品ID:1619
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人魚姫のお伽話

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


「みつけた幸せのエピローグ」  ――4

前の話 目次 次の話

あの日、大事な想い出写真を拾ってもらってからの出来事を思い返しながら、優卵は譜面に音符と詩を綴っていた。譜面台に描かれるのは、自分に気付いてくれた新たな王子様との再生を歌った人魚姫の物語。

 妹達の結婚式の後も、彼は細やかに優卵を気遣い、連絡してくれる。結婚式の日から、季節はもう二月を過ぎた。今はクリスマスムード漂う十二月。

 哀しかっただけの歌を綴った人魚姫の歌は、随分と様相を変えてしまった。でも、これでいいのだと、優卵には思える。自分はもう消えてしまう必要はないと、彼が繰り返し言葉にしてくれる。

 十年の四季を超えて想い続けた恋は、そんな彼の言葉の中に、いつの間にか昇華されかかっていた。今はもう、素直に言える。それは優卵にとって、『過去の恋』になりつつあるのだと……。


「とはいえ、こんな曲、仁科さんには見せられたもんじゃないわよね。『貴らかな悠の声音で……』なんて、我ながら乙女チックにも過ぎる曲が出来ちゃった気がする……」

 譜面台に走らせた詩を見ながら、優卵は苦笑いした。いつの間にか優卵の心の中に住み着いた王子様の名前を謳った曲は、所々に彼の名前が入り込んでいて、出来上がってしまったものを見て、優卵自身、溜息を吐いた。こんなにも高らかなラヴソング、とてもじゃないけれど、仁科には絶対に見せられない。

 ピアノの前から離れ、リビングのソファーで、入れた紅茶に口づけながら、優卵は残りの仕事にかかる。曲は出来上がった、後はこの曲に込めた思いと曲の成り立ちを書かなくてはいけない。

 教え子達と教え子の家族、教室教諭陣の身内だけが招待される、この交流演奏会。それぞれが作った曲には、与えられたテーマ、そしてそこから、曲に込めた思いと曲の成り立ちを綴って、招待状代わりのリーフレットと、当日配られるパンフレットに印刷される。

 お砂糖をたっぷりと入れた甘い果実茶を口にしながら、優卵はもうそのままの心を正直に綴った。身内だけの演奏の場である。本人の耳に入る心配はないのだし、正直な気持ちを綴りたかった。



 妹の悪ふざけで仁科を交流演奏会に呼ばれてしまって、優卵は恥ずかしさで項垂れた。幸い、教室の子どもが入ってくれて、それ以上に追及はされなかったのだけれど……。

 ニコニコと微笑んでいた仁科の顔を思い出して、優卵は自宅マンションのベッドの中に潜り込んで、大きなロップイヤーのぬいぐるみを抱き締め、膝を抱えていた。

 小さなポシェットを腕に通した、子どもなら手に余るほどのサイズの大きな愛らしいウサギのぬいぐるみ。ポシェットには、当初、キャンディとクッキーが詰まっていた。

 両耳をリボンで結んでおめかしした可愛らしいこのぬいぐるみは、仁科からのものである。十一月の初めが誕生日だった優卵に、突然、渡されて、当時は面食らった。



『…………頂いておいて言いたくないんですが、ぬいぐるみのチョイスは子どもでは?』
『や、それもそうかなと思ったんだけど、リボン結んでる姿が似てたから…………。お菓子も持ってるよ?』

『……お菓子も持ってるって、まるきり子ども扱いじゃないですか。…………可愛いです、大事にします』
『ええと、ごめんね? 女の子の喜びそうなものなんて、ぬいぐるみかアクセサリーか、お菓子くらいしか引き出し無くて……。流石にいきなりアクセサリー贈られても困るだろうと思って……』

『えと、子ども扱いされてるってちょっと訊いてみたかっただけです。うさぎさん、凄く可愛いですし、誕生日を気にしてもらえてすっごく嬉しいです』 


 そう言って微笑んだ優卵に、仁科は嬉しそうに笑ってくれた。そのぬいぐるみを抱き締めて、優卵は膝を抱えている。もう、この行動自体、優卵の心が既に何処にあるかを物語ってると言われてしまいそうだ。

「…………とっくに心は動いちゃったんです。でも、仁科さんの心、何処にあるんでしょう……」

後書き


作者:未彩
投稿日:2015/12/22 19:45
更新日:2015/12/22 19:54
『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。

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作品ID:1619
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