作品ID:1710
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人魚姫のお伽話
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
「伝えたい言葉」
前の話 | 目次 | 次の話 |
――――いくらなんでも、言っていいことと悪いことがあるわっ!! そんなのって酷いっ!! 私はお母さんやお祖母ちゃん達のお人形じゃないわ!!
叫んだ娘の言葉と涙に、ハッとさせられたのは、娘が初めて青年を連れて来たその日だった。娘の言葉と涙に、ようやく気付いた。
私は、私達は、この子に何をどれだけ諦めさせてきたのだろう。大人しい良い子だった娘が、始めて叫んだ悲鳴に、私は愚かにもようやく気付いたのだ。
事の発端は、結婚の挨拶にとスーツ姿で現れた青年。青年の隣で嬉しそうに微笑む娘に、娘の隣の青年に、私の母が投げ付けた言葉だった。
『仁科さんと仰いましたね。優卵は長女です。優卵からのお話を聞く限り、貴方は長男でいらっしゃるとお聞きしてますけどね。
当然のことをお聞きしますが、いずれは、長谷川の家に入って頂けるんでしょうね? この子の妹は既に嫁いだ身です。
元より、優卵は長女なんですし、当然、この子はこの家のことを見てもらわなきゃいけない子です。これらの条件、お守り頂けないなら、結婚は許せません』
母の、己の祖母の言葉に、微笑みを一瞬にして消し、無機質なお人形の瞳をさせてみせた娘。そんな娘を案じるように娘の手を握った青年は、力強い言葉ではっきりと言い切った。
『申し訳ありませんが、僕は今日、長谷川優卵さんと結婚させて頂くご挨拶に参りました。許可を頂きに参ったわけでは有りません。
優卵は長女だから嫁がせられない? 元より、実家を見てもらうつもりで結婚するわけではありませんが、優卵のお祖母さまのお言葉には納得出来ません』
青年の言葉に眉を顰めたのは、私の母と夫。けれども、青年は揺るがぬ瞳できっぱりと告げた。
『なにか、誤解していらっしゃるようです。優卵さんは、お嬢さんは、貴女方の家の小間使いや人形なのですか? こちらの大事なお嬢さんではなく?
今の貴女の言葉に、優卵さんがどんな瞳をしているか、それは貴女方の瞳に映りませんでしたか?』
青年の言葉に、母が不快さも顕わに言葉を投げ付けた。
『では、結婚は許しません。優卵、おまえも、目上の者に向かって、そんな口を利く若造とは、さっさと別れなさい!! この場で縁をお切りなさい!!
優卵はこの家の長女です。この家を見るのは当然でしょう。話は終わりです。結婚は許し……』
母の言葉に、異論を唱え、言葉を浴びせたのは、青年ではなく、それまでじっと耐えるように黙り込み、無機質な瞳をさせていた娘だった。
――――いい加減にしてっ!! 私はこの家のお人形じゃない!! お祖母ちゃんのお人形でも、お母さんのためのお人形でもないわっ!!
突然の台詞に、思いがけずといった体で言葉を失った様子の母に、娘は涙を流しながら大声で叫んだ。否、それは、悲鳴に近かったのかも知れない。
『貴方達は私から何をどれだけ取り上げれば気が済むのっ!? 目上の者に向かって、貴悠さんにそんな口を利かせたのは誰っ!?
この場で縁を切れ? さっさと別れろ? いくらなんでも、言っていいことと悪いことがあるわ!! そんなのって酷いわっ!!
