作品ID:1702
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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「課題曲と優卵ちゃんのウッカリ」
前の話 | 目次 | 次の話 |
「……どうして、よりによって、これなのよ?」
自宅マンションのリビングの一角、慣れ親しんだグランドピアノの前に腰掛けて、誰にともなく一人ぼやいて、優卵は項垂れた。
怨めしげな視線を送ってしまうしかないのは、教室で渡された、というより、優卵が引いてしまった春の交流演奏会に向けた課題のくじ。
「…………引いちゃった内容が『私の愛しい王子様』で、教室の先生方には当然行き渡っちゃって、貴悠さんのことなんか周知の事実で、どうしろって?」
どうしろもこうしろも、しらっとすっとぼけて、絵本の王子様でも登場させた童謡でも作り上げてしまいたいのだが、いかんせん、先生方も心得ている。
――――去年の『人魚姫』も凄く素敵だったもの。『私の愛しい王子様』も、きっと素敵な『優卵先生の愛しい王子様』を歌ってくれるって信じてるから。
優卵に言わせれば、もう、牽制もいいところである。暗に、『仁科貴悠』を示して、『貴悠で作れ』と脅しをかけられた気分も大きい……。
「…………あ、泣きたい……」
こんなとき、周囲の期待を裏切れない自分が悲しい……。と、そこまで考え付いて、優卵は携帯電話を取り出した。
そうだ、優卵では周囲の期待を裏切れないなら、他の人に裏切ってもらえばいいのだ。パッと表示させた電話番号、コールを鳴らす。
「はい、仁科。…………優卵? どうしたの? こんな時間に珍しい」
「……あはは?」
貴悠の言葉を無理やりな笑いで遮って、優卵は口早に言い立てる。…………貴悠が疑問を持つのは当たり前で、時刻は夜の十時過ぎ……。
今日の貴悠は当直や夜勤ではないと知っていたけれど、基本的に常識を重んじる優卵が、この時間帯に貴悠に電話をかけることは滅多にない。
「あのですね、困ってるんです」
「へ?」
唐突な言葉に戸惑う貴悠を無視して、矢継ぎ早に言葉を浴びせかける。
「いえ、だから、困っちゃって…………。教室の発表会の件で、先生方が凄く期待してくださるんです。あ、次の春の交流演奏会なんですけれど……。
でも、私、その期待に応えなきゃいけないのかなって思うと、凄く頭痛がするし、胃も痛いし、なんか本当に困ってるんです」
暫く沈黙が続いて、返ってきたのは…………。
「な、なんか、よく解んないけど、演奏会の件で困ってるって相談?」
「ええ、そうなんです。凄く凄く困ってるんです、先生方の期待が重荷で」
優卵の言葉に、もう一度、沈黙が下りる。が、返ってきたのは、優卵が期待した言葉ではなく……。
「んーと、優卵をそこまで困らせてる内容って? 先生方の期待って言っても、優卵はピアノの腕と歌声は確かだよね? 具体的に何に期待されて困ってるの?
優卵がこの時間に僕に電話かけてくるぐらいだから、本気で困ってるんでしょう? 何に期待されてるのが、そこまで重荷で負担?」
…………当然といえば、当然な貴悠の言葉に、優卵は詰まった。しまった、これでは自ら地雷を踏んだようなものである。
「……優卵?」
黙りこんだ優卵をいぶかしむ貴悠の声は、心配を表していて、余計にしまったと思う。これは、撤回するべきだと判断したときには遅かった。
「ええと、ごめんなさい。やっぱりなんでもないです。うん、なんでもなかったです。貴悠さんは、気になさらないでください」
優卵の言葉に、電話の向こうの相手が声のトーンを少し下げる。
「なんでもないことないでしょう。だったら、この時間に僕に電話なんかしてこないでしょ? 自分じゃどうにも出来なくて相談したかったんでしょう?」
「えと、それは…………」
度々、優卵が色んな呪縛に縛られる毎、優しく諭されるお説教モードの声に、優卵は確信してしまった。これは、きちんと電話の理由を説明しないと、彼は絶対に納得しない、と……。
「…………あの、特に深刻な問題というわけではなかったんです」
「うん、で?」
貴悠の促しに、優卵は必死に頭を廻らせる。
「えと、演奏会の課題が……あ、いえ、課題に対する先生達の期待が重いっていうか…………じゃなくて、ええと……」
駄目だ、これでは自ら地雷を踏んだ上、ドツボに陥っているだけの気がする。必死で頭を廻らせるのだけれど、解決策と言えそうな答えが見つからない…………。こんなとき、自分の愚直さが本気で嘆かわしい……。
「課題? あ、交流演奏会ね。くじ引きで課題をもらって作るんだっけ? ……んーと、で、優卵がそこまで困らなきゃいけない課題って?
