作品ID:1692
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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「優卵の困惑と子ども達」
前の話 | 目次 | 次の話 |
「ゆうちゃんせんせっ!!」
背後から前触れなく勢いよく飛びつかれて、優卵は危うくその場でひっくり返りそうになった。目をやると、小さな男の子が嬉しそうに優卵の背中にくっついている。
「こら、危ないから、いきなり人に飛び付いちゃ駄目よ?」
優卵の柔らかな注意に、子どもは悪戯っぽく舌を出して笑う。
「検査に来たら、ゆうちゃんせんせがいたから、嬉しくて飛び付いちゃった。はーい」
優卵は苦笑い。
「今度はしちゃ駄目よ?」
「うん、お約束ね!! ゆうちゃんせんせ、はるちゃんせんせに会いに来たの?」
男の子の言葉に、優卵は微笑む。
「じゃ、お約束。違うわよ? はるちゃんせんせはお仕事中でしょ? 私は私の先生に診てもらいに来てるの」
優卵の言葉に、何故か子どもはくすくす笑う。
「ふーん? はるちゃんせんせ、会っていく?」
「いいえ? はるちゃんせんせはお仕事中だもの」
子どもはニコニコ笑って、優卵に抱きつく。
「じゃあ、はるちゃんせんせの代わりに、ボクがゆうちゃんせんせ抱きしめといたげるね!! ゆうちゃんせんせが寂しくないように!!」
「…………さとる君、四つよね?」
「そーだよ?」
「……大人みたいなこと言うから、せんせ、びっくりしちゃった…………」
――――それが、五日前。
暫くの不養生が祟って、当分、頻繁な定期通院と検査を言い渡された優卵は、検査のために再び訪れていた病院で、またまた突然にじゃれつかれた。
「ゆーうちゃんせんせっ!!」
「きゃあっ!?」
突然に抱きつかれ受け身の取れなかった優卵は、じゃれついてきた子どもの正体に苦笑を浮かべる。
「こら、そんな危ないことしてたら、はるちゃんせんせから注意されるわよ?」
「あーや、別にはるちゃんせんせなんか怖くないもん。ゆうちゃんせんせの方が好きだもん」
女の子の膨れっ面に、優卵はいつかと同じで苦笑い。
「そう? ゆうちゃんせんせも悲しいな。あやちゃんが危ないことして怪我したりするの、心配。あやちゃんのこと心配してる、はるちゃんせんせも」
優卵の言葉に子どもは何故か悪戯っぽく笑う。
「ゆうちゃんせんせ、今日は、はるちゃんせんせに会って行くの?」
「いいえ? 今日は自分の検査で来てるから……」
女の子は優卵の言葉に嬉しそうに優卵に飛び付く。
「じゃ、はるちゃんせんせの代わりに、あーやがゆうちゃんせんせを抱きしめたげる。ゆうちゃんせんせが寂しくないように」
「…………つい最近、おんなじような言葉を聞いた気がするんだけど、あやちゃん、七つだったわよね?」
「そうだよ? ゆうちゃんせんせ、正解!!」
「……」
それから二週間経つ現在、流石の優卵も疑問を浮かべるようになってきた。なにしろ、来る度、来る度、小児病棟の子ども達に発見されては、飛び付かれ、じゃれつかれ、そして、決まって子ども達が口を揃える。
『はるちゃんせんせの代わりに、ゆうちゃんせんせが寂しくないように抱きしめといてあげる』
優卵にじゃれついて飛び付いてくるのは、年の頃合、十にも満たない男の子や女の子達である。はっきり言って、年に相応しい発言でもなければ、どこから出てくる発想なのか、優卵には見当がつかない……。
疑問を解決してくれたのは、訪れていた病院、そっと優卵の服の袖を遠慮がちに引っ張った、中学生前後の年の少女だった。
「……あの、いきなりごめんなさい。仁科先生の長谷川さんですよね?」
「…………誤解を招く表現だけど、仁科先生の知り合いの長谷川優卵です。ええと? 初めてお会いしますよね?」
優卵の言葉に、十四から十五と思しき少女が慌てたように言い募る。
「あ、私、仁科先生にお世話になってる患者です。突然、失礼だとは思ったんですけど、ちょっと聞き捨てならない話、聞いちゃったので……」
