作品ID:1010
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神算鬼謀と天下無双
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
第零話 嘘のような始まりが始まる
目次 | 次の話 |
第零話 嘘のような始まりが始まる
この状況を説明するにはどうすればいいと思う?
まず、第一に部屋で寝ていたのに原っぱで寝ていた。第二に……うわっ。
第二に、今、顔面を馬に舐められた。
それはもう、涎だらけの舌で文字通りベロリと。
第三に、その隣で大男が覗き込んでいる。
ここは、美女だろ!? 妖艶な美女を希望する!
俺は胸の大きさには拘らない! AAAでも俺は無問題だ! しかし、ある程度大きい事には越した事は無い!
出来れば場所はベッド! 見知らぬ部屋! 時間帯は深夜! そして、そこ横で妖しく光る唇をベロリと舐める舌。無論、彼女は全裸だ。
彼女はそっと裸体を俺に寄り添い――――。
「生きているか?」
大男の現実に引き戻す声。
はい、すいません。妄想終了。
「……はい。目を覚ましました」
目覚めの挨拶としては余り洒落たものでは無い。
大男は顔を起こすと、手を差し出した。起きろという事だろうが、手を差し出す辺り案外優しい。
原っぱで寝ていた青年。もとい、本城秀孝(ほんじょう ひでたか)は手を掴んで起き上がった。
「……えっと、ありがとうございます。ついでで申し訳ないですが、ここは何処でしょう?」
周囲を見渡しながら秀孝は尋ねる。原っぱの中心で寝ていたようだが、周りは森で囲まれている。空を見上げると、実にいい天気だ。
「……知らん。我もつい先程目を覚ました」
「そ、そうですか」
秀孝はそう言いながらも、大男を見つめる。
大きい。身長が二メートルはある。秀孝の身長が一七五センチなので、それより頭一つ飛び抜けている。
顔を見る限り、日本人ではなさそうだ。東アジア系のようだが、中国人か? 年齢は三十代……前半か?
だが、それよりも問題なのは、大男の格好だ。
「……よ、鎧? 本物?」
立派な鎧を着込んでいた。……見る限り恐らく環鎖鎧(かんさがい)。日本の『鎖帷子(くさりかたびら)』のようなもので、環にした鉄の鎖を綴ったものだ。非常に軽量だが、槍の穂先や矢では貫通できないほどの強度を誇る代物だ。ただ、鉄を針金状にして環にして結ぶというのは大変な技術を要したため、指揮官でも上位クラスの人間か、特別に選ばれた兵士のみが装備できたと考えられている。まぁ、レプリカであったとしても、結構作るのは大変な作業だ。
左腰には大きな大刀を下げ、右手には……恐らく戟だ。古代中国の武器で、時代と共に中途半端すぎて矛、即ち槍に取って代わられた武器だ。そして、背中には弓を背負っている。矢が見えない。周囲を探すと、馬の鞍の両脇に矢筒があり、無数の矢が見える。しかも、その馬にも馬鎧(ばがい)が装備されている。
……最近のコスプレは此処まで凝り性なのか?
「えっと……、どちら様でしょうか?」
「我か? 人に名を聞くときはまず自分が名乗るのが礼儀ではないのか?」
「……っと、これは失礼しました。俺は本城秀孝です」
「姓が本、名が城、字が秀孝か。名前もそうだが、珍妙な服だな」
「………………はい?」
思いもしなかった返答に秀孝は一瞬彫刻にでもなったように固まった。まぁ、服に到っては珍妙と言われても、人それぞれの感性があるので、何とも反論しづらい。
ちなみに本城秀孝は、黒っぽいジーパンに、無地の白Tシャツ、灰色のカッターシャツという……やっぱ変な格好だ。
「む? 違ったか?」
「姓が本城、名が秀孝。字っていうのはありませんけど……?」
秀孝が訂正しながらもう一度名乗るが、首を傾げた。字なんて、何時の時代だよ?
