作品ID:1690
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「人魚姫のお伽話」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(56)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(229)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「ちょっとした悪戯」
前の話 | 目次 | 次の話 |
初夏の薫りが漂い始める五月中旬。四月のいざこざから数えて数回目のデートで、優卵が持ち出した紙袋に、貴悠はキョトンとしたが、優卵は控えめに微笑んだ。
「……リングのお礼と言っては何なんですけれど、受け取って頂けません?」
「へ?」
貴悠の不思議そうな声には構わず、優卵は持ち出した紙袋から、小箱を取り出して、貴悠の方へと押し付けるような形で向ける。
「え、何?」
「開けて頂ければ解りますから」
優卵の言葉で、貴悠は小箱を開ける。中には、少々、値の張りそうな腕時計が一つ。若干可愛らしい作りではあるものの、きちんと男性用に選ばれたもの。
優卵は不安げに貴悠を見上げながら、貴悠の様子を伺っている。小箱の中から腕時計を取り出して、貴悠は歓声を上げた。
「うわ、ブランド物? 高かったでしょ、これ…………」
「少しだけ頑張りましたけど、もしも貴悠せんせが受け取ってくださるなら、嬉しいです。駄目なら、仕方ないですけど……」
付け加えられた一言が、いかにも優卵らしくて、貴悠は苦笑する。
「や、凄い嬉しいけど、お財布、大丈夫だったの? それに、理由もないのに」
「理由は有ります。リングのお返しって言ったじゃないですか」
優卵の膨れっ面に、貴悠は笑う。
「いや、あれ、押し付けたに近いし…………」
「じゃ、私からの押し付けも受け取ってくださいません?」
優卵の理屈に、貴悠には苦笑いしか出てこない……。
「お財布、ほんとに大丈夫?」
「…………いいんです。これにしたかったの、私だから」
小さく呟かれた言葉に、貴悠は不思議顔を浮かべながら、恋人からの贈り物を笑顔で受け取った。
「ありがと」
「……んと…………」
素直に出た感謝の言葉に対する優卵の返答が、何故かどこか歯切れが悪かったのは、貴悠の疑問には残らなかった……。
「あら? センセ、時計、変えられました? …………これ、センセの趣味じゃないですよね?」
病棟看護師長の的確な指摘に、貴悠は、ああ、と気付く。貴悠がこれまで身に着けていたのは、実用性だけ重視のどこにでもあるもの。
それがいきなりデザインと実用性を兼ね備えたブランド物へと変化していれば、流石に気付かれるものか、と。
「ええと………」
しかし、馬鹿正直に恋人からの、長谷川優卵からのものだと言ってしまえば、とことん揶揄られると解っていて、答える気にもなれない。
けれど、明らかに今までと違うものを身に着け出せば、他の部分が変わっていない以上、誤魔化しも難しい。
「いえ、仰らなくていいですよ? 長谷川さんからなんですね、ご馳走様です」
「へ?」
貴悠の内心をまるで読み取ったかのように、スラッと恋人の名前を出されて、貴悠は面食らった。病棟看護師長は、何故か非常に生温かな視線で貴悠を見る。
「……まぁ、そうなんですけど…………。なんで、小牧さんがお分かりに?」
「…………それは黙秘させて頂いときましょうね。彼女が可哀想ですし」
貴悠には解らない言葉を残して、病棟看護師長はシラッとすっとぼけて、仕事の顔へと切り替えた。
「あ、仁科せんせ、休憩も終わりですよ?」
「あ、はい!!」
「うちのアイドル、全く気付いとらん辺り、相手のお嬢さんも考えましたね」
「いやぁ、気付いてないの、本人だけでしょう?」
詰め所内で交わされる会話に、小牧は溜め息を吐く。
「先生方? くれぐれも仰ったりなさらないで下さいね? 相手のお嬢さんの気持ちを考えてあげてくださいな。絶対に教えちゃ駄目ですからね。
ただでさえ、騙し討ちと言えど、こないだ見合いをされたばかりで、女性だらけの仕事場ですよ? 彼女が牽制かけたくなるのも仕方ないかと……」
小牧の言葉に、詰め所内のドクター達が笑う。
「まぁ、確かに?」
「小児病棟だけならともかく、この病院じゃ、確実にモテる部類の男性ですしな」
小牧は苦笑い。
「病院内を出入りしてるんです。当然、向けられてる視線ぐらいには、気付く敏いお嬢さんですよ? この程度の可愛いものなら、見逃してあげるのが筋でしょう」
「あれ、仁科先生? 時計、変えられまし…………や、何でもないです。長谷川さんからなんですね」
「へ? なんで、武原さんまで?」
武原正登の台詞に、貴悠は、はてなマークをはっきりと表情に出したのだが、友人看護師はそれ以上は口を割らない。
「……なんだ?」
貴悠の呟きに、返る返事はない。
――――貴悠が着けるブランド物の腕時計、恋人持ちの女性や既婚男性には定着のあるブランドであることも、貴悠は気付かないだろうと優卵が踏んでいたことも、そして……。
実は知らないところでペアルックにされていることも、貴悠は全く知らない。つまり、カップル用、既婚男女用のペアウオッチであることを…………。
