作品ID:1988
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REincarnation
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
目を覚ました彼女に待ち受ける、残酷な現実。
2. 夢の終わり
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翌朝。目を開けるとそこには、昨日とは違う、木造の天井が広がっていた。
体を起こして辺りを見回したが、昨日あったピカピカの机や社長室にありそうなイス、ウサギのぬいぐるみもなかった。その代わりに、本がつまった本棚と庶民的な机とイス、それに金髪のショートボブの女性が、私の足のすぐ近くに座っていた。女性は私に笑顔で手を振り言った。
「おはよう、スカトラ。目は覚めた?」
「トハル……?」
その女性には見覚えがあった。アキハさんやコクゲンさんがいる世界にはいなかった親友、トハルだ。彼女は、私の家の隣に住んでおり、本を買うお金のない私は、彼女から本を借りることが多かった。ファンタジー小説にはまったのも、彼女の嗜好が原因であると言っても、過言ではない。
本来の記憶がぼんやりと戻ってきた。ここは私、スカトラの家ではなく、トハルの家だ。昨日とは全く違う。
トハルは私の顔を見て、くすっと笑った。ベッドから立ち上がり、こちらを向いて首を傾げた。胸元の鍵の形をしたネックレスが光り輝いている。
「そう、トハルだよ。何かあったのかな?意識がはっきりしていないみたいだけど」
「い、いや。なんでもない。気にしないで」
私は、アキハさんやコクゲンさんのことを話そうと思ったが、やめた。トハルの反応を見るに、あの世界の話は私の夢だったのだ。ファンタジー小説の読みすぎだろうと、自分で納得した。
「そうか。じゃあ、私はお茶でも持ってくるから、本でも読んで待っててよ」
トハルは私の反応に納得すると、部屋を出ていった。私は、ベッドから出て、部屋にあるファンタジー小説を物色した。
最近のお気に入りは、主人公が異世界転生をする小説だ。昨日の「リアルな夢」での状況にも似ている。
ある日突然、日常が非日常に変わってしまい、主人公はそれに翻弄されつつも成長していく。それを見て、自分に置き換え妄想に浸るのにはまっている。中二病と言われればそこまでだが、娯楽がないので仕方がないことなのだ。
数年前に一度読んだ小説を見つけ、それを開こうとした。その次の瞬間、部屋のドアがいきなり開いた。そして、中肉中背で茶髪の男性が1人、部屋に入ってきた。その男性は切羽詰まった様子で、私を見つめた。
「トハル!……ってあれ!? スカトラちゃん! どうしてここに!?」
「そういうフユイチさんこそ、そんなに焦ってどうしたんですか?」
私は、この男性と知り合いだ。この男性――フユイチさんは、トハルのお兄さんで、私が小さい頃はよく読み聞かせをしてくれた。かなり速読で、本を読むのが速いと自負している私でも、彼のスピードには敵わないほどだ。
フユイチさんは、のんびりしている私に事情を説明してくれた。
「君のお父さんが、神隠し認定を受けた! ここ三日くらいかけて、警察が捜索したんだけど……その様子だと、昨日は見つからなかったみたいだね」
「父さんが……神隠し!?」
フユイチさんの言葉に、私の思考は一瞬停止した。
私たちが今住んでいる区域では、神隠しは珍しいことではない。神隠し認定制度が浸透しているのも、そのためだ。
しかし、一般的な神隠しとは違い、その被害の大多数は大人が占める。共通点として挙げられるのは、優秀な人間ほど神隠しに遭いやすい。
私の父は大工をしているが、そこまで優秀な人材ではなかった。正直に言えば、かなり下の方であり、その巨体を活かして力仕事を行う木偶の坊だった。神隠しに遭うほど、優秀ではなかったはずだ。
私の反応を見たフユイチさんは、何か訊こうと口を開きかけた。それを遮るようにして、トハルが3人分のお茶を持ってきた。
「フユ兄どうしたの?」