「…………ええと? 仁科先生の患者さんが、私に御用って? あ、ごめんなさいね、突然だったから驚いただけなの」
「……余計なお世話かもと思ったんですけど、病棟の小さな子ども達の言動に、振り回されてらっしゃるんじゃないかなって…………」
「……」
いきなり飛び出した的確な言葉に黙り込んだ優卵を見て、少女はやっぱり、と息を吐く。
「あーもう、やっぱり…………。ごめんなさい! うちのひろが余計な遊びを思いついたから……」
「ええと?」
少女の説明に、優卵は呆気に取られた。
「ほんっとにごめんなさい!! 私、仁科先生にお世話になってるって言っても、患者としては外来でたまにお世話になってる程度なんです。仁科先生に本当にお世話かけてるのはうちの弟で、宏樹って言うんですけど……。ご存知ですよね?」
少女の言葉に、優卵は納得する。仁科の患者といいながら、少女はパジャマではなく普段着を着ていたが、それなら納得がいく。
「えっと、小児病棟のひろき君のお姉さん?」
「はい。で、うちの弟がとんでもない遊びを思いついたみたいで…………」
宏樹の姉と名乗る少女の話を聞いて、優卵は卒倒しそうになった。なんでも、小児病棟では今、流行りに流行っている遊びがあるのだという。
この春先に、仁科とすれ違いを起こしそうになった自分達の話が、どこからか伝わっていて、仁科が店に現れた場面を、絵本仕立てにして遊んでいると……。
その中では優卵は悪者に攫われた姫君の役割で、仁科はその姫を救いに来る王子様。しかも、ご丁寧に『ゆう姫』と『たかはる王子』だというから堪らない。
それも、きちんと春先の一件を踏まえた上で、『ゆう姫は返してもらう』と『たかはる王子』が言い放つというのだから…………。
が、それよりも!! その事態を面白がった小児病棟のスタッフ達が、子ども達を見ながら呟いた言葉に、子ども達は目を輝かせてしまった。
――――アハハ、子ども達、飽きませんねぇ? 実際に長谷川さんが仁科先生に助けられる場面があれば、子ども達、もっと喜ぶでしょうに?
……かくして、子ども達は幼い頭で考え抜いたのである。優卵と仁科に言わせれば、とんでもなく傍迷惑な遊びを…………。
『自分達がゆうちゃんせんせに悪さしてるとこ見せれば、王子様のはるちゃんせんせとお姫様のゆうちゃんせんせをほんとに見れるかもしれない!!』……と。
「…………へぇ? あさひちゃん、その話、ホント?」
「きゃ、きゃぁ~!!」
おどろおどろしいにも程があると言いたくなるような声音で、突如と会話に割り込まれて、少女は素直に悲鳴を上げ、優卵の方も悲鳴を危うく飲み込んだ。
「……貴悠せんせ、子どもさん驚かすの止めてください。それと、今の声は私でも怖いです」
「…………」
「……ねぇ、あれだと、はるちゃんせんせが悪者っぽいよ?」
「姉ちゃん、よけいなことするし…………」
「でも、ヒロくんでしょ? お姉ちゃんに協力してもらおうって言いだしっぺ!!」
「だって、あーや達じゃ、はるちゃんせんせ、余裕で見てるだけって……」
「そうだよ。せんせ、いつまでたっても、ゆうちゃんせんせ助けに来ないもん」
「…………だから、姉ちゃんに同級生連れて来てもらうつもりだったのに……」
「だよねぇ。ボク達じゃ駄目だよって笑うくせに、他の先生、だぁれも協力してくれないんだもん」
「姉ちゃんなら、誰か連れて来てくれると思ったのになぁ…………」
「あーあ、つまんない! ヒロ君のお姉ちゃん、全部しゃべっちゃったし……」
自分達には見えないようにしているつもりなのだろうが、バレバレの場所から顔を覗かせて、口々に呟かれた勝手な意見に、優卵は再び呆気に取られ、あさひと呼ばれた少女は頭痛を堪える仕草で、仁科は唇を戦慄かせた…………。
「……アヤッ!! サトルッ!! ヒロキィッ~!! 全部聞えてるぞっ!!」
――――その後、病棟で何が起こったかは、小児科スタッフ全員で口を噤んだという。
