作品ID:1705
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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「隣に立つまでに……」
前の話 | 目次 | 次の話 |
教室の子ども達の保護者からの思いがけない申し出に、優卵は瞳をぱちくりと瞬かせた。教室のあるビルに設けられた応接室のソファーの向かい、優卵の所属するピアノ教室の教室長は、困り顔で優卵を見上げている。
「……本来ならお断りするべきだと思ったのだけど、保護者さん達のご要望と言うか、お願いと言うか、とにかく申し出があまりにも強くて…………。
勿論、長谷川先生の一存にお任せします。長谷川先生のお式なのですし、そこは保護者さん達にもご了承頂いています」
教室長の困惑の入り混じった溜め息に、優卵はただ、瞳を瞬かせている。というよりも、教室長も然りだが、優卵を困惑させたのは、優卵の教える子ども達の保護者からの申し出だったのである……。
「ええと、ちょっとご相談があるのですけど…………」
優卵の切り出した言葉に、貴悠とウエディングプランナーが優卵の方を向いた。が、どう言って切り出せばいいのかが優卵には解らない。
「……優卵? 言いたいことあるなら遠慮しないでいいから」
「長谷川様、仁科様のお言葉通りですよ。お二人のお式であり、長谷川様は主役の花嫁でいらっしゃいます」
貴悠とウエディングプランナーの男性の優しい言葉に、優卵はうんうんと頭を捻らせながら、言葉を捜す。
「…………あのですね、チャペル式でっていう話で進めてるじゃないですか? それで、ちょっと、ご相談なんですけど……。
あ、というか、披露宴なんです。普通の披露宴じゃなくて、子どもさんが退屈しないで出席できる形を取りたいんですけど、それって大丈夫ですか?」
優卵の言葉に、流石に貴悠とプランナーの男性も首を傾げた。
「…………お子様主体という形を取られたい、そういうことでしょうか?」
「優卵?」
プランナーと貴悠の疑問には、優卵は苦笑いしか返せない。
「ええと、あの、実は勤め先の教室の子どもさんが、どうしても結婚式に出席したいと仰っていて、子どもさんの保護者さんからお申し出があったんです。
勿論、私が納得してるのが大前提と仰ってくださっているのですけど、もし可能であれば、式に子どもさん達十二人、保護者一名同伴で招待してもらえないかって……」
優卵の言葉には流石の貴悠とプランナーの男性も呆気に取られているが、まず、教室長からの打診と保護者達の代表からの申し出に、誰より驚いたのは優卵の方であったりする……。
『ご迷惑と非常識は承知でお願い致します。勿論、長谷川先生のお式ですし、長谷川先生のご都合もおありと思いますので、無理にとは申しません。
うちの子だけなら言い聞かせたんですけれど、長谷川先生に担当して頂いてるお子さん方みんなが言い出してるようで、他のお母さん方も困ってらして……。
ご迷惑料として、ご祝儀は弾ませて頂きますので、もし可能であれば、クラスの子ども達を招待してやっては頂けないでしょうか?』
教室長からの打診の後、直接にクラスの子ども達の保護者の代表として訪れた母親に、優卵は呆気に取られて困惑するしかなかった。
優卵が受け持つクラスの子ども達は十二人。その全てと付き添いの保護者を招待するとなると、式の様式からして考えねばならない。
けれど、子ども達が『長谷川優卵せんせいの結婚式に出たい』とごねていると聞かされてしまっては、無碍にも出来ない。
そんなこんなな理由で、ここ数日間、優卵は頭を悩ませていたのだが……。貴悠とプランナーに相談してみようと思い立ったのは、昨日の夜のことである。
「ええと、優卵は納得してるの?」
「まぁ、出来れば叶えてあげたいとは思うんですけど。貴悠さん側の都合もありますし、式場や披露宴、どうするかっていうのもあるし…………」
貴悠の言葉に応えた優卵の台詞に、貴悠とプランナー男性は首を捻った。
「うーん、優卵が納得してて、出来れば呼んであげたいって言うなら、僕としては異は唱えないけど……。ただ、式の都合だけはあるよね。
元々、身内だけ同然の小さい式でっていう話で進めてたから、僕の方は困らないんだけど…………。どっちにしろ、同僚達は揃って仕事抜け出せないしね」
貴悠の苦笑いに、優卵の方も苦笑いしか浮かばないのだが、そんな優卵や貴悠の心を汲んだように、プランナーの男性が口を挟んだ。
「長谷川様、仁科様、お二人ともご納得の上ということですね? でしたら、私の方からご提案がございます」
プランナー男性の言葉に、優卵と貴悠はそちらを見る。
「まず、お式は当初のご希望通りにチャペルで。その後の披露宴についてなのですが、チャペルを貸しきった形での、海外式の挙式という形はいかがですか?」
優卵は首を傾げた。
「……と、言いますと?」
「はい。まず、チャペル全体、庭も全てを使ったお式のご提案になります。まずは、通常通り、チャペルでのお式を挙げて頂きます。
チャペルでの挙式の後、チャペルの庭に立食形式のパーティ会場を設置しますので、そちらをもって披露宴と代えて頂く……。いかがでしょう?