「そうか、失礼した。我は姓が呂、名は布、字は奉先だ」
「……………………へ、へぇ?。そういう設定なの? 随分……その……混ぜるな自然?」
「せってい……とは何だ?」
「え? だって、それは古代中国史の有名な武将でしょ? 俺は貴方の本名が知りたいのですが?」
「………………貴様。我を愚弄しているのか?」
秀孝の背中に悪寒が走った。今、この目の前の大男は本気で怒っている。それも、殺意を感じる程に……。
「いや、バカにしているのはそっちでしょう? 三国志の武将の名前を名乗って、はい、そうですか……って、納得できるわけないだろ!?」
「……三国志……とは何だ?」
「はぁ? 呂布名乗っているだから分かるだろ? 曹操、劉備、孫権の三国……」
「待て、曹操と劉備は知っている。だが、孫権とは誰……たしか……、袁術の食客ではなかったか? いや、それは……孫策かという小僧だったか? 江東を瞬く間に切り取った面白い奴だった。その縁者か?」
「……………………」
秀孝の頭は呂布の年表を出していた。
この大男の言動。確かに合っている。孫策を知っていて、孫権を知らない。それもそうだ。確か、孫策が江東を切り取り制圧したのは一九七年。呂布が下ヒ城で死んだのは一九八年の事だ。
「…………答え難かったら答えなくてもいい」
秀孝はあらかじめ一言、断った。
「呂奉先。五原郡九原県出身。最初、丁原の配下となり、養子になるも、その丁原を裏切って殺害。董卓に仕える。ここで、董卓の養子になるけど、王允の誘いに乗り、今度は董卓を殺害。その後、中原を彷徨う。曹操と争うも散々に打ち破られ続けて、一九八年、建安三年……だったか、下ヒ城で今度は自分自身が部下に裏切られて、曹操軍に破れ処刑される」
「………………」
大男は口では答えなかった。態度での回答だった。彼の回答は戟という武器で秀孝の首筋を押さえるというものだった。
「……ひょっとして、大当たり?」
「……だとしたらどうする? 貴様も俺を殺したいか?」
「殺す理由も無ければ、貴方と敵対する理由も無い。ただ、確かめたかった」
「何を確かめる?」
「俺が今尋常ならざる状況にいるという確認」
「どういう意味だ? 分かるように答えろ。その細首が胴から永遠に離れるぞ」
「……ふむ。俺自身が現在の状況が分からない事だらけなんだけど……」
秀孝が地面に座り込むと、自称呂布も地面に座った。
「俺、今一九八年に死んだ。と、言ったよね? それって、ユリユス歴での年なんだ。そっちに分かるように言えば……建安三年か」
「それで?」
「俺が生まれたのはそれから二千年近く後」
流石に驚いたのか、武器やゆっくりと首から離れた。
「…………ん? どういう意味だ?」
「その……言葉通り。貴方が死んでから二千年近く経過してから俺、生まれている。だから、俺は貴方を知っている。貴方に関わった大体を知っている。史書の記述によってね」
「……つまり、俺は二千年後に生まれた男と会話をしているという事か?」
「例えるならば、もし、呂奉先が、目の前に立っている男が、漢の初代、劉邦だと名乗ったら、それを信じる?」
「信じないな」
「そうだね。そして、俺が今その立場」
「………………では、二千年も後に生まれた……本城だったか。お前に尋ねる」
「答えられる事なら」
「我が死んだ後、どうなった?」
「…………知りたいのか?」
秀孝は躊躇した。本当に伝えても良いのか……と。
「どのような残酷な事でも構わん。一番残酷な事は既に、体験している」
「それはどのような? 答えたくなければ……」
「妻、厳氏が目の前で息を引き取った時だ」
秀孝が恐る恐る尋ねた事を呂布ははっきり答えた。それは後悔と苦悩が入り混じった、しかし、他に答えようが無い回答だった。
「じゃ、ゆっくりと話そうか……」
秀孝は地面に座った。呂布も座り、両者は対面した。
