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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
にんぎょひめ ――――番外「不器用な子ども達」
前の話 | 目次 | 次の話 |
――――おやおや。又、来ているみたいだね。ストレスの原因を傍に置いておくのもいただけない。さて、どうしたもんか……。
先日救急搬送されて来た患者の担当医は、内心で頭を悩ませた。彼が今受け持つ患者は、他人に酷く気を配る。そして、見舞いに訪れるある男性に哀しげな瞳の彩を隠し切れていない様子だ。
相手の男性は気付いていないようだし、他のスタッフ達も恐らく気に留めてもいないだろう。けれど、亀の甲より年の功とは言ったもので。
それなりに修羅場をくぐった老齢医師(若干、その呼ばれ方は不本意ではあるが…………)の眼を侮るなかれ。担当医として部屋を訪れる間に見舞い相手が楽しそうに話すことには、男性は患者の旧知の友人で、しかも妹の婚約者なのだそうだ。
患者の妹と男性は来月末に挙式の予定で、妹は花嫁支度に追われて患者の部屋に訪れることが中々出来ない。
だから、代わりに。だから、代わりに訪れているのだと。見舞い相手は朗らかに笑っていたけれど……。正直、主治医としてこの状況はちょっといただけない。
慣れない入院生活と検査尽くしの日々で。只でさえ疲労しているだろう患者に、出来ればこれ以上精神的な負荷を与えたくはない。
落ち着いてきたと伝えたとはいえ、あくまでも搬送当初からはという話である。患者にもろに心因的負荷を与えるような、友人異性の毎日の面会はご遠慮願いたい。
が、患者の周囲の人間は、遠回しに伝えても伝わらないタイプらしい。はてさてどうしたものか……。
いっそのこと、「主治医の判断により面会謝絶」の指示でも出して、部屋にも札を掛けてやろうか……。少々物騒な考えは、室内から聞こえた声にストップした。
「『あ、先輩!』 じゃない!! おまえね、病院内で大きな声出してくれるな。それと、何度も言うけど救急搬送されてきて間もない患者の部屋に居座るな! 落ち着いてるとは言え、車椅子での移動と点滴の外れてない状態だぞ?」
響いた声は、この病院の小児科病棟に勤務する新米ドクターのもの。ふむ、と手を掛けかけた扉、様子を探る。
「そう言われても、俺も彼女から様子見を頼まれてますし……」
返された声は見舞い相手の男性のものだ。う~ん、言ってることは多少は解るんだが……。もう少し、患者の方にも気を配ってやってほしい。そんな己の内心を代弁するかのように。今度は、言い聞かせるような言葉が続く。
「……森村、気持ちは解るけど、検査尽くめの毎日と慣れない入院生活の中で、患者の方が参ってしまえば意味がないだろ?」
「それはそうですけど、気を紛らわせる意味でのお見舞いも兼ねてるんですよ?」
気を紛らわせると言ってもなぁ……。正直、君が来るのは、患者の精神状態と回復に悪影響を及ぼす心配があるんだが……。大体、君は妹の婚約者であって、君の家族ではないんだ。
思わず顔を顰めていたが、まるで外の自分の様子を見透かしたかのように、室内の声が続けた。
「あのな、病気でベッドの上から身動きとれない状態でパジャマ姿のところを、家族でもない男に入り浸られて、年頃の女の子が気にしないと思うか?」
――――うん!! よく言ったぞ!! 偉い!! 思わず拍手喝采を送りそうになったが、病棟であることを思い出して、内心で褒めちぎるに留めた。いや、しかし、よくぞ言ってくれた。
「ごめん! そういうとこまでは気がまわらなかった!!」
「ううん、気にしないで? でも、森村君だって忙しい時なんだし、そう毎日顔を出してくれなくても大丈夫」
見舞い相手の言葉をフォローする患者の言葉は、それでも安堵を漂わせている。うん、この分なら、ほとんど乱用に近い職権発動を回避できそうだ。が、室内で続いた会話に。うっかり声を出して笑ってしまいそうになった。
「気分とかはどうかな? 調子悪いときは、ちゃんと看護師さんや主治医に伝えられてる?」
「大丈夫ですよ。みなさん、とても良くして下さいますし」
う~ん、職業病なのだろうか。天然なのだろうか。どちらだ? ここは小児科病棟ではないぞ~? そうは思ったが。まぁ、患者は気にしていないようだし、患者がいいのなら問題ないだろう。
――――掛ける声が優しいことに、小児科病棟のアイドルドクターは気付いているだろうか?
そんな声の違いに気付いてか。見舞い相手が不満の声を上げる。
「……俺への態度と随分違いません? 先輩の出入りも結構な方だと思うんですけど」
「白衣の僕が病棟歩いてて何か問題があるとでも? おまえ、僕の職業と職場を知らないわけじゃないよな?」
……いや、問題はそこではない!! 多少乱暴な職権発動を考えかけた己に言えることでもないが……。君の病棟はここではないぞ~?
よく考えなくたって、彼だって家族以外の異性なのだ。まぁ、仕事が仕事だ。患者がパジャマ姿なのは、半分当然なのだけれど、あくまでそれは勤務病棟の話のはずだ。
室内からは見舞い相手が退去の準備を整えているのだろう音が聞こえる。部屋を出る直前、掛けられた台詞に。子どもに絶大な人気を誇る若手の噛みつくような言葉が重なった。
――――う~ん? これは、ひょっとして……?
既に、部屋から少々距離を取り、詰め所のカウンターに背を預けていた私に。カウンターの内側、詰め所の中から怪訝な声が掛けられる。
「……あの、先生? どうされました?」
「あぁ、いや、特には……。そうだ、武原さん? 確か、小児科病棟の小牧さんは、小児科ナースの裏を仕切ってると聞いたことがあるんですがね……」
「はい? あ~、姐御肌の方ですからねぇ……。それが何か?」
訝しげに返す、この病棟の若手ナース。確か、今、部屋で叫び声を上げていた彼と同年代だったと覚えている。
「……武原さん、小児科病棟の若きアイドルの青春になんて……興味ありませんか?」
私の言葉に若干驚いていたようだが……。彼は悪戯っぽく笑った。
「……いいですね! ノリのよさそうな人間、声掛けときましょう」
「お願いしますよ。う~ん、暫く退屈せずに済みそうですねぇ……」
――――まぁ、周囲からの温かい声援だと。思ってくれるのかどうかは知らないが、取り合えず。酒の肴に当分困らずに済みそうである……。
不器用な子ども達に幸あれ!!
先日救急搬送されて来た患者の担当医は、内心で頭を悩ませた。彼が今受け持つ患者は、他人に酷く気を配る。そして、見舞いに訪れるある男性に哀しげな瞳の彩を隠し切れていない様子だ。
相手の男性は気付いていないようだし、他のスタッフ達も恐らく気に留めてもいないだろう。けれど、亀の甲より年の功とは言ったもので。
それなりに修羅場をくぐった老齢医師(若干、その呼ばれ方は不本意ではあるが…………)の眼を侮るなかれ。担当医として部屋を訪れる間に見舞い相手が楽しそうに話すことには、男性は患者の旧知の友人で、しかも妹の婚約者なのだそうだ。
患者の妹と男性は来月末に挙式の予定で、妹は花嫁支度に追われて患者の部屋に訪れることが中々出来ない。
だから、代わりに。だから、代わりに訪れているのだと。見舞い相手は朗らかに笑っていたけれど……。正直、主治医としてこの状況はちょっといただけない。
慣れない入院生活と検査尽くしの日々で。只でさえ疲労しているだろう患者に、出来ればこれ以上精神的な負荷を与えたくはない。
落ち着いてきたと伝えたとはいえ、あくまでも搬送当初からはという話である。患者にもろに心因的負荷を与えるような、友人異性の毎日の面会はご遠慮願いたい。
が、患者の周囲の人間は、遠回しに伝えても伝わらないタイプらしい。はてさてどうしたものか……。
いっそのこと、「主治医の判断により面会謝絶」の指示でも出して、部屋にも札を掛けてやろうか……。少々物騒な考えは、室内から聞こえた声にストップした。
「『あ、先輩!』 じゃない!! おまえね、病院内で大きな声出してくれるな。それと、何度も言うけど救急搬送されてきて間もない患者の部屋に居座るな! 落ち着いてるとは言え、車椅子での移動と点滴の外れてない状態だぞ?」
響いた声は、この病院の小児科病棟に勤務する新米ドクターのもの。ふむ、と手を掛けかけた扉、様子を探る。
「そう言われても、俺も彼女から様子見を頼まれてますし……」
返された声は見舞い相手の男性のものだ。う~ん、言ってることは多少は解るんだが……。もう少し、患者の方にも気を配ってやってほしい。そんな己の内心を代弁するかのように。今度は、言い聞かせるような言葉が続く。
「……森村、気持ちは解るけど、検査尽くめの毎日と慣れない入院生活の中で、患者の方が参ってしまえば意味がないだろ?」
「それはそうですけど、気を紛らわせる意味でのお見舞いも兼ねてるんですよ?」
気を紛らわせると言ってもなぁ……。正直、君が来るのは、患者の精神状態と回復に悪影響を及ぼす心配があるんだが……。大体、君は妹の婚約者であって、君の家族ではないんだ。
思わず顔を顰めていたが、まるで外の自分の様子を見透かしたかのように、室内の声が続けた。
「あのな、病気でベッドの上から身動きとれない状態でパジャマ姿のところを、家族でもない男に入り浸られて、年頃の女の子が気にしないと思うか?」
――――うん!! よく言ったぞ!! 偉い!! 思わず拍手喝采を送りそうになったが、病棟であることを思い出して、内心で褒めちぎるに留めた。いや、しかし、よくぞ言ってくれた。
「ごめん! そういうとこまでは気がまわらなかった!!」
「ううん、気にしないで? でも、森村君だって忙しい時なんだし、そう毎日顔を出してくれなくても大丈夫」
見舞い相手の言葉をフォローする患者の言葉は、それでも安堵を漂わせている。うん、この分なら、ほとんど乱用に近い職権発動を回避できそうだ。が、室内で続いた会話に。うっかり声を出して笑ってしまいそうになった。
「気分とかはどうかな? 調子悪いときは、ちゃんと看護師さんや主治医に伝えられてる?」
「大丈夫ですよ。みなさん、とても良くして下さいますし」
う~ん、職業病なのだろうか。天然なのだろうか。どちらだ? ここは小児科病棟ではないぞ~? そうは思ったが。まぁ、患者は気にしていないようだし、患者がいいのなら問題ないだろう。
――――掛ける声が優しいことに、小児科病棟のアイドルドクターは気付いているだろうか?
そんな声の違いに気付いてか。見舞い相手が不満の声を上げる。
「……俺への態度と随分違いません? 先輩の出入りも結構な方だと思うんですけど」
「白衣の僕が病棟歩いてて何か問題があるとでも? おまえ、僕の職業と職場を知らないわけじゃないよな?」
……いや、問題はそこではない!! 多少乱暴な職権発動を考えかけた己に言えることでもないが……。君の病棟はここではないぞ~?
よく考えなくたって、彼だって家族以外の異性なのだ。まぁ、仕事が仕事だ。患者がパジャマ姿なのは、半分当然なのだけれど、あくまでそれは勤務病棟の話のはずだ。
室内からは見舞い相手が退去の準備を整えているのだろう音が聞こえる。部屋を出る直前、掛けられた台詞に。子どもに絶大な人気を誇る若手の噛みつくような言葉が重なった。
――――う~ん? これは、ひょっとして……?
既に、部屋から少々距離を取り、詰め所のカウンターに背を預けていた私に。カウンターの内側、詰め所の中から怪訝な声が掛けられる。
「……あの、先生? どうされました?」
「あぁ、いや、特には……。そうだ、武原さん? 確か、小児科病棟の小牧さんは、小児科ナースの裏を仕切ってると聞いたことがあるんですがね……」
「はい? あ~、姐御肌の方ですからねぇ……。それが何か?」
訝しげに返す、この病棟の若手ナース。確か、今、部屋で叫び声を上げていた彼と同年代だったと覚えている。
「……武原さん、小児科病棟の若きアイドルの青春になんて……興味ありませんか?」
私の言葉に若干驚いていたようだが……。彼は悪戯っぽく笑った。
「……いいですね! ノリのよさそうな人間、声掛けときましょう」
「お願いしますよ。う~ん、暫く退屈せずに済みそうですねぇ……」
――――まぁ、周囲からの温かい声援だと。思ってくれるのかどうかは知らないが、取り合えず。酒の肴に当分困らずに済みそうである……。
不器用な子ども達に幸あれ!!
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2015/12/22 19:28 更新日:2015/12/22 19:28 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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