作品ID:1688
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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「みつけた幸せのエピローグ」 ――終
前の話 | 目次 | 次の話 |
――――出逢った夏の初めに、私は泣いていました。誰にも気づかれないまま、笑顔で一人、泣いていました。
夏の終わりを迎える頃合いに、私はやはり、泣いていました。声を殺して、貴方の前で泣いていました。
秋風が涼しさを運んでくる頃、私はまだ泣いていました。声を殺さずに泣いていました。声を殺す必要はないと貴方が言ってくれたからです。
冬の空気が澄み渡り始め、私は笑っていることが多くなりました。夏の初めに無残に消えた恋は、私の中で終わりを迎えてきていたのです。ですから、私は笑っていることが多くなりました。
春の最中、すれ違って、私は再びボロボロになりました。私の心が既にとうに貴方の方を向いていたからです。いいえ、そんな言葉で表せないほどに。二度と譲りたくはない恋だったのです。
春のすれ違いを超え、二巡目の夏を終え、貴方の前では泣いてもいいのだと知った秋を再び迎える今、私は大きな声で言えます。貴方が好きだと。
もしも、貴方を想う人が現れたならば、今の私はきっと言うのでしょう。貴方のことを私も好きだと。それが貴方を困らせることだったとして、最後まできっと私は闘うでしょう。
構わないのだと、貴方が教えてくれたからです。欲しいものを欲しいと言っても構わないのだと、譲りたくないものを譲りたくないと言っても構わないのだと……。例えそれが、優等生の言葉でなくとも。
「はい、お誕生日おめでとう」
いつものお気に入りの喫茶店で、渡された大きめの小包に、優卵ははにかんで応えた。
「ありがとうございます。約束通りティーカップ?」
優卵の言葉に、貴悠が微笑む。
「それは開けてみてのお楽しみかな。ちょっと、優卵に喜んでもらえるものなのか自信ないんだけどね、実は……。なんで、今、ここで開けてみてもらえると助かるな」
貴悠の言葉に首を傾げながら、優卵は渡された小包のリボンを紐解いた。出てきた、ベルベットの生地で覆われた作りの、可愛いティーポット型の小物入れ。
意外な贈り物に瞳をキョトンとさせていると、貴悠が指でポットの蓋を指し示したけれど、意図が解らず優卵は単純に愛らしい贈り物に瞳を輝かせた。
「ティーポットの小物入れ? わ、可愛い!! 春に頂いた指輪、これにしまってもいいですか?」
「ストップ、ストップ。頼むから、それは止めて」
貴悠の思いがけない言葉に、右手の薬指のリングを外そうと嬉々としていた優卵は、言葉の意図が酌めずに不安げに貴悠を見つめる。そんな優卵に、貴悠は柔らかく微笑んだ。
「ポットの蓋、開けてみてくれない?」
「え?」
意図は酌めぬままま、言われた通りにティーポットの蓋の部分を開けて、優卵は固まった。ポットの中には、広がるビロード。
真っ白なビロードが眩いリングピローの中心には、キラキラと輝く一粒の宝石が美しい、リング。
「……え、え?」
「わぁ、それ、ちょっと傷付くなぁ……。ちなみに宝石はダイヤモンドで、僕の給料三か月分です。つっても、新米小児科医の給料なんで、値段に期待はしないで」
「…………へ、へ? え、え、それ、え?」
「どっちかというと、返事が聴きたいんだけど」
コーヒーカップをかき混ぜながらシラッととぼける貴悠に、優卵は頭が追い付かない。暫くの間、固まってみて、貴悠の言葉と目の前の宝石の意味を飲み込んで、ようやく優卵は息を呑んだ。
「……プロポーズを受けてるんだと思っていいんですか?」
「寧ろ、他にどう取りようがあるのか訊きたいけど?」
澄まし返った貴悠の言葉に、優卵は涙ぐみながら微笑む。
「……貴悠さんがはめてくださいませんか? 私の左手の薬指に」
「それが答えかな?」
微笑んだ貴悠に優卵は飛び切りの笑顔で応える。
「ええ、私の王子様は貴悠さんですもの。王子様からプロポーズされて、断るお姫様は、お伽話には出てきません。私の前世は人魚姫ですよ?」
「そう言えばそうだったね。じゃ……」
左手の薬指に輝く小さな美しい宝石を見つめながら、優卵は微笑む。哀しい最期を迎えた人魚姫は、生まれ変わって、幸せな新しいエピローグをみつけたのだ……。