こちらの形態でしたら、お子様方にも挙式の後のフラワーシャワーとライスシャワーからご参加頂けますし、披露宴にも無理なくご出席頂けるかと…………」
「ああ、それはいいアイデアかもしれないですね」
応えたのは貴悠。優卵もプランナー男性の言葉に笑みを浮かべた。
「はい、とってもいいアイデアを頂いたと思います」
「『長谷川優卵せんせいの結婚式に出たい』……かぁ…………」
帰りの車中、ぼやくように呟かれた言葉に、優卵は不安げに貴悠を見上げたのだが、貴悠の方は何故か項垂れている。
「……ええと、やっぱり迷惑でした?」
「あ、違う違う!! ……大概、子どもらに懐かれてるとは思うんだけど、僕が結婚の話をしてても、僕は言われなかったなぁって……。まぁ、言われてても困ったけど」
貴悠は何故かしょげ返っているが、優卵の方はコロコロと笑い出すしかない。
「…………アハ。なに、貴悠さん、拗ねてるの? だって、それ、当然じゃありません? 文ちゃんに学くん、宏樹くんに、杏ちゃん、あの年頃の子ども達ですよ?
結婚式って言われて、一番にピンと来るのは『ウエディングドレス』とか『花嫁さん』くらいでしょ? 男性の方のタキシードなんて出てこないんじゃ?
貴悠さん、普段からネクタイしてるし、子ども達からすれば、特に目新しく思えなかっただけだと思うんだけど……」
クスクスと微笑んだ優卵に、貴悠の方も気付いたようで、あ、そうかと納得している。
「…………まぁ、いっか」
「なに? まだ納得してないの?」
「や、そうじゃないけど、ドレスの方、出来の具合は?」
「んんと、デザインがようやく本決まりしたとこ」
一生に一度のウエディングドレスなら、オーダーメイドで作りたいという優卵の我が侭に、貴悠は嫌な顔一つせず肯いてくれた。
週末には、結納が控えている。こちらは優卵の両親と貴悠の希望だ。優卵の両親は単純に世間のしきたりに乗っ取って、と。
けれど、貴悠の方から出たのは、『折角だから、優卵の振袖も見たいし、ついでに優卵のご両親の希望も叶えられるし』と、なんのこっちゃという台詞。
何所までも優卵が優先という貴悠の言動に、優卵の方は幸せな苦笑いを浮かべるしか出来ない。そんな優卵の心を、多分、貴悠も知っているだろう。
――――薬指に輝くダイヤモンドを日差しに翳しながら、優卵はこれからの未来に想いを馳せる……。
「……本来ならお断りするべきだと思ったのだけど、保護者さん達のご要望と言うか、お願いと言うか、とにかく申し出があまりにも強くて…………。
勿論、長谷川先生の一存にお任せします。長谷川先生のお式なのですし、そこは保護者さん達にもご了承頂いています」
教室長の困惑の入り混じった溜め息に、優卵はただ、瞳を瞬かせている。というよりも、教室長も然りだが、優卵を困惑させたのは、優卵の教える子ども達の保護者からの申し出だったのである……。
「ええと、ちょっとご相談があるのですけど…………」
優卵の切り出した言葉に、貴悠とウエディングプランナーが優卵の方を向いた。が、どう言って切り出せばいいのかが優卵には解らない。
「……優卵? 言いたいことあるなら遠慮しないでいいから」
「長谷川様、仁科様のお言葉通りですよ。お二人のお式であり、長谷川様は主役の花嫁でいらっしゃいます」
貴悠とウエディングプランナーの男性の優しい言葉に、優卵はうんうんと頭を捻らせながら、言葉を捜す。
「…………あのですね、チャペル式でっていう話で進めてるじゃないですか? それで、ちょっと、ご相談なんですけど……。
あ、というか、披露宴なんです。普通の披露宴じゃなくて、子どもさんが退屈しないで出席できる形を取りたいんですけど、それって大丈夫ですか?」
優卵の言葉に、流石に貴悠とプランナーの男性も首を傾げた。
「…………お子様主体という形を取られたい、そういうことでしょうか?」
「優卵?」
プランナーと貴悠の疑問には、優卵は苦笑いしか返せない。
「ええと、あの、実は勤め先の教室の子どもさんが、どうしても結婚式に出席したいと仰っていて、子どもさんの保護者さんからお申し出があったんです。
勿論、私が納得してるのが大前提と仰ってくださっているのですけど、もし可能であれば、式に子どもさん達十二人、保護者一名同伴で招待してもらえないかって……」
優卵の言葉には流石の貴悠とプランナーの男性も呆気に取られているが、まず、教室長からの打診と保護者達の代表からの申し出に、誰より驚いたのは優卵の方であったりする……。
『ご迷惑と非常識は承知でお願い致します。勿論、長谷川先生のお式ですし、長谷川先生のご都合もおありと思いますので、無理にとは申しません。
うちの子だけなら言い聞かせたんですけれど、長谷川先生に担当して頂いてるお子さん方みんなが言い出してるようで、他のお母さん方も困ってらして……。
ご迷惑料として、ご祝儀は弾ませて頂きますので、もし可能であれば、クラスの子ども達を招待してやっては頂けないでしょうか?』
