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作品ID:699
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黄昏幻夢

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


三章 三 決断

前の話 目次 次の話

 さあ、どうする?

 そんな目で、じーさんが細を見ていた。

 メイは、細を見て、苦しそうに顔をゆがめた。

(……自分がメイを断ち切れば、メイは、こんな顔しなくてもいいんだ)

 細は、そこまで思って、逆に大変なことになることに気づいた。

 細が思いを断ち切るには、力を手ばなさなくてはならない。そして、力がなくなると、メイは、この世界に存在できなくなる……。

「……そんなの、嫌だ。メイと分かれたくないよ」

「魔術士よ。そんなに力がほしいか?」

「そんなんじゃねーよ。力なんて要らない。ただ、メイと一緒にいたいだけ」

 細の言葉に、メイは、堅く、決心のつかない、どこか不安な顔をする。

 それを見て、じーさんが懐から何かを取り出した。

 鍵だ。

 特に装飾のついていない、手に収まらないほどの鍵。かなりさびている。

「ついにここまで同調したか。魔術士」

「……なんだよじーさん、その鍵!」

 細は、じーさんが持った鍵を奪おうとした。

 それが、自分とメイを引き裂くものだと分かったから。

「……かつての魔術士に、力を借りるんじゃよ」

 鍵を取られる前にそう言うと、じーさんは石畳の道に鍵を突き刺した。

 がりっ。

 ……すとん!

 石畳に半ば埋まる鍵。

 そして、右回りにひねる。



 

 すぐに、それは開いた。





「うっわ!」

 一回、地面が揺れた。

 じーさんは立っていられず、すぐに細が駆け寄って支えてやる。

「借り一ってことで!」

「まったく。何だそれは」

 言い合ってるうちに、石畳に観音開きのように開いた扉から、小さな影が出てきた。

 ぽん! と飛び出してきたのは、ふわふわの白いレースの、腰から膨らむ形のドレスに、かざりの小花や蔓のあしらわれた、薄い雲のような、足元までたれ落ちるベール。そして、水の上を歩けそうな、ぴっかぴかのガラスのくつ。頭の上に、小さなティアラがちょこんと乗っている、ちいさな人だった。

 一度、飛び出した反動で宙を舞ったその人の、小さな体を包むレースがふんわりと広がり、ドロワースがあらわになる。そして、ふわっ、とメイの前に着地した。

 腰までの銀の髪が、遅れて降り立つ。

「……聖魔術士様。あなたはお変わりありませんなあ」

 じーさんがひにくげに言う。

 その人は、ちいさく微笑み、メイの手を取った。

「この子は、ここにいちゃいけないのよ。少年」

 その声は、大人のものだった。

 しかし、その目には、子供らしい、好奇心に溢れた光が宿っている。

「……なんで」

「この子は、いつか、あなたを食ってしまうわ。思いが強すぎて、あなた以上にあなたのことが分かってしまう」

 聖魔術士は、歩き始めた。――細に向かって。

「この子は、死なない。私も殺しはしないわ。あっちの世界に行くだけ」

 細を見上げて、聖魔術士が微笑んだ。

 やわらかく、全てを溶かせる笑み。

 手を、差し出す。

「そのかわり、契約しましょ。代償は、あなたの成らせの力」

「……それで、メイが死なないなら」

 細は、聖魔術士の手を握った。

 ピカッ! 

 細の中で青い光が輝き、つながった手を流れて聖魔術士のほうへと流れた。

 ティアラの青い石が、きらっと輝く。

「交渉成立、見たいね」



 そう言うと、聖魔術士はメイの手を引いた。

 後ろ髪惹かれるように、メイがずっと細を見ていた。

「……メイ!」

 細は、一歩踏み出して、止まった。

 しっかり立って、メイを見る。

 扉の前に、メイが立った。聖魔術士に背中を押されて、メイが扉に入りかける。

 そして、







「……成らせてくれて、ありがとう」







 扉の向こうに、消えた。

 

 後には、石畳の道に古びた鍵が落ちるのみ。

後書き


作者:水沢はやて
投稿日:2011/05/14 22:34
更新日:2011/05/14 22:34
『黄昏幻夢』の著作権は、すべて作者 水沢はやて様に属します。

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