ゆっくりと、解説を交えて秀孝は語り始めた。
呂布が処刑された後、陳宮、高順という重臣が処刑された事。
一人、張遼は生き残り曹操の説得に答え、魏の特に活躍した五将軍筆頭に数えられた事。
曹操の覇道とその結末。
劉備の大徳とその結末。
孫権の治国とその結末。
そして、三国の滅亡と新王朝である晋の誕生とその滅亡。
八王の乱と五胡十六国時代という新たな乱世の勃発。
途中、幾つか質問にも答えた。
娘の結末を尋ねられたが、史書にはその存在が記載されているだけで、その後どうなったか不明である事。
呂布と武勇を競った英雄、関羽と張飛の活躍とその死。
途中、呂布は涙を溢した。その涙は顔と共に手で覆い隠され、見えなかった。時々地面に拳を叩き付け、怒りとも、哀しみとも秀孝にはその胸中は分からなかった。
ただ、当時の人々と直に会い、言葉を交わし、武を交わし、覇を争った人物のその死というのは、たとえ、それが自分を殺した男であっても悲しいものなのだろうか? 事実、曹操が病によって死んだ事を話した時、ただ一言、とても悲しそうな声で『……そうか』と呟いたのが、秀孝の印象に残った。
一通り話し終えた所で、秀孝は大きく息を吐いた。
「まぁ、だいたい呂布という人物の死から二百年ぐらい後の事を話したけど……」
呂布は暫く呆然としていたが、主人の様子が心配になったのか、大きな馬が甘えるように呂布に顔を摺り寄せた。呂布はただ、その首筋を黙って撫でた。
「本城、一つ答えて欲しい」
「何でしょう?」
「……我は鎖が首を絞めた感覚が今だに残っている。確かに、我は死んだ筈だ。何故、生きている?」
「…………知らんがな」
素の回答だった。
「……分からんか?」
「そもそも、ここ何処だよ? 俺は今、最高に混沌の只中にいるよ? 部屋で寝ていたのに原っぱに居るわ、馬に顔面舐められるわ、呂布という古代の武将が生きて目の前にいる。これをどう理解すればいい?」
「…………えと、知らんがな?」
いや、疑問系で返されても。
「……一応聞くけど、この馬は?」
「ん? これは我が愛馬、赤兎馬だ」
「……そうですか」
現在の状況を整理する。部屋で寝ていたのに原っぱで馬に顔面を舐められて起きた。呂布と名乗る……たぶん本物が目の前にいる。馬とセットで。
……シュールだ。
「とりあえず……移動します? このまま此処で論議を重ねても、答えが出そうに無い」
そこまで言った所で、秀孝は何かに気付いたように考えた。
「……所で、俺は貴方を何と呼べば良いんでしょう? 呂将軍? 呂奉先?」
呂布は少し空を見上げた。考えているのだろうか? 表情は変わらないので、良く分からない。
「呂布で良い。我はお前を秀孝と呼ぶ」
「……一気にフランクになったな」
「ふらんく?」
「あ……えっと……気軽な仲になったという事。ま、これから友人として、この訳の分からない状況を打破する仲間として、一つ宜しく」
「友……か」
「あれ? 嫌でした?」
「そうではない。我を知りながら、友と呼ぶか」
「……俺は民主主義の国で生まれたんでね。事実、民主主義信奉者だと俺は思っている」
「みんしゅ……なに?」
「俺には立派な主君は要らない。優秀な家臣も要らない。ただ、誰にとっても良い友で、良い友が欲しい。だから、友だ」
「そうか・……俺は良き友では無いかもしれないぞ?」
「それでも、呂布にとって、良き友であって欲しいけど?」
その回答に満足したのか、呂布は笑った。釣られて秀孝も笑った。
「さて、いつまでも此処でだらだら会話をしていても仕方が無い。街がどこかにあるはずだ。まさか、無人じゃないだろ。…………そうであって欲しいけど……」
「では、前にとりあえず、進むか」
二人と馬一頭は、ゆっくりとまずは森を抜けて街を探す為に歩き始めた。
この状況を説明するにはどうすればいいと思う?