「……譲りたくないものは譲っちゃ駄目だと言ったの、そっちですもん。鈍い貴悠せんせはともかく、周囲の職場の方達なら、きっと気付いてくださるでしょ?」
――――思惑はきちんと功を成していて、貴悠狙いだった女性職員達や女性患者達は、変わった腕時計に正しく意味を見つけていた…………。
「……リングのお礼と言っては何なんですけれど、受け取って頂けません?」
「へ?」
貴悠の不思議そうな声には構わず、優卵は持ち出した紙袋から、小箱を取り出して、貴悠の方へと押し付けるような形で向ける。
「え、何?」
「開けて頂ければ解りますから」
優卵の言葉で、貴悠は小箱を開ける。中には、少々、値の張りそうな腕時計が一つ。若干可愛らしい作りではあるものの、きちんと男性用に選ばれたもの。
優卵は不安げに貴悠を見上げながら、貴悠の様子を伺っている。小箱の中から腕時計を取り出して、貴悠は歓声を上げた。
「うわ、ブランド物? 高かったでしょ、これ…………」
「少しだけ頑張りましたけど、もしも貴悠せんせが受け取ってくださるなら、嬉しいです。駄目なら、仕方ないですけど……」
付け加えられた一言が、いかにも優卵らしくて、貴悠は苦笑する。
「や、凄い嬉しいけど、お財布、大丈夫だったの? それに、理由もないのに」
「理由は有ります。リングのお返しって言ったじゃないですか」
優卵の膨れっ面に、貴悠は笑う。
「いや、あれ、押し付けたに近いし…………」
「じゃ、私からの押し付けも受け取ってくださいません?」
優卵の理屈に、貴悠には苦笑いしか出てこない……。
「お財布、ほんとに大丈夫?」
「…………いいんです。これにしたかったの、私だから」
小さく呟かれた言葉に、貴悠は不思議顔を浮かべながら、恋人からの贈り物を笑顔で受け取った。
「ありがと」
「……んと…………」
素直に出た感謝の言葉に対する優卵の返答が、何故かどこか歯切れが悪かったのは、貴悠の疑問には残らなかった……。
「あら? センセ、時計、変えられました? …………これ、センセの趣味じゃないですよね?」
病棟看護師長の的確な指摘に、貴悠は、ああ、と気付く。貴悠がこれまで身に着けていたのは、実用性だけ重視のどこにでもあるもの。
それがいきなりデザインと実用性を兼ね備えたブランド物へと変化していれば、流石に気付かれるものか、と。
「ええと………」
しかし、馬鹿正直に恋人からの、長谷川優卵からのものだと言ってしまえば、とことん揶揄られると解っていて、答える気にもなれない。
けれど、明らかに今までと違うものを身に着け出せば、他の部分が変わっていない以上、誤魔化しも難しい。
「いえ、仰らなくていいですよ? 長谷川さんからなんですね、ご馳走様です」
「へ?」
貴悠の内心をまるで読み取ったかのように、スラッと恋人の名前を出されて、貴悠は面食らった。病棟看護師長は、何故か非常に生温かな視線で貴悠を見る。
「……まぁ、そうなんですけど…………。なんで、小牧さんがお分かりに?」
「…………それは黙秘させて頂いときましょうね。彼女が可哀想ですし」
貴悠には解らない言葉を残して、病棟看護師長はシラッとすっとぼけて、仕事の顔へと切り替えた。
「あ、仁科せんせ、休憩も終わりですよ?」
「あ、はい!!」
「うちのアイドル、全く気付いとらん辺り、相手のお嬢さんも考えましたね」
「いやぁ、気付いてないの、本人だけでしょう?」
詰め所内で交わされる会話に、小牧は溜め息を吐く。
「先生方? くれぐれも仰ったりなさらないで下さいね? 相手のお嬢さんの気持ちを考えてあげてくださいな。絶対に教えちゃ駄目ですからね。
ただでさえ、騙し討ちと言えど、こないだ見合いをされたばかりで、女性だらけの仕事場ですよ? 彼女が牽制かけたくなるのも仕方ないかと……」
小牧の言葉に、詰め所内のドクター達が笑う。
「まぁ、確かに?」
「小児病棟だけならともかく、この病院じゃ、確実にモテる部類の男性ですしな」
小牧は苦笑い。
「病院内を出入りしてるんです。当然、向けられてる視線ぐらいには、気付く敏いお嬢さんですよ? この程度の可愛いものなら、見逃してあげるのが筋でしょう」
「あれ、仁科先生? 時計、変えられまし…………や、何でもないです。長谷川さんからなんですね」
「へ? なんで、武原さんまで?」
武原正登の台詞に、貴悠は、はてなマークをはっきりと表情に出したのだが、友人看護師はそれ以上は口を割らない。
「……なんだ?」
貴悠の呟きに、返る返事はない。
――――貴悠が着けるブランド物の腕時計、恋人持ちの女性や既婚男性には定着のあるブランドであることも、貴悠は気付かないだろうと優卵が踏んでいたことも、そして……。
実は知らないところでペアルックにされていることも、貴悠は全く知らない。つまり、カップル用、既婚男女用のペアウオッチであることを…………。
「……譲りたくないものは譲っちゃ駄目だと言ったの、そっちですもん。鈍い貴悠せんせはともかく、周囲の職場の方達なら、きっと気付いてくださるでしょ?」
――――思惑はきちんと功を成していて、貴悠狙いだった女性職員達や女性患者達は、変わった腕時計に正しく意味を見つけていた…………。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 12:44 更新日:2016/01/19 12:44 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン