作品ID:2344
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『鉄鎖のメデューサ』
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
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第36章
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「薬のことを教えてほしいって?」
焚き火に枝をくべる手を止めて訊き返したラルダに、ロビンは頷いた。
「きのう姉ちゃんのことを思い出して、昼間ずっと考えていたんだ。薬が買えずに目の前で姉ちゃんが死んじゃったあの日、僕はなにもできなかったけれど、今もスラムには、薬も買えない人はいっぱいいる。僕が薬を使えるようになれば、そんな誰かの役にたてるかもって。
あなたは薬や薬草にくわしい。街への旅の途中に寄った村で、病気の人に薬を作ってあげたっていってたでしょ? だったら、僕もそんなふうになれたらって」
「そうか……」
ラルダの声には感慨がにじんでいた。
「実は私も、せめてロビンに解毒の花の扱い方だけは教えたいと思っていたんだ。クルルを樹海に帰し解毒の花を手に入れれば、ひとまず今回の件は解決する。今までの経験からすれば、新たな啓示をその場で受けるかもしれないから」
尼僧のその言葉に、少年は虚を突かれた。
「なんだか僕、スノーフィールドにはいっしょに戻れると思ってた」
「私はもともとよそ者だぞ」
半ば呆然と見つめるロビンに苦笑しつつ返したラルダ。そこへホワイトクリフ卿が割り込んだ。
「そもそもなぜ、あなたはこんな旅を続けておられるのです? ラルダ殿。なにゆえ続けねばならぬのです?」
若きナイトのその言葉に、ラルダの表情が陰った。
「……私はなにか、罪を償わなければならないらしい」
「あなたに罪などあるはずがっ」
思わず遮るホワイトクリフ卿だったが、尼僧の緑の瞳に浮かぶ煩悶の色に言葉を続けられなくなった。
「二年前、私は神の声を聞いた。それより前の記憶は一切ない。自分がいつなにをしたのか、まったく分からない。だが……」
燃え尽きてゆくねじれた枝を見つめる瞳に炎が映えた。それはゆらぎ、ラルダ自身の魂の姿であるかのごとくおののいた。
「旅を続けるうちに、神の意志は私を多くの者の運命を狂わせる出来事に向きあわせるところにあるのではと思うようになった。そしてあの時ノースグリーンが運命を呪うと叫んだことで、私は気づいてしまったんだ。私はなにか恐ろしい運命に襲われ、同じことをいったことがあったと。すべてを呪い心を歪ませ、誰かに恐ろしいことをしてしまったのだと……」
「……怖れておられるのか? あなたご自身の過去を」
応えはしばらく返ってこなかった。ようやく返ってきた声は、鎧のように硬質なものだった。
「すべては旅路の果てに明らかになるはず。目を背けることなどできない。許されはしない」
重い沈黙の中、再びロビンはラルダが本来の在り方に至れずにいるのだと感じた。もの哀しさで胸が溢れそうだった。
焚き火に枝をくべる手を止めて訊き返したラルダに、ロビンは頷いた。
「きのう姉ちゃんのことを思い出して、昼間ずっと考えていたんだ。薬が買えずに目の前で姉ちゃんが死んじゃったあの日、僕はなにもできなかったけれど、今もスラムには、薬も買えない人はいっぱいいる。僕が薬を使えるようになれば、そんな誰かの役にたてるかもって。
あなたは薬や薬草にくわしい。街への旅の途中に寄った村で、病気の人に薬を作ってあげたっていってたでしょ? だったら、僕もそんなふうになれたらって」
「そうか……」
ラルダの声には感慨がにじんでいた。
「実は私も、せめてロビンに解毒の花の扱い方だけは教えたいと思っていたんだ。クルルを樹海に帰し解毒の花を手に入れれば、ひとまず今回の件は解決する。今までの経験からすれば、新たな啓示をその場で受けるかもしれないから」
尼僧のその言葉に、少年は虚を突かれた。
「なんだか僕、スノーフィールドにはいっしょに戻れると思ってた」
「私はもともとよそ者だぞ」
半ば呆然と見つめるロビンに苦笑しつつ返したラルダ。そこへホワイトクリフ卿が割り込んだ。
「そもそもなぜ、あなたはこんな旅を続けておられるのです? ラルダ殿。なにゆえ続けねばならぬのです?」
若きナイトのその言葉に、ラルダの表情が陰った。
「……私はなにか、罪を償わなければならないらしい」
「あなたに罪などあるはずがっ」
思わず遮るホワイトクリフ卿だったが、尼僧の緑の瞳に浮かぶ煩悶の色に言葉を続けられなくなった。
「二年前、私は神の声を聞いた。それより前の記憶は一切ない。自分がいつなにをしたのか、まったく分からない。だが……」
燃え尽きてゆくねじれた枝を見つめる瞳に炎が映えた。それはゆらぎ、ラルダ自身の魂の姿であるかのごとくおののいた。
「旅を続けるうちに、神の意志は私を多くの者の運命を狂わせる出来事に向きあわせるところにあるのではと思うようになった。そしてあの時ノースグリーンが運命を呪うと叫んだことで、私は気づいてしまったんだ。私はなにか恐ろしい運命に襲われ、同じことをいったことがあったと。すべてを呪い心を歪ませ、誰かに恐ろしいことをしてしまったのだと……」
「……怖れておられるのか? あなたご自身の過去を」
応えはしばらく返ってこなかった。ようやく返ってきた声は、鎧のように硬質なものだった。
「すべては旅路の果てに明らかになるはず。目を背けることなどできない。許されはしない」
重い沈黙の中、再びロビンはラルダが本来の在り方に至れずにいるのだと感じた。もの哀しさで胸が溢れそうだった。
後書き
未設定
作者:ふしじろ もひと |
投稿日:2021/11/23 01:16 更新日:2021/11/23 01:16 『『鉄鎖のメデューサ』』の著作権は、すべて作者 ふしじろ もひと様に属します。 |
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