…………もしかして、『初恋』とか引いた? 森村の話、出さないといけないような内容? あ、でも、他の先生達の期待が重いってことは、違うか……」
「あ、ち、違います!! そんな深刻に困る課題では……いえ、困ってるには困ってるんだけど、課題への期待っていうか、他の先生達が私の課題で、面白がってるっていうか…………」
慌てた優卵の言葉に、当然といえばこれまた当然の言葉が返る。
「……ごめん、よく解んないんだけど、結局、優卵の課題って?」
「…………」
「優卵?」
「……しの…………ま」
どうにも逃げ場がなくなってしまい、小さな声でしどろもどろに答えたのに、電話の向こうの貴悠の返事は容赦がなかった。
「優卵? ごめん、聞えない。も一回、言ってもらっていい?」
「……っ~!! だから、『私の愛しい王子様』!! 誰かさんで曲作れって!!」
殆どやけっぱっちで涙目になって答えた言葉に、電話の向こうの相手が一瞬だけ沈黙して、それから盛大な笑い声が響いた。
「ひどい!! 笑い事じゃないっ!! 先生達、当然、去年のクリスマスの私の曲も、貴悠さんのことも知ってるのよ!?」
「ご、ごめん、ごめん。……でも、それ、僕に暴露してどうしたかったの?」
電話の向こうの相手の声ははっきりと笑っている。
「暴露したかったわけじゃなくて!! 私じゃ期待を裏切れそうになかったから、応えなくていいって言葉が欲しかったのに…………」
「あ、そうなんだ? じゃあ、僕も楽しみにしとくから、課題、頑張って?」
「ええ!?」
電話の向こうの相手はもう明らかに楽しんでいるし、優卵の非難の声などものともしてはくれない……。
「…………うう、なんか、間違えた……」
「優卵のそういうとこ、出逢った頃のままだよねぇ? しっかりしてるようで迂闊っていうか、子どもみたいなドジ踏むとこ」
「褒められてない、嬉しくない…………」
「まぁ、頑張って? あ、休み、入れとくから」
とんでもない発言に、優卵は思わず叫んだ。
「絶対に来なくていい!!」
結局、自分が一番、ミスを犯したと反省しても後の祭りである……。
自宅マンションのリビングの一角、慣れ親しんだグランドピアノの前に腰掛けて、誰にともなく一人ぼやいて、優卵は項垂れた。
怨めしげな視線を送ってしまうしかないのは、教室で渡された、というより、優卵が引いてしまった春の交流演奏会に向けた課題のくじ。
「…………引いちゃった内容が『私の愛しい王子様』で、教室の先生方には当然行き渡っちゃって、貴悠さんのことなんか周知の事実で、どうしろって?」
どうしろもこうしろも、しらっとすっとぼけて、絵本の王子様でも登場させた童謡でも作り上げてしまいたいのだが、いかんせん、先生方も心得ている。
――――去年の『人魚姫』も凄く素敵だったもの。『私の愛しい王子様』も、きっと素敵な『優卵先生の愛しい王子様』を歌ってくれるって信じてるから。
優卵に言わせれば、もう、牽制もいいところである。暗に、『仁科貴悠』を示して、『貴悠で作れ』と脅しをかけられた気分も大きい……。
「…………あ、泣きたい……」
こんなとき、周囲の期待を裏切れない自分が悲しい……。と、そこまで考え付いて、優卵は携帯電話を取り出した。
そうだ、優卵では周囲の期待を裏切れないなら、他の人に裏切ってもらえばいいのだ。パッと表示させた電話番号、コールを鳴らす。
「はい、仁科。…………優卵? どうしたの? こんな時間に珍しい」
「……あはは?」
貴悠の言葉を無理やりな笑いで遮って、優卵は口早に言い立てる。…………貴悠が疑問を持つのは当たり前で、時刻は夜の十時過ぎ……。
今日の貴悠は当直や夜勤ではないと知っていたけれど、基本的に常識を重んじる優卵が、この時間帯に貴悠に電話をかけることは滅多にない。
「あのですね、困ってるんです」
「へ?」
唐突な言葉に戸惑う貴悠を無視して、矢継ぎ早に言葉を浴びせかける。
「いえ、だから、困っちゃって…………。教室の発表会の件で、先生方が凄く期待してくださるんです。あ、次の春の交流演奏会なんですけれど……。
でも、私、その期待に応えなきゃいけないのかなって思うと、凄く頭痛がするし、胃も痛いし、なんか本当に困ってるんです」
暫く沈黙が続いて、返ってきたのは…………。
「な、なんか、よく解んないけど、演奏会の件で困ってるって相談?」
「ええ、そうなんです。凄く凄く困ってるんです、先生方の期待が重荷で」
優卵の言葉に、もう一度、沈黙が下りる。が、返ってきたのは、優卵が期待した言葉ではなく……。
「んーと、優卵をそこまで困らせてる内容って? 先生方の期待って言っても、優卵はピアノの腕と歌声は確かだよね? 具体的に何に期待されて困ってるの?