「あっ、ああ。トハル、スカトラちゃんのお父さんが神隠し認定を受けた! それで今、話していたんだけど――」
「あまりその話はしない方が良い。スカトラは、ショックで寝込んでたんだから、ね?」
トハルはフユイチさんの話を遮ってそう言うと、こちらに視線を向けた。話を合わせろ、という合図だった。
昨日の記憶が、いまいちはっきりしない今の私には好都合だ。私は、トハルに賛同の意を示し、うんうんと頷いた。
「フユ兄。その話は、スカトラのお母さんが迎えに来てからでも、遅くないんじゃない?」
「そ、そうだな……分かった」
フユイチさんは、少し不服そうな顔をしながらも、それ以上は詮索してこなかった。私は、いつも通り、私の母の仕事が終わるまで、フユイチさんトハル兄妹にお世話になることにした。
午後8時を過ぎても、母から連絡があることはなかった。いつもなら、残業の有無くらいは連絡されるはずなのに。何かがおかしい。
疑問に思いつつも、夕食の時間はいつも通り、トハル達と共に過ごした。いつも私を預かっている罪悪感からか、母はシェフである能力を活かし、私たちの夕食の下ごしらえをしてくれていた。最後の仕上げは、トハルの役割だ。
夕食後、私を含む3人はトハルの部屋でファンタジー小説の続きを読んでいた。すると、家の子機が鳴り始めた。私がでようとすると、速読をしていたフユイチさんが制止した。彼は読んでいた本を机に置き、子機を手に取った。
「もしもし。はい、はい……えっ!?」
フユイチさんの、わざとらしくも見える大袈裟なリアクションには、私もトハルも慣れていた。先ほどのように、本当に大事の場合もあるが、その他の場合もオーバーリアクション気味だ。わざとやっているわけではなく、何事も全力で取り組もうとする、彼の人柄が生みだす副作用なのだ。
だが、今回の場合も違うようだった。
「少々お待ちください。スカトラちゃん!」
彼は電話口を抑えたまま、私を呼んだ。その表情は、先ほどの父の神隠しに関する知らせをする時と、同じ顔をしていた。その表情から嫌な予感を察しつつも、フユイチさんから子機を受け取った。
「お電話変わりました、スカトラです」
『タルティさんの娘さんですね。実は、あなたのお母さんの姿が見えないのです。出勤延長前に、あなたに連絡すると言ったきり帰ってこなくて……』
電話越しの男は、少し吃りながら言った。
延長前には、母は必ずトハルの家に電話をする。母は、仕事が好きで、私を産んだ後すぐに職場復帰したくらいには、仕事を愛している。それに、残業は日常茶飯事だから、今さら逃げ出すはずもない。
ということは、もしかしたら。
「残業の場合、母はいつも、この電話番号に電話をかけて、その旨を教えてくれます。私の記憶の限りでは、今日はまだ連絡を受けていません。何か逃げ出す予兆はありましたか?」
『いえ、ご存知でしょうが、むしろ仕事に対してやる気を見せるほどでしたので、逃げ出すという可能性はありません』
「分かりました。心当たりを捜してみます」
私は、相手が切ったのを確認すると、子機を戻した。
心当たりを捜す、とは言ったものの実際は捜す場所なんてない。私は、放心状態のまま立ち尽くしていた。昨日に帰りたい。
その様子を見て察したトハルは、私の肩に手を置いた。
「……スカトラ。捜索願はフユ兄に任せて、少し休もう」
トハルは、フユイチさんに捜索願の提出を頼んだ。フユイチさんは、部屋を出ていった。そして、私の肩に腕をかけ、自室のベッドへと誘った。私はその誘いのまま、彼女のベッドに倒れこんだ。布団は私を拒絶することなく、優しく包み込んだ。
今日は色々ありすぎた。昨日からの急激な変化や事件など、精神的に参る出来事が多すぎた。疲労困憊とは、まさしく今の私をさすのだろう。私は、数時間前の私の温もりにすがるように眠りについた。
後書き
作者:惨文文士 |
投稿日:2018/05/12 23:30 更新日:2018/05/12 23:30 『REincarnation』の著作権は、すべて作者 惨文文士様に属します。 |
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