背後から前触れなく勢いよく飛びつかれて、優卵は危うくその場でひっくり返りそうになった。目をやると、小さな男の子が嬉しそうに優卵の背中にくっついている。
「こら、危ないから、いきなり人に飛び付いちゃ駄目よ?」
優卵の柔らかな注意に、子どもは悪戯っぽく舌を出して笑う。
「検査に来たら、ゆうちゃんせんせがいたから、嬉しくて飛び付いちゃった。はーい」
優卵は苦笑い。
「今度はしちゃ駄目よ?」
「うん、お約束ね!! ゆうちゃんせんせ、はるちゃんせんせに会いに来たの?」
男の子の言葉に、優卵は微笑む。
「じゃ、お約束。違うわよ? はるちゃんせんせはお仕事中でしょ? 私は私の先生に診てもらいに来てるの」
優卵の言葉に、何故か子どもはくすくす笑う。
「ふーん? はるちゃんせんせ、会っていく?」
「いいえ? はるちゃんせんせはお仕事中だもの」
子どもはニコニコ笑って、優卵に抱きつく。
「じゃあ、はるちゃんせんせの代わりに、ボクがゆうちゃんせんせ抱きしめといたげるね!! ゆうちゃんせんせが寂しくないように!!」
「…………さとる君、四つよね?」
「そーだよ?」
「……大人みたいなこと言うから、せんせ、びっくりしちゃった…………」
――――それが、五日前。
暫くの不養生が祟って、当分、頻繁な定期通院と検査を言い渡された優卵は、検査のために再び訪れていた病院で、またまた突然にじゃれつかれた。
「ゆーうちゃんせんせっ!!」
「きゃあっ!?」
突然に抱きつかれ受け身の取れなかった優卵は、じゃれついてきた子どもの正体に苦笑を浮かべる。
「こら、そんな危ないことしてたら、はるちゃんせんせから注意されるわよ?」
「あーや、別にはるちゃんせんせなんか怖くないもん。ゆうちゃんせんせの方が好きだもん」
女の子の膨れっ面に、優卵はいつかと同じで苦笑い。
「そう? ゆうちゃんせんせも悲しいな。あやちゃんが危ないことして怪我したりするの、心配。あやちゃんのこと心配してる、はるちゃんせんせも」
優卵の言葉に子どもは何故か悪戯っぽく笑う。
「ゆうちゃんせんせ、今日は、はるちゃんせんせに会って行くの?」
「いいえ? 今日は自分の検査で来てるから……」
女の子は優卵の言葉に嬉しそうに優卵に飛び付く。
「じゃ、はるちゃんせんせの代わりに、あーやがゆうちゃんせんせを抱きしめたげる。ゆうちゃんせんせが寂しくないように」
「…………つい最近、おんなじような言葉を聞いた気がするんだけど、あやちゃん、七つだったわよね?」
「そうだよ? ゆうちゃんせんせ、正解!!」
「……」
それから二週間経つ現在、流石の優卵も疑問を浮かべるようになってきた。なにしろ、来る度、来る度、小児病棟の子ども達に発見されては、飛び付かれ、じゃれつかれ、そして、決まって子ども達が口を揃える。
『はるちゃんせんせの代わりに、ゆうちゃんせんせが寂しくないように抱きしめといてあげる』
優卵にじゃれついて飛び付いてくるのは、年の頃合、十にも満たない男の子や女の子達である。はっきり言って、年に相応しい発言でもなければ、どこから出てくる発想なのか、優卵には見当がつかない……。
疑問を解決してくれたのは、訪れていた病院、そっと優卵の服の袖を遠慮がちに引っ張った、中学生前後の年の少女だった。
「……あの、いきなりごめんなさい。仁科先生の長谷川さんですよね?」
「…………誤解を招く表現だけど、仁科先生の知り合いの長谷川優卵です。ええと? 初めてお会いしますよね?」
優卵の言葉に、十四から十五と思しき少女が慌てたように言い募る。
「あ、私、仁科先生にお世話になってる患者です。突然、失礼だとは思ったんですけど、ちょっと聞き捨てならない話、聞いちゃったので……」
「…………ええと? 仁科先生の患者さんが、私に御用って? あ、ごめんなさいね、突然だったから驚いただけなの」
「……余計なお世話かもと思ったんですけど、病棟の小さな子ども達の言動に、振り回されてらっしゃるんじゃないかなって…………」
「……」
いきなり飛び出した的確な言葉に黙り込んだ優卵を見て、少女はやっぱり、と息を吐く。