優卵がこの時間に僕に電話かけてくるぐらいだから、本気で困ってるんでしょう? 何に期待されてるのが、そこまで重荷で負担?」
…………当然といえば、当然な貴悠の言葉に、優卵は詰まった。しまった、これでは自ら地雷を踏んだようなものである。
「……優卵?」
黙りこんだ優卵をいぶかしむ貴悠の声は、心配を表していて、余計にしまったと思う。これは、撤回するべきだと判断したときには遅かった。
「ええと、ごめんなさい。やっぱりなんでもないです。うん、なんでもなかったです。貴悠さんは、気になさらないでください」
優卵の言葉に、電話の向こうの相手が声のトーンを少し下げる。
「なんでもないことないでしょう。だったら、この時間に僕に電話なんかしてこないでしょ? 自分じゃどうにも出来なくて相談したかったんでしょう?」
「えと、それは…………」
度々、優卵が色んな呪縛に縛られる毎、優しく諭されるお説教モードの声に、優卵は確信してしまった。これは、きちんと電話の理由を説明しないと、彼は絶対に納得しない、と……。
「…………あの、特に深刻な問題というわけではなかったんです」
「うん、で?」
貴悠の促しに、優卵は必死に頭を廻らせる。
「えと、演奏会の課題が……あ、いえ、課題に対する先生達の期待が重いっていうか…………じゃなくて、ええと……」
駄目だ、これでは自ら地雷を踏んだ上、ドツボに陥っているだけの気がする。必死で頭を廻らせるのだけれど、解決策と言えそうな答えが見つからない…………。こんなとき、自分の愚直さが本気で嘆かわしい……。
「課題? あ、交流演奏会ね。くじ引きで課題をもらって作るんだっけ? ……んーと、で、優卵がそこまで困らなきゃいけない課題って?
…………もしかして、『初恋』とか引いた? 森村の話、出さないといけないような内容? あ、でも、他の先生達の期待が重いってことは、違うか……」
「あ、ち、違います!! そんな深刻に困る課題では……いえ、困ってるには困ってるんだけど、課題への期待っていうか、他の先生達が私の課題で、面白がってるっていうか…………」
慌てた優卵の言葉に、当然といえばこれまた当然の言葉が返る。
「……ごめん、よく解んないんだけど、結局、優卵の課題って?」
「…………」
「優卵?」
「……しの…………ま」
どうにも逃げ場がなくなってしまい、小さな声でしどろもどろに答えたのに、電話の向こうの貴悠の返事は容赦がなかった。
「優卵? ごめん、聞えない。も一回、言ってもらっていい?」
「……っ~!! だから、『私の愛しい王子様』!! 誰かさんで曲作れって!!」
殆どやけっぱっちで涙目になって答えた言葉に、電話の向こうの相手が一瞬だけ沈黙して、それから盛大な笑い声が響いた。
「ひどい!! 笑い事じゃないっ!! 先生達、当然、去年のクリスマスの私の曲も、貴悠さんのことも知ってるのよ!?」
「ご、ごめん、ごめん。……でも、それ、僕に暴露してどうしたかったの?」
電話の向こうの相手の声ははっきりと笑っている。
「暴露したかったわけじゃなくて!! 私じゃ期待を裏切れそうになかったから、応えなくていいって言葉が欲しかったのに…………」
「あ、そうなんだ? じゃあ、僕も楽しみにしとくから、課題、頑張って?」
「ええ!?」
電話の向こうの相手はもう明らかに楽しんでいるし、優卵の非難の声などものともしてはくれない……。
「…………うう、なんか、間違えた……」
「優卵のそういうとこ、出逢った頃のままだよねぇ? しっかりしてるようで迂闊っていうか、子どもみたいなドジ踏むとこ」
「褒められてない、嬉しくない…………」
「まぁ、頑張って? あ、休み、入れとくから」
とんでもない発言に、優卵は思わず叫んだ。
「絶対に来なくていい!!」
結局、自分が一番、ミスを犯したと反省しても後の祭りである……。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 13:00 更新日:2016/01/19 13:00 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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