作品ID:945
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生死の交わる学校で
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
訂正、最高の再会
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「お前が……?」
「そうよ」
椎名は悲しそうにただ淡々と言葉を紡ぐ。
「さっきの言葉から推測するに、あんた末期でしょ」
天は言葉に詰まった。やばい、『延命処置』なんて言っちまったけど、それだけでここの連中は分かってしまったみたいだ。なんて勘の鋭い連中だ。
「それについては、追及しない。でも、天。あんた、ほんとに全部忘れてるの? 思い出せないの?」
「……ああ」
一歩、天は後ろに下がった。本能が、彼女にはかかわらないほうがいいと告げている。天はそれに従うことに異議はない。
「ていうか、悪いんだけど。転入初日に喧嘩とか勘弁出来ねえかな……野郎なら一発ぶん殴ればいいけどさ、女子には手出しなんてしなくねえから……」
遠まわしに帰ってくれ、という。だが椎名は完全に、
「何よ。せっかくの再会よ? あんたが覚えてなくてもあたしたちはあんたを知ってるんだから、顔見知りなの。あんたからすれば知らないかもしれないけど、あたしはあんたが思い出せるかもしれないっていう可能性に賭けたいの。だからもう少し――」
「椎名さん! またですか!?」
逃げ場を失った天に、思わぬ救いの手が。騒ぎを聞きつけた教師たちだ。
「椎名さん、転入してきたばかりの彼に暴力を振るうとは何事ですか! ちょっと職員室にまで来なさい!」
「……チッ」
怒髪天のような顔の女性教師を一瞥し、椎名は舌打ち。天が助かったと言わんばかりに逃げ出そうとする。机に引っかけた鞄に手を伸ばし、そのまま――
椎名に手を掴まれた。
「へっ?」
「逃げるわよ天!」
椎名は脱兎のごとく天の手を引いて走り出す。天は展開についていけずボケっとしたかおで右手に椎名の手、左手に鞄を持ったまま連れて行かれるまま教室を後にした。
「……おい、岩本さん!? なんで俺まで連れていくんだ!」
「椎名でいいわよ天! まだ話は終わってないの! ほら、そこを右に曲がるわよ!」
「うぉわぁぁ!」
彼女の手をひかれるまま、乱暴に走り続ける。後ろから「待ちなさい!!」という女性の声が聞こえる。教師が追ってきているようだ。
「ふんっ、馬鹿な連中。小さいころからここにいるあたしに追いつけるわけないでしょうに」
不敵な笑みを浮かべるような声で椎名が嘲る。天はこの光景を、どこかで見たことがあるような気がした。先ほどの白い髪の毛の女の子との時と同じ、こめかみの痛み。顔を顰めるが椎名には見えていない。
痛みと共に呼び起されるデジャヴ。何だろう、俺はこの感覚を知っている。
眼を閉じて、今まで諦めていた記憶の探してみる。……思い出せない。だが、具体的な記憶は蘇らない。だけど、この感覚を俺は確かに知っている。そう、覚えていない俺は彼女を知っている。
いや、前のおれは、誰かのことを知っている。覚えている。7年前、あの時、一緒に遊んでいた、一緒にいてくれた二人の少女の名前。確か――
「いわ……もと、しい、な?」
「……? なに、何か呼んだ?」
椎名が振り返った。少し顔が紅潮している。走っているため息も荒い。
「……しいな、椎名? しい、な?」
「……いいわよ、好きなだけあたしの名前を言っていいわよ」
彼女は笑って前を見る。天にこの声は、しっかり耳に入り、脳に伝わった。手をひかれるまま、天は走っていく。
小さい頃、孤独で弱かった自分に、一緒にいると言ってくれた白い優しいあの子に、あたしが守ってやると言いながら天に守れていた黒いあの子。
今、天の記憶が少しだけ蘇る。7年間、凍っていた記憶は溶けて、優しく天を元の「天」に戻していく。
後書き
作者:orchestra army |
投稿日:2012/01/15 12:49 更新日:2012/01/15 12:49 『生死の交わる学校で』の著作権は、すべて作者 orchestra army様に属します。 |
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