私はお祖母ちゃんやお母さんのためのお人形じゃない!! いつになったら、貴方達はそれに気付いてくれるのっ!!?』
叫んで泣き崩れた娘と娘を案じるように手を差し伸べた青年の姿、娘の悲鳴と青年の怒りの言葉に、私はようやく気付いたのだ。
ああ、私は、私達は、一体この子に何を押し付け、何を取り上げようとしてただろう、と……。
真っ先に娘を案じた青年と青年に頼った娘の姿、そして、娘の悲鳴と青年の言葉に込められた怒りに…………。
私の母も、眉を顰めていた夫も、同じように、その姿と声に、ようやく、ようやく、気付いたのだ。青年の言葉は娘を案じるゆえのもの。
けれど、私達が浴びせた言葉は、あまりに一方的に、娘の意思を封じ込めてしまおうとするものだった、と……。
「…………優卵が既に家族としているのは、優卵が既に必要としているのは、貴方のようです。どうぞ、娘をよろしくお願い申し上げます。
母が無礼を申し上げまして、大変、失礼致しました。そうです、仰る通りです。その子は私の娘です。私達の人形ではありません」
三つ指を突き、床に伏せた私の頭に、隣の夫も倣った。母はまだ言葉を失ったままでいるけれど、今、重要なのは、この子だ。
「……いえ、こちらこそ、若造が過ぎた無礼を申し上げました。どうぞ、お義父さん、お義母さんとも、頭を上げてください。
優卵を最優先するあまり、キツイ言葉を投げ付けて、申し訳ありませんでした。ですが、僕は優卵と家庭を築きたいのであって、優卵と結婚させて頂くと申し上げます。
勿論、優卵のご実家である家を蔑ろにしたいという話ではありません。優卵のご実家として、ご両親様達を尊重させて頂くべきところは尊重させて頂きます」
――――ああ、立派な青年だ。こちらの態度に揺るぐことなく、私達が蔑ろにしようとした娘と娘の心を優先して守ろうとしてくれた。
これ以上にこの子に必要な青年がいるだろうか。これ以上、この子が必要とする人を、この子がどうして見つけられようか?
「……恨んだのよ、ずっと恨んでた。希生に許されることは、私には何一つ許されてこなかった。ずっとずっと恨んでた。口に出せなかっただけで…………。
でも、その私と私の心を、貴悠さんが救ってくれた。その人と生きる権利が無いなんて、絶対に、もう、誰にも言わせない。
例え、お祖母ちゃんやお母さんの言葉だって、絶対に譲らないし従わない。強制するなら私は縁を切る。私は、この人と、貴悠さんと生きていく!!」
涙ながらに叫ばれた言葉に、思わず、娘の腕を引っ張っていた。腕の中に無理やり引っ張った娘を思い切り抱きしめて…………。
「……ごめんね、ごめんなさい。お母さん達、貴女に何をどれだけ諦めさせて、貴女に何をさせるつもりだったんだろう。
ごめんなさい、許してもらえるとは思わないけど、本当にごめんなさい。希生に許したことを貴女に許してこなかったのね」
「…………っ~……!!」
「父さん、おまえに我慢させてばかりだったな。母さんの身体が心配で、父さん、おまえに我慢させてばっかりさせた。
おまえが必要としているのは、もう彼であって、父さん達じゃないんだな。父さん達、おまえにそこまで思わすまで、自分達の過ちに気付かなかったんだ」
「……」
私の腕を振り切ってしまった娘。娘が涙で抱き付いたのは、娘が連れて来た青年だった。その姿に、思い知らされる。
ああ、この子はもう本当に、私達の手には戻らないのかもしれない。私達はそこまで過ちを重ねてしまったのだ、と…………。
「……優卵、後悔しないようにだけしよう? お義父さんやお義母さんと、本気で縁を切りたいわけじゃないでしょう?」
「…………」
「酷い言葉投げ付けてごめんなさい。でも、貴悠さんと生きてくのは譲れない。お願いだから、貴悠さんとの結婚を認めてください」
