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作品ID:669
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黄昏幻夢

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


二章 一 メイ

前の話 目次 次の話

 「じゃあなー、じーさん。くれぐれも腰には気をつけて」

「魔術士。明日も来い。修行のやり方を教えてやろう」

 じーさんは、弱々しく手を振った。

 すでに回りは闇しかなく、遠くの街灯だけが頼りとなっている。

 細は、駆け足で境内の砂利道を通った。神社にしては珍しく、木はない。代わりに、何百本という竹が植わっていて、ちょっと怖かった。

「ああ、早く帰りたい。大体、何で誰もいないんだよ! 誰かいたっていいだろ」

 いまさらだけど、と細は考えた。

(なんで魔術士なんかになったんだろう。別に、俺がなんなくてもいいだろ。もっと頭のいいやつとか、ほかに、この力を必要としているやつに譲ってやりたいよ。別になくってもいけるし)

 そんな考え事をしていたせいか、竹林からふらり、と出てきた人影に思いきってぶつかった。



「って!」



「ひゃあっ」



 踏みとどまった細に対して、相手のほうはすっ転んでしまい、砂利の上を滑った。

「あっ、すいません! 大丈夫ですか?」

「ああ、なんとか」

 相手のほう――近くの中学のセーラー服を着た女の子に手を貸してやりながら、細は、心に何かが引っかかった。

 腰までの長い黒髪の少女に、なんとなく見覚えがあったのだ。

 少女は、さっさとスカートについた埃をはらって手提げカバンを持った。

「近道しようと思って、竹林を突っ走ってきたんです」

「ああ、それ、俺もよくやるよ」

 気軽に話しながら、細は少女を見る。

 小柄な、どこにでもいそうな女の子だった。勘違いかな、と思いながら、じっと少女を見ていると、

「あ、私、メイって言います。そこの中学の生徒です」

何かを勘違いしたのか、自己紹介をされた。

「あ、俺、渡辺細。細いって漢字を書いて、さいって読む」

「細さんですか。いいなあ、漢字。私も漢字の名前がよかった」

「……俺はいいと思うよ? メイって名前」

 そう言うと、メイは細のほうを見て笑った。

「ありがとう! そう言ってくれるのは細さんが初めて!」

「喜んでもらえて何より」

 そう言った時、細は心臓の辺りがちくっと痛んだのを感じた。

後書き


作者:水沢はやて
投稿日:2011/05/04 16:46
更新日:2011/05/04 16:46
『黄昏幻夢』の著作権は、すべて作者 水沢はやて様に属します。

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