まず、第一に部屋で寝ていたのに原っぱで寝ていた。第二に……うわっ。
第二に、今、顔面を馬に舐められた。
それはもう、涎だらけの舌で文字通りベロリと。
第三に、その隣で大男が覗き込んでいる。
ここは、美女だろ!? 妖艶な美女を希望する!
俺は胸の大きさには拘らない! AAAでも俺は無問題だ! しかし、ある程度大きい事には越した事は無い!
出来れば場所はベッド! 見知らぬ部屋! 時間帯は深夜! そして、そこ横で妖しく光る唇をベロリと舐める舌。無論、彼女は全裸だ。
彼女はそっと裸体を俺に寄り添い――――。
「生きているか?」
大男の現実に引き戻す声。
はい、すいません。妄想終了。
「……はい。目を覚ましました」
目覚めの挨拶としては余り洒落たものでは無い。
大男は顔を起こすと、手を差し出した。起きろという事だろうが、手を差し出す辺り案外優しい。
原っぱで寝ていた青年。もとい、本城秀孝(ほんじょう ひでたか)は手を掴んで起き上がった。
「……えっと、ありがとうございます。ついでで申し訳ないですが、ここは何処でしょう?」
周囲を見渡しながら秀孝は尋ねる。原っぱの中心で寝ていたようだが、周りは森で囲まれている。空を見上げると、実にいい天気だ。
「……知らん。我もつい先程目を覚ました」
「そ、そうですか」
秀孝はそう言いながらも、大男を見つめる。
大きい。身長が二メートルはある。秀孝の身長が一七五センチなので、それより頭一つ飛び抜けている。
顔を見る限り、日本人ではなさそうだ。東アジア系のようだが、中国人か? 年齢は三十代……前半か?
だが、それよりも問題なのは、大男の格好だ。
「……よ、鎧? 本物?」
立派な鎧を着込んでいた。……見る限り恐らく環鎖鎧(かんさがい)。日本の『鎖帷子(くさりかたびら)』のようなもので、環にした鉄の鎖を綴ったものだ。非常に軽量だが、槍の穂先や矢では貫通できないほどの強度を誇る代物だ。ただ、鉄を針金状にして環にして結ぶというのは大変な技術を要したため、指揮官でも上位クラスの人間か、特別に選ばれた兵士のみが装備できたと考えられている。まぁ、レプリカであったとしても、結構作るのは大変な作業だ。
左腰には大きな大刀を下げ、右手には……恐らく戟だ。古代中国の武器で、時代と共に中途半端すぎて矛、即ち槍に取って代わられた武器だ。そして、背中には弓を背負っている。矢が見えない。周囲を探すと、馬の鞍の両脇に矢筒があり、無数の矢が見える。しかも、その馬にも馬鎧(ばがい)が装備されている。
……最近のコスプレは此処まで凝り性なのか?
「えっと……、どちら様でしょうか?」
「我か? 人に名を聞くときはまず自分が名乗るのが礼儀ではないのか?」
「……っと、これは失礼しました。俺は本城秀孝です」
「姓が本、名が城、字が秀孝か。名前もそうだが、珍妙な服だな」
「………………はい?」
思いもしなかった返答に秀孝は一瞬彫刻にでもなったように固まった。まぁ、服に到っては珍妙と言われても、人それぞれの感性があるので、何とも反論しづらい。
ちなみに本城秀孝は、黒っぽいジーパンに、無地の白Tシャツ、灰色のカッターシャツという……やっぱ変な格好だ。
「む? 違ったか?」
「姓が本城、名が秀孝。字っていうのはありませんけど……?」
秀孝が訂正しながらもう一度名乗るが、首を傾げた。字なんて、何時の時代だよ?
