作品ID:1808
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異界の口
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
三章 小夜子 十
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セイ様の故郷を通り過ぎた頃のことでした。
外は真っ暗でした。あと数時間で外も明るくなるでしょう。
なんだか眠くならず、私たちはずっとしゃべり続けていました。
「学園、近くなってきたね。」
「……はい。」
私は、先ほどからがまんしていた息苦しさに、そろそろ限界が来ていることに気がついていました。
はっ、はっ、と短い息が連なります。
ホタル様も、こちらの異変に気がつかれたようです。
「小夜子嬢? 大丈夫?」
はい、と答えたつもりでしたが、ただの息つぎのようになってしまいました。
これでは、もう長くないでしょう。
体がかしいで、私はとなりに座るホタル様に頭を預けました。
ホタル様が、おどろいたように私を見ます。
「小夜子嬢、どうしたの。小夜子嬢?」
私は、無理矢理にでも話そうと努力しました。
「わたくし、は。」
少し話しただけでせきこんでしまいました。ホタル様が、背中をさすってくださいます。
「無理しなくても良いよ。」
「いいえ、今しか、ないのです。」
私は必死に声を出しました。
「半年前、お医者様に、よ、余命は、一月だと、言われ、ました。」
「一月?」
「はい。だから、もう、いつ、限界がきて、も、おかしく、なかったの、です。」
血の気が引いていくのがわかりました。
視界がぐっと狭くなって、眠りたくないのに、眠らされるような。いつもよりも濃い闇に引きずり込まれるような。別の世界に、引きずりこまれてしまいそうでした。
「……そとを、みられるのは、……さいごに、なるとおもって……。」
「それで、学園を抜け出したの?」
うなずけたかどうかは定かではありません。
「だから列車の一番後ろで、泣いていたの?」
少しだけ、意識が戻りました。
「……おはずか、しい。」
「ぼくは見てない。セイが言っていたんだ。女の子が泣いていたって。」
そうですか。それは、よかった。
私は、ゆっくりと、目を閉じました。
「小夜子嬢?」
ホタル様が、肩をつかんでいるのが分かりました。
ああ、なぜ、私は早くあちらへといけないのでしょう。
「ごめんなさい。」
何? 聞こえないよ、と、ホタル様が言ったような気がしました。それすらもあいまいです。
ふと、金色の光が、目の前を通り過ぎました。
慌てたひょうしにホタル様のポケットから何かが滑り落ちたのです。懐中時計でしょうか。
はっとしたように、ホタル様がかがんで、それを拾い上げました。
そうして、意を決したように口を開きます。
「小夜子嬢。君は、この時計が止まるまで生き続けなければならない。」
ホタル様の声がやけにはっきりと聞こえました。
おかしい。
素直にそう思いました。
ゆっくりとでしたが、私の意識ははっきりとしてまいりました。急速に真っ暗な「あちら」が遠ざかり、薄暗い客車の光がまぶしく見えました。
――永遠に止まるな。
ふと、その言葉が頭をよぎりました。なんの言葉だったでしょうか?
「大丈夫? 小夜子嬢。」
「はい。」
おかしいくらいに気分がよくなって、私は息を整えました。心なしか、いつも感じていた胸のつっかえも取れたように感じます。
夜の客車はとても静かで、明かりもしぼられていました。どこか夢の中のような雰囲気に、私は、これは夢なんだと思うことにいたしました。
幸せな夢。大好きな人と共にいられて、その人に見守られながら、ゆるやかに沈んでいく。
うとうととしているうちに、またホタル様によりかかっていたようです。けれども、もうまぶたは上がりませんでした。
「――おやすみ、小夜子嬢。いい夢を。」
そんな幸せな声が、聞こえたような気がいたしました。
外は真っ暗でした。あと数時間で外も明るくなるでしょう。
なんだか眠くならず、私たちはずっとしゃべり続けていました。
「学園、近くなってきたね。」
「……はい。」
私は、先ほどからがまんしていた息苦しさに、そろそろ限界が来ていることに気がついていました。
はっ、はっ、と短い息が連なります。
ホタル様も、こちらの異変に気がつかれたようです。
「小夜子嬢? 大丈夫?」
はい、と答えたつもりでしたが、ただの息つぎのようになってしまいました。
これでは、もう長くないでしょう。
体がかしいで、私はとなりに座るホタル様に頭を預けました。
ホタル様が、おどろいたように私を見ます。
「小夜子嬢、どうしたの。小夜子嬢?」
私は、無理矢理にでも話そうと努力しました。
「わたくし、は。」
少し話しただけでせきこんでしまいました。ホタル様が、背中をさすってくださいます。
「無理しなくても良いよ。」
「いいえ、今しか、ないのです。」
私は必死に声を出しました。
「半年前、お医者様に、よ、余命は、一月だと、言われ、ました。」
「一月?」
「はい。だから、もう、いつ、限界がきて、も、おかしく、なかったの、です。」
血の気が引いていくのがわかりました。
視界がぐっと狭くなって、眠りたくないのに、眠らされるような。いつもよりも濃い闇に引きずり込まれるような。別の世界に、引きずりこまれてしまいそうでした。
「……そとを、みられるのは、……さいごに、なるとおもって……。」
「それで、学園を抜け出したの?」
うなずけたかどうかは定かではありません。
「だから列車の一番後ろで、泣いていたの?」
少しだけ、意識が戻りました。
「……おはずか、しい。」
「ぼくは見てない。セイが言っていたんだ。女の子が泣いていたって。」
そうですか。それは、よかった。
私は、ゆっくりと、目を閉じました。
「小夜子嬢?」
ホタル様が、肩をつかんでいるのが分かりました。
ああ、なぜ、私は早くあちらへといけないのでしょう。
「ごめんなさい。」
何? 聞こえないよ、と、ホタル様が言ったような気がしました。それすらもあいまいです。
ふと、金色の光が、目の前を通り過ぎました。
慌てたひょうしにホタル様のポケットから何かが滑り落ちたのです。懐中時計でしょうか。
はっとしたように、ホタル様がかがんで、それを拾い上げました。
そうして、意を決したように口を開きます。
「小夜子嬢。君は、この時計が止まるまで生き続けなければならない。」
ホタル様の声がやけにはっきりと聞こえました。
おかしい。
素直にそう思いました。
ゆっくりとでしたが、私の意識ははっきりとしてまいりました。急速に真っ暗な「あちら」が遠ざかり、薄暗い客車の光がまぶしく見えました。
――永遠に止まるな。
ふと、その言葉が頭をよぎりました。なんの言葉だったでしょうか?
「大丈夫? 小夜子嬢。」
「はい。」
おかしいくらいに気分がよくなって、私は息を整えました。心なしか、いつも感じていた胸のつっかえも取れたように感じます。
夜の客車はとても静かで、明かりもしぼられていました。どこか夢の中のような雰囲気に、私は、これは夢なんだと思うことにいたしました。
幸せな夢。大好きな人と共にいられて、その人に見守られながら、ゆるやかに沈んでいく。
うとうととしているうちに、またホタル様によりかかっていたようです。けれども、もうまぶたは上がりませんでした。
「――おやすみ、小夜子嬢。いい夢を。」
そんな幸せな声が、聞こえたような気がいたしました。
後書き
作者:水沢妃 |
投稿日:2016/08/15 08:21 更新日:2016/08/15 08:21 『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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