娘の言葉に涙が出そうになったけれど、今、その資格を持つのは私達ではないと言い聞かせるよりなかった。
「……どうか、娘をよろしくお願いします。優卵、立派な人を連れて来てくれてありがとう」
「娘をお願いします」
――――青年の隣、私達の言葉に、私達が見たことのない幸せそうな瞳の娘が、晴れやかに笑ったのが、私と夫、そして、母の目にも映ったろう。それは鮮やかに映っただろう。
…………伝えたい言葉がある。今はもう、貴女には必要の無い言葉かもしれない。けれど、どうか覚えていて欲しい。
私達は貴女から幾つのものを諦めさせて奪ってきたのか、いつから貴女がそんな想いを抱えてきたのか、私には解らない。
けれど、間違いなく、優しさの卵のような子が欲しいな、と笑いながら貴女の誕生を待ち望んできた日は、貴女の成長を望んできた日が、あったのだと……。
叫んだ娘の言葉と涙に、ハッとさせられたのは、娘が初めて青年を連れて来たその日だった。娘の言葉と涙に、ようやく気付いた。
私は、私達は、この子に何をどれだけ諦めさせてきたのだろう。大人しい良い子だった娘が、始めて叫んだ悲鳴に、私は愚かにもようやく気付いたのだ。
事の発端は、結婚の挨拶にとスーツ姿で現れた青年。青年の隣で嬉しそうに微笑む娘に、娘の隣の青年に、私の母が投げ付けた言葉だった。
『仁科さんと仰いましたね。優卵は長女です。優卵からのお話を聞く限り、貴方は長男でいらっしゃるとお聞きしてますけどね。
当然のことをお聞きしますが、いずれは、長谷川の家に入って頂けるんでしょうね? この子の妹は既に嫁いだ身です。
元より、優卵は長女なんですし、当然、この子はこの家のことを見てもらわなきゃいけない子です。これらの条件、お守り頂けないなら、結婚は許せません』
母の、己の祖母の言葉に、微笑みを一瞬にして消し、無機質なお人形の瞳をさせてみせた娘。そんな娘を案じるように娘の手を握った青年は、力強い言葉ではっきりと言い切った。
『申し訳ありませんが、僕は今日、長谷川優卵さんと結婚させて頂くご挨拶に参りました。許可を頂きに参ったわけでは有りません。
優卵は長女だから嫁がせられない? 元より、実家を見てもらうつもりで結婚するわけではありませんが、優卵のお祖母さまのお言葉には納得出来ません』
青年の言葉に眉を顰めたのは、私の母と夫。けれども、青年は揺るがぬ瞳できっぱりと告げた。
『なにか、誤解していらっしゃるようです。優卵さんは、お嬢さんは、貴女方の家の小間使いや人形なのですか? こちらの大事なお嬢さんではなく?
今の貴女の言葉に、優卵さんがどんな瞳をしているか、それは貴女方の瞳に映りませんでしたか?』
青年の言葉に、母が不快さも顕わに言葉を投げ付けた。
『では、結婚は許しません。優卵、おまえも、目上の者に向かって、そんな口を利く若造とは、さっさと別れなさい!! この場で縁をお切りなさい!!
優卵はこの家の長女です。この家を見るのは当然でしょう。話は終わりです。結婚は許し……』
母の言葉に、異論を唱え、言葉を浴びせたのは、青年ではなく、それまでじっと耐えるように黙り込み、無機質な瞳をさせていた娘だった。
――――いい加減にしてっ!! 私はこの家のお人形じゃない!! お祖母ちゃんのお人形でも、お母さんのためのお人形でもないわっ!!
突然の台詞に、思いがけずといった体で言葉を失った様子の母に、娘は涙を流しながら大声で叫んだ。否、それは、悲鳴に近かったのかも知れない。
『貴方達は私から何をどれだけ取り上げれば気が済むのっ!? 目上の者に向かって、貴悠さんにそんな口を利かせたのは誰っ!?
この場で縁を切れ? さっさと別れろ? いくらなんでも、言っていいことと悪いことがあるわ!! そんなのって酷いわっ!!