「そうか、失礼した。我は姓が呂、名は布、字は奉先だ」
「……………………へ、へぇ?。そういう設定なの? 随分……その……混ぜるな自然?」
「せってい……とは何だ?」
「え? だって、それは古代中国史の有名な武将でしょ? 俺は貴方の本名が知りたいのですが?」
「………………貴様。我を愚弄しているのか?」
秀孝の背中に悪寒が走った。今、この目の前の大男は本気で怒っている。それも、殺意を感じる程に……。
「いや、バカにしているのはそっちでしょう? 三国志の武将の名前を名乗って、はい、そうですか……って、納得できるわけないだろ!?」
「……三国志……とは何だ?」
「はぁ? 呂布名乗っているだから分かるだろ? 曹操、劉備、孫権の三国……」
「待て、曹操と劉備は知っている。だが、孫権とは誰……たしか……、袁術の食客ではなかったか? いや、それは……孫策かという小僧だったか? 江東を瞬く間に切り取った面白い奴だった。その縁者か?」
「……………………」
秀孝の頭は呂布の年表を出していた。
この大男の言動。確かに合っている。孫策を知っていて、孫権を知らない。それもそうだ。確か、孫策が江東を切り取り制圧したのは一九七年。呂布が下ヒ城で死んだのは一九八年の事だ。
「…………答え難かったら答えなくてもいい」
秀孝はあらかじめ一言、断った。
「呂奉先。五原郡九原県出身。最初、丁原の配下となり、養子になるも、その丁原を裏切って殺害。董卓に仕える。ここで、董卓の養子になるけど、王允の誘いに乗り、今度は董卓を殺害。その後、中原を彷徨う。曹操と争うも散々に打ち破られ続けて、一九八年、建安三年……だったか、下ヒ城で今度は自分自身が部下に裏切られて、曹操軍に破れ処刑される」
「………………」
大男は口では答えなかった。態度での回答だった。彼の回答は戟という武器で秀孝の首筋を押さえるというものだった。
「……ひょっとして、大当たり?」
「……だとしたらどうする? 貴様も俺を殺したいか?」
「殺す理由も無ければ、貴方と敵対する理由も無い。ただ、確かめたかった」
「何を確かめる?」
「俺が今尋常ならざる状況にいるという確認」
「どういう意味だ? 分かるように答えろ。その細首が胴から永遠に離れるぞ」
「……ふむ。俺自身が現在の状況が分からない事だらけなんだけど……」
秀孝が地面に座り込むと、自称呂布も地面に座った。
「俺、今一九八年に死んだ。と、言ったよね? それって、ユリユス歴での年なんだ。そっちに分かるように言えば……建安三年か」
「それで?」
「俺が生まれたのはそれから二千年近く後」
流石に驚いたのか、武器やゆっくりと首から離れた。
「…………ん? どういう意味だ?」
「その……言葉通り。貴方が死んでから二千年近く経過してから俺、生まれている。だから、俺は貴方を知っている。貴方に関わった大体を知っている。史書の記述によってね」
「……つまり、俺は二千年後に生まれた男と会話をしているという事か?」
「例えるならば、もし、呂奉先が、目の前に立っている男が、漢の初代、劉邦だと名乗ったら、それを信じる?」
「信じないな」
「そうだね。そして、俺が今その立場」
「………………では、二千年も後に生まれた……本城だったか。お前に尋ねる」
「答えられる事なら」
「我が死んだ後、どうなった?」
「…………知りたいのか?」
秀孝は躊躇した。本当に伝えても良いのか……と。
「どのような残酷な事でも構わん。一番残酷な事は既に、体験している」
「それはどのような? 答えたくなければ……」
「妻、厳氏が目の前で息を引き取った時だ」
秀孝が恐る恐る尋ねた事を呂布ははっきり答えた。それは後悔と苦悩が入り混じった、しかし、他に答えようが無い回答だった。
「じゃ、ゆっくりと話そうか……」
秀孝は地面に座った。呂布も座り、両者は対面した。
ゆっくりと、解説を交えて秀孝は語り始めた。
呂布が処刑された後、陳宮、高順という重臣が処刑された事。