教室長からの打診の後、直接にクラスの子ども達の保護者の代表として訪れた母親に、優卵は呆気に取られて困惑するしかなかった。
優卵が受け持つクラスの子ども達は十二人。その全てと付き添いの保護者を招待するとなると、式の様式からして考えねばならない。
けれど、子ども達が『長谷川優卵せんせいの結婚式に出たい』とごねていると聞かされてしまっては、無碍にも出来ない。
そんなこんなな理由で、ここ数日間、優卵は頭を悩ませていたのだが……。貴悠とプランナーに相談してみようと思い立ったのは、昨日の夜のことである。
「ええと、優卵は納得してるの?」
「まぁ、出来れば叶えてあげたいとは思うんですけど。貴悠さん側の都合もありますし、式場や披露宴、どうするかっていうのもあるし…………」
貴悠の言葉に応えた優卵の台詞に、貴悠とプランナー男性は首を捻った。
「うーん、優卵が納得してて、出来れば呼んであげたいって言うなら、僕としては異は唱えないけど……。ただ、式の都合だけはあるよね。
元々、身内だけ同然の小さい式でっていう話で進めてたから、僕の方は困らないんだけど…………。どっちにしろ、同僚達は揃って仕事抜け出せないしね」
貴悠の苦笑いに、優卵の方も苦笑いしか浮かばないのだが、そんな優卵や貴悠の心を汲んだように、プランナーの男性が口を挟んだ。
「長谷川様、仁科様、お二人ともご納得の上ということですね? でしたら、私の方からご提案がございます」
プランナー男性の言葉に、優卵と貴悠はそちらを見る。
「まず、お式は当初のご希望通りにチャペルで。その後の披露宴についてなのですが、チャペルを貸しきった形での、海外式の挙式という形はいかがですか?」
優卵は首を傾げた。
「……と、言いますと?」
「はい。まず、チャペル全体、庭も全てを使ったお式のご提案になります。まずは、通常通り、チャペルでのお式を挙げて頂きます。
チャペルでの挙式の後、チャペルの庭に立食形式のパーティ会場を設置しますので、そちらをもって披露宴と代えて頂く……。いかがでしょう?
こちらの形態でしたら、お子様方にも挙式の後のフラワーシャワーとライスシャワーからご参加頂けますし、披露宴にも無理なくご出席頂けるかと…………」
「ああ、それはいいアイデアかもしれないですね」
応えたのは貴悠。優卵もプランナー男性の言葉に笑みを浮かべた。
「はい、とってもいいアイデアを頂いたと思います」
「『長谷川優卵せんせいの結婚式に出たい』……かぁ…………」
帰りの車中、ぼやくように呟かれた言葉に、優卵は不安げに貴悠を見上げたのだが、貴悠の方は何故か項垂れている。
「……ええと、やっぱり迷惑でした?」
「あ、違う違う!! ……大概、子どもらに懐かれてるとは思うんだけど、僕が結婚の話をしてても、僕は言われなかったなぁって……。まぁ、言われてても困ったけど」
貴悠は何故かしょげ返っているが、優卵の方はコロコロと笑い出すしかない。
「…………アハ。なに、貴悠さん、拗ねてるの? だって、それ、当然じゃありません? 文ちゃんに学くん、宏樹くんに、杏ちゃん、あの年頃の子ども達ですよ?
結婚式って言われて、一番にピンと来るのは『ウエディングドレス』とか『花嫁さん』くらいでしょ? 男性の方のタキシードなんて出てこないんじゃ?
貴悠さん、普段からネクタイしてるし、子ども達からすれば、特に目新しく思えなかっただけだと思うんだけど……」
クスクスと微笑んだ優卵に、貴悠の方も気付いたようで、あ、そうかと納得している。
「…………まぁ、いっか」
「なに? まだ納得してないの?」
「や、そうじゃないけど、ドレスの方、出来の具合は?」
「んんと、デザインがようやく本決まりしたとこ」
一生に一度のウエディングドレスなら、オーダーメイドで作りたいという優卵の我が侭に、貴悠は嫌な顔一つせず肯いてくれた。
週末には、結納が控えている。こちらは優卵の両親と貴悠の希望だ。優卵の両親は単純に世間のしきたりに乗っ取って、と。
けれど、貴悠の方から出たのは、『折角だから、優卵の振袖も見たいし、ついでに優卵のご両親の希望も叶えられるし』と、なんのこっちゃという台詞。
何所までも優卵が優先という貴悠の言動に、優卵の方は幸せな苦笑いを浮かべるしか出来ない。そんな優卵の心を、多分、貴悠も知っているだろう。
――――薬指に輝くダイヤモンドを日差しに翳しながら、優卵はこれからの未来に想いを馳せる……。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 13:04 更新日:2016/01/19 13:04 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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