私はお祖母ちゃんやお母さんのためのお人形じゃない!! いつになったら、貴方達はそれに気付いてくれるのっ!!?』
叫んで泣き崩れた娘と娘を案じるように手を差し伸べた青年の姿、娘の悲鳴と青年の怒りの言葉に、私はようやく気付いたのだ。
ああ、私は、私達は、一体この子に何を押し付け、何を取り上げようとしてただろう、と……。
真っ先に娘を案じた青年と青年に頼った娘の姿、そして、娘の悲鳴と青年の言葉に込められた怒りに…………。
私の母も、眉を顰めていた夫も、同じように、その姿と声に、ようやく、ようやく、気付いたのだ。青年の言葉は娘を案じるゆえのもの。
けれど、私達が浴びせた言葉は、あまりに一方的に、娘の意思を封じ込めてしまおうとするものだった、と……。
「…………優卵が既に家族としているのは、優卵が既に必要としているのは、貴方のようです。どうぞ、娘をよろしくお願い申し上げます。
母が無礼を申し上げまして、大変、失礼致しました。そうです、仰る通りです。その子は私の娘です。私達の人形ではありません」
三つ指を突き、床に伏せた私の頭に、隣の夫も倣った。母はまだ言葉を失ったままでいるけれど、今、重要なのは、この子だ。
「……いえ、こちらこそ、若造が過ぎた無礼を申し上げました。どうぞ、お義父さん、お義母さんとも、頭を上げてください。
優卵を最優先するあまり、キツイ言葉を投げ付けて、申し訳ありませんでした。ですが、僕は優卵と家庭を築きたいのであって、優卵と結婚させて頂くと申し上げます。
勿論、優卵のご実家である家を蔑ろにしたいという話ではありません。優卵のご実家として、ご両親様達を尊重させて頂くべきところは尊重させて頂きます」
――――ああ、立派な青年だ。こちらの態度に揺るぐことなく、私達が蔑ろにしようとした娘と娘の心を優先して守ろうとしてくれた。
これ以上にこの子に必要な青年がいるだろうか。これ以上、この子が必要とする人を、この子がどうして見つけられようか?
「……恨んだのよ、ずっと恨んでた。希生に許されることは、私には何一つ許されてこなかった。ずっとずっと恨んでた。口に出せなかっただけで…………。
でも、その私と私の心を、貴悠さんが救ってくれた。その人と生きる権利が無いなんて、絶対に、もう、誰にも言わせない。
例え、お祖母ちゃんやお母さんの言葉だって、絶対に譲らないし従わない。強制するなら私は縁を切る。私は、この人と、貴悠さんと生きていく!!」
涙ながらに叫ばれた言葉に、思わず、娘の腕を引っ張っていた。腕の中に無理やり引っ張った娘を思い切り抱きしめて…………。
「……ごめんね、ごめんなさい。お母さん達、貴女に何をどれだけ諦めさせて、貴女に何をさせるつもりだったんだろう。
ごめんなさい、許してもらえるとは思わないけど、本当にごめんなさい。希生に許したことを貴女に許してこなかったのね」
「…………っ~……!!」
「父さん、おまえに我慢させてばかりだったな。母さんの身体が心配で、父さん、おまえに我慢させてばっかりさせた。
おまえが必要としているのは、もう彼であって、父さん達じゃないんだな。父さん達、おまえにそこまで思わすまで、自分達の過ちに気付かなかったんだ」
「……」
私の腕を振り切ってしまった娘。娘が涙で抱き付いたのは、娘が連れて来た青年だった。その姿に、思い知らされる。
ああ、この子はもう本当に、私達の手には戻らないのかもしれない。私達はそこまで過ちを重ねてしまったのだ、と…………。
「……優卵、後悔しないようにだけしよう? お義父さんやお義母さんと、本気で縁を切りたいわけじゃないでしょう?」
「…………」
「酷い言葉投げ付けてごめんなさい。でも、貴悠さんと生きてくのは譲れない。お願いだから、貴悠さんとの結婚を認めてください」
娘の言葉に涙が出そうになったけれど、今、その資格を持つのは私達ではないと言い聞かせるよりなかった。
「……どうか、娘をよろしくお願いします。優卵、立派な人を連れて来てくれてありがとう」
「娘をお願いします」
――――青年の隣、私達の言葉に、私達が見たことのない幸せそうな瞳の娘が、晴れやかに笑ったのが、私と夫、そして、母の目にも映ったろう。それは鮮やかに映っただろう。
…………伝えたい言葉がある。今はもう、貴女には必要の無い言葉かもしれない。けれど、どうか覚えていて欲しい。
私達は貴女から幾つのものを諦めさせて奪ってきたのか、いつから貴女がそんな想いを抱えてきたのか、私には解らない。
けれど、間違いなく、優しさの卵のような子が欲しいな、と笑いながら貴女の誕生を待ち望んできた日は、貴女の成長を望んできた日が、あったのだと……。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2016/01/19 13:10 更新日:2016/01/19 13:10 『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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