一人、張遼は生き残り曹操の説得に答え、魏の特に活躍した五将軍筆頭に数えられた事。
曹操の覇道とその結末。
劉備の大徳とその結末。
孫権の治国とその結末。
そして、三国の滅亡と新王朝である晋の誕生とその滅亡。
八王の乱と五胡十六国時代という新たな乱世の勃発。
途中、幾つか質問にも答えた。
娘の結末を尋ねられたが、史書にはその存在が記載されているだけで、その後どうなったか不明である事。
呂布と武勇を競った英雄、関羽と張飛の活躍とその死。
途中、呂布は涙を溢した。その涙は顔と共に手で覆い隠され、見えなかった。時々地面に拳を叩き付け、怒りとも、哀しみとも秀孝にはその胸中は分からなかった。
ただ、当時の人々と直に会い、言葉を交わし、武を交わし、覇を争った人物のその死というのは、たとえ、それが自分を殺した男であっても悲しいものなのだろうか? 事実、曹操が病によって死んだ事を話した時、ただ一言、とても悲しそうな声で『……そうか』と呟いたのが、秀孝の印象に残った。
一通り話し終えた所で、秀孝は大きく息を吐いた。
「まぁ、だいたい呂布という人物の死から二百年ぐらい後の事を話したけど……」
呂布は暫く呆然としていたが、主人の様子が心配になったのか、大きな馬が甘えるように呂布に顔を摺り寄せた。呂布はただ、その首筋を黙って撫でた。
「本城、一つ答えて欲しい」
「何でしょう?」
「……我は鎖が首を絞めた感覚が今だに残っている。確かに、我は死んだ筈だ。何故、生きている?」
「…………知らんがな」
素の回答だった。
「……分からんか?」
「そもそも、ここ何処だよ? 俺は今、最高に混沌の只中にいるよ? 部屋で寝ていたのに原っぱに居るわ、馬に顔面舐められるわ、呂布という古代の武将が生きて目の前にいる。これをどう理解すればいい?」
「…………えと、知らんがな?」
いや、疑問系で返されても。
「……一応聞くけど、この馬は?」
「ん? これは我が愛馬、赤兎馬だ」
「……そうですか」
現在の状況を整理する。部屋で寝ていたのに原っぱで馬に顔面を舐められて起きた。呂布と名乗る……たぶん本物が目の前にいる。馬とセットで。
……シュールだ。
「とりあえず……移動します? このまま此処で論議を重ねても、答えが出そうに無い」
そこまで言った所で、秀孝は何かに気付いたように考えた。
「……所で、俺は貴方を何と呼べば良いんでしょう? 呂将軍? 呂奉先?」
呂布は少し空を見上げた。考えているのだろうか? 表情は変わらないので、良く分からない。
「呂布で良い。我はお前を秀孝と呼ぶ」
「……一気にフランクになったな」
「ふらんく?」
「あ……えっと……気軽な仲になったという事。ま、これから友人として、この訳の分からない状況を打破する仲間として、一つ宜しく」
「友……か」
「あれ? 嫌でした?」
「そうではない。我を知りながら、友と呼ぶか」
「……俺は民主主義の国で生まれたんでね。事実、民主主義信奉者だと俺は思っている」
「みんしゅ……なに?」
「俺には立派な主君は要らない。優秀な家臣も要らない。ただ、誰にとっても良い友で、良い友が欲しい。だから、友だ」
「そうか・……俺は良き友では無いかもしれないぞ?」
「それでも、呂布にとって、良き友であって欲しいけど?」
その回答に満足したのか、呂布は笑った。釣られて秀孝も笑った。
「さて、いつまでも此処でだらだら会話をしていても仕方が無い。街がどこかにあるはずだ。まさか、無人じゃないだろ。…………そうであって欲しいけど……」
「では、前にとりあえず、進むか」
二人と馬一頭は、ゆっくりとまずは森を抜けて街を探す為に歩き始めた。
後書き
作者:そえ |
投稿日:2012/06/07 04:51 更新日:2012/08/21 13:51 『神算鬼謀と天下無双』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。 |
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