夏の終わりを迎える頃合いに、私はやはり、泣いていました。声を殺して、貴方の前で泣いていました。
秋風が涼しさを運んでくる頃、私はまだ泣いていました。声を殺さずに泣いていました。声を殺す必要はないと貴方が言ってくれたからです。
冬の空気が澄み渡り始め、私は笑っていることが多くなりました。夏の初めに無残に消えた恋は、私の中で終わりを迎えてきていたのです。ですから、私は笑っていることが多くなりました。
春の最中、すれ違って、私は再びボロボロになりました。私の心が既にとうに貴方の方を向いていたからです。いいえ、そんな言葉で表せないほどに。二度と譲りたくはない恋だったのです。
春のすれ違いを超え、二巡目の夏を終え、貴方の前では泣いてもいいのだと知った秋を再び迎える今、私は大きな声で言えます。貴方が好きだと。
もしも、貴方を想う人が現れたならば、今の私はきっと言うのでしょう。貴方のことを私も好きだと。それが貴方を困らせることだったとして、最後まできっと私は闘うでしょう。
構わないのだと、貴方が教えてくれたからです。欲しいものを欲しいと言っても構わないのだと、譲りたくないものを譲りたくないと言っても構わないのだと……。例えそれが、優等生の言葉でなくとも。
「はい、お誕生日おめでとう」
いつものお気に入りの喫茶店で、渡された大きめの小包に、優卵ははにかんで応えた。
「ありがとうございます。約束通りティーカップ?」
優卵の言葉に、貴悠が微笑む。
「それは開けてみてのお楽しみかな。ちょっと、優卵に喜んでもらえるものなのか自信ないんだけどね、実は……。なんで、今、ここで開けてみてもらえると助かるな」
貴悠の言葉に首を傾げながら、優卵は渡された小包のリボンを紐解いた。出てきた、ベルベットの生地で覆われた作りの、可愛いティーポット型の小物入れ。
意外な贈り物に瞳をキョトンとさせていると、貴悠が指でポットの蓋を指し示したけれど、意図が解らず優卵は単純に愛らしい贈り物に瞳を輝かせた。
「ティーポットの小物入れ? わ、可愛い!! 春に頂いた指輪、これにしまってもいいですか?」
「ストップ、ストップ。頼むから、それは止めて」
貴悠の思いがけない言葉に、右手の薬指のリングを外そうと嬉々としていた優卵は、言葉の意図が酌めずに不安げに貴悠を見つめる。そんな優卵に、貴悠は柔らかく微笑んだ。
「ポットの蓋、開けてみてくれない?」
「え?」
意図は酌めぬままま、言われた通りにティーポットの蓋の部分を開けて、優卵は固まった。ポットの中には、広がるビロード。
真っ白なビロードが眩いリングピローの中心には、キラキラと輝く一粒の宝石が美しい、リング。
「……え、え?」
「わぁ、それ、ちょっと傷付くなぁ……。ちなみに宝石はダイヤモンドで、僕の給料三か月分です。つっても、新米小児科医の給料なんで、値段に期待はしないで」
「…………へ、へ? え、え、それ、え?」
「どっちかというと、返事が聴きたいんだけど」
コーヒーカップをかき混ぜながらシラッととぼける貴悠に、優卵は頭が追い付かない。暫くの間、固まってみて、貴悠の言葉と目の前の宝石の意味を飲み込んで、ようやく優卵は息を呑んだ。
「……プロポーズを受けてるんだと思っていいんですか?」
「寧ろ、他にどう取りようがあるのか訊きたいけど?」
澄まし返った貴悠の言葉に、優卵は涙ぐみながら微笑む。
「……貴悠さんがはめてくださいませんか? 私の左手の薬指に」
「それが答えかな?」
微笑んだ貴悠に優卵は飛び切りの笑顔で応える。
「ええ、私の王子様は貴悠さんですもの。王子様からプロポーズされて、断るお姫様は、お伽話には出てきません。私の前世は人魚姫ですよ?」
「そう言えばそうだったね。じゃ……」
左手の薬指に輝く小さな美しい宝石を見つめながら、優卵は微笑む。哀しい最期を迎えた人魚姫は、生まれ変わって、幸せな新しいエピローグをみつけたのだ……。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 12:42 更新日:2016/01/19 12:42 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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