小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:932
「リオン Z.E.M」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「リオン Z.E.M」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(62)・読中(1)・読止(0)・一般PV数(187)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


リオン Z.E.M

小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / 感想希望 / 中級者 / R-15 / 完結

前書き・紹介


プロローグ 「遠い言葉」

目次 次の話

 ――初めから、命は剣であったはずなのに……。

   過ちだと気付くのが、遅すぎた。

   だから、せめて、わしは……。



 そんな言葉が、聞こえた気がした。

 真っ暗だった意識に、唐突に自我が目覚めた。

 そこから、思考は動き始める。

 瞼は閉じたままで、まだ重くて開けられそうになかった。どこかくぐもった、水中にいるような感覚が全身を包んでいる。ごぽごぽと、水の中に泡が生じる音だけが鼓膜に伝わってくる。

 呼吸はできる。何か口と鼻に取り付けられているらしい。そこだけ液体が触れている感覚がない。

 身体も瞼同様に、重い。体中が鉄でできているのかと思うほどに、筋肉が固まっていて動かせない。

 誰かの声が聞こえた気がした。

 いや、誰かがいる。自分を見ている。何故か、それが判った。

 どこか、動く部位がないかと体中に力を込める。どうにか動いたのは、右手の指先と、瞼だけだった。重く、固まっていたようにすら感じられる瞼を、少しずつ開いていく。だが、瞼を開けられたのはほんの少しだけだった。薄っすらと、開いているのかいないのか判らないぐらいまでしか、瞼を持ち上げることはできなかった。

 半透明の翡翠色に歪んだ視界が広がる。やはり、自分は何か液体の中にいるらしい。

 その、歪んだ視界の向こうに、誰かが立っている。こちらを見上げている。

「……まない、オメガ」

 意識の覚醒に伴って、閉ざされていた聴覚が少しずつその機能を取り戻そうとしていた。

(オメ、ガ……?)

 辛うじて、聞こえた言葉は、自分の名前なのだろうか。

 オメガには、何もない。こうなる以前の記憶も、自分が何者であるのかも。ただ、思考力だけはまともだ。だとすると、オメガの年齢は二十代ぐらいなのだろうか。

「お前さんの、廃棄処分が決まってしまった」

 歪む視界の中、オメガを見上げている人影が悲しげに呟いた。

(廃棄? 処分?)

 表情さえ変えることができないのがもどかしい。もしも表情を表すことができたなら、オメガから相手に感情ぐらいは伝えられたかもしれないのに。

 人影が、歪む視界に触れる。掌を押し付けて、オメガを間近から見上げてくる。

 老人だった。そこまで年老いてはおらず、まだ足腰も大丈夫そうに見える。ただ、外見だけでは老人としか言えない。細かな特徴で人物として把握しようにも、ほんの少ししか開いていない瞼と、翡翠色の液体で歪んだ視界では顔の判別が難しかった。

「だが、お前さんは既に完成している」

 老人の言葉を、ただ聞くしかできなかった。

 自分がどんな運命を辿るのか、今のオメガには知る術もない。自分の身体を動かすことすらできないのだから。

「わしは、お前さんを生かしたまま廃棄する。死なずに、生き延びて欲しい」

 何を言っているのかは、判らない。

 ただ、彼がオメガを救う道を探していることだけは伝わってくる。ぼんやりと、彼は味方なのだろうかと、考えていた。

「もしも、わしの声が聞こえていたら、頼まれてはくれぬか?」

 老人が言った。彼には、オメガの意識の有無が判らないらしい。今までのことも、ほとんど独り言のつもりだったのかもしれない。

「罪深いのはわしの方じゃ。じゃが、わしには力がない……」

 声のトーンが落ちて、聞き取り難くなった。口が動いているのはどうにか判別できたが、何を喋っているのかは聞き取れない。歪んだ視界のもっと下の方にある何かの機械を操作しながら、老人はぼそぼそと呟いている。

「お前さんが、彼女を救ってくれることを、わしは信じたいのじゃよ……」

 彼が顔を上げた時に聞こえてきたのは、どこか諦めの混じった言葉だった。ただ、その言葉の中には願いや希望も含まれていた。

 ゆっくりと、老人が離れて行く。

(待て……!)

 叫びたかったが、声は出せなかった。

 それでも、去っていく老人の背中に、叫びたい思いだけを投げ付ける。ただ、自分の中へ反響するだけだと知りながら。



 ――彼女って、誰だ……?



 そして、また意識は暗転する。

後書き


作者:白銀
投稿日:2012/01/03 18:12
更新日:2012/01/03 18:12
『リオン Z.E.M』の著作権は、すべて作者 白銀様に属します。

目次 次の話

作品ID:932
「リオン Z.E.M」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS