作品ID:329
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小さなお巡りさん
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
1 ちいさな、ひかり
目次 |
真っ暗だった。何もかも見えない。
手を伸ばした。ごつごつした木の幹が指先に触れた。
あたりには、ふんわりとした光が揺らめいていた。明るい、光。それはひとつ消えてはまた一つ増え、一つ消えてはまた一つ増え、という明滅を繰り返していた。
彼女たちは、顔をお互いに見せることも、お互いの声を聞くことも禁じられていた。決して二人や三人という複数では行動しない。それが、彼女たち動忍《どうにん》の掟だった。
敵国からの情報を盗むために。
理由はそれだけだった。静かに敵国の城に忍び込み、速やかに情報を持ち帰る。主《あるじ》に情報を提供し、それなりの報酬を得る。
楽しいとは思わない。でも、苦しいとも思わない。
血を吐くほどの訓練もさせられた。教官からは殴られ、蹴られて体の骨のいくつかを折られたこともある。助け合う仲間はそばにいないし、助け合おうなんても思わない。
苦しいとは思わなかった。
彼女は、思った。
自分は、おかしいのだ。多分、感情などを持ち合わせていないのだ。
隣の木の枝に女の人が乗ってきた。
人の気配が分かるようになった。見えなくても、声がしなくても、相手が纏(まと)う空気、雰囲気でどんなやつかが分かるのだ。
嬉しくなんてない。
嬉しいって、どんなことなんだろう。
彼女は敵国の城の奴らが楽しそうに笑うのも理解できなかった。
と、静まり返った森の中に、枝や落ち葉を踏んで歩いてくる音が響いた。
これだけの動忍たちが集まることはそうそうない。
だから、こちらに向かってくる人物は相当のお偉いさんなのだろう。
ゆっくりとした足音が近づくにつれて、重々しい空気が漂い始めた。
「お前たちをここに集めたのは、他でもない」
低い声で唸るように言ってから、彼は小さく息を吐いた。
「ご苦労だった。もう、お前たちは必要ない」
なんとも思わなかった。なんとも。
「本日を持って、我々動忍は解散とする」
あたりは静まり返ったままだった。
「今から配る用紙には、お前たちの新しい住処(すみか)が書かれている。その住処へ、今から我々のこの光が案内する」
話していた男がいたと思われる辺りに、緑色のやわらかい炎が現れた。
彼女の手元には何枚かの紙のようなものが飛んできた。彼女はそれを人差し指と中指の間に挟んでとる。
「解散後は、できるだけ静かに、ひっそりと暮らしたまえ。決して揉め事を起こしてはならぬ」
緑色の光が彼女の体の回りを囲んで、くるくると回り始める。
「では、行け」
彼女は、柔らかな光に引っ張られるようについて行った。
地面に降り立ち、ざくざくとした地面を踏みしめながら、駆け始める。不意に光が上空に上がったので顔を上げた。緑色の光はあれを見ろといわんばかりに上空で旋回している。
彼女は素直にそれに従った。
夜だというのに眩しい、城下町の色とりどりの明かり。彼女はそれを見ても開放されて嬉しいとも、動忍の奴らと離れて悲しいとも思わなかった。
「魔法が誰でも使える国……か」
小さく呟いても誰も相槌を打ってくれる人なんてない。
彼女は旋回しなくなった光を見上げた。ため息しか出てこなかった。
町のほうへ歩き出す。光はゆっくりと進みながら彼女の行く先を照らしていた。
手を伸ばした。ごつごつした木の幹が指先に触れた。
あたりには、ふんわりとした光が揺らめいていた。明るい、光。それはひとつ消えてはまた一つ増え、一つ消えてはまた一つ増え、という明滅を繰り返していた。
彼女たちは、顔をお互いに見せることも、お互いの声を聞くことも禁じられていた。決して二人や三人という複数では行動しない。それが、彼女たち動忍《どうにん》の掟だった。
敵国からの情報を盗むために。
理由はそれだけだった。静かに敵国の城に忍び込み、速やかに情報を持ち帰る。主《あるじ》に情報を提供し、それなりの報酬を得る。
楽しいとは思わない。でも、苦しいとも思わない。
血を吐くほどの訓練もさせられた。教官からは殴られ、蹴られて体の骨のいくつかを折られたこともある。助け合う仲間はそばにいないし、助け合おうなんても思わない。
苦しいとは思わなかった。
彼女は、思った。
自分は、おかしいのだ。多分、感情などを持ち合わせていないのだ。
隣の木の枝に女の人が乗ってきた。
人の気配が分かるようになった。見えなくても、声がしなくても、相手が纏(まと)う空気、雰囲気でどんなやつかが分かるのだ。
嬉しくなんてない。
嬉しいって、どんなことなんだろう。
彼女は敵国の城の奴らが楽しそうに笑うのも理解できなかった。
と、静まり返った森の中に、枝や落ち葉を踏んで歩いてくる音が響いた。
これだけの動忍たちが集まることはそうそうない。
だから、こちらに向かってくる人物は相当のお偉いさんなのだろう。
ゆっくりとした足音が近づくにつれて、重々しい空気が漂い始めた。
「お前たちをここに集めたのは、他でもない」
低い声で唸るように言ってから、彼は小さく息を吐いた。
「ご苦労だった。もう、お前たちは必要ない」
なんとも思わなかった。なんとも。
「本日を持って、我々動忍は解散とする」
あたりは静まり返ったままだった。
「今から配る用紙には、お前たちの新しい住処(すみか)が書かれている。その住処へ、今から我々のこの光が案内する」
話していた男がいたと思われる辺りに、緑色のやわらかい炎が現れた。
彼女の手元には何枚かの紙のようなものが飛んできた。彼女はそれを人差し指と中指の間に挟んでとる。
「解散後は、できるだけ静かに、ひっそりと暮らしたまえ。決して揉め事を起こしてはならぬ」
緑色の光が彼女の体の回りを囲んで、くるくると回り始める。
「では、行け」
彼女は、柔らかな光に引っ張られるようについて行った。
地面に降り立ち、ざくざくとした地面を踏みしめながら、駆け始める。不意に光が上空に上がったので顔を上げた。緑色の光はあれを見ろといわんばかりに上空で旋回している。
彼女は素直にそれに従った。
夜だというのに眩しい、城下町の色とりどりの明かり。彼女はそれを見ても開放されて嬉しいとも、動忍の奴らと離れて悲しいとも思わなかった。
「魔法が誰でも使える国……か」
小さく呟いても誰も相槌を打ってくれる人なんてない。
彼女は旋回しなくなった光を見上げた。ため息しか出てこなかった。
町のほうへ歩き出す。光はゆっくりと進みながら彼女の行く先を照らしていた。
後書き
作者:赤坂南 |
投稿日:2010/09/20 20:43 更新日:2010/09/20 20:43 『小さなお巡りさん』の著作権は、すべて作者 赤坂南様に属します。 |
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