「あーもう、やっぱり…………。ごめんなさい! うちのひろが余計な遊びを思いついたから……」
「ええと?」
少女の説明に、優卵は呆気に取られた。
「ほんっとにごめんなさい!! 私、仁科先生にお世話になってるって言っても、患者としては外来でたまにお世話になってる程度なんです。仁科先生に本当にお世話かけてるのはうちの弟で、宏樹って言うんですけど……。ご存知ですよね?」
少女の言葉に、優卵は納得する。仁科の患者といいながら、少女はパジャマではなく普段着を着ていたが、それなら納得がいく。
「えっと、小児病棟のひろき君のお姉さん?」
「はい。で、うちの弟がとんでもない遊びを思いついたみたいで…………」
宏樹の姉と名乗る少女の話を聞いて、優卵は卒倒しそうになった。なんでも、小児病棟では今、流行りに流行っている遊びがあるのだという。
この春先に、仁科とすれ違いを起こしそうになった自分達の話が、どこからか伝わっていて、仁科が店に現れた場面を、絵本仕立てにして遊んでいると……。
その中では優卵は悪者に攫われた姫君の役割で、仁科はその姫を救いに来る王子様。しかも、ご丁寧に『ゆう姫』と『たかはる王子』だというから堪らない。
それも、きちんと春先の一件を踏まえた上で、『ゆう姫は返してもらう』と『たかはる王子』が言い放つというのだから…………。
が、それよりも!! その事態を面白がった小児病棟のスタッフ達が、子ども達を見ながら呟いた言葉に、子ども達は目を輝かせてしまった。
――――アハハ、子ども達、飽きませんねぇ? 実際に長谷川さんが仁科先生に助けられる場面があれば、子ども達、もっと喜ぶでしょうに?
……かくして、子ども達は幼い頭で考え抜いたのである。優卵と仁科に言わせれば、とんでもなく傍迷惑な遊びを…………。
『自分達がゆうちゃんせんせに悪さしてるとこ見せれば、王子様のはるちゃんせんせとお姫様のゆうちゃんせんせをほんとに見れるかもしれない!!』……と。
「…………へぇ? あさひちゃん、その話、ホント?」
「きゃ、きゃぁ~!!」
おどろおどろしいにも程があると言いたくなるような声音で、突如と会話に割り込まれて、少女は素直に悲鳴を上げ、優卵の方も悲鳴を危うく飲み込んだ。
「……貴悠せんせ、子どもさん驚かすの止めてください。それと、今の声は私でも怖いです」
「…………」
「……ねぇ、あれだと、はるちゃんせんせが悪者っぽいよ?」
「姉ちゃん、よけいなことするし…………」
「でも、ヒロくんでしょ? お姉ちゃんに協力してもらおうって言いだしっぺ!!」
「だって、あーや達じゃ、はるちゃんせんせ、余裕で見てるだけって……」
「そうだよ。せんせ、いつまでたっても、ゆうちゃんせんせ助けに来ないもん」
「…………だから、姉ちゃんに同級生連れて来てもらうつもりだったのに……」
「だよねぇ。ボク達じゃ駄目だよって笑うくせに、他の先生、だぁれも協力してくれないんだもん」
「姉ちゃんなら、誰か連れて来てくれると思ったのになぁ…………」
「あーあ、つまんない! ヒロ君のお姉ちゃん、全部しゃべっちゃったし……」
自分達には見えないようにしているつもりなのだろうが、バレバレの場所から顔を覗かせて、口々に呟かれた勝手な意見に、優卵は再び呆気に取られ、あさひと呼ばれた少女は頭痛を堪える仕草で、仁科は唇を戦慄かせた…………。
「……アヤッ!! サトルッ!! ヒロキィッ~!! 全部聞えてるぞっ!!」
――――その後、病棟で何が起こったかは、小児科スタッフ全員で口を噤んだという。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 12:46 更新日:2016/